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13話 7歳 ヘルマン星を振られる

誤字報告ありがとうございます。

 あれから3年の月日が経った。大分時間が経った気がするなあ。まあ、この3年は山も谷も無かった。…いや、全く無かったわけではないんだが。でも僕が巻き込まれた訳ではないので、そうだな、少し過去の話をしようかな。


 まずは4歳の秋、エドヴィン兄たちが冒険者として旅立った年だな、その年の秋だ。なんでか知らないが、この年は教会前広場にいた冒険者の数が、ものすごく多かったんだ。教会前広場は歩く隙間すらないほどにテントが張り巡らされていて、まあ嫌な予感がするよね。そしてそんな場所で煮炊きを各冒険者がしているわけだ。…慣れない新人でもいたんだろうな。普段であればそんなに気にすることでもない事でも、あんだけテントが密集してたらまあ、そうなっても仕方がないかな、ってのもある。皆さんがお察しの通り、テントに煮炊きの火が燃え移った。普段なら皆で踏んだり井戸で水を汲むなり何なりして火を収めるなりしただろう。


 だが、歩く場所など無い程にテントが張り巡らされていたんだ。当然の如く延焼、炎上する。一度火の手が上がると、我先にと逃げる冒険者。パニックになり叫ぶだけ叫ぶ冒険者。すでに寝ていて、皆に踏み殺される冒険者。色々といたんだ。幸いなことに、村の建物は昔の錬金術師が作った、土と石でできた建物だから村の人に被害はなかった。…唯一村長の家の玄関が冒険者に叩き壊されたのが、村の被害といっていいんじゃないだろうか。教会も何事もなく無事だったし、村の被害は殆どなかったに等しい。


 しかし、冒険者は、教会前広場は悲惨なものだった。焼け焦げたテント群から煙が上がり、焼死体がそこら中に転がり、水を求めた冒険者が井戸に飛び込み助けを求める。悲惨な状況だった。教会前広場は土色から一面黒色に変化していた光景を見た、お祈りに来た僕が絶句したのも理解していただけると思う。


 村中から人が集まり、事態の収束を図った。亡くなった冒険者の亡骸は教会の冒険者共同墓地に骨だけ埋葬され、焼け焦げたテント群をゴミ集積所に片付け、煤けた地面を掃除した。僕も今日だけは採取に行かずに教会前広場の掃除を手伝った。まあ、当然だよね。こう言ったことには協力しないとね。で、掃除が終わって一件落着と村人たちは帰っていった訳だ。


 だが、冒険者はそれで終わりではなかった。一睡もしていないのに村人と教会前広場の片付けをし、時刻は夕方。季節は寒くなってきた晩秋。雪がちらつくこともある時期。テントも食料もない冒険者の一人が爆発した。いや、物理的にじゃないよ? 感情がね。一体だれが原因だ、出て来いこの野郎と。この状況を作った人物の特定にかかった。冬越しの準備にただでさえ金がかかる時期に、手痛い出費。切れる冒険者が続出し、第二ラウンドが開始した。


 まともな冒険者はすでに村を出て、町で冬越しの準備中、エドヴィン兄たちも今年は町で生活するからと挨拶にも来ていたくらいにはまともな冒険者をやれているようだった。ここに残ったのは、怠惰に呑み込まれそうな冒険者ばかり、それどころか、今回の事件で憤怒に呑まれた冒険者が続出した。最初は一部の奴らが発狂した様に誰が犯人だと叫び始めた。


 そんな奴らがターゲットにしたのは同じく発狂した冒険者だ。憤怒に呑まれた者同士、殴り合いを始めた。…少しでもまともな思考が残っている奴らは、この場所から逃げようとした。しかしそれが不味かった。逃げようとした奴らが見つかり、そいつらが犯人だと認識した発狂した奴らが、一斉に襲い掛かり、そのまま殴り合いに発展。教会前広場は闇の中、ルール無用の格闘場になった。あいつが悪い。こいつが悪い。そんな混沌とした場所になってしまった。


