26話 8歳 駄弁りに来ました冒険者ギルド、魔法使い魔術師って何? 居なくならないネズミの秘密
初冬の一間、今日も暇で宿にいるのも退屈になってきたのでとりあえず冒険者ギルドに行ってみようとなった今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。どうも、ヘルマンです。休めばいいんだけどさ、3日も休むと今度は色々と心配になってきてさ。しょうがないから冒険者ギルドを冷やかしに行こうという訳ですよ。冷やかした後はちゃんとネズミ捕りの依頼を受けるので許してください。
そんな訳でやってきました冒険者広場、…なんぞこれ? 昨日災害級の突風でも吹いたっけ? 吹いてないと思うんだよなあ。宿屋にいたときは静かだったと思うんだよ。なのに嵐が過ぎ去りましたって惨状が冒険者広場のごちゃごちゃ感が物語ってる。テントも軒並みなぎ倒されているし、何があったんだ? …情報収集も兼ねて冒険者ギルドに行こう。今日の冒険者たちは依頼どころじゃないのも多そうだし、冒険者ギルドの受付も暇してるだろう。さてさて、何が起こったんやら。
思った通り、冒険者ギルドには冒険者の姿は無かった。…依頼票もないから仕事には行ったんだな。あんな惨状なのに。それ以外の冒険者が片付けをやってたって感じかな。冒険者も動揺はしてなかった辺り、いつものことというか慣れてます感があったが、僕は何があったかなんて知らないからな。聞くに限る。ただし、冒険者に聞くわけにもいくまい。慣れと同時に悲壮感も漂っていたからな。冒険者ギルドで聞いた方が賢いだろう。
「こんにちは、冒険者広場で何かあったんですか?」
「? 別に何も無いわよ?」
「えっと、外が酷い事になってたんですけど。」
「ああ、火事が起こりそうになったのよ。だからああなっているだけよ。あなたは宿に泊まれているんでしょ? なら気にしない事よ。しょっちゅうあることなんだから。」
火事か、まあダーリング村の教会前広場でも偶にあったからな。でも、火事ではああはならんだろう。燃えカスが広がっているなら分かるんだが、嵐が過ぎ去ったような惨状だぞ? 火砕流でも通りましたって感じで色々なぎ倒されてたんだけど。…火砕流の様に土砂は無かったけどさ。
「あの、火事だけではああはならないと思うんです。村でも火事があったときは大変でしたけど、あんなテントがなぎ倒されて嵐が去った様にはならないと思うんですが…。」
「ええ、火事は起こってないわよ。なりそうになっただけだもの。そりゃ何個かテントが燃えたかもしれないけれど、ちゃんと魔法使いが消火してくれたし、問題ないわ。」
「魔法使いが消火ですか?」
「ええ、魔法使いがメイルシュトロームを使って消火したのよ。大火事になる前に消火出来てよかったわ。水属性の魔法が使えない魔法使いが魔術師ギルドに詰めていたらもっと被害が出ていたでしょうね。…まあ、あなたの言いたいことは分かったけど。あれでも被害は軽微よ。ちょっと今晩荒れる人たちが出るでしょうけど、仕方ないわ。いつものことだもの。」
「もうちょっとピンポイントで消火出来なかったんでしょうか。なんだか不憫でしょうがないんですが…。」
「できたでしょうねえ…。多分魔法使いもイラついてたんだと思うわ。毎年何回もあることだし、去年も何回かあったわよ。知らないならその時期に町にいなかったか、丁度宿に引きこもっていたかどちらかじゃない? まあ、気にしない事よ。被害が殆ど無くて済んだんだし。」
「そうですか。それにしても魔術師ギルドなのに魔術師じゃなくて魔法使いなんですか?」
「あー、その辺は知らないと面倒なのよねえ。基本的には才能が違うのよ。魔法使いは属性使いで、魔術師は陣使いって表現してたやつもいたわね。えーっとね、魔法使いの才能っていうのは水魔法の才能、火魔法の才能、みたいに属性が指定されているの。だから基本6属性のどれかを持っているのが魔法使いね。偶に複数属性の才能を持っているのもいるけど、稀よ。基本は1つの属性使いが魔法使いって呼ばれているわ。それに対して魔術師は属性を選ばないの。簡単に言ってしまえば魔術師の才能は属性に縛られないわ。ただし、魔法使いと違って準備が必要なのよね。魔法陣が無いと魔法が使えないのよ。その魔法陣も錬金術ギルドで扱っている属性素材や魔石なんかを使って一々準備をしなくちゃいけない。それが魔術師ね。それと、魔法使いは自分の中の魔力を使って魔法を発動させるけど、魔術師は自然界にある魔力を使うから、別物だっていう研究者なんかもいるわよ。魔法使いは手頃な分自分の魔力量に悩まされて、魔術師は自分の魔力を使わない代わりにお財布に悩まされるの。どちらも一長一短よね。昨日火事を起きる前に消火してくれたのは魔法使い。魔術師なら放置よね。魔法陣にお金が掛かるんだもの。しかも、使い捨ての魔法陣を使うのに報酬は無しなんだから、絶対に放置されるわ。良かったわよ、水魔法使いがいてくれて。」
