155話 25歳 魔剣
すっかり寒くなりまして、冬ですねえ。雪がチラついておりますよ。どうも、ヘルマンです。1月の中旬に入ったくらいでしょうか。魔境はすっかり大人しくなってしまいましたしねえ。今の時期は道場が流行りません。
家の子たちが頑張って武器を振るって3時間耐久をやっておりますよ。まあ、まだ1時間も振れておりません。アリスは鞭だからまあもう少しで1時間かなあと言ったところ。他3人はまだまだですよ。守護者だって武器も使えるんだから剣を振ってますよ。
ブレードシールドなんて際物に手を出すのは早い。剣と盾をみっちりと振れる様にならないとね。…盾使いはこれが難しい。才能に愛してもらうまでが辛い。受け続けるしか無いからさあ。ブレードシールドは振れるけど。
その点守護者は武器が扱える分、難易度は低め。春にはみんな才能に愛されているでしょう。頑張ってくださいね。アリスも頑張れ。移動があるかもしれないんだから、武器が使えないのは問題あるかもしれんから。
トム君は鍛冶場に行っている。お父さんと同じところですね。鍛冶師は見習い期間が長いからなあ。30にならないと一人前をくれないんだ。その代わり、鍛冶見習いでも黄色の皮紙が使えるだけ貰えてる。一人前になったら出来高。割と厳しい。
僕はいつも通り星の川製造機をやっております。変わらねえなあ。なー、シャウト。お前もよくよく遊びに来るなあ。退屈じゃないのか? 錬金術を見てるだけってのも。…餌はあげてるけど。それだけが目当てか? んー?
「旦那様お客様です。」
「親方かな? はいはーい。」
さて、そろそろ5日程経ちますもんね。そろそろだとは思ってましたよ。さてさて、どんな剣が出来たかな。
「親方、剣できました?」
「…おう、俺は俺の仕事をしただけだ。後は任す。」
そう言うと雑にカウンターに放り投げる親方。…珍しいね。親方が武器を雑に扱うなんて。それに鞘まで作って貰って…あれ? 2本? 注文と違うんだけど。これじゃあレイピアだよ。
「親方、注文間違ってるよ。2本じゃないって。」
「これで合っとる。持ってみろ。そうしたら解る。」
「いや、まあ持つけどさ。…⁉ ―――…―――…っは、っは、っは。はあ⁉ なんじゃこりゃ⁉」
「おう、俺も打ってる時からそんな感じだった。技まで腕を持っていったって自負はある。…それが才能で打たされたんだ。…んで、出来たもんがそいつだ。」
「いや、これはあかんやつでしょ。…世に出しちゃいけない類のもんだって。」
「ああ、最初は違和感だけだったが、剣の形にして行くうちに不味いもんを作ってる感触はあった。…だが、手が止められんかった。1日と半分打ち続けてた。…もう1本は仕事だからと割り切って打った。だがよお、これは駄目な奴だぞ。…この俺が使えると思った武器だ。」
「因みに親方、戦う系統の才能は?」
「1つも持っとらん。そんな奴が、才能で剣が振るえると思ったんだぞ? 一体こいつはなんだ?」
「感触的には星10個を振られた感じがしましたね。…星11個の星の川を作って売ってますが、こいつは次元が違いました。…まさしく星10個の才能を振る剣です。」
「星は9つまでしか振られん。それは分かっとるよな?」
「ええ、原則そうです。…しかし、過去には、最初の才能は10個振られてきていたと聞いています。」
「原初の奴らだな。…しかし、これが本当にそうか?」
「間違いないと思いますよ。しかし、そうなるとこれらが闊歩していた時代があるんですよね。…道理で大罪が悪だと教会で教える訳ですよ。」
「ああ、これを7歳かそこらで振られるんだ。…呑まれない訳が無いよな?」
「まったくですよ。…僕もさっき呑まれかけましたからね。あれは傲慢と強欲と嫉妬でしょうかね。一度に来ましたから全部を確認した訳じゃ無いですが。」
「正に神の模倣をやっちまった訳だな。…使えそうか?」
「…無理ですね。額に汗が吹き出てきましたからね。これを使えるのも一種の才能だと思いますよ。…剣士の才能を貰っている身でこれを持つのは無理です。…親方みたいに何も振られてない人の方がまだ可能性はありますが。…どうですか?」
「…正直なところ、傲慢に呑まれる未来しか見えんかった。そして嫉妬だな。これを手放すのか? この才能を使いたいんじゃないのか? と訴えてくる。俺も歳はいってるからよお。耐えることはできる。耐え続けるのは無理だろ。どう考えたって死ぬ未来しか見えんぞ。」
「しかも、死ぬにしても戦って死ぬというよりは体力の限界が来て死ぬって方が正しいでしょうね。これはまともに戦って死ぬことは出来ないですよ。勝ち続けた先に破滅が待っているって類のものですよ。」
「…しっかし、碌なもんじゃねえ物作っちまったな。こいつをどうする?」
「死蔵したいところですが、『エクステンドスペース』にしまえませんしね。碌でも無い人の手に渡るのだけは避けないといけません。」
