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29話 9歳 お布団に枕が無かった、初っ端から火事ですか


 人の詰め込まれた幌馬車の中からこんにちは。どうも、ヘルマンです。時刻はお昼過ぎ、そろそろネラ町に到着です。ネラ町も外から見たかったんだけどね。乗合馬車がぎゅうぎゅうで見るどころじゃない。ざっと18人程乗っているが、そもそも座ってられないのだ。座っているのは一番外側の人たち。器用に馬車の縁に座っている。何度か落ちて走って乗ったりもしているくらいには乗合馬車がいっぱいだ。それが皆ネラ町に行くまでずっとだから本当に大変。これなら走った方がマシなんじゃないかって考えるくらいには最悪の環境だ。でも走るのも嫌、ぎゅうぎゅう詰めも嫌。どっちも嫌なわけで。嫌なら楽な方…、比較的楽な方を選ぶよね。という訳で馬車に乗っている次第です。早く町に着かないかな。


 7日間の立ち旅もようやく終わり、冒険者広場までやってきた。人気な採取地行きったって限度があるよね。1人も乗っていない乗合馬車もどうかとは思うけど、乗りすぎもどうにかしてほしいね。座ってすらいられないとか満員電車かって話よ。電車とか前世でしか乗ったことないけどな! まあ、そんな訳で着きましたネラ町、多くの引退冒険者が住む町、お布団の町、雲上町、何でもいいだろうが、そんな感じで呼ばれてるとかあるといいんだけど、何もないんだよなあ。観光とかが全然発達してないからなんだろうけど、難しいよな観光なんて。


 日々を精一杯暮らす平民にとって観光なんて手が出ない。…いや、お金の心配よりかは時間の心配なんだよね。農業の暇な時期は冬なんだよ。冬になると飯屋も1ランク、いや2ランク値段が落ちる。野菜や何やらが無くなるからね。それに乗合馬車の数も減る。行ったはいいが、何もせずに帰ってきましたなんてことになる可能性が高い。保養地なんかもあるんだろうけど、多分お貴族様が行くくらいなんじゃないかな。…多分霊地に温泉地とかあるんだろう、知らんけど塩泉なんてあるくらいだし、硫黄系統の霊地があってもいいと思う。亜硫酸ガスが怖すぎるけど、なんか考えられているだろう、多分。


 さてと、ここの町に来た要件の一つを片付けますか。冒険者ギルドに行ってお布団の注文をせねば。人気なのは領都で調べたから判ったんだが、多分どの領でも似たようなのはあると思う。拘ったのは王都にでも行けばあるかもしれない。…でも買う。流石に貴族用みたいなのは要らないんだ。ただ、前世の民宿レベルの布団でも十分なんだ。干した麦藁布団は痛いんだよ、こうチクチクするんだ。慣れはしたが、あれがない方がいいに決まっている。ついでに枕も作って貰おう。枕なんてあるのかな? まあ、無くても作って貰うだけの話。頭を高くした方が寝やすいんだもの。それくらいこの世界にもあるよな? 無ければ今日、文明が階段1段分上ってしまうな。冒険者ギルドの受付さんに声をかける。


「すみません。ここでお布団を買えると聞いたんですが。」


「はいはい、こちらで買えますよ。1つで良かったですか?」


「1つで大丈夫です。後枕も欲しいんですが。」


「枕ですか? 枕とは何ですか?」


「枕っていうのはですね、これくらいの四角い、小さな布団みたいなものです。これがあると頭が高くなってよく眠れるんです。」


「ほうほう、因みに厚みはどんな感じですか? お布団ぐらいでいいんですか?」


「厚さは好みがありそうですが、お布団の厚さはどのくらいですか? ―――その位なら倍くらいの厚さがあっていいと思います。」


「ふむ、布自体はお布団と同じでもいいんですか?」


「はい、大丈夫です。…作れますか?」


「そうですね。お布団が中金貨4枚なので、その枕は中金貨1枚としましょう。製法もお布団と一緒なら問題なく作れますし、厚さも布に入れる綿を沢山入れればいいですからね。」


「分かりました。中金貨5枚ですね。これでお願いします。」


「はいはい確かに。でも枕ですか。人気が出そうならそっちも売り出していいですか? お布団の需要があるならその枕も売れそうな気もしますね。使い心地を確かめさせて貰いますけど。」


