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14話 7歳 カウツ町にやってきた、ヘルマン冒険者になる

サブタイトルが話数なのでどこにどんな話があったか分かりにくいと思いますが、ご容赦ください。

作者がサブタイトルを付けるのが苦手なので。

一応長編に挑戦中ということで、少しでも分かりやすいように章だててみます。

余計にわかりにくくなった等不評なら消すかもしれませんが。


誤字報告ありがとうございます。

 春、白一色の畑から土色が見えてき始めた頃。どうも、ヘルマンです。今日はとうとう僕の旅立ちの日、朝ご飯を食べたらジュディノアに寄ってカウツ町に行く予定です。徒歩で。丁度いい乗合馬車が来なかったから予定よりも少し遅くなってしまったんだけど、まあ、予定通りいくことの方が珍しいもんね。朝ご飯を食べ終えたらいざ出発、…家族の見送りが温けえ。今生の別れだもんな、恐らく。


「行ってまいります。」


「気を付けてね。」


「無理するんじゃないぞ。」


「はい。頑張ってきます。」


 簡単な挨拶を交わし、ジュディノアにやってきた。まあ、ここはいつも通りだよな。


「ごめんください。」


「ちょっと待っとくれ!」


 いつも通りの返事に安心しながら定位置で待つ。この場所も座り納めかな。暫くするとジュディさんが顔を出した。


「坊やの顔も、今日が見納めかねえ。」


「あの、縁起でもない事言わないでください。」


 開幕死にそうなんですが⁉ けらけらと笑うジュディさん。湿っぽいのも嫌だから有り難いけどね。そうやって笑ってくれるのも。


「まあ、今生の別れって意味では同じだろうよ。…しかし、もしかしたら坊やとはもう一度くらい会う可能性があるんだよねえ。」


「? どういうことです?」


「まあ、会えないとは思うんだけど、上手いこと事が進まなければまた会うかもしれないって程度だからね。気にしない事さ。」


「上手いこと事が進まなければなんですか?」


「ああそうさ。進んだら会えないだろうねえ。今のところ上手くいきそうなんだよ。だから今生の別れってやつさね。…坊やが行商人やるってんなら違うんだろうけど、そうじゃなさそうだって言ってたからね。」


「そうですね。できればお店を持ちたいです。」


「なら仕方ないよ。そう言うことも沢山あるからね。」


「そうですか。じゃあ、今までありがとうございました。」


「達者でね。いい錬金術師になれるように。」


 こうしてジュディノアを後にした。後はこの広い街道を町まで歩いていくだけだ。順調に歩いて行けば夕暮れまでには町に着くはずだ。


 街道を歩いて進む。今思うと、初めて村を出たんだなあ。なんか感慨深い。でもこの辺はだだっ広い草原なんだよな。こんなところには魔物なんていないし、ましてや盗賊なんてものはいない。昔は盗賊という稼業が成り立っていたんだけど、『エクステンドスペース』が普及してしまってからは、盗賊は悪い冒険者となってしまったわけだ。行商人を襲っても食べ物一つ手に入りはしない。そんな訳で、この国には盗賊なんて職業は無くなってしまったわけだ。


 襲ったところでボロボロの人間が『エクステンドスペース』を使えるかといえば無理なんだ。平時は簡単に使っているけど、異常時には発動させるのは難しい。『エクステンドスペース』ってそう言う技術。だから盗賊なんてものも居なくなってしまった。


 ただ、アサシン系統の仕事は無くなっていないどころか、ままあるみたいなんだよね。まあ、殆どが貴族様方のところでなんだけど。庶民は暗殺稼業の人には用は無い訳ですよ。お家騒動から結婚騒動となにかと暗殺と縁があるんだって。ジュディさんからの受け売りだけど。