「なんだか色々複雑なんですね。…それにしても魔法使いと魔術師がいるのにギルドは1つなんですね。」
「あー、それもややこしい事情があったと思うわ。立ち上げの時はそこまで研究が進んでなかったのもあって、1つのギルドになったんだけど、別物って判った時にはもうすでに共存しちゃってたのよ。今さら2つのギルドに分けることも出来ないし、魔術師学校だって、魔法使いも通えるのよ。昔に決めたことだから、今の時代に合わせて分けるべきだって言っている人たちもいるんだけど、国からのお金をどう分配するかで揉めて結局今のまま落ち着いたのよ。…お偉いさんの方はまだもめてるみたいだけどね。」
「…お姉さん、魔術師や魔法使いに詳しいですね。」
「そりゃあ魔術師学校の卒業生だし、一応貴族だったからねえ。土魔法の才能があったから通わされたのよ。別に魔法を使ってどうこうしたかったわけじゃないし、平民落ちするのも決まってたことだからね。別に魔術師学校を出たからって魔術師ギルドに入らないといけないなんて縛りも無い訳だし、なんだかんだで冒険者ギルドに勤めることになったのよ。まあ、その辺も家との兼ね合いがあったりするのよ。ほんと貴族って面倒よね。私たちみたいに平民落ちした娘の動向でさえ気を付けないといけないんだから。…まあ、子供は普通に平民として暮らしているんだけど、私は監視付きみたいな感じなのよ。」
「貴族で思い出しましたけど、魔導爵ってあるじゃないですか。あれは魔法使いと魔術師に関係ありそうだと思うんですけど、なんなんですか?」
「あー、それは1代限りの爵位よ。基本的に魔境で活躍した魔法使いや魔術師にその領地の貴族が与える事ができるものって言って解るかしら?」
「1代限りなんですか?」
「そうよ。子供が生まれても別に才能が子供に受け継がれるわけじゃないもの。魔導爵は例外なく1代限りよ。」
「魔法使いでも、魔術師でもどっちでも魔導爵なんですか?」
「どっちでも同じよ。まあ、各魔境にこれを倒せたら爵位をあげるよってやつがいるのよ。…まあ、文字が読めないと貰える事すら知らないのも多いけどね。貰えると良いこともあるのよ。国から貴族年金だって出るんだし、その領の貴族だって騎士爵や魔導爵を何人輩出したっていう名誉もあるんだから。でも余りここの領主はそれに積極的じゃないって噂だし、よく解らないけどね。」
「それはここの領主が有能じゃないってことなんですか?」
「んー、一概にはそうとは言えないけれど、こんだけ霊地や魔境を抱えてるのに伯爵じゃなくて子爵やってる当たり、余りやり手じゃないんでしょうね。もしかしたらそのうち、領地の剥ぎ取りが起こったりするかもね。隣の領の事情も関係するんだろうけど。まあ、平民の私たちが気にする話でもないわよ。」
「この領だとサントの森とジェマの塩泉ですよね。魔境なのは。」
「そうよ。よく勉強してるじゃない。まあ、正しくはこの領なのはジェマの塩泉だけで、サントの森は他領と跨がっているんだけどね。跨がっている魔境は普通面倒なのよ。霊地も跨がっていることが多いけど、魔境は騎士爵や魔導爵を与える関係で揉めるものなのよねえ。でも、この領の冒険者ギルドでそんな話を聞かない当たり、積極的じゃないって噂も本当なんだと思うわ。」
ふうん、貴族も色々あるんだなあ。ここの領主様は良くて平凡って評価なんだろうか。いや、貴族界隈の事なんて全然わからないからどう評価されているのかなんて解らんけれども。…まあ、お貴族様がどう評価されてようが関係ないんだけどさ。
「そういえば、あなたの用件を聞いてなかったわね。何しに来たの? 別に駄弁にり来た訳じゃないんでしょう?」
「いや、半分くらいは駄弁りに来てるんですよ。冬場の宿の中は暇なので。…もし迷惑ならネズミ捕りの仕事をしてきますけど。」
