31話 9歳 満月茸を手に入れろ、満月茸って高くない?
テントの中からこんばんわ。今日も夜の採取ですよ。どうも、ヘルマンです。魔械時計の月齢機能が間違っていなければ今日が満月のはず。魔械時計にこんな機能があったんだなあとしみじみと思う。いや聞いてくださいよ、丸い小窓が魔械時計にあるんだけど、まさかそれが月齢を表しているなんて思わないじゃないですか。半月の夜からずっと魔械時計と月を見てたから判ったけど、こんな機能ついてたんなら最初から教えて欲しいですよ、錬金術大辞典さん。基本的に作り方と簡単な説明しか書いてないんだから解らんとです。
まあ、そんなことは置いておくとしてだ。今日が満月のはず。ということは満月茸がそこらへんに生えているはずであるということだ。すでに月光茸はある程度の数を採取できるということは解っている。であれば満月茸を如何に大量に採取できるかが今日の勝負どころさんである。他の素材は一先ず置いておいて満月茸のみを狙っていくスタイルで行く予定だ。月光茸すらもスルー対象、稼ぐ気満々のデッドオアアライブ精神で行きましょう。1つも見つからないなんてことになったらどうしましょうね? 多分3つ4つは採れると思うんだけどなあ。そんな訳でレールの林の深い所へ、浅い所よりもなんとなく深い所の方がありそうな感じがするよね。
探索を始めて1時間強。漸く1本目の満月茸を見つけた。案外簡単に見つかってくれて良かった。これなら今日中に瓶1つ分位は採取出来そうな気がする。さてさて、いつも通り見つけた側から探していこう。…これは星彩茸、次行こう。月光茸か、キープしたいが本命じゃないため今回は断念。1分1秒でも満月茸に神経をとがらせるぞ。
そんな訳で時間がやってまいりました。本日の収穫、満月茸21本。以上。…これはなかなか採れたんじゃなかろうか。やっぱり他の素材を捨ててまで探した甲斐があるというもの。普通の冒険者がどれくらいの満月茸を採るかは知らないが、これよりも多いなんてのは稀じゃないかと思うくらいには出来すぎの気がする。普通は夜通し眼鏡なんて持ってないだろうし、今日に狙いを定めてきた冒険者がいても数個採れればいい方な気がするな。さてさて、後はこれがいったい幾らになるのかが問題だな。がっつりと金になってくれれば有り難いな。
そう思いながら林の外に帰って来た。辺りは明るくなっており、所々で朝ご飯の匂いがする。冒険者が食べるものは基本的に3つ。麦粥か干し肉かキノコかである。その他の保存の利かない物だったりは無し。保存食として何か錬金術で開発できないものか。…いや、錬金術じゃなくてもいい。何か欲しい、切実に。でないと食生活が危ない。同じものばかりを食べるのは飽きたし、違うものも食べたい。前世の僕は食べる専門だったので料理の知識も乏しい。前世の僕よ、もっと頑張ってほしかったものだ。基本的に前世の知識は当てにならない。
そんな訳で、今日のメニューは干し肉とキノコ入りの麦粥である。ここは霊地、しかも毒物の無い霊地。キノコも安心して食べられる。万が一毒に当たっても解毒ポーションがカンパノの森の時のが残っているし問題なし。カンパノの森の時も結局使わなかったんだよね。確かにお腹が少し緩くなったかも程度だったので、胞子の毒は微弱だったのだろう。
そして朝ご飯を食べたら食器を洗い、寝る。朝日がすっかりと上ってしまっているため、しっかりと寝ないといけない。今日の夜にも採取に行かねばならんからな。それまでの体力は残しておかないといけないからね。
そんな訳で夕方少し前。目が覚めると、錬金術師の馬車が止まっていた。これは素材の単価確認をしないといけないな。幸いにもまだ帰ってきている冒険者はいないし、先に査定を済ませてしまおう。そんな訳で、錬金術師の馬車の所へ。夜の同業者がすでに何人か並んでいるらしく、少しの間、順番待ちだ。今までは待つ事って無かったから新鮮でいいな。ワクワクとしながら待つこと1時間程、遂に僕の番だ。
「お邪魔します。」
「はいよ。買い取りだね。」
「はい。単価の確認なので少ししか売りませんが、よろしくお願いします。」
「単価の確認? 豪く珍しい事だけど、まあ偶にあるからね。さあ、素材を出しておくれよ。」
「分かりました。あと細かいことですけど1個ずつ解説があれば有り難いです。では出していきますね。」
素材を一通り並べる。13種類の素材を採取しているから13瓶だ。満月茸と月光茸は1個ずつにしてある。勿体ないからね。