 魔物もねえ、殆どが魔境に住んでいて、多少魔境からはぐれたものが、林や森なんかに住み着くことはあっても、草原なんかにはいない。いても冒険者が直ぐ金に換えるからね。特に喰い詰め冒険者さんたちが張り切って討伐する。彼らの採取する雑魚素材よりも、魔物の討伐報酬の方が余程いい金になる。


 …なのに、魔境じゃなくて霊地を選ぶおバカな冒険者の多いこと。文字の読み書きを最低限獲得しないと食っていけない霊地よりも、戦闘系の才能があれば魔境の方が絶対に実入りがいい。文字の読み書き関係ないもんね、討伐系統は。まあ、それでも上に行こうと思えば、実入りを良くしようと思えば文字の読み書きは必須なんだけどね。


 例えば、オークがいたとしよう。普段であれば中銀貨5枚程度で買い取って貰える。しかし、依頼でオークの買取強化、大銀貨1枚となっていたとしよう。この場合、依頼票なしにオークを持っていくと、中銀貨5枚の買取になる。そうなるとギルドは美味しい思いをするだけ。冒険者は買取の強化のことなんて知らずに損をする。そう言うことになる。だから、儲けようと、稼ごうとするなら文字の読み書きはできるに越したことはない。


 後は貴族として叙勲する場合だな。騎士爵、魔導爵なんかだな。叙勲に最低限必要なのが文字の読み書きである。流石に貴族が文字を読めない、書けないでは話にならない。…まあ、脳筋族には叙勲なんぞ考えている奴の方が珍しいかもしれないが。


 何はともあれ、文字の読み書き一つで冒険者としての、延いては人間としての生活水準が一段階上に上がるんだ。なのに努力しない冒険者の多いこと。何とかしようとギルドもしているんだろうが、何ともならないんだよなあ。バカは死んでも治らないのだ。


 そんな訳で、子供一人で武器無し身一つで街道を歩けるものって訳ですよ。波乱なんてないない。というか要らない。必要ない。今日中にカウツ町まで順当に行けばいいだけの話なんだ。…だが、草原の中をただひたすら歩くってのも、暇なんだよなあ。すでに走っているんだが、走るのも退屈になってきた。


 だって景色が変わらないんだもの。ひたすら直線なんだもの。昔の錬金術師が村と村の道を敷いたって言ってたんだ、ジュディさんが。その時にちゃんと測量して、まっすぐに道を敷いたんだと。何ともまあ規模の大きい話なことだ。そのおかげで最短距離で次の町へ行けるんだから。でも、この代わり映えしない景色は何ともならんのですかねえ。こんなに平地があるのに村も何もないのは才能の所為って感じかな。後は魔境や霊地が無いってのも、村や町が作られないポイントだわなあ。


 村にするには適度なとこに林が欲しいもんだ。燃料がねえんだもんよ。幾らゴミからスライムが燃料作るったって限度がありますよ。初めの内は、林なんかで木を切って薪にしないといかんだろうし、キノコや山菜だって生えやしねえ。村づくりも気の長い話になるってもんだ。それに冒険者の存在が人口が増えない要因なんだろうな。冒険者ってマジで早死にだからなあ。村で火事が2回あったろう? それで何人も焼け死んでるのに、村に来る冒険者の数が減らないんだから。言い方は悪いけど、何処から湧いてくるんだってくらいには冒険者は掃いて捨てるほどいる。まともな冒険者は100人に1人位いればいい方だ。


 それはさておき、暇つぶし…そうだな、もう少し冒険者の話でもしておこうか。冒険者は魔境での討伐や霊地での採取が主な仕事かといえば、別にそんなことはない。町中のお使いなんかもやる、所謂何でも屋なわけだ。というか殆どの冒険者は討伐や採取で食っていけない。討伐には才能と初期資金が、採取には文字の読み書きが必要になってくる。そんな冒険者でも役に立つ仕事がある。面倒な仕事や、単純労働、力仕事に汚れ仕事。『エクステンドスペース』があったとしても、普通の人がやりたくもない仕事を個人や町から報酬を貰ってやるのが冒険者の主な収入源だったりする。


