41話 12歳 よく燃えるベックの林
夏真っ盛りの時節、朝から太陽さんが張り切っている。どうも、ヘルマンです。季節は夏、まあ暑いよね。セレロールス子爵領よりも暑い。ってことは北半球に住んでいるのかな? まあ、この世界が球体とはまだ判明していないし、赤道上に大陸がある可能性もあるからどうなのかは解らんけどね。…前世の知識だからなあ。この世界に当てはまるのかどうなのか解らんのですよ。そのあたりは神様の領分なので。地平線とか水平線が見えるんだから丸いんだとは思うけど。
そんで王都東門前広場の南側にいるんですが、だんだんと人が溢れてきております。冬の間はここが外周だったんだけど、もう中心になっているんじゃない? そんくらいには人が増えた。増えすぎだろ。もうちょっとどうにかなりませんか、井戸を2つ目を作るとかさ、何でこんなに空間があるのにすし詰めにならないといけないんだよ。お前らそこは通路だろ、テントを張るんじゃねーよ。
まあさ、こう自分さえよければオッケー見たいな奴が多すぎるんだけど、まあこれも何処でも一緒の奴がいるんだけどさ。隙間を見つけるとそこにテントを張る奴。大変迷惑です。大人しく外側に回れ。テントの布の端を踏みながら井戸に向かわないといけなくなった僕の苦労も考えてくれないか? いや、僕以外の人にも謝ってくれ。お前らもう少し頭を使ってくれよ。だから北側みたいな事が起きるんだ。
「火事だー。」
「魔術師ギルドに報告に行け!」
「お前がまず行けよくそ野郎!」
「消火は⁉ 間に合わねえな!」
「くそがー! 誰だよこの野郎!」
「逃げろ逃げろ!」
さあ、王都の火事ですよ。いやー燃え広がっていますね。ん? 何で落ち着いているのかって? こっちは南側と言ったじゃないですか。北側と南側の間には通路がある。当然だよね、門の前なんだから。でも、こういう時はテントを畳むのが吉。ササっとテントを片付けますよ。解っている人間は皆片付け始めている。勘の悪い奴はそのままテントを張ったままだ。何でかって? 人の行動を少し考えれば解ること、そろそろ答え合わせができると思いますよ。
「逃げろ逃げろ!」
「おい! お前らそこで止まれ! こっちくんな!」
「テントの間を走るんじゃねえ! 危ねえだろ!」
「あ⁉ こいつ蹴りやがって! 痛えじゃねえか!」
「あっあー!」
「こっちも燃えたぞ!」
「こっちに逃げてきたやつ覚えとけよ!」
「外周に逃げろ!」
「消火はー⁉」
「無茶言うな!」
ほーら、パニックになったやつが南側に突っ込んできて蹴りやがったよ。な? テントを片付けている奴らの方が正常なんだ。中心杭まで片付けてすたこらさっさだぜい。いやー燃えるなー。こんなに落ち着いているのももう3度目だからなんだよなあ。1回目は焦ったけど、もう慣れました。レールの林でもさんざんやったけど、あっちは帰ってきたら燃えていただったからね。燃えているのを見たのもヨルクの林以来だったか? いや、レールの林でも最初の方に1回見たな。テントを張っている時だっけ? 懐かしいなあ。さて、火よりも怖いものが来るからもっと離れないとな。林の中に入るくらいに逃げるのがおすすめです。何でかはすぐにわかる。
「来たぞー!」
「おい離れとけよー!」
「「メイルシュトローム!」」
テントの中心杭まで吹き飛ばす勢いのメイルシュトローム。魔術師ギルドに詰めている魔法使いが出張って来た訳だ。北も南も洗濯機にかけられている様に布が舞っている。そして中心杭まで吹き飛ばすといったな、そうすると3点の端杭も飛ばされる。…何で林の中なのか、木を盾にするためです。終わったら死体の片付けか、面倒だなあ。また運悪く中心杭に貫かれた奴がいないといいけど。魔法使いは中心杭なんか刺さらないよ? 始点方向に飛ばないような回転になってるって。だから渦巻きは横向き、僕らが注意するのは上から降ってくる杭だけだ。基本木の後ろにしゃがんで隠れていたら当たらないからいいんだけど。