 そして、次の日の朝。また何時もの様に僕が教会前広場に行ったときには、2日連続の惨劇となっていた。撲殺死体が転がり、殴りつかれたのであろう人々が、着の身着のままで寝入っていた。…正直に言って、どの体が生きている冒険者なのか、殴り殺されている死体なのか解らないほどに混沌としていた。


 また村中から村人が動員され、死体の片づけと、荒れた教会前広場の掃除をした。今回も僕は手伝った。血で汚れた土を林に捨てに行くという役割を与えられて、何度か往復したものだ。…そして今回は掃除だけでは終わらなかった。今度は村人が冒険者に切れたのだ。それはまあそうだろうさ。貸しているだけの教会前広間で2日連続で村中から人が動員されるほどの騒ぎ。もうすぐ刈り取りだっていうのにこの始末、農家の継子でない僕だって怒っているのだ。農民が怒らないはずもなし。冒険者に詰め寄る農民、流石に殴りかかるなんて真似はしなかったが、余りの圧力に冒険者が逃げ出した。


 そんな訳で、その年の冬は、冬越しの準備ができた冒険者が居なかった。…いや、できなかったんだけど、追い出されたといった方が正しいだろう。農民が刈り取りの際にストレスを発散させるがごとく、勢いよく刈り取りをしていたのは言うまでもない。家の父さんもものすごい勢いで刈り取りをしていたものだ。


 麦を買い付けに来た商人も不思議に思ったことだろう。今年はなんで冒険者がいないのかと。いつもなら沢山いて居場所も無いのにと。空いた教会前広場にいたのはそんな行商人だけだったのだ。僕としては、採取場所が誰にも荒らされることなく、ゆっくりと採取できたので良かったが、大変な年だったのは確かだ。


 次は4歳の冬かな。火事騒動のあった年の冬だ。この冬は例年以上に雪が降って家が埋まった。比喩でもなんでもなく物理的に埋まった。毎日のように家の前の雪を退けて、雪で階段を作り、屋根の上の雪を退ける毎日。そうしないと平屋根の家が潰れる可能性があるからだ。そんな豪雪時期に、問題がやってきたのだ。はぐれの魔物が流れてきたのだ。


 魔物の種類はなんとゴブリンゾンビ。ここから魔境や、ゴブリンが住み着く森や林は、2日以上も遠くなのだ。まさかゴブリンのそれもゾンビがやってくるなんて思っても見なかった。始めにゴブリンゾンビに出会ったのは僕ではない。というか、僕はゴブリンゾンビを見ていない。…家の雪かきだけで手いっぱいだったところに、雪の中を泳ぐように進む人がゴブリンゾンビがやってきたと報告をしてきたのだ。


 普段であれば、ゴブリン程度の魔物なんぞ農民の敵ではない。刈り取り用の大鎌で首を刎ねればいいだけだ。とても簡単である。しかし、今回の相手はアンデッド。しかも大雪のせいで鎌が振れないのだ。そんな訳で、その農民は教会に走っていたのだ。別にただ泳いでいた訳ではない。教会にいる神父さんやシスターさんはアンデッドに特効を持つ魔法を使えるのだ。それ故に教会に急いでいたのだが、進みは遅かった。


 …ただ、魔物もこの大雪で全然進んでこなかったようだ。ただただ時間が掛かったが、無事に教会に報告が行き、アンデッドは浄化されたようだった。…ゴブリンゾンビが出るのはものすごく珍しい。というかアンデッド自体が凄く珍しい。ゴブリンや魔物なんかは、餓死しないのだ。飢餓状態じゃない方が強いのだが、食べなくても餓死はしない。そういう生き物なのだとか。