「…だな。鋳つぶすのも無理だぞ? 才能がさせてくれねえ。あのハンマーがもう1回効力を持っても、鋳つぶす前に嫉妬に呑まれる。潰すな。使え。ってな。」
「本物の厄物になっちゃいましたねえ。…どうしましょうか。」
「…スライムが食うと思うか?」
「多分無理ですね。そんな代物じゃないと思いますよ。」
「だろうなあ。…とりあえず、お前に任せるぞ? 何とかしないといけないのは解るが、伝手がねえ。お前さんの方がまだあるだろ。」
「…ですかね。領主様に渡しましょうか。…封印を頼みに行く羽目になると思いますが。」
「宝物庫にでも大切に仕舞って貰っとけ。…負けられない戦いの時だけ使ってくれと言っとけば、まだ恰好はつくだろ。」
「ですかね。…これを大罪の教材にしちゃあ不味いですよね。」
「子供の教材には悪すぎる。暴れられたら収拾がつかなくなるぞ。やめとけやめとけ。」
「ですよね。…封印処分かあ。いい構想だと思ったんだけどなあ。」
「良いもんは出来ただろ。星10個を振られるんだ。悪いもんじゃねえ。…星10個に呑まれない奴が居ればだがな。」
「碌に使えないですね。戦争でも味方を切りそうです。」
「安全なところに死蔵してもらえ。それが一番いいだろ。王国の危機の時だけ使ってくれりゃあ良いって感じだなあ。」
まったく、なんてものが出来上がったんだ。…僕の中ではこれは禁忌指定確定です。処分方法が思いつかないので困ったものですね。『エクステンドスペース』に死蔵できれば良かったんだけど。…割とお手軽に疑似聖銀が出来てしまうんだよねえ。どうしたもんか。
しかし、カール=ヴィレックさんの言っていたことが真実だとはなあ。星10個は次元が違う。この言葉は真実だ。剣士の才能を星の川込みの才能を軽々と越えていきましたからね。この剣を持った時の万能感、全能感。あれはやばかった。
この剣を使いこなす者がいたとするならば、すでに大罪にどっぷりと浸かっている者か、大罪に呑まれない才能の持ち主か。…それが勇者なのかもしれないが。教会の聖剣と何が違うのかなあ。聖剣についても色々と聞きたいなあ。教会の秘密っぽいんだよねえ。
さてと、代官屋敷に行くかあ。…一応直ぐに会えた時用にこの産廃を持っていきましょうね。…産廃よりもたちが悪いもんなんだよねえ。毒なんてレベルじゃない。まさしく魔剣だよ。大罪の悪魔に呑まれる剣、魔剣。…こんなつもりじゃ無かったのに。
「すみません。領主様にお目通りをお願いしたいんですが。」
「少々お待ちください。」
…直ぐに会えるんだろうか? まあ日取りを確認に行ったというのが正しいのかな。さて、どうなるか。…早く手放したいんだよなあ。
「お会いになられるようです。こちらへどうぞ。」
おや? ラッキーだな。直ぐに会えることになるなんて。持ってきておいて良かったな。さっさと手放したいですね。…貰ってくれないと処分方法がちょっと雑になりますが、勘弁願いたい。扉をノックする。
「入れ。」
「…失礼します。」
「行っていいぞ。…んで、ヘルマン。久しぶりだが何の用だ? 献上品か?」
「献上品であれば良かったんですけど、封印処分のお願いに来ました。」
「封印? 普通に捨てればいいんじゃないのか?」
「…それが出来ないので封印をお願いしたく。」
「お前は一体何を作った? 錬金術で作ったもんだろう?」
「錬金術と鍛冶師と…教会も巻き込みましたかね。教会には詳しいことは言ってませんが。」
「あ? …繋がらねえな。鍛冶師はまあ解るが、教会? いったい何をした?」
「…星振りの鐘の事は何処までご存じですか?」
「…お前、教会の秘密に立ち入ったのか?」
「…片足突っ込んだ感じです。」
「はあ、つうと聖金を使ったんだな。金属であることには変わりはねえが、それで武器でも打ったか? 打てんだろ? あれはそう言うもんだったはずだ。」
「…いいえ、聖金をハンマーとして別の金属で武器を打ちました。」
「…それならまあ、出来なくもないか。しかしなんだな、聖金で鍛えたら特性が変わっちまったって感じか?」
「いえ、あー。打った金属の方が問題でして。…聖金の武器として思いつくものはありますか?」
「…⁉ おい! お前! いったい何処まで踏み込んだ!」
「…片足突っ込んだだけですよ。考察でどっぷりと浸かったかもしれませんが。」
「はー------。…お前さんが言いたいのは聖剣の事だろ? 何処まで知っている?」
「聖剣がどんなものかは完全に考察の中です。」
「吐き出せ。とりあえず聞いてやる。」
「…聖剣は純粋な金を剣の形に打ったものを聖職者が聖属性を付与した物。それを聖者聖女が才能を使って龍脈に接続して聖属性が途切れない様にしたものだと思っています。…使用者は勇者の才能を星10個を振られた者のみ。それ以外の者が持った場合は、反応しない、もしくは呑まれる物だと思っています。」