「ええ、どんどん売っちゃってください。技術料なんてものも要らないので。」


「あら、要らないって事は遠くに行く予定の人なのね。だいたいお布団を買われる方ってこの町に定住する方が多いから珍しいわね。…まあ、まだまだ坊やだし、当然かもね。」


 まあ、布団を買うのは引退冒険者がこの町に定住するときとかに買いそうなもんだしな。…しかし、枕込みで中金貨5枚か。剣よりも高いのはどうなんだとは思うが、お布団のオーダーメイド、その位はするもんなんだろうか。


「さてさて、じゃあこれを持っててね。失くしたらお布団と交換できないから失くさないようにね。多分坊やは霊地のお客さんでしょ? 秋になる頃にはちゃんと出来てるから、火事なんかで死んじゃ駄目よ。」


「はい、秋に取りに来ます。…ここで注意が入るほどに火事が多いんですか?」


「そうねえ。去年は報告が少なくてルイス村からは3回だったかしらね。テントの布は安いからちゃんと逃げるのよ? 無理にテントを守ろうとして煙を吸っちゃったら死んでしまうんだから。気を付けなさいよ。」


「…こんなところで死ぬ予定も無いのでちゃんと逃げますし、予備のテントも買ってありますから大丈夫ですよ。」


「そう? 準備がいいのは良いことよ。後は運ね。」


「運ですか。それはちょっとわかりませんね。」


「そうねえ。運が悪い子はそれだけで死んでしまうものなのよ。でも坊やは大丈夫な方だと思うわ。何も無いのにこんなところで死なないって決意が見えるもの。」


「ありがとうございます。」


「いえいえ、こう見えて結構な新人を見てきましたからね。まあ坊やは大丈夫でしょう。」


 なんともまあ、有り難いお言葉をいただきましたが、ほんと運だけはどうしようもないよ、受付さん。まあ心配してくれるだけ有難いよ。…本当に火事だけは気を付けないとどうしようも無いもんな。燃えたら最後だ。その時は諦めるしかないが、まだまだ死ぬには早い人生。やることやってから死にたいねえ、今度こそは。…まあ、前世もいったい何歳まで生きてたのか知らないんだけどさ。


 お布団の注文も終えたし、後は明日ルイス村まで歩いていくだけ。…乗合馬車があっても歩きで十分。隣の村だしね。他の冒険者だってそうするんじゃないかな。それか隣村じゃない方の村に行くか。でも向こうは後2日掛かるんだよな。普通に考えれば今回の乗合馬車がほぼ最初の便、ここに残っている冒険者も居たが、ここにいるってことはこの町で冒険者してるんだろう。まあ、まだ慌てる時期じゃないと思うんだよね。…最終的にどうなるのかは解っている。どっちもいっぱいになるんだろう。正直どっちでも一緒なら近い方でいいと思うんだ。まあ、どっちにしろ今日はここで寝るしかないんだがな。


 朝、いつも通り日の出より少し早い時間に起床する。…明日からは昼夜を逆転させないといけないから辛いぞ。起きて顔を洗う。そしてそのまま朝飯の準備だ。今回は肉を多めに準備してきたからな。肉切れなんて起こさせはしないぞ。…この町でも畜産はやってるよな? やってなくても干し肉ぐらいは他の町から入ってきてるはず。…冬に領都にまで帰るのは面倒だからここで買えて欲しいな。まあそれは冬になってから考えよう。もしかしたら宿の関係で戻るかもしれないが、基本はネラ町に居続ける予定なんだから。


 さて、乗合馬車よりも早いが、この町を出る。どうせ途中で抜いていくだろう。…沢山の冒険者を連れて。乗っていく冒険者は多分この村の隣かはたまたその隣かに行くんだろう。空いてるのは最初だけで、最終的には一緒だと思うのに。ヨルクの林でも秋はいっぱいになってたもんなあ。それ以上にここの林は人気っていうし、ヨルクの林の秋の状態が常なのかもしれない。…火事が多いって言ってたもんな、多分そうだろう。


 歩きの旅は順調に行き、乗合馬車にも抜かれたが、ルイス村に到着した。…到着したが、もうすでに8割方教会前広場が埋まっているんだが? 早すぎじゃないですかね。誰だよまだ早いから余裕あるとか言った奴は。どう見たって出遅れてるよ? どうすんだよったってテントを張るしかないんですがね。時刻は夕飯時、朝駆けの採取者もいるのかぞろぞろと帰ってきている冒険者もいる。今日はテントで一夜を明かして朝寝るようにしないとね。まずは昼夜を逆転させることに注力しないと。