 そして、冒険者がゴブリンなんかを倒したら、ちゃんと『エクステンドスペース』に入れて持ち帰るはずなので、ゾンビになるには他の動物に襲われて負けて、食べられなかった場合か、冒険者が無精した場合かのみなので、なかなかに珍しいのだ。というか見たかったんだよなあ、ゴブリンゾンビ。


 まあ、そんな訳で、無事にゴブリンゾンビは浄化された。村に被害は無し。…雪の被害は甚大なんだけど、まあそれはそれってことで。そんな訳で、冬の一幕に一波乱あったわけだ。


 次は5歳の夏真っ盛りの時、これもまた冒険者がらみなんだよなあ。まあ、簡単に言うと、冒険者と行商人で揉めたのだ。何もそんなことでということで、言い争いだったのだが、それが思わぬ事態に発生した。行商人の方が魔法使いだったらしい。


 始めは些細なものだったのだとか。行商人なんて珍しくもないんだが、その行商人相手に冒険者の方が買取をしろと高圧的に言ったのだ。年若い女性の行商人だったので、冒険者の方も強く押せば高く買い取らせることができるんじゃないかとすごんでいた訳だ。そして、断り続ける女性。行商人なんだから買えないものは買えないとはっきりというし、そもそも素材なんて錬金術師でないとどうしようも無い。…一部魔術師でも使うものがあるのだが、魔術師は錬金術師からしか買わない。したがって、保存瓶に入っていないものの価値など解らないのだ。…まあ、錬金術師も魔石に錬金するまで解らないのだが。


 頑なに買えないという女性の行商人に、言い寄る冒険者。どう見えたのかは僕には解らないが、周りにいた冒険者には、押せば何とかなると思ったのだろう。だんだん女性の行商人を囲み始めたわけだ。簡単に状況を説明すると、恐喝の押し売りだよなあ。んで、女性の行商人側が切れた。


 魔法を発動させて目の前の冒険者を吹っ飛ばしたのだ。これには周りにいた凄んでいた冒険者も驚いたのか一部は逃げ、一部はなんと襲い掛かった。襲い掛かられた魔法使い側もまさか襲い掛かられるとは思ってもみなかったのだろう。今度は人が死ぬ威力の魔法をぶっ放した。何のことはない。直撃した奴は死んだし、掠ったものでも腕がもげた。


 後は何のことはない。最初に凄んでいた奴は私刑にされ撲殺された。魔法で死んだ奴は、まあいいが、死ななかった奴の方が対処が大変だった。元々金のない冒険者。初級ポーションなんて安いものも持ち合わせてはいなかった。介錯という方法で悲鳴を収めさせるしかなかった。そして囲んでいて逃げた奴らは、この村から追い出され、女性の行商人もやりすぎということで、次の日には村から追い出された。


 その時の村長の顔が、ものすごく申し訳なさそうにしていたと、人伝に聞いた。そうよな。女性の行商人に悪いところなんて、余りない。ただ騒ぎを起こしたのは冒険者側で、魔法を使ったのは不可抗力というか、正当防衛の範囲だろう。…でも、騒いだ側ということで追い出さにゃ示しがつかんわけで。


 それでも、僕はその場に少し居たかったなあと思っていたり。魔法など、見る機会が今までなかったのだ。錬金術師は偶に来てもすぐに分かるが、魔法使いなんて見ても解らんからね。見た目は普通の行商人や旅人、冒険者と一緒だ。だから、魔法が発動されたんなら見てみたかったという、純粋な興味だ。イベントは色々あっても、その場に居合わせるかどうかは別だからなあ。


 そんで次は5歳の秋、去年悲惨だった秋だ。今年は去年のことがあるから人が少なくなると思ってたんだ。だが、蓋を開けてみるとなんと教会前広場がまたすし詰めの状態に埋まっている。お前ら去年で懲りただろうよ。少しは分かれろよと言いたいが、他の村に分かれてこれだったらどうしようもないんだよなあ。勉強くらいしろよ、まったく。