「殆ど当たってらあ…。一応言っておく。勇者以外には反応しない。それが正しい。それ以外は当たっている。…一体お前は何もんだ? 解っちまってる奴だから話すが、それは教会関係者でも一握りの者か貴族で古いとこだけだ。…解りやすく言やあ、聖者聖女と7公から比較的始めの方に別の貴族家に別れていった家系のもんしか知らねえ。ケビンも知らねえ。跡取りにしか教えん事になっとる。それ関係の書物も家には残っている。」
「ああ、反応しない方が正しいんですね。…ではやっぱり聖剣とは別物ですね。」
「…お前は一体何を作った?」
「僕は魔剣と名前を付けました。…大罪の悪魔に呑まれる剣、魔剣です。」
「…なんだそりゃ? 大罪に呑まれる? 何を言ってやがる。」
「僕が作った魔剣は、剣を持ったものに、剣士の才能に星10個を振られるという物です。…星の川の様に星11個振られるでは無く、星10個の才能を振られるんです。」
「…ん? 星が増えるんだろ? 何の問題がある?」
「いえ、10個振られるんじゃなくて、10個の才能を振られるんです。…まるで、過去の最初の存在のように。」
「…俺は戦う系の才能を持たんから知らんが、…カール=ヴィレックの話か? あれなら聞いたことがあるが。」
「そうです。星9つ以下にどれだけ星を足そうと星10個には届かないんです。」
「強くなるのとは違うのか?」
「強くはなります。…次元が違う強さが手に入ります。…その代償として大罪に呑まれるんです。」
「…次元が違う強さを手に入れられるが、大罪に呑まれるねえ。大罪は教会が知らしめているように悪いもんだ。それに呑まれる剣というのは確かに使えるのか解らんな。」
「…多分、認識が異なっていますが、剣士の才能の星10個を振られるんですよ。…誰にでも。」
「…? っはあ⁉ つうとその剣は誰にでも使えるってのか⁉」
「その通りです。持ってもらえれば解ります。…大人なら持っただけでは呑まれる前に離せると思いますので。」
「持ってこい! ―――すぅ、持つぞ。…---…---…っは、っは、っは。な、なんだこれは?」
「それが魔剣の能力です。剣士の才能の星10個を振られる代わりに大罪に呑まれるんです。」
「…なんとなくだが解った。俺も剣を振れる事が解った。…なんだこれは。こんなものが存在していいのか?」
「いえ、多分かなり不味いと思われます。なので封印処分をお願いしたいんです。」
「お前は神の一端に触れるもんを作っちまったわけだな。…封印処分か。それも仕方ねえか。」
「はい。使うときは王都が攻められてどうにもならない時以外は使わない方が良いと思います。」
「…ったく。とんだ厄介物を持ってきてくれたな。脂汗が止まらねえ。だが世に出さないと考えたのは正解だ。こんなもんは存在しちゃいけねえ。…俺とお前、後知ってる奴は誰だ?」
「鍛冶屋の親方だけです。…親方も世に出さない方がいいと言っていました。」
「そうか。それは何よりだ。…呑まれそうになったのも久しいが、そんな生易しいもんじゃねえな。」
「ええ。…この製法は墓場まで持っていく予定です。」
「錬金術師の秘密主義には言いたいこともあったが、これは駄目だな。公開していいもんじゃねえ。…これのせいで戦争になるぞ。」
「ですよね。…でもこれを作る過程で公開したいものも出来てしまったんですよ。」
「…過程だけなんだったら問題ないんじゃないか? 製法まで遠いんだろ?」
「その不思議金属を作る材料ですね。そこからの製法は錬金術師だけではどうにもならないですが。」
「…問題ないだろ。錬金術師、鍛冶師、聖者聖女が揃わないといけないもんなんだろ? 材料まではいいような気はするがな。他のもんにも使えるんだろうしな。」
「そうですか。…そっちも時期を選んで公開しますかね。」
「まあ、その辺は好きにすればいいだろ。…この剣は家の宝物庫の一番奥に入れておく。心配するな。」
「すみません、厄介物を押し付けて。」
「まったくだ。…やめろとは言わんが、今後はもう少し大人しいものを作れ。」
「ええ、いい趣味になる物を作りたいですね。」
「そうしてくれ。…用件はこれだけか?」
「はい、これだけです。」
「解った、出て行っていいぞ。」
「ありがとうございました。」
厄介払いをしてもらってありがとうございます。しかし、難物を作ってしまったなあ。まあ忘れましょう。あんなものを作るのは僕位だと割り切りましょう。神の一端に触れた? 転生者の時点で神様の関係ですよ。
僕は知ーらない。魔剣なんて無かった。別の何かを考えましょう。…カメラ。これがいい。写真機を作りましょうね。そうそう、そう言うのを作りたかったんですよ。厄物なんて忘れました。さてさて、どうやって作ろうかな。…まずは製造機を脱出しないといけないんですが。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人作家の私も文章に反映できると思います。
…多分。