「あらそうなの。別に今の時間帯はこっちも暇だからいい時間つぶしになるわ。…それにしても宿に泊まれているなら稼げているでしょうに。わざわざネズミ捕りなんてしなくても。」
「体を動かしてないと、暇でどうにかなりそうなんですよ。余りじっとしているのって得意じゃなくて。いつもネズミ捕りの依頼が余っているのでそれにしている感じです。」
「まあ、ネズミ捕りの依頼は何人受けようがいい依頼だからね。余り冒険者はやりたがらないけど。まあ、ネズミはいなくならないし、別にいいんだけどね。」
「…ネズミっていなくならないんですか?」
「そうよ。いなくならないわ。」
「? なんでですか?」
「何でって、魔力の淀みからネズミを発生させているからよ?」
「あれ? 錬金術師が魔力が淀まない様に結界を張ったんじゃ無いんですか?」
「そうよ? その結界のせいでというかおかげというか、ネズミは減らないのよ。」
「? いまいち理解できないので一から説明お願いします。」
「いいわよ。錬金術師が張った結界は魔力の淀みを意図的に作り出してネズミを発生させる結界よ。なんでネズミかは当時の錬金術師に聞かないと判らないけれど、一説には魔力の淀みを食料に変換するためにネズミにしたって話よ。ゴブリンだと食べられないし、それ以上強い魔物を発生させると討伐が困難になっちゃうからね。ネズミは共食いし合うから一定数以上にはならないし、取れるんなら食料になるしで発生させるのに丁度良かったんじゃないかしら。…後は魔力では不浄の物しか発生させられないからネズミしか選択肢がなかったって説もあるわね。まあどちらにしろ、完全に淀みを失くしてしまうと結界の外で淀んでしまうから意図的に解消させるためにネズミを作り出しているのよ。だから自由市の中でネズミ退治なのよ。あそこに意図的に淀みを発生させているから。またそこからネズミが出ない様にも結界に細工がされているそうよ。だからネズミを狩れば狩るほど、町の外に魔力の淀みが出来ない仕組みになっているの。いくら何でもネズミが増えすぎると町の外で淀んでしまうのと、自然的に淀むのはどうしても抑えられないらしくて、偶にゴブリン程度の魔物が発生しちゃうけど。」
「ネズミ捕りをしている冒険者ってそんなに多くないんじゃないですか?」
「そうね。そんなに多くないわ。でも、年中一定数ずつでも狩ってくれていればいいのよ。まあ、狩りつくせたらそれはそれでいいんだけど、そんな事にはならないくらいには淀みが発生してしまうらしいの。私も錬金術師じゃないから詳しくは知らないけど、1年に1000匹程度間引きできればいいらしいわ。」
「…去年2日に1回50匹ずつネズミを狩ってたんですが、いなくならないのはその所為ですか。」
「そうよ。いなくなる位のペースで狩っても、また淀みからネズミが出ちゃうからね。まあ、ネズミを狩ってくれるのは大歓迎よ。狩れば狩るほど、町の外にゴブリンが発生しなくなるんですもの。…ゴブリン以上の魔物が発生する事態になるまでネズミ捕りを放置されるのはまずいけどね。…でも、ネズミは自由市を使う人たちでも狩れるもの。おやつに狩る人もいるくらいだからね。まあ、何かしら才能が無いと追いかけまわすだけじゃ狩れないのよね、ネズミって。案外難しいそうよ、ネズミ狩りも。」
「僕は才能のおかげで楽に狩れて有り難いんですけどね。体を動かすには丁度いいし。」
「楽に狩れるならそれはそれで良いことよ。冒険者の殆どは何かしらの才能を持っているにも関わらず、狩れない連中もいるんだから。ネズミ取りだけやっていても生きていけるようにはなってるのよ。ギルドの方でも一応は考えているのよ。ただねえ、どうしても文字の読み書きを覚えようとする冒険者が少なくてねえ、困るわよ本当に。」
「なんで覚えようとしないんでしょうね? 覚えようとしない冒険者って村出身の冒険者ばかりでしょうけど。」
「そうでもないわよ。継嗣でない町人でも覚えようとしない奴は多いし、町人の方が覚えようとする人数が少ないのよ。村だと7歳で外に出されることが多いでしょう? だから素直に文字の読み書きを覚えようとする子たちも居るもの。途中で辞めちゃう子も多いけどね。町人は13歳で家を出されるからそこから覚えろって言っても反抗期なのか覚えようともしないわ。だから稼げていない冒険者の多くは村人出身っていうのは当たっているけど、町人も結構な数いるわよ。でも、皆が皆文字の読み書きを覚えるのもまた問題でね。雑用係がいなくなっちゃうから。だからその辺は難しい所なのよ。まあ、もうちょっと文字の読み書きができる奴が増えてもいいと思うんだけどねえ。」