 それである程度稼げる奴らは、大部屋宿で冬を越せる冒険者だ。霊地に止まり続けて凍死と隣り合わせの奴らより幾分かマシだ。…言っていて悲しくなるが、要は人より辛い仕事をやればやるほど儲かるのが、冒険者って仕事なわけだよ。文字の読み書きがそれよりも辛いことなのかは置いておくとしてだ。一定数いてくれないと町が回らなかったりするわけで、必要最低限は欲しいが、余剰はたっぷりなのが冒険者。まあ、あまりいい仕事じゃあないよ。誰でもできるだけはある。


 そんな冒険者のヒーロー的存在が、魔境に潜る冒険者だ。彼らは命を懸けて魔物と戦い、肉や素材を獲得する。それを冒険者ギルドが買取り、解体して肉は肉屋に素材は錬金術ギルドに卸す。そして肉は市中に、素材は錬金術師や魔法使い、魔術師ギルドなんかに売れていく。正に誰も損をしない完璧なサイクルだ。誰もが始めはそんな冒険者に憧れて冒険者になる。例外は魔境のことを知らない冒険者だ。そして例外は思った以上に沢山いる。…そして魔境を知っている冒険者も、己の限界を知って、現実に打ちのめされ、町の小間使いに帰っていく。才能があれば魔境でも成功する。無ければ努力して、霊地の採取者になれば食っていける。それ以外は悲惨だ。


 …一応、年中小間使いだけでも一生懸命にやれば、大部屋じゃなくて、個室を複数人で使うくらいの余裕は出るんだ。町の維持に最低限のお金しか払わない訳じゃない。力仕事だってある程度の給金は出る。汚れ仕事に至っては他の仕事よりも割が良かったりする。じゃあなんで大部屋なのかといえば、冒険者が勤勉でないからだ。1度仕事をしたら2,3日休むのが冒険者なんだ。毎日働けば、それほど苦労せずに食っていけるってのに、何故働かないのか。


 それは、魔境に潜っている冒険者と同じサイクルで仕事をしているからだ。魔境に入る冒険者は儲かる。が、神経を使う。常に警戒し、命のやり取りをするのだ。その分稼ぎはいいが、毎日潜れるほどの体力と精神力がある冒険者は、そこまで多くない。それこそ才能が物を言ってくる。エドヴィン兄クラスの才能があれば毎日潜っていても苦にならないのだろうが、大抵の冒険者は、星1つか2つだ。それだと雑魚と呼ばれるクラスの魔物には楽に勝てても、稼げるクラスの魔物相手だと神経をとがらせて戦わないといけないのだ。だから、1日戦えば休息に2,3日使うのだ。万全の状態で戦うために。


 後は戦い方って言うか、我流なのが足を引っ張ってるんだろうな。何処かの流派なんかがあるのか知らんけど、冒険者の多くは戦い方を現地で学んでいっているから無駄が多いんだろう。その点、平民落ちした貴族なんかは、しっかりとした剣術ってのを習ったりしている場合が多くて、星が少なくても何とでもなるって言ってたっけ。貴族に産まれると才能や環境関係なく7歳から6年間貴族学校に放り込まれる。そこで社交をするなり、冒険者への道筋を付けるために努力したり、錬金術師や魔法使いの学校に入る準備をしたりと様々なんだって。…この時に初めてジュディさんが平民落ちした貴族だって教えて貰ったっけ。家を継がない男や、結婚しない女は積極的に家から出されるらしい。まあ、跡取り以外要らんし、仕方ないのかもしれないが。


