108/150
医師の記憶
サリオが振り返ると後ろには赤いセルタントがいる。
「化け物め……」
「…………」
赤いセルタントが左手を振り上げる。
衝撃にサリオの体が宙に放り出される。一瞬の浮遊感のあと……
(落ち……)
崖の下、海へと落下した。
ここは、どこだ…サリオは走馬灯を見ているのか…昔の記憶が蘇る。
「助けて……」
子供が病気で苦しんでいる。そんな子がたくさんいる。
「ああ、必ず助かるよ。安心しなさい!」
「子供の患者だ! すぐに治療を!」
「次から次へと患者が増える。なかなか有意義な経験だ……サリオ、あきらめろ。」
「なにを……」
「彼女は病の苦しみから解放された。すでに死んでいる。」
「そんな……どうして…………リート、教えてくれ。俺たちのやっていることになんの意味がある?」
「……意味などない…目の前の病理を、どう理解するか。そこに医術の快楽がある。結果、患者が勝手に生きながらえるだけだ」
「あの薬さえあれば! この子だって助かったはずだ!」
「ないものをねだってもしかたがない。生と死の混沌のなか医術のみが、秩序を示せる。サリオ、その少女を丁重にとむらってやれ」




