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プロヴァンス戦記  作者: 雪臣 淑埜/四月一日六花
scene 02『諸人の想いの交差する時』
20/42

第十八話『闘志の風は巻きて昇る』

恥ずかしながらバトル物の小説を読んだことは悉皆ないので、ぼくは戦闘描写というものをひどく苦手としています。これを機にバトル物のライトノベルとか山ほど読んでいきたいと思います。


プロヴァンス戦記、第十八話です。

かわいがってください。

 クリストフ・ミラーナイト。躑躅(つつじ)色の巻き毛と緑の瞳が特徴。王都防衛組織レジスタンスのステージⅣの構成員であり、第6小隊のリーダーを務める十四歳の少年である。ひとことであらわすと「文武両道」。若くして財政に通暁し、剣や槍の技能も達人たちの目を(みは)らせるほどにすぐれ、そのうえミラーナイト公爵家というルーシア王族の血をわずかばかり継いでいる地位にも身を置いているため、政治におよぼす影響の大なるは計り知れない。事実上レジスタンスの前線を張るナンバー6であり、バイタルエナジーの用いる生体戦闘能力の資質もかなり高く、聖戦士ヴェストリの再来とまで称されるほどの強さを誇っている。

 そんな彼の愛用するバイタルウェポンは『グリフォンウインド』。一遍の慈悲も残さず、畳みなすように敵を叩きのめす強烈な竜巻を発生させる装置を埋め込んだ一対の手袋。これを以てみずからの英名をして自国より飛び越えさせ、遠きプロヴァンスの大地にまで広めることがかなったのである。

 両の手掌から放たれし小型の竜巻が、地を裂き、(とき)の咆哮をあげながら奔馳(はし)りゆく。ありたけの殺意に身を任せて、貿然(ぼうぜん)と近寄ってきた複数の帝国兵を呑み込み、冷酷に切り刻んでいった。回避に成功し、さいわいにも腕の負傷だけで済んだ者もいたけれど、その腕が痺れてしまって思うように動かせられなくなったゆえ、反抗することもままならぬ状態でクリストフに打ち倒される宿命を次に待つこととなる。

 「(ハッ)!」

 クリストフが意気のこもった声を発したその直後、休むことを知らぬ恐怖の竜巻は帝国兵の命をふたたび掠め取ろうと飛び掛かる。すっかりひるんでしまっている兵はわめいてその場から逃げようとするが、腰が抜けて足に力を入れられず、生きたいというつよい意志に反する残酷な諦念を迫られていた。憐れきわまりない彼の命を援けたのは、彼の上官であるヒルデガルドであった。

 「ハッハァ! こいつは情報通りの強さだな! コラ、新兵! 国のために命を捨てる覚悟があるのは感心だが、無駄に散華さんげすることはゆるされんぞ! 立ち上がるのだ!」

 豪快に笑い、ヒルデガルドは援けた兵に激励を送った。

 「さて、お前がクリストフ・ミラーナイトだな?」

 「ん、は、はい。さようですが?」

 クリストフはきょとんとした。

 「やはりな。その反則級の烈風攻撃を見てたちまち理解したよ……お前の攻撃そこらの一般兵がどうこうできる火力ではない。よってこの俺様がじきじきに相手をしてやろう」

 「そうとうな自信ですね」

 「俺様の能力なら、お前の能力と伯仲はくちゅうしうるだろうと思っているからな」

 ヒルデガルドは背負っていた二挺(にちょう)の機関銃を右手で担ぎ、そのひややかな銃口をクリストフに向け始めた。

 「……そっちから仕掛けてこないのか」

 「『グリフォンウインド』を撃つべきだと判断したときはそういたします」

 「余裕だな」

 「むやみに意味のない攻撃をすれば、足許(あしもと)(すく)われかねませんから。余裕ではなく、警戒であります」

 「ほう。なかなか悧巧なやつだな……面白い!」

 そう言った直後に、彼は間髪を入れずに『エイゼルゲン』の銃口をクリストフに向け、膨大にして濃密なるエネルギーの塊を何発も連続して撃ち放った。それは目で追おうとすれば眼球がよじれそうなほどに速く、地面や瓦礫(がれき)を粉砕して塵とする威力であった。これほどの性能であれば速射連射はきびしいはずなのに、一瞬にしてクリストフの立つ場をかくのごとく破壊し尽くせるというのは、驚愕を通り越して少しの恐怖さえも感じることである。いまの不意打ちはぎりぎり避けられたけれど、もし当たればただではすまない。肉が破れ骨がくだけるどころの騒ぎではない。肉も骨もきれいに消え去ってしまうのが関の山であろう。そうしてクリストフは警戒のレベルをにわかに上げて、相手の出方をじっくりと観察しはじめた。

 「なるほど。蓋しその『エイゼルゲン』とやらの火力であれば、ボクの『グリフォンウインド』に対抗できるでしょう」

 ヒルデガルドとの交戦に、クリストフは勝機の光を見据えることができなかった。『エイゼルゲン』の火力は、決して個人単位で敵を倒す小さなものではなく、むしろ部隊単位で敵を倒す大きなものである。『グリフォンウインド』は速射と連射に関しては優秀だが、しばらく撃った後に数秒のインターバルが生じる欠点を有する。つまり数秒のあいだ手も足も出ない無防備の状態となり、返り討ちに遭うリスクがきわめて高い。一方、『エイゼルゲン』は高い破壊力を誇るくせして、そういったインターバルがほとんど見られず、ひっきりなしに砲撃をお見舞いしてくる。この点がクリストフにとっては最大の脅威にほかならなかった。簡潔にいうなれば、大口径の二丁拳銃と怪物じみた二門の機関砲をたがいに勝負させるのとおなじ、お世辞にも公平とは言えない歴然たる力の差であった。よって、このままむやみに相手をしつづけることこそ暗愚と判断したクリストフは、無線機で仲間に援護をしてもらうよう頼んだ。