 まあ、どういうことかと言うと、成功している冒険者の多くが、平民落ちした貴族だということだ。そんなことを笠に着ることはしないが、錬金術師や魔法使いにも元貴族は多いみたい。何とも面倒くさい世界に足を踏み入れようとしているんだな、僕は。家を追い出す予定といえども、教育にお金をかけるのが貴族ってもんらしい。あいつは家を出たから知らんとはならずに、悪行は他の貴族に突かれる点にしかならないらしい。だからジュディさんも家の評判は気にするんだとさ。追い出されてんのにね。


 なら平民の冒険者はどうなのかと言われれば、殆どが7歳から冒険者になり、文字の読み書きも覚えずに魔境や霊地に行き、身の程を知って支度金を使い切る。後は町で冒険者業に勤しむもの。霊地で素材を採取するもの。怠惰に呑まれてそのまま亡くなるもの。様々であるが、殆どの冒険者が最底辺から抜け出せずにそのまま終わってしまう。ほんとうに世知辛い。


 じゃあ僕はどうなるのか。と言われればまずは7歳からでも登録できる冒険者になるわけだ。そして、様々な霊地を回って素材を回収する。ここで魔境に一度は行っても良いのかもしれないが、錬金学術院には戦闘訓練をつけてくれる派閥があるらしい。鉄迎派と言って、錬金術師たるもの自分で素材を採ってこなくてはどうするのか、という教義に則り、魔境で通用する訓練を行うらしい。ここに元貴族は少ないとのことだ。殆どの平民が少しは鉄迎派のお世話になるらしい。苦学生をするには魔境にも行かないといけないらしいからね。だからそこで訓練をしてからでもいいかなって思っている。


 …ただ、冒険者の義務的には武器は持ってないといけないんだよなあ。冒険者の義務は基本的には普通のことだ。人を殺めてはいけませんとか、人のものを盗んではいけませんとか、人の物を壊してはいけませんとか。はっきり言ってそんなことまで言わなあかんかという決まりが殆どなんだとか。ただし、魔物を街道で見つければ討伐義務が発生する。これを見逃すと、冒険者証が黒ずんでいく。逃がすのは大丈夫らしいが、逃げるのはダメらしい。一番初めは、乳白色らしかった。ジュディさんのも乳白色だったし。どんな魔道具なんだよって感じだよな。


 だから、冒険者登録をする際に必ず、武器を所持していることが義務なのだ。…親からの支度金はまず、この武器に使われる。武器に使い切るのは只のアホだ。食事のことも宿のことも考えていない馬鹿野郎だ。だから僕も次の町で武器を手に入れる必要がある。…この時どんな武器を手に入れるのかが問題だ。


 一番安上がりなのは魔鉄武器だ。魔物の体の中には必ず魔鉄と呼ばれる魔石と鉄が合わさった物が入っているらしい。これが一番手に入りやすく、一番安い。…この魔鉄を製鉄して鉄の剣にした方が強度が上なのだ。なので普通の鉄の剣の方が高価なのだ。ただし、製鉄した鉄と錬金術師が作った魔石を合わせて作った合金の魔鉄製の武器はもっと高い。魔物の中の魔鉄は本当に最低品質の魔鉄なんだと。高品質の魔鉄をちゃんと作れる錬金術師にならないとね。


 そんな訳で、武器に関しては張り切って設えるのは錬金術師になってからでいい。今はとりあえず、街道で自衛ができるような武器があればいい。…でも、お金もあるし、最低限の魔鉄武器っていうのもなんだかなあ。って思っているので、普通に鉄の剣を買う予定だ。ただし、重心とか体に合うかとかは、考えて選ばないといけない。幸いなことに剣士の才能を貰っているから、そこらへんは才能任せでいいと思う。どうせ数打ち品なんだし、オーダーメイド品のようには行かないからね。


