150話 24歳 お腹の大きいエイミー、冒険者ギルドで駄弁る
残暑厳しい10月の上旬。僕の今年のレイドは終わりました。どうも、ヘルマンです。今年の夏は暑かった。…いやまだ暑いんですが。今年は気候がおかしいんじゃない? まあ、家は空調の結界を張っておりますので関係ないんですが。
季節があるのはなんでなんでしょうかねえ。この世界は前世の僕の世界と何処まで類似しているんでしょうかね。僕の精霊学では説明がつかないんですよねえ。魔力の存在は季節と関係なさそうなんだよねえ。…龍脈でも走っているんだろうか。…霊地や魔境がある以上、無いとは言えないんだよねえ。
子供たちは元気に遊びまわっておりますよ。基本は室内で遊ばせています。主に積み石ですね。玩具がそれくらいしかないんだけど。打楽器も作ったが、まあ、積み石の方が人気です。力作なんだけどなあ、タンバリン。
その積み石をどんどんと積んでいく子供たち。時には他の子から積み石を奪い、自分のものにしていく。そして、沢山あるのに喧嘩になり、片方が泣く。…いつもの事なんですよ。子供だから仕方ないんだけどね。人の物の方が欲しくなる症候群だよ。
泣いている子供が出始めるとシャウトが逃げる。寝かせろよ。ゆっくりさせろよとでも言いたげに去っていく。慰めるのはデュークの仕事。デュークが寄り添ってあげて涙で濡れる羽目になる。…ルクスも通った道だから。我慢してね。
1人がデュークと遊んでいると、皆がデュークに集まってくる。…もみくちゃにされますね。そこまで来るとデュークも逃げる。…今まで積んだ石を破壊しながら。そうすると、子供が泣く。自分の城が破壊されて泣く。…大体ここまでが黄金パターン。
その後はエイミーたちが子供たちを慰めながら、そのままお昼寝に移行。泣き疲れて寝る。寝れば楽ちんだから、エイミーたちも泣くのを放置することが多いらしい。割と残酷である。まあ、ちゃんとした子供に育ってくれればいいんだが。
そして、逃げ出したシャウトだが、お腹が空いていれば僕の所に来て集る。昼寝がしたければ畑の精霊樹の木陰に入って寝ている。本当にシャウトは自由である。扉も鍵も掛けてない押戸だからさあ、出るのも入るのも簡単なんだよ。鍵を掛けても器用に開けて出ていくので、大抵は鍵は閉めてない。
で今日は、お腹が空いていたらしい。僕の所に集りに来ている。…もうちょっと待ってね。今才能を使っている最中だから。穴掘りの様に掘り進めてる最中だから。解ってるよと言いたげに椅子の上で丸まって待つシャウト。賢い猫だよ。
…ふう、魔水作りも疲れますねえ。分離は後でいいでしょうね。お待たせしましたねー、シャウト。焼いたオーク肉ですよ。たーんとお食べ。大人しく待っていてくれるのは有り難いですよね。…もしかしたら魔力の流れのせいで近寄りたくないだけかもしれませんが。
星の川製造機もまだまだ続けておきますよ。…この魔水は魔剣用に使う予定ですが。無色の魔力は星の川にしちゃいましょうね。欲しいのは属性魔水。6属性を保存瓶1つ分使う予定です。…ブロードソードを作る予定ですが6瓶出来ちゃうと思うんですよね。まあしょうがないね。
ブロードソードには2瓶あれば十分です。しかし、構想通りの物が出来れば鞘を作って貰わないといけませんね。…鞘なんて作ったことがある鍛冶師の方が少ないんじゃ無いかなあ。儀礼剣くらいだろ? 鞘があるのは。実用の剣は普通『エクステンドスペース』にしまえばいいんだもんね。
他にもやりたいことはあるんだがなあ。時間が取れない訳ですよ。ほんと、錬金術師が増えてくれないだろうか。毎年300も作るのは大変なんだよね。素材は沢山あるから殆ど毎日作ってるしね。自分のせいだからなあ。
「貴方ー。シャウト来てるー?」
「来てるよー。」
「ニャーン。」
「まったくもう。面倒くさそうになったら直ぐに逃げるんだから。」
「シャウトは子守が嫌いか。…それよりもエイミーはそんなに動いて大丈夫?」
「貴方ってば、もう何人産んだと思ってるのよ。このくらい全然余裕よ。」
「いやー、今まで見ていなかったから思わなかったけど、見ていると心配でさあ。」
「心配し過ぎよ。…もうちょっとだとは思うけどね。」
「もうちょっとかあ。今度は男の子かな? 女の子かな?」
「さあ? この感覚は男の子の様な気がするけどね。元気だし。」
「そう? まあ、元気に産まれてきてくれたらそれでいいけどね。」
「シャウトはご飯を食べたら連れて行くわね。子供たちも寝たし。」