 んでも、今年は昨年の事があったから火気は厳重に管理しろと村長が口を酸っぱくするくらいには言ったそうだ。そんな毎度のことのように火を起こされても堪ったもんじゃないからな。掃除する村人の気持ちにでもなってみろよと言いたい。だから今年は火事は大丈夫。そう思っていたんだ。


 そこで来るのは錬金術師の行商人。いや、彼は何にも悪くないんだよ。悪いのは全て冒険者。錬金術師の行商人が来たから、その時から素材の買取の列が酷いことに。…だから君らの素材は二束三文にしかならんのよ。後だろうが、先だろうが変わらない。ただ、買い叩かれるのが早いか遅いかの、それだけの話だ。


 そして事件は起こる。素材を買い叩かれた冒険者が錬金術師の行商人に食って掛かった。そして剣を抜いてしまったわけだ。そこで切られないのが錬金術師。爆風を起こす錬金アイテムで吹き飛ばすだけ吹き飛ばし、今日の買取はここまでと宣言した。そうしたら順番を待っていた奴らが、吹き飛ばされた奴に切れた。この時期のストレスマッハ状態の冒険者を舐めてはいけない。即刻私刑にし、吹き飛ばされた奴は撲殺された。


 そして、テントに戻ればいいのに朝まで列を作って待つ冒険者たち。君らの素材の旬は過ぎているんだよと教えてあげたくなる。そして、眠いのを我慢して朝まで買取の列を守る彼ら、そこまでするんだったら文字を覚えることにもそれくらいの情熱を傾けろと言いたい。


 そして朝になると律儀に買い取りに応じる錬金術師の行商人。1人1人の素材を買い叩いていく。この頃になってくると、冒険者の方も元気がなくなっているので、異論反論は出ない。出したくても、出せないくらいには眠気が襲っているはずだ。それなのに寝ずに列を守るんだもんね。無意味な努力だと笑ってあげたくなってくる。


 そして、列を守れず寝てしまうやつらも現れ始める。そうすると我先にとどんどん順番をぬかしていく冒険者たち。正午を迎えるころには死屍累々な状態になっていた。…そして買取が終わったのは夕方ごろだ。最後の方は寝てしまった冒険者たちだったのでそれほど元気は無いが、まだ見ていられるくらいの状態ではあった。


 そして、そんな死屍累々になった者たちが、火気厳重注意などという注意を覚えていられるだろうか。いや無理だろ。そんな状態で煮炊きを始める冒険者。眠いが腹も空いて寝るに寝れないのだ。何か食べるものをと煮炊きを始める。煮炊きをする奴らは最低限気を付けているだろう。だが、そのテント群の間を通るゾンビたちはそんなことを気にしている余裕はない。煮炊きをしている奴の火元を蹴とばす。後は想像の通りだ。大炎上。止められない大火事。火を見てテンションの上がる寝不足たち。逃げ惑う冒険者。教会前広場はあっという間に大火を生み出し、夜の帳を吹き飛ばす。後は火が落ち着くのを待つばかりである。


 僕が見たのは朝ご飯を食べて自分の仕事をこなし、教会にお祈りに行く時である。…いや、火事には昨日の夜に気付いていたんだ。でもさ、もうああなったら無理なの。別の井戸から水を持っていくにしても大火の前には焼け石に水なのだ。だから気にせず寝た。多分他の農民たちも同じ判断だったと思う。だって自分たちの家は土と石だから燃えないもんね。


 そんな訳で去年の二の舞になった教会前広場の片付けと焼死体の片付けを村中の農民総出でやった。色んな人に聞いてみたんだが、2年連続ってのは珍しいらしい。大体5年に1度は火災があるんだって。道理で片付けなんかが慣れているはずだよ。というか、5年に1回も火災を起こすなよ。冒険者共も。錬金術師の行商人さんは普通に無事で、火が上がったのにもかかわらず、幌馬車に煤一つついていなかった。…後で聞いた話によると、火耐性なんかが馬車の材料に施されているらしい。だから火が上がっても逃げずに居たそうだ。錬金術師強い。