 何処がいいかななんて場所を吟味する空間すらなく、外周にテントを張るしかない。…まあ、始めから真ん中にテントを張る予定なぞ無かったが。火事が起きたらどうするって、真ん中が一番危ないだろう。端から端っこ狙いですよ。井戸付近の真ん中なんて死にたがりのポジションじゃないか。そんな訳で外周から1つ分離れた教会前広場の端ぎりぎりにテントの中心杭を打ち付ける。別にハンマーなんて買わずにその辺に落ちてる石っころで打ち付ける。皆使うから教会前広場の隅には石が落ちてる。これを使えばいいのだ。そしてテントの布を真ん中を中心杭の鉤にひっかけるようにして周りの3点を引っ張りながら打ち付ける。…打ち付けるんだったが。


「火事だー。」


「水はー?」


「もう間に合わねえ。」


「逃げろ逃げろ。」


 おいそこの野郎ども、人がテント張ってる最中に火事を起こすんじゃねえ。いや、張り終わってなくて幸運だったが。さっさと布を回収して教会前広場の外へ。おーおー、燃えとる燃えとる。スライム燃料便利なんだけど、布に付いちゃうと直ぐ燃え広がるのが欠点なんだよなあ。この大綿花から作った布も燃えやすいんよ。誰かが蹴とばしたら最後、こうなるんだよなあ。今日は徹夜の予定だったので、もれなく徹夜で作業になりましたよ。やったね。


 教会前広場を眺める冒険者。燃える教会前広場。大惨事だなあ。これの片付けを村人も手伝うんだから、恒例行事みたいな感じで。しかも開墾種まきシーズン、農民ぶち切れ案件ですねえ。…もしかしたら手伝ってすら貰えないパターンもあるよ。灰のお掃除頑張ろうね。できるだけ夜の間に終わらせて、朝はご飯を食べて寝たいなあ。それもこれもこの火事次第。スライム燃料が多いほど延焼時間が長くなるぞ。早く終わってくれとの願いよ届いておくれ。すぐそばの火事に祈るのだった。


 時刻は朝の日の出前。普段だったら起きる時間なんだが、今日は皆でお掃除中です。農民が手伝ってくれなさそうなこの季節、早いとこ片付けて寝ようとするゾンビのような冒険者たちと夜半にお掃除をしましたよ。そろそろ日の出、漸くと終わりが見えてきた。ゴミ捨て場付近に用意された塵取りや箒を使って灰のお片付け。結局全体の5分の3程のテントが燃えた。まだ8割だったからな。全焼は免れた。ピーク時は15割(って。テントを三分の二に張って詰め込むの?)ほど冒険者のテントで教会前広場が埋まるからな。ヨルクの林でもそうだった。ここもそうだろう。そうなっていたらほぼ確実に全焼だ。


 しかし、残ると残るでまた面倒が起きるんだよなあ。燃えてないテントは誰のものかで争う愚か者ども。さあ、地獄の第2ラウンドの開始だ。俺のテントだと陣取るバカを引きはがすバカ。殴り蹴りの大喧嘩。そんなことはどこ吹く風と中心杭と3点杭の良さそうなものを物色するこすっからい奴に何もないところに寝袋を出して寝る輩。実にやりたい放題だ。まあ、僕のテントは幸いなことに張る前だったし、中心杭を打ったところで終わったからな、ここから張り直すだけ。もう一度中心の鉤に布をひっかけ、3点杭を打ち付ける。この時布の真ん中の杭から打ち付けると綺麗な三角形になるから覚えておくように。端から打つとちょっと歪む。まあ、燃えりゃあ一緒なんだが。ところで時刻は日の出少しあと、朝飯時だねえ。さっさと朝飯食って寝ますか。自己責任が冒険者。喧嘩するも殴り蹴るも自由。ただし、後の責任も自分次第。さてさてどうなることやら。灰交じりの砂埃の舞う中、一人楽しく賑やかな食事とまいりましょうか。流石に今張ったテントを俺のだと主張するバカはいまい。

面白かった面白くなかったどちらでも構いません。

評価の方を入れていただけると幸いです。

出来れば感想なんかで指摘もいただけると、

素人読み専の私も文章に反映できると思います。

…多分。

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[良い点] >流石に今張ったテントを俺のだと主張するバカはいまい。 バカは想像を超えていくから、安心は出来なさそうですね。
[気になる点] 結局全体の5分の3程のテントが燃えた。まだ8割だったからな。全焼は免れた。 6割だと思ったら8割。意味がわからん
[気になる点] この様なくだらないことで死んでもいいと思っているのならわかりますが どこでもこのような火事があるなら錬金術等対策品、ある程度お金や地位がある人用の宿など主人公が用意するそぶりもないのは…
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