「わかった。それにしても毎日大変そうだけど、大丈夫?」
「貴方ほどじゃ無いわよ。泣いてくれれば寝るから楽なもんよ? それよりシャウト、早く食べちゃって。」
「ニャー。」
「ゆっくり食べていると終わらなくても連れてくわよ。」
「ニャーニャー。」
「まあまあ、エイミーもゆっくりしていきなよ。時間が押してる訳でも無いんでしょ。」
「まあそうだけれどね。」
そんな訳で、エイミーとゆっくりとお喋りを楽しんで、シャウトと一緒に部屋に戻って行った。…お腹が大きいのに動いていると心配になってくるんだよ。歩いた方がいいらしいんだけど、こけたらと思うとさあ。
さて、才能を使ってしまったから何にも出来ない時間ですよ。…ギルドにでも行ってくるか? ちょっと今日は遅くからの作業になったからなあ。まあいいか、行ってみるかあ。
「レベッカ、ちょっとギルドへ行ってくるよ。…レベッカもお腹大きいんだから無理しないでよ?」
「承知しておりますよ、旦那様。行ってらっしゃいませ。」
レベッカもお腹が大きいんだよねえ。お腹が大きい人は休んで欲しいんだけど、慣れすぎるのも考えものだなあ。まあ、ギルドに行きましょうか。…どのギルドかは決めて無いんだよねえ。行ってから考えよう。
それにしても今年は暑いなあ。もう10月よ? ミズチもスティナラニアも出なくなったのに暑いのなんの。ひんやり帽子が気持ちいいですよ。こんな時にギルドに行こうとする僕も何だとは思うけどね。家の方が涼しいんだから。
そんな訳でやってきました冒険者ギルド。…いやまあ、何処でも良かったんだけどさ。なんとなく冒険者ギルドにやってきました。掲示板は凄い数のレイド票の存在が。…何枚あるんだろう。数えるのも嫌になるな。
一角だけ皮紙の数が少ない。…多分ここが広場の冒険者の依頼群だな。相変わらずネズミ狩りは残っていると。まあ、何人受けようがいい依頼だし、張り直すんだろうけど。…底辺冒険者の人たちもこれを機会に文字を覚えればいいのに。
「ん? おう、ヘルマンさんか。もうスティナラニアの体は残ってないぞ。もう全部売っちまったからな。捨てた分もあるが、回収に行ってももう遅いと思うぞ。」
「ああ、いえ。ただ駄弁りに来ただけです。死体の確保はすでに終わっていますから。」
「そうか、それならいいんだ。んで、ヘルマンさんは暇なのか? 錬金術師は何処も忙しいんじゃないのか?」
「忙しいですよ。ただ、時間で解決できないものなんですよ。時間がかかるだけならいいんですが、才能を使って何とかしないといけないので、1日の回数制限があるんですよ。なので昼間は暇ですね。他の錬金術も余り出来ないですし。」
「そうなのか。錬金術師もまた面倒なもんだな。」
「ええ、まあ面倒なんですよ。…自分で蒔いた種なのでしょうがないですが。」
「だよな、お前さんが原因だからな。うちへのポーションの納品義務も量を増やすかもって話になってんぞ。」
「げ、また増えるんですか。今度は400ですかね?」
「そんくらいで足りるのかだな。因みに今は全然足りてねえ。常飲する奴もいんだぞ。足りるわきゃねえ。錬金術ギルドに詰めてる奴らには上級ポーションを大量に作って貰ってるからな。」
「でも、夏場だけでしょ? そんなに出ます?」
「誰かさんのせいで手が出る様になっちまったからな。初級ポーションの代わりに飲むやつまでいるんだ。注意してっけどな。切れる可能性があんだぞってな。」
「…また僕のせいですか。まあ、ノルマくらいは面倒見ましょうかね。」
「そうしてくれや。言っても1000もいかんだろ。」
「流石にそこまでにはならないでしょ。…面倒だなあ。薬師の才能でどうにかならんのですかね?」
「薬師か。初級ポーション位なら作れるって話だぞ。俺も薬師じゃねえから詳しくは知らねえがよ。やろうと思えば出来んじゃないか? 急には無理だろうが。」
「やろうと思えば学校なんかが必要でしょうね。諦めるしかなさそうですね。」
「錬金術師を増やすしかねえだろ。伝手でもねえのか? 呼んでくりゃあいいだろう?」
「生憎と研究職の人位しか知りませんね。今の学生の事は分かりません。」
「ままならんなあ、錬金術師も。冒険者ギルドももうちょっと人が欲しいんだがな。」
「解体要員ですか?」
「おう。冬場もみっちりとやらねえと終わらねえ。寒い中やんのは堪えるんだよ。もうちょっと解体に利く才能があればいいんだがな。」