 後は盾を買うかどうかなんだが、これに関しては剣を選んでからでないと解らないからね。両手剣なんてものが今の体に合う訳がないが、片手武器を両手で扱う可能性は十分にあり得る。まだ体ができていないお年頃ですからね。身体強化自体はできるんだけどさ、さすがに無理っしょ両手剣は。因みに今は7歳で145㎝くらい。12歳で180㎝くらいにはなりそうなんだよね。父さんもそれくらいだったし、シャルロ兄も11歳で170㎝を超えていたんだよね。ほんとこの世界の人間って早熟。


 まあ、そんなところで、時刻は昼を回って少ししたくらい。漸くカウツ町に到着した。歩いていたら夕方ごろだったろうが、走ったからね。…どれ位走ったんだろう。ざっと5,6時間は走ったんじゃない? まあ、マラソンよりも遅いくらいでしか走れないけど。


 さて、まずは武器屋を探さないといけないんだよな。…町の門にいる見張りの人に聞けば良さそうかな。2人立ってるのは恐らくそういう人たちでしょ? この町の代官かが雇っている兵士って感じだろう。…村から行く人も兵士になれないのかな。町出身じゃないといけないとかの決まりがありそうだけどさ。


「お、この時期となると冒険者志望かな。身分証はまだないよね。名前と村の場所を教えてくれるかな。」


「ヘルマンです。錬金術師志望ですが、冒険者にもなります。村はここから歩いて1日のところです。僕は走って来たので、少し早く着いたと思いますが。」


「ははは、元気で何より。ここから1日だとダーリング村だね。…証言に嘘はなし。ようこそカウツ町へ。」


「ありがとうございます。それと武器屋を教えて欲しいです。武器を買いたいので。」


「冒険者になるんだったら武器は必要だもんな。町の南西部に自由市があるんだ。そこになら数打ち品が安く手に入ると思うよ。」


「南西部ですね。早速行ってみます。後、冒険者ギルドは何処ですか?」


「冒険者ギルドは町の真ん中、冒険者広場の所にあるよ。剣と盾の看板だ。」


「ありがとうございます。では行ってきます。」


「気を付けてな。」


 ここは北門だから、南西部までは少しばかり距離があるな。まあ、ゆっくりと町を見てみながら歩いて行きましょうかね。…ざっと30分くらい歩いて町の真ん中らしき場所に着いた。冒険者広場って言ってたっけ。村の教会前広場よりも広いが、やってることは一緒だな。冒険者が泊まるテントが沢山ある。んで、冒険者ギルドが、あそこっと。教会も真ん中にあるんだな。井戸も真ん中。本当、村の教会前広場を広くしただけって感じだな。…火事も似たような頻度であるんだろうか。あるんだろうなあ。しかし、ここまで歩いてきたけど、村と大差ない。土と石の家だし、道も土だし。規模の大きい村って感じだ。でも村には自由市なんてものは無かったが。さっさと行ってみましょうね。


 ということでやってきました自由市。真ん中から南西部にかけてが市場らしい。…一応奥には住宅や、工房なんかもあるらしく、南西部全部が市場って訳じゃないみたいだけど。早速剣を扱っているお店を探すぞー。広いから何処を通ったかも忘れそうだね。一応1つの方向に向かって歩いているけど、左右にお店が並んでいる。簡単に言ってしまえば屋台市って感じだな。場所は決められているが、店は決められてないって感じで。多分、何処が食料品でみたいな棲み分けもあるんだろう。鍛冶場区分の場所を見つけないと。…声をかけた方が早いか。


「すみません。剣なんかを扱っているところは何処ですか?」


「剣? それならあっちの方だよ。鍛冶場の連中が出しているのはあっちの方だからね。」


「ありがとうございます。行ってみます。」


 やっぱり地元民に聞き込みだね。棲み分けがあるみたいだ。指で指された方向に向かいながらきょろきょろと武器を探す。…『エクステンドスペース』が使えてしまえば悪さができるんだろうけど、そんなことをしたら、直ぐに冒険者証が真っ黒になってお縄になると。防犯も兼ねているんだろうね、冒険者証は。5分も歩けば直ぐに分かった。ここが鍛冶場のスペースだ。調理器具から色々な鉄製品を置いてある。


