34話 12歳 新年祭、お祭りですね
雪がチラつく寒空の下、いかがお過ごしでしょうか。どうも、ヘルマンです。今日は新年祭。お祭りですねえ。今年も新しく星が振られた人達を賑やかしに行きましょうか。ネラ町でも同じように冒険者も一緒に祝ってたんだ。村だけなんだな、冒険者が追いやられるのって。町の常識を知っている冒険者からすれば何でって思いそうなもんだけど、教会前広場が広くないのと、せっかくの酒を盗られたくないからだろうと推察する。町では酒は売り物だけど、村では皆で呑むものだからね。そんな感じなんじゃあなかろうか。
冒険者広場は盛況で、人人人の人の海だ。今日ばかりは貧乏冒険者もテントをたたみ、広場を空けているが、それでも狭苦しいのは領都の人間が多いからだろう。冒険者ギルドで話をしてみたんだが、どうやらセレロールス子爵領で一番発展しているのは領都では無いらしい。一番発展しているのはジェマの塩泉の周りの町なんだとか。基本的には霊地の周りには村があり、魔境の周りには町がある決まりになっているらしく、その決まりに漏れずジェマの塩泉の周りは全て町で構成されているようだ。そんで人口もジェマの塩泉の周りの町の方が多いらしい。まあ、冒険者が沢山いるだろうし、家持の冒険者がいるのは魔境周りの町か、光の魔境・霊地の近くの町位だからな。それだけ戦える冒険者がいるということなのだろう。
産業なんかも領都の方が負けているらしい。鍛冶屋なんて当たり前だが魔境周りの方がいい物を作っているだろうし、服だって魔境の冒険者にとっては消耗品だろうしな。返り血なんかを浴び続けて赤黒く染まった服をずっと着ていたいなんて奇特な冒険者はいないだろう。じゃあ領都のどの辺が優れているのかと言ったらギルド関係らしい。魔境の周りの町にはギルドは基本的に冒険者ギルドしかない。テイマーギルドも魔術師ギルドも、錬金術ギルドすらも領都にしかない。それだけ人の数がいないというのが実情で、基本的には領都もしくはその領の中心都市位にしか沢山のギルドは存在していない。
しかし、教会だけは人材不足には絶対にならないらしい。村の1つ1つにまで教会が建っているというのに、聖職者の数はどの村でも最低2人はいるんだとか。しかも結婚できる年齢の2人が。性格の不一致なんかは知らないが、神様が教会を空けることを良しとしていないからだと言われている。確かに僕の村でも神父シモンとシスターカミラは同年代で結婚していた。シスターディアナはまだ成人前のようだったが、もしかしたら僕が出て行った後くらいに新たな神父が誕生していたのかもしれない。…同年代にいたのかもしれないが、それ以降教会に行っていないので知らないだけかもしれないが。教会も基本的には村人や町人の寄付だけで生活しているんだもんなあ。貧しくなることもあるのかもしれないが、教会が貧しくなるなんて聞いたことが無いんだよね。まあ、最悪村長や代官が寄付しとけば問題ないのかもしれないが。
そんでもってお祭りですよ。今年も屋台が盛況ですね。肉串にスープ、酒、肉串、肉串、酒、肉串と肉串推しなのは保存食が発展していない証拠なんだよなあ。甘味なんかもあっていいとは思うんだが、砂糖が高いのか? はちみつなんかも見ないし、高級品なのかなあ。砂糖の採れる霊地とかもありそうな感じなんだけどね。しかし、今年の肉串は少し違った。…いや去年までネラ町にいたから今年から違うのかは判らないが、とにかく肉の種類が違った。前に領都の新年祭に出た時の肉串は兎と鶏とネズミだけだった。しかし今年はカエルとオークが混じっている。カエル肉はジェマの塩泉の火吹きガエルの物だろう。オークもジェマの塩泉にいるからそこから流れてきたんだな。…ということはだ、魔境周りの町で肉が飽和状態に近くなっているということだろう。これは情報収集が必要ですねという訳で、肉串を売っているおっちゃんに聞き込みましたよ。
何でも新進気鋭の冒険者がいるらしく、毎日大量に肉を供給してくれているようだ。普通の冒険者は戦った後に2、3日休暇を入れるんだが、その冒険者たちは毎日魔境に潜っているようだった。それだけじゃ肉の過剰供給には理由が付かない。しかし大量にいる冒険者もその新進気鋭の冒険者に触発されたようで、休みを少なくしてまで潜っているようだ。その結果、今までに無いほどに肉が供給されて溢れたという訳だ。流石に深層に行く冒険者まではその波に呑まれなかったらしく、深層産の素材が溢れるということは無いみたいだが、下層域の冒険者の動きは活発化したらしい。…エドヴィン兄たちもその波に乗っているのかな。そろそろ魔境に挑戦しててもいい頃合いだし、その冒険者たちと切磋琢磨しているといいな。
味の方が気になったので早速カエル肉もオーク肉も購入。さて実食。まずカエル肉。前世の知識では鶏肉に似ているとの知識があるが、これを鶏肉と間違える奴がいるとは思えない味だ。…まあ、こちらの鶏肉は基本的に卵を産まなくなった鶏をつぶしているからパサついているんだよね。干し肉にしたら気にならないんだけど、新鮮な肉もあまり旨くない。しかしこのカエル肉は肉汁溢れる美味しい肉だ。脂身こそ少ないが、しっかりとした味わいで、塩だけでも十分に御馳走と言えるほどだろう。そしてオーク肉、カエル肉と違い、しっかりと脂身のあるオーク肉、見ているだけで涎が口の中に広がるような感じがする。味の方も、赤身が少し繊維がしっかりしていて硬いと感じる部分もあるが、脂身の甘みがやばい。口の中に幸せという感情が入ってくるくらいには美味い。…しかし、カエル肉のお値段は小銀貨1枚。オーク肉のお値段は小銀貨3枚。お祭り価格にしても結構お高い。2羽分で大銅貨5枚だった兎さんが可哀そうになってくる値段だ。でも利益を出そうと思ったらこれくらいの値段になってしまうんだろうな。魔境の物価はちょっと解らんので何とも言えないが高いのかもしれない。