「解体の才能と肉の才能位ですか。剣士の才能も一応解体できますけど。」
「剣士は魔境に潜んだろ。こっちには来ねえよ。後は解剖の才能に右手の才能だろ? 左手の才能に腑分けの才能位か?」
「あー、右手の才能や左手の才能は解体にも利くんですか。」
「おお、片手しか使えねえけどな。両手を使おうとすると、てんで駄目なんだと。」
「戦える才能かと思ってたんですがねえ。」
「戦うのはどうやら無理らしいぞ。ゴブリンとやってみたが手ごたえがまるでなかったみたいだしよ。」
「不思議ですねえ。戦う才能でもあると思ってました。」
「だが大抵の事には才能が働くらしいぞ? 戦う系は無理だったらしいが。」
「範囲が微妙でまた使いにくそうな才能ですね。貰ってないので知りませんが。」
「俺も詳しくはねえよ? 家に居るから知ってるだけでよ。」
「何年か前に出てましたよね? 広場で聞いていたので覚えてますね。」
「そうか。…2,3年くらい前だったか? そんくらいに入ってきたやつだからよ。見習いで頑張ってんぞ。まだ13歳じゃ無いからな。」
「ギルド職員の見習いが取れるのって13歳になってからですか?」
「おう。大抵はな。後は入るのが遅かった奴が見習いだな。3年は見習いだ。12歳までは強制で見習いだがな。」
「そうなんですね。成る程。」
「お? 子供が誰かギルドに入んのか?」
「ええ、来年にテイマーギルドを予定してます。才能が振られてからですが。」
「才能が振られてから心配しやがれ。祈ってても欲しいのと違うやつに振られんのもいんだろ?」
「まともに祈ってたら殆ど大丈夫だとは思いますがね。」
「だがいいねえ。子供が旅立つってのは。家のもどうしてっか知らねえがな。」
「追えませんもんね。家の長男も元気でやっていればいいんですが。」
「子供は離れたらそれで終いよ。そこからは子供の人生だ。親がやれるこたあ無事を祈るくらいだ。出来るこたあねえ。」
「ですよねー。」
「そんで、お前さんの子供はテイマーに成りたいって訳なんだな。テイマーギルドも最近は忙しいみたいだからよ。就職先にはいいじゃねえか。」
「まあ、暇じゃなさそうですよね。…僕のせいですが。」
「何でえ、お前さんが噛んでんのか。そんじゃあかなり忙しいんだな。」
「みたいですよ。何処の魔境の町も活性化してきているので。ゴミの処理の問題で副支部ができるって話ですし。」
「ビッグスライムを管理してっからなあ。1体はヒュージスライムもいたか?」
「1体かは知りませんがいますね。ヒュージスライム。」
「魔境からのゴミが大量だからな。此処だけじゃなく、他も忙しくなんのか。…いい冒険者が入ってくるのがばらけそうだな。」
「それはしょうがないでしょ。此処ばっかに集まられても困りますし。」
「まあそこはギルド職員だからよ。いい奴に入って来て欲しいじゃねえか。広場の奴らが増えても意味ねえんだからよ。」
「そこは同意しますね。」
「つっても最近は新しく広場に行くやつも少なくなってきたしよ。いいこった。…一定数は必ずいるんだよなあ。あいつらも依頼票が隅に追いやられてな。朝はもっと競争が激しくなったがな。」
「ケルピーのレイドの票ばかりですもんねえ。成果はどんな感じですか?」
「今は何処も300って所か。ウルフ系はもっとだがな。」
「それはレイドの特性上仕方ないんですよねえ。どうしても、ラグーンウルフに捕捉される人が出てきますから。」
「おかげで解体がめんどくせえ。肉にしなくていい分、オークよりは楽だがな。あの液も錬金術師が作ってんだろ? 浸ける奴だ。」
「ああ、皮紙用液ですか。ギルドで大量に作ってるんじゃ無いですかね? 僕らまでは回ってきませんし、1度に大量に作れますからね。」
「まあ、大量にあっても場所がいるんだがよ。冒険者ギルドの地下には皮紙が大量に浸けてあんぞ。見たことねえだろうがよ。」
「冒険者ギルドに地下なんてあったんですね。知りませんでした。」
「まあ職員以外入らんからな。」
そんな訳で、駄弁ってました。そろそろ帰るかあ。そして魔水の作成だなあ。全属性揃えないとなあ。魔剣を作らないといけませんからね。とりあえず合間に作りますよ。さてさて、魔剣もどうなるんでしょうかね。思い通りになるのかはさてさてと言ったところですが。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人作家の私も文章に反映できると思います。
…多分。