 それで何もなくなった教会前広場では、第二回戦の殴り合いが始まった。殴り合いがあるのも火事があった後の恒例なんだって。無い時もあるんだよと教えてくれたおばちゃん、慣れって怖いね。殴り合いが無かったら追い出さないんだ。殴り合いがあったら追い出す。…まあ、どっちにしろテントがない冒険者は帰るんだけど。まあこの事件はこれで終わりかな。


 次は5歳の冬、新年祭の日、我が姉マリー姉の星振りの儀の日だ。どうやらマリー姉は、聖職者になりたくてお祈りをしていたということが分かっている。なんでまた聖職者なんだろうかと聞いてみると、文字を教えてくれたシスターディアナに憧れたんだとか。僕の時はシスターカミラだったが、もう一人のシスターさんはディアナさんだったんだな。あそこは3人しかいないから見習いでも有り難いんじゃないだろうか。


 などと思っていたら、予想以上にお祈りが効きすぎたようだ。なんとマリー姉は聖女に星が8個も振られたらしい。聖職者の上位版だからマリー姉は大変喜んでいたが、聖女は領都の教会に行く決まりになっているらしく、教会に入ってすぐに領都セロニアに行く乗合馬車に神父シモンと一緒に、冬の間に出て行った。その時に、この村の領主様がセレロールス子爵様であることを知った。まあ、農民には領主様なんぞ関係ないんだが。僕も錬金術師になって領を出るだろうしな!


 そんな訳で、領都に早々に行ってしまったマリー姉。きっと聖女としてちやほやされるんだろうな。なんたって星8つだしな。凄い珍しさだろう。あ、今年の農家の才能の最高は星5つだという話だ。シャルロ兄と一緒だな。…やはりお祈りの力はあるんだろうなと思っている。


 そんな感じだな。過去の話といえば。2度の火事にゾンビ事件、魔法使い事件にマリー姉の星振りの儀、中心にいなかっただけで、結構いろいろあったなあ。まあ、話に聞いただけのことも多いので、それほど特別なイベントって感じでは無かったが。あ、火事はすさまじかったよ。後片付けだけだけど、大変だった。


 そんなことは置いといて、今日は僕の星振りの儀、現在教会の中で待機中だ。まあ、錬金術師には振られるとは思ってるよ。あれだけお祈りをしたんだもの。星1つだなんて、湿気た話はないはずだ。…ないよな? 期待しているぞ。そんな中、神父シモンが皆に声をかけてきた。


「さあ、間もなく星振りの儀が始まります。皆さまお祈りをするように。」


 そう声をかけられたので、いつも通りのお祈りの構えだ。錬金術師錬金術師錬金術師錬金術師…


 祈っていると、鐘の音が聞こえた。と同時に、錬金術師に星が一つ振られたのが分かった。鐘が鳴るたびに、才能に星が振られていく。8回9回10回と10度の鐘の音が鳴らされるとともに、自分の中の才能が確定した。僕に振られた才能は錬金術師に7つと剣士に3つの才能が振られた。錬金術師に7つもの星が振られたのだ。嬉しくないはずがない。剣士の3つにしたって、魔境での採取のことを考えると、大変に有り難い才能だ。無駄な才能などないかのごとくの星振りだった。…そう言えばエドヴィン兄やマリー姉は他に何の才能に星が振られたんだろう。少し興味があるが、まあ、それはまた今度聞いてみよう。会える機会があったらね。