 まあ殆ど魔鉄製品だけど、武器はーっとこの辺からかな。どんな武器がいいだろうか。扱いが簡単そうなブロードソードがいいかな。それとももっと幅広にするべきか。逆にレイピアぐらい細くてもいいな。…レイピアにしようかな。長さは長すぎない方が使いやすそうなんだけど、標準が7,80㎝程っぽいんだよなあ。んー、このブロードソードだとちょいと重いか、やっぱりレイピアだな、重さ的に。鉄製の手に馴染む様な物があればいいんだが。最悪、レイピアをツーハンドで使おう。まだ体に比べて長い。『エクステンドスペース』があるから鞘が要らないのはいいよね。…全部鞘付きで売ってるけどさ。場所に因っては帯剣したままだろうし、そこはね。お、マンゴーシュだ。レイピアを片手で使うなら持っておいてもいいよなあ。投げるのにも使えるし。…んー、このレイピア他のより軽い気がする。手にも馴染むし。


「ちょっと振ってみてもいいですか?」


「ああ。だが、地面にはぶつけんでくれよ。大事な商品なんだからよ。」


 そう言われたので、早速振ってみる。やっぱり軽いな、他のレイピアよりも。多分重心が持ち手の中心くらいにあるんだろう。手にも馴染むし、気に入った。


「おっちゃん、このレイピアにするよ。気に入ったから。後このマンゴーシュもセットで。」


「れ、れいぴあ? それとまん何だって? …まあその剣が気に入ったってんなら売ってやるよ。こう細くれて見えてもそいつが自信作でな。後はその投げナイフだったな。…坊主、金の方は大丈夫か? 2つで中金貨5枚だぞ? 全部鉄製だからな。」


「金額は問題ないです。―――これで大丈夫ですよね。」


「おお! あるなら問題ねえ。あんがとよ坊主。」


 レイピアって言葉もマンゴーシュって言葉もそういや前世の知識だったか。とりあえずこっちでは細身の剣と投げナイフってなってるんだな。よしよし、武器も気に入ったのがあったし、ちょっといい感じじゃないか。このままちょっと魔境に…ってのが失敗パターン、大丈夫。傲慢さんはご退場してくださいよ。それじゃあ冒険者ギルドに登録に行きましょ。


 冒険者前広場は盛況だった。春の暖かい日だからテント生活でも十分にやっていけるのであろう。…僕はどうしようかな。宿を取ってもいいんだけど、野宿生活もというかテントも買わないとなあ。まあまずは冒険者登録からだ。冒険者ギルドの中に入る。受付の他には、通路と、二階に上がる階段と、そのくらいか。通路の方には部屋が何部屋かありそうだ。…階段の下のはクエストボードかな。今は殆ど残ってないけど。多分、読めなくても受付に持っていけば読んで貰えるんだろうな。ランダムクエスト状態なんだろうなあ。さて、暇そうにしている受付に行きますか。


「すみません。冒険者登録をお願いします。」


「文字の読み書きはできるかしら? できるならこれに名前を書いて頂戴。無理なら代筆するわ。」


「自分で書けます。ペンを貸してください。」


 受付のおばさんからペンを受け取りさらさらっと自分の名前を書く。それを受付のおばさんに渡す。


「ヘルマン君ね。ちょっと待ってね。」


 何かの魔道具だろう。それにさっきの紙を入れ込んだ。…なんでそうなるんだろう。乳白色の冒険者証になって出てきた。


「はい、これが冒険者証よ。なくさない様に。なくした場合は黒色からの再発行になるから気を付けるように。」


 ペナルティは黒色スタートと、ということは一定期間放っておくと黒から白に変わるのか? 軽犯罪なんかを時間で許すみたいなもんなのかな。…まあ、余り納得いかない話ではあるが。