肉串を味わっているが酒は飲まない。村にいたときに固く誓ったからな。飲んだら呑まれる未来しか見えないんだよもう。楽しそうに飲んでいる呑兵衛ども。あの中のどれくらいが明日もう飲まないと誓うのだろうか。…誓っても2日もすれば忘れるんだよな、酒飲みってやつは。そんなもんなんだよ。
そうして肉串を満喫していると、教会の鐘が鳴った。ゴーンゴーンと鐘がなっていく。計10回、星の振られる数だけ鳴る。これは村でも町でも領都でも変わらない。そして暫くすると200人くらいの子供たちが一斉に解き放たれる。子供たちの声に耳を傾ける。鍛冶に振られたもの、料理に振られたもの、裁縫に振られたもの、何かの魔法使いに振られたもの。多くの声が聞こえてくる。中には思った才能と違ったのか泣いている子供もいる。…思っているだけじゃ駄目なんだよな。ちゃんと教会に行って祈らないと。祈らないと願いは届かないのだ。
その中で一際大きなどよめきが起きた。そちらの方に耳を傾けると、どうやら賢者に星が7つも振られたという子供がいたらしい。賢者、一応その才能については知っていることはある。錬金術ギルドの本に才能についての考察本があったのだ。その中に珍しい才能として賢者が挙げられていた。賢者は火魔法使い、水魔法使い、風魔法使い、土魔法使い、光魔法使い、闇魔法使い、魔術師の7つの才能を包含した才能と言われており、確認された中で最低でも星7つ以上しか存在しないらしい。要するに魔法、魔術何でも使える才能だな。継戦能力が高く、国や大きな貴族のお抱え魔法使いになる場合が多いらしい。まあ、まずは魔術師学校に行かないと、戦い方や何やらと素人魔法使いに毛が生えた程度にしかならんので、王都に行くのは決定だろう。そこからの進路は選びたい放題というやつだ。いい才能を引いたな。…しかし、聖女に賢者とセレロールス子爵領はいい才能を輩出しているな。これで貴族家の当主が優秀なら良かったんだが、無能寄りらしいからな。彼も外の領に出ていく他ないだろう。
しかし、色んな才能があるもんだな。珍しい所だと賢者や聖女以外にも英雄や精霊使い、聖者に守護者、将軍に軍師、他にも色々あるが、今紹介したのは少なくとも星6つ以上しか出ないと言われている才能だ。特に精霊使いなんてチートと言ってもいいだろう。6属性全ての魔法を使え、自分の魔力を使わないのは魔術師と同じ。違うのは準備するものが要らないという点だな。魔境ではその地の属性に従った精霊がいるとされている。水属性の魔境ならば水属性の魔法を使い放題というぶっ壊れだ。普通の所でも少なからず精霊がいるため、低燃費で魔法を打ちたい放題打ってくるとかいう壊れ性能。デメリットは精霊が機嫌が悪かったりすると魔法が使えないということなんだが、6属性全ての精霊が機嫌が悪い地なぞあることはあるが殆どない。何処でもどれだけでも魔法を使える、そんな壊れ性能の魔法使いなんぞ作るなよと言いたい。
因みに僕の持っている剣士と錬金術師は星1つからでも出ることがある才能。レア度的には低い。ノーマルと言っていい才能だな。だから10人に1人は持っている位の才能という訳だ。…星1つで錬金術師になる平民は少ないかもしれないが、それなりにいる。錬金術師って儲かるってイメージがあるからな。まあ、入学金の中金貨5枚もしっかりと採取してりゃ稼げる金額だし、平民がなろうとするのもまあわかる。それに代わって剣士。この才能も星1つ以上なら10人に1人位はいるんじゃないか? 少なくとも魔境に行こうとするやつは剣士や槍使い、斧使いなんかの戦える系の才能を1つ以上は持っているだろう。お手軽な才能だ。まあ、そんなお手軽な才能でも僕は錬金術師になれるので嬉しいが、僕以外だと錬金術師しか道がないと嘆きたくもなる才能構成かも知れない。
さらに因みに、前世の僕がこんな才能がありそうだと言っているのが勇者や魔王といった才能だ。星10個は確定だなとか勝手に思っているが何なんだろうか。まあ、前世の僕が当てになったことって殆どないし、今回も無駄知識なんだろう。
そんな訳で、星振りの儀も終わり、僕も無事12歳になったわけだ。後は錬金学術院のある王都に行くまでゆっくりとしていればいいだけだ。…何事も無いといいなあ。ルイス村では火事に巻き込まれることなく生き残ったし、錬金術師になるのに山場は超えたと勝手に思っている。もうすぐ王都に行く。錬金術師になる何歩かめの足跡を付けようとしている気がする。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
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出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。