「さあ、星振りの儀が終わりました。あなたたちが得た才能について、ご両親にお伝えください。」


 そう言われ、教会の扉が開かれた。うちの家族は何処だ? …いた。家族6人が待っていてくれている。そこに駆け寄る。


「やりました、父さん母さん。ちゃんと錬金術師の才能を貰えました。」


「そうか! お前が頑張っていたことは分かっている。ちゃんと神様に祈りが届いたんだな。」


「良かったわね。ずっと錬金術師になりたいって言っていたものね。良かったわ。」


 父さんも母さんも、爺さんも婆さんも、兄さんも姉さんも、皆祝ってくれた。…あったかい家族で良かったな。…そう思ったのもつかの間、父さんも爺さんも、兄さんまで酒の準備をしていた。母さんと婆さん、姉さんは直ぐに家に帰っていった。僕もそっちに付いて行きたかったが。


「主役がいないんじゃあ、話にならねえ。ヘルマン! お前はこっちにこい! 一緒に飲むぞ!」


 酒飲み共に連行され酒盛りをやっている男たちの元へ。一部女性もいたのは驚いたが、早いことにもう樽を開けて呑んでいる組がいやがる。樽から直接コップに酒を酌むと、なみなみと酒の入ったコップを渡される。…前世の記憶だと、酒は美味いもんじゃないと警鐘を鳴らしてくる。だがしかし、前世の記憶など当てになったためしもないので、ここはグイっと酒を飲んでみる。


 …微炭酸にほろ苦い泡、若干麦の香りが残るキンキンに冷えたエールは、何故か真冬なのに体を温かくさせる。…あまり美味しいものでもないが、飲みたくない訳ではない味だった。2杯目を酌みに行くと、そこにはもう出来上がった野郎どもが呷る勢いで飲んでいた。…なんだか負けてはいけない気がした。そして僕も2杯目3杯目とどんどんと酒を飲んでいく。


 明後日の僕がここにいたら止めていただろう。もうやめろ、これ以上は飲むなと。しかし、初めてのアルコールにテンションの上がる僕。周りもテンション高めの出来上がり組。これで飲まずにいつ飲むのか。…これ以上の記憶は僕には残っていない。気が付いたのは次の日の昼頃。頭が割れるような痛みに襲われ、母さんに回収されながらうんうんと唸っていたのだけはなんとなくだが覚えている。…二度と酒なんぞ飲むものか。そう誓った。


 酒の影響下から復活しての夕飯時、僕はこの春に家を出ていくことを決めていた。その報告を行ったのだ。


「父さん、母さん、僕この春に家を出ていくよ。錬金術師になるのに何が必要かとか準備が必要だろうから。」


「そうなのね。…昔から錬金術師になりたいって言ってたものね。少し早い気もするけれど、しょうがないわね。」


「ヘルマン、支度金だ。これだけだが持っていけ。」


 父さんから支度金として大銀貨5枚を受け取る。…受け取らない選択肢もあるんだろうけど、ここは受け取っておく。父さんと母さんのめいっぱいなんだろうけど、多分錬金術師になるには全然足りないのだろう。でも、ジュディさんからも聞いている通り、苦学生でも何とかやっていけるのだ。僕は立派な錬金術師になるよ。父さん、母さん。


 朝、いつもと同じように顔を洗う。冬だからめちゃくちゃ冷たいが、仕方ないよね。そして朝ご飯を食べる。…そしていつもは糞尿処理をやっていたが、僕が春に出ていくからシャルロ兄に仕事を引き継いだ。もう僕がいなくとも問題ない様に生活を変えていくそうだ。なので僕はジュディノアに向かう。教会でのお祈りも、星振りの儀が終わったから用済みだ。今までよく通ったよなあ。毎日。…そしてジュディノアの扉を開く。


「ごめんください。」


「ちょっと待っとくれ!」


 いつもの様に返事を貰い定位置へ。この椅子もよじ登らなくて良くなったくらいには身長が順調に伸びている。一応父さん曰く、12歳までは身長が伸びるそうだ。そこからはほんの少しずつしか伸びないらしい。…前世の人間種とは違うような気はするが、この世界、エルフやドワーフもいるんだ。少しくらい違っても訳ないだろう。少し待っていると、ジュディさんが顔を見せる。