「じゃあ順番に行こうか。これは風鈴草、1本中銅貨1枚だ。こっちは聡明草、これも中銅貨1枚だね。これは白爪草、中銅貨2枚だ。こっちは茅葺草、中銅貨1枚。これは晴嵐草、大銅貨5枚だ。これは旋風茸、小銀貨2枚だ。これは空風茸、小銀貨2枚だ。これは光旋風苔、中銀貨3枚。赤山嵐草、中銀貨5枚。久遠草、大銀貨1枚。星彩茸、大銀貨5枚。でこれが月光茸、大白金貨2枚。おおっ、ちゃんと満月茸だな。小魔金貨5枚だ。合計で小魔金貨5枚と大白金貨2枚、小金貨6枚に大銀貨5枚、中銀貨7枚、小銀貨5枚、大銅貨5枚だな。昨日ちゃんと満月茸を確保できたみたいだな。感心感心。」
「ありがとうございます。やっぱり満月茸は高いですね。」
「そりゃあな。満月の夜にしか採れないんだから仕方ないだろう? それに大切な至高のポーションの材料だ。買い手は幾らでもいる。」
「でしょうね。ありがとうございました。」
「はいよ。またどうぞ。」
そう言って錬金術師の馬車を出る。…うわあ、死人の列が一杯。…今日はテントを片付けてから林に入ろう。これは火事が起こる気がする。似たような事がヨルクの林でもあったからな。用心に越したことはない。…もし何も無ければ外周に追いやられるが、それは仕方ないだろう。この12割を使っている現状。外周でも十分である。…でもこれ馬車は一回村を出てから回らないといけないのか。農地と村の間の通路は何に使うんだとは思っていたが、そうか。こうなった場合馬車が通れないからか。また一つ賢くなってしまったな。ダーリング村にもあったんだが、何に使うか解ってなかったんだよなあ。冒険者広場は井戸の周りと各馬車道を開けて使っているからな。気付きは大事よ。
そんな訳で、夕食を食べて、テントを片して外周の所に中心杭を立てときましょ。帰る指方魔石晶の首飾りがないと、帰ってこれないからね。さて今日も張り切って採取と行きましょう。中銅貨の素材も一応集めて行く予定だから、サクサクと行きましょうね。主に月光茸の採取が目的だが。月光茸でも大白金貨まで行くとは。恐るべしレールの林、いや光属性の霊地と言っておきましょうか。
そんな訳で1晩中採取をしてきて、林の切れ目辺りから焦げ臭い臭いがする。…まあ、でしょうね。あの死人の行列をみれば解るよね。こうなることくらい。現場は燃え尽きた後、現在冒険者が掃除中、村人は農業で忙しいから手伝ってもくれませんよ。今は農家は開墾種まきの時期、一番忙しい時期だねえ。そんな時に人手なんて出せるものかよ。
教会前広場の片付けを終えたのは昼前だった。…もう寝とかないと今晩が辛いんだけど、テントの立て直しからだな。幸いなことに僕のテント布は燃えていない。中心杭は多少炙られたかもしれないけれど、溶ける火力じゃないし問題なし。指方魔石晶の首飾りも錬金アイテムだから燃えないんよね。それは嬉しいことだ。盗難される可能性もあるんだが、価値の判らないものを盗るのかって話だよね。まあ、盗られたら斬ればいい。冒険者の心得、人の物を盗ってはいけません、これがある限り私刑が許されている。…まあ今日は別の意味で私刑大会になりそうな予感がするが。
幸いにも僕の中心杭は無事だった。外周の外周だがそこにテントを張ってさっさと寝よう。朝ご飯は…まあいいか。別に寝れるしな。さっさとテントを張って今晩の採取に備えた。おやすみなさい。
夜、まあ夕方ちょいすぎだけど。寝たのが昼前だから少し遅い起床だ。井戸にいって顔を洗い、鍋に水を入れて自分のテントに戻る。見たところ3割くらいの密度でテントが張ってあるが、私刑祭りも行われたようだ。色んなところで人が、冒険者が倒れている。生きているのか死んでいるのかは明日判るだろう。毎度の事なのか気にしていない冒険者の方が多い。生きていたら明日の朝に町に帰るだろうし、喧嘩をしなかった冒険者は今日にも帰っているだろう。片付けが終わったのが昼前だったから、夜に到着になるだろうけど、この辺はここにいる冒険者の方が慣れているだろう。
晩御飯もしっかりといただいて、鍋を洗い、火の処理もしてさっさと林の中に行ってしまおう。今日も満月ではないから月光茸狙いで、他の素材も浚っていく感じで。今日はもうすっかりと夜になってしまっている。少しは月光茸の採取量も減るかなあ。そんなことを思いながら林の中に入っていった。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
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素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。