「それと冒険者の心得をここの書庫から読んでおくように。書庫は二階にあるから、札があるからすぐにわかるわ。後はこれ、テントセットよ。初回のプレゼントだから大切に使いなさいな。」


「わかりました。保存食なんかは自由市で買えばいいですか?」


「ええ、そのあたりのやりくりは冒険者個人の裁量に任されています。後、くれぐれも火事に気を付けるように。」


 火事は厳禁っと。テントセットを『エクステンドスペース』に仕舞って、先に二階に行って冒険者の心得を読んでおこう。大体は聞いているけど、何が載っているんだろうか。階段を上って突き当たり、ここは支部長室。…これ文字読めない奴への罠じゃないだろうな。その隣が書庫となっている。…勝手に入って問題無いんだよね。


「おじゃましまーす。」


 この辺は小心者丸出しである。とりあえず書庫に入ってみる。…少し埃っぽい。暫く使ってない感がすごいな。本棚はそんなに多くない。小部屋に両サイド本棚がずらりと並んでいるだけ。それに本もそんなに入ってない。見たところ、10分の1埋まっているかといった所だ。…しかも同じ本が何冊もあるなこれ。冒険者の心得だけで横1列使っちゃってるよ。そんなに読む人いないだろうに。…立ち読みでいいか。明かりは魔道具か錬金アイテムか解らないが、明るいし。


 …本当に常識的な事しか書いてないぞ。人に危害を加えない、だとか。人の物を盗まない、とか。マジかよ。子供に教える事だろ。…ああ、僕はまだ子供だった。だからいいのかといえば、良くないが。文字も大きいしどんどんと読み進める。ああ、有益な情報もあるな。教会前広場の使い方とか、乗合馬車時の義務とかそのあたりは有益だろう。


 ふむふむ、教会前広場使用時のトイレは村長の家のを使えばいいのね、有料で。その辺でしないとか書いてあるが、無視だ無視。後は乗合馬車に乗っているときは魔物の討伐権は乗合者にあって、御者には無しと。討伐は早い者勝ちで、解体や放置はせずに最寄りの冒険者ギルドに届けることと、どのあたりで出たのかの報告義務があるのね。なるほど。後は乗合馬車は基本的に村で1泊すると。その時は教会前広場で寝泊まりしないといけないんだね。…他はまあ、常識的な内容である為割愛。適時こうだったってのを紹介すればいいか。


 他の本は、ヨルクの林の採取物一覧がある。これは僕も読んだやつだな。基本的には貴重な素材しか載せてないものだが、貴重ではないものは大した使い道が無かったり、下位互換だったり、安かったりで、何ともならんのですよ。おっ薬草学大全もある。これもジュディさん所で読んだな。読んだ後にこの辺では取れないものも多いけどとけらけら笑ってたっけ。本当に読めるかのテストだったみたいなんだよね。


 後は、セレロールス子爵領の霊地と魔境についての本だな。本というより地図だなこれ。何々、地図によるとセレロールス子爵領は縦長の長方形か、解りやすくてよろしい。…電話の番号ボタンで例えようかな。1の所にサントの森があり、3の所にカスタ高原、5の所にヨルクの林、7の所にジェマの塩泉、9の所にレールの林、*の所にカンパノの森、#の所にラーラの沼地の計7つの霊地と魔境があるらしい。因みに魔境はサントの森とジェマの塩泉の2か所、他は霊地だ。うーむ、何の属性が採れるかとかは書いていないな。本も無いみたいだし。まあ、ここはヨルクの林の本があれば十分か。後は領都の錬金術ギルドで聞いてみよう。