これさあ、錬金術ギルドとかの授業中に起きたらどうすんのこれ。今は夏場、授業の真っ最中だと思うのですよ。それなのに火事が多い、年間何人か対応間違って死んでないか? 入学生と卒業生の数の差が火事とか洒落にならんですよ。メイルシュトロームの一撃で消火は完了。灰すらも吹き飛ばされるから直ぐにテントを張り直せるぞ。後は死体の片付けだあね。まあ先にテントを張り直す奴が多いけどな。テントの無くなったやつが死体を教会まで運ぶのだ。東方教会って結構離れているんだぜ。だから冒険者ギルドで貸し出している担架という名の布だな。それに乗っけて4人一組になって運んでいく。大変だな。僕はテント組なんで運びませんが。
なるべく井戸の周りに行こうと必死の人たち。別にいいじゃんそんなに焦らなくても。僕は外周になりそうな場所に中心杭を打ち込む。はあ、朝からとんだ目にあったなあ。まあ慣れてしまったんだけど。これに慣れるのもいやだなあ。
さてさて、テントを張り終わったので早速採取に行きましょう。見てると本当に草刈りをやっているようにしか見えない人たちが沢山いる。実に愚かしい。普通の草と違う色だけど、値段は付かないよ、そんな雑魚素材。彼らのやり方だと1日に中銅貨1,2枚って感じで買い叩かれると思います。魔石は中銀貨1枚で錬金術ギルドに買い取られる。売価は中銀貨2枚。大体草刈り冒険者の素材から1日分で約30個ほどの魔石が作られる。それを錬金陣に一杯の素材を乗っけて2,3個しかできない悲しさよ。しかも最低品質、どうしようもないね。因みに、錬金術師のアルバイトは魔石1個につき小銀貨1枚。まあ安いよね。それを錬金学術院が大量に買い込むんだけどね。入学者の一番初めの魔杖の魔石もこの最低品質の魔石なんだって。3年生の時に変えた方がいいって言われるわけだよ。
そんな採取も今日の分は終了。さあ夜がやってきましたよ。…何かイベントがあるのかって? あるんだなそれが。北側にいる冒険者と南側にいる冒険者の罵り合いがスタート。喧嘩になったら兵士が首を刎ねに来るため口だけでやり合う。何が楽しいのか知らんけど、そういうやつらが街道に近い位置に陣取って叫んでいるわけだ。…不毛だ。そんな罵倒を聞きながら食べるご飯は美味しいなあ、なんて言える神経の人では無いので即刻止めて欲しいのだが。それになんだがいやな予感がしてきたんだよなあ。こう言うときはちょっと隣の人と話し合う方が良かったりする。こういう時に外周にいる人は、まともな人だったりすることが多い。
「すみません、ちょっといやな予感がするんですが、そちらはどうですか?」
「俺か? …実は俺もそう思っていた。もう一波乱ありそうな気がする。」
「なんだなんだ、お前らもか? 俺もいやな予感がするんだよなあ。」
「逃げた方がいいですかね?」
「…とりあえず、飯食ってから移動だな。こういう勘は従った方がいいって相場が決まっている。」
「俺はもう食ったから移動するわ、…逃げ遅れるなよ。」
「はい。」
「おう。」
ご飯を食べている最中、ゆっくり食っている場合じゃない可能性があるので掻き込むようにして麦粥を食べ終える。そしてテントを片付ける。んで洗い物をしに中央へ。…罵り合いの方は大盛況です。ぎゃーぎゃーとまあ、尽きないものですね。さて、洗い物も済んだし、林の方に逃げましょうね。
暫くするとまた火が起こった。朝よりも規模は小さいが、よく燃えるなあ。こういういやな予感って当たらない方がいいんだけど、今夜はテント無しの寝袋のみの生活だな。…魔術師ギルドの担当がイラついていないといいなあ。イラついていると2次災害が起きる可能性が高い。ところで、この火事はすでに2次災害、…3次災害かあ、朝の職員なら平和に終わってくれるんだろうがなあ。2回目の時は酷かった。暴風雨のようなメイルシュトロームだったからな。出力を絞ってくれる優しいギルド員さんだといいなあ。
その後無事に3次災害を引き起こし、多数の死者もでたが、今日はもう寝る。片付けはまた明日だ。痛ましい事件だったね。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
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素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。