「どうやらその顔は、錬金術師に才能が振られたようだね。おめでとう。」


「ありがとうございます。これで僕も錬金術師になれます。」


「一応後輩になるんだね。まあ、まだ入学もしていないひよっこだがね。」


 けらけらと笑いながら世間話をする。こうして話すのももう少しだけなんだなと思うと、少し寂しい。ジュディさんには沢山お世話になったからね。思えば良く面倒を見てくれたと思う。星振りの儀も終わっていないおこちゃまが、錬金術師になるんだと息まいているんだから。


「それで、今日は錬金アイテムのお願いがありまして。」


「ん? 何だい。」


「指方魔石晶の首飾りをもう1つ作って欲しくて。」


「…ああ、そういうこと。わかったわ。材料と料金を出しなさいな。小銀貨3枚よ。材料は覚えているでしょう?」


「はい。――――――これで大丈夫でしたよね?」


「ああ、問題ないね。…さっさと作ってくるから、5分くらい待ってな。」


 そう言って奥に向かう。…この今している指方魔石晶の首飾りは、父さんにあげよう。片方を母さんが持っている限り、僕にとっては無意味になるからね。…村の方向を指されたって他の霊地や魔境では困ってしまうからね。渡すものを間違えない様にしないとね。…5分ほどでジュディさんが戻ってきた。


「はい、出来たよ。見た目は素材が一緒だから間違えない様に。まあ、間違っても素材があれば、他の錬金術師でも作れるけどね。」


「ありがとうございます。」


「そうそう、村から出るんだったら早めに錬金術ギルドに行っておくんだよ。入学の方法とかお金に関してはさっぱりだからね。後はお金を99枚ずつにしてもらいな。錬金術ギルドに言えば直ぐしてもらえるから。前に大銅貨をばらしてやったろう? そんな感じで頼みな。」


「あー、買い物とかに不便しそうですもんね、小銭がないと。ありがとうございます。そうしてみます。」


「行商人やる奴らがよくやる手だからね、こういうことも覚えておいてそんはないよ。」


 けらけらと笑うジュディさんを後にジュディノアを出る。…まだ村を出る訳じゃないからね。ジュディさんにはまだ沢山保存瓶を作って貰う予定だし。保存瓶を作る魔道具も買わないとなあ。早めに買っておいた方がお得だもんね。…保存瓶って魔力100%でできるんだもん。不思議だよね。まあ、魔道具や錬金アイテムも大概不思議なんだけどさ。錬金術師になるんだったらポーション瓶を作る魔道具も買わないと。…うわあ、今から出費が怖いことになりそう。


 まあ、まだ当分実家にいるんだし、霊地にいるんだし、採取するよね、当然。『エクステンドスペース』も大分広くなったんだよね。大体5,6LDKくらいは入りそう、凡その目安みたいなもんだから解らんけれど、凄く広くなったと思ってくれればそれでよし。容量も気にせず採取採取だ。時期は冬だし、冒険者も少ないし、霊地には素材がたくさんある。使い切れないくらいが丁度いい、そのくらいの勢いで採取をした。春の畑を耕す少し前くらいまで。


こう書かないと評価をしてもらえないらしい?ので一応書いておきます。

面白かった面白くなかったどちらでも構いません。

評価の方を入れていただけると幸いです。

出来れば感想なんかで指摘もいただけると、

素人読み専の私も文章に反映できると思います。

…多分。

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― 新着の感想 ―
[一言] 転生者だから星の数が(ry 神様いろつけてくれなかったですね。でもイイネでポチり。 (神様≒作者様)
[一言] 転生者だから2人分みたいな感じで星20個みたいな展開もあるかと思ったけど さすがになかった
[良い点] 底辺冒険者ろくでもねえ!!! おっと傲慢に飲まれないようにしなければ。 父さんと母さんの子達才能すごいですね! これが祈りの力……!!!
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