 一階に戻ってきて受付のおばさんに声をかける。


「冒険者の心得を読んできました。あの、領都に出る乗合馬車って何処に停まるか教えて欲しいんですけど。」


「乗合馬車はこの冒険者広場の端の方に幌馬車がいるだろう? それが基本的には乗合馬車だ。行先は御者に聞きな。朝になったら行先を叫んでいるからそれを頼りにしな。」


「分かりました。ありがとうございます。」


 そう言って冒険者ギルドを後にする。確かに冒険者広場の端、東西南北に別れて置いてある。…領都は南だから南側の馬車に乗りこめば良いのかな。っと、その前に、自由市で保存食を買ってかないとね。基本的には麦粥を食べたいよね。麦とキノコはストックが沢山あるからキノコ粥はできるんだ。後は干し肉とかあれば嬉しいかな。…高いかな、干し肉。町だと兎や鶏を家畜にしてるって言ってたからあるとは思うんだよね。魔境にジェマの塩泉ってあったから塩は安いだろうし。


 …一応、見つけたには見つけた。一袋大銅貨5枚。兎らしいんだけど、2羽分くらいの分量で大銅貨5枚でいいんだ。安い…よね? 物価が素材の物価しか解らない。麦は両親からの餞別ってことで収穫の時に貰ったものだし、キノコは林で採った物。後の比較が錬金素材。錬金素材に比べれば安い。だが、これが本当に安いのかは解らんぞ。でも買う。タンパク質は大事よ、大きくなりたいんだもの。とりあえず6袋買う。小銀貨3枚だけど、この量で採算とれるんだろうか。…まあ、半分放し飼いみたいなものなのかもしれない。後は、塩。調味料は偉大だ。これ一つでただのキノコ粥に味が深まる感じがするのだ。うちで食べてた時はそうだった。だから塩も大甕で購入。大銅貨3枚とお安い。多分。


 これで準備は…あー、燃料もいるわ。スライム燃料。ゴミ捨て場は何処にあるのかな。多分冒険者広場に近いところにあるはず。村も教会前広場の近くにあったし。…あった。村よりも大量のスライムがいるが、溢れてるな、さすが町。最低でも20日分くらいは持っておこう。スライム燃料を40個ほど拾って『エクステンドスペース』へ。まだまだ沢山落ちてるけど、余り拾いすぎるのも良くないよね。


 冒険者広場の南側、明日出発の乗合馬車を探す。馬はいいとして、何だろう、大きなヤギみたいな白いのもいるんだけど。後は鹿? 茶色い角有の動物、何だろう。まあ、いいか。乗れれば。明日領都方面に出発する馬車がいれば声をかけてくれるだろう。さっさとテントを張って晩御飯にしよう。


 テントセットにはテントと寝袋、火打石、小鍋1つと鍋用の三脚があるだけ。あ、スプーンもあったよ。でもこれで十分。井戸水に麦とキノコ、干し肉を入れる。干し肉に塩が効いてそうだったから今回は塩なしで作ってみる。煮込むこと20分くらい、美味しそうな匂いが漂ってきた。では、いただきます。…うん、塩は入れなくて正解。これでも塩がきついくらいだ。でも、初めての自炊、何とかなるもんですなあ。火の処理をして、…このスライム燃料はまだ使えるのだろうか。結構燃えてたと思うんだけど。とりあえず『エクステンドスペース』にキープ。もったいない精神は大事。使えたら儲けものと。さてさて、明日の朝に備えて寝るとするか。


面白かった面白くなかったどちらでも構いません。

評価の方を入れていただけると幸いです。

出来れば感想なんかで指摘もいただけると、

素人読み専の私も文章に反映できると思います。

…多分。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テントセットは嬉しいですね。 境界前広場や乗り合い馬車の情報もありがたい。 読み書きができて本当に良かった。
[一言] 読んでいる途中だけど面白い
[良い点]  楽しく読ませていただいております [気になる点]  主人公があまりにも冒険者をノリノリでディスっているので、性格が悪いような感じがして、少し辟易としてしまったのですが、そういうキャラ設定…
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