「丁度いい数にはならないでしょうね。ギルドって初めに注意するだけで、後は放置ですか?」
「そうでもないわよ。受付よりも買い取りカウンターで言われることの方が多いんじゃないかしら? もっと稼げるようになりたいなら文字の読み書きを覚えろって毎回の如く言われていると思うわ。…ネズミ捕りで食っていけそうなら言われないかもね。だからあなたは言われていなかったのね。ネズミを50匹位納品していたら大部屋の宿くらいだったら泊まれるもの。」
「ああ…、基準は冬に大部屋に泊まれるかどうかなんですか?」
「ええ、一応大部屋もれっきとした宿屋の一つですからね。大部屋に泊まれるようなら文字の読み書きをとは言わないわね。それくらいの冒険者は幾らでも必要だもの。…雑用係としてだけど。今は雑用係だけが多すぎるのよ。もう少しどうにかならないかとは毎年思っているんだけどねえ。」
「…なかなか難しそうですね。僕もヨルクの林の側の村出身ですけど、毎年いましたからね。年越をする冒険者。」
「そうなのよ。冬場位は宿屋に泊まれるようになって欲しいものだわ。…凍死者を片付けるのは冒険者ギルドと教会の仕事なのよ。毎年絶対にいるから嫌になるのよね。テントの数も1年間減りもしないし、もうちょっと頭の悪い冒険者たちが何とかならないかしらね。」
「テントの数って増えも減りもしないんですか?」
「増えるわよ。春から秋の間は宿に泊まっている人たちが出てくるのよ。でも言いたいのは冒険者ギルド前のテント群よ。別にギルドに入るのにテントの位置で変わるわけじゃないのに冒険者ギルド前に固まるから火事なんて起こすのよ。もうちょっと他のギルドの前の方に行けば広場も広く使えるし、火事も自分の所だけで済むのよ。なんで皆寄ってたかって冒険者ギルド前に集まるのかしら、バカじゃないの? あ、バカだったわ。」
「自己完結するんですか…。そう言えば冒険者ギルドの依頼ってどんなのがあるんですか? いつも取り合いになってるからあまりよく解って無いんですよ。」
「基本的に何でもあるわよ。多いのは領都の巡回よ。何処からどのルートを通ってって感じの見回りね。まあ、見回る対象が冒険者が悪さをしないかが主だったりするんだけど。後は子供が危ない所にいかない様にとか、空き家に誰か住み着いて無いかとかね。それが一番多いかしら。後は料理を出す店の野菜の下ごしらえとか、畜産家の家畜の餌やりなんかもあるわね。」
「この町って料理屋があるんですね。」
「あるわよ。町の人も使ってるし、冒険者なんかも使っているわよ。基本安い値段の物ばかりだけど、自分で作るときに面倒な事ってあるじゃない。そんな時に使っているわね。冒険者でも、大部屋に泊まれるような奴らはちゃんと店でも食べてるわよ。何? あなたもしかしてずっと自炊してんの?」
「宿にいるときは宿のご飯食べてますよ。後は基本的に霊地にいるので自炊ですね。」
「宿でご飯が出るくらいなら結構いいとこ泊まってんじゃない。個室宿でも素泊まりの所も多いのよ。でも、霊地でずっと採取できるくらい稼いでいるなら納得ね。ほんとに何でネズミ捕りなんかやってんのよ。もうちょっとゆっくり休みなさい。」
「ネズミ捕りも休んでるうちに入っていると思ってたんですよ。基本的に自由市をぶらぶらするだけだし、ネズミも一杯捕まるしで。」
「若いうちから仕事漬けだと反動が凄いわよ。いまから休む練習をしときなさい。」
「だから今日は駄弁ってるんですよ。…話が無くなればネズミ捕りに行くつもりでしたけど。」
「だったら今日一日駄弁ってなさいよ。私も今日これからは暇だったし丁度いいわ。」
「ですか。じゃあ他になんの話をしましょうかね。」
今日は冒険者ギルドの受付さんと話すだけで、一日終わってしまった。…まあ、冬場だし、稼いでいるんだし、休みはとってもいいよね。そんな訳で、冒険者が続々と帰ってくるのを見届けながら、宿屋に帰るのだった。…今度宿屋で朝飯食べた後にでも食べ物屋に行ってみようかな。どんなご飯を出しているのか興味があります。多分宿のご飯よりかは簡素なんだろうな。でも、いい宿屋に当たってよかったよ。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。