 『はい、こちらシータ・リリよ。クリス、何か御用?』

 「シータさん。こちらに狙撃手を寄越していただけませんか? どうもボクだけでは少々力不足でして」

 仲間に連絡を入れているクリストフに、ヒルデガルドは神経をとがらせた。敗北を決定づけかねない不確定要素を生み出されると面倒だと考えて、相手が無防備な状態であることをかまわずに砲撃を再開した。しかし攻撃が来ることを予想に入れていないわけではなかったようで、クリストフはシータとの会話をつづけながら、迫りくる巨大な砲弾を軽い身のこなしでどんどん回避した。

 『え、ごめん、クリス! こっちも敵が多くてね。人員割いちゃうと戦況が悪化するの。そっちは一時撤退して』

 「一時撤退……」

 クリストフは振り返った。うしろにはまだまだ力を身に着けていないステージⅡの構成員たちが苦しい防戦を強いられていた。もし自分がここでしりぞけば、彼らはヒルデガルドと戦うことにもなる。広範囲に人と建物を一気にうちほろぼす武器を持つヒルデガルドを進ませれば、被害はさらに拡大するのは火を見るよりも明らか。したがってクリストフは一時撤退は妥当でないと判断し、一旦敵の足止めをして時間を稼ぐことにした。

 「いまは何とも言えないけれど……あ、いま通達が来たわ。あと10分で増援がそっちに行くって」

 「……! いちおうどういった方がこちらへ駆けつけて来るか、わかりますか?」

 「”月”の部隊よ。そのなかにあなたが所望している狙撃手がわんさかいるわ」

 「了解しました。ありがとうございます!」

 増援までにあと10分。そのあいだクリストフはヒルデガルドの攻撃を適当にあしらい、さきへと進ませないようにしていかなければならない。あわよくばそのまえになんとかヒルデガルドをここで倒してしまいたいところだが、さきに述べた二人の武器の相性の問題により、これを成し遂げるのはかなりむずかしい。

 「通話は終わったのか? 仲間に助けでも乞うたか……まあ、それはそれでいい。いずれやって来るであろうその仲間ごとお前を滅するのも効率が良いからな」

 クリストフは両手をいきおいよく地面に当てた。するとひっきりなしに地鳴りがし、岩盤がぐらぐらと搖れてヒルデガルドの足場が不安定となった。

 「……? 風属性だけではない。地属性のバイタルエナジーも持っているのか。多彩な攻撃手段を持っているな。だが、あいにく俺は地属性のプロフェッショナルでな。この程度の地震など効かんぞ」

 「いいえ、違います」

 「何を……? ぐっ!」

 突如『グリフォンウインド』の竜巻が地面から吹き出て、猛々しく昇ってヒルデガルドをの左腕を細かく切り刻んだ。

 「ボクのバイタルエナジーには土系(グノーム)元素(エレメント)はありません。いまのは『グリフォンウインド』を地面の下に発生させて、気づかれないように貴方のほうへと放ちました」

 「意地の悪いやり口だな」

 「なんとでも。どうしてもボクは貴方を止めなければなりませんので(とにかく……この方の片腕はもう死んでいる。『エイゼルゲン』の火力は半減して、少しはやりやすくはなった)」

 勝率と自身の生存率は飛躍的に上がったものの、いまだにクリストフは余裕を見せない。余裕を見せているのは、深手を負いながらも豪放な笑いをやめないヒルデガルドのほうであった。

 「()ッ!!」

 今度は正面から『グリフォンウインド』を繰り出すクリストフ。だがあまりにも工夫やひねりのないダイレクトな攻撃であるために、あえなくヒルデガルドに躱されてしまう。普通ならこれは無謀で無意味な行動としか見れないが、じつはヒルデガルドの力量をためすためのものである。

 (命の凪(バイタル・カーム)やVEテリトリーを展開していない……『グリフォンウインド』を(ふせ)ぐ手段を持っていないのか? それともVE(バイタル・エナジー)節約のためにわざと展開しなかったのか? いずれにしても、ここは様子見に徹するしかないか……)

 王都ゼフィランサス東南部。クリストフとヒルデガルドの戦いにはまだ終わりの兆しがあらわれない。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 王都ゼフィランサス西部にはアルデ、ルシア、ディオークの三人が向かっている。そこに住む民はみなシェルターのなかへと避難したが、建造物の被害はどこよりも著しい。朝までは活気にあふれた(あきな)いの街も、生温かな風のとおりやすい無残な廃墟へと化している。

 「侵攻開始してから40分しか経ってないんでしょ? なのにこの被害って」

 アルデは不安そうな顔でそう言った。

 「帝国軍は今日で王都の陥落を成し遂げるつもりだろうね。およそ二千の兵をつぎ込んだらしいよ。かなり本気っぽい」

 「レジスタンスの構成員の人数は?」

 「現時点では二百人くらいで、精鋭は九十くらい」

 「ルシア……ぼくたち、数のほうでは圧倒的に不利じゃないか」

 「帝国の一般の兵には大した力はない。あたしたちとまともに搗ち合えるのはもっと階級が上のエリートだ。うちらは質で勝負してるけど、あっちは量で勝負している。だけどアルデ。一般の兵に対しても気は抜けないよ。いちおう雑魚ではあるけど、生体戦闘の基本をきわめてあるからね。あたしたちが隙を見せれば、雑魚に殺られちゃう場合もあるから。……そんなつまんない死に方だけはしないでよ」

 「……うん。わかった。ルシアも気を付けてね」

 「ひひ、誰に言ってんの。この風の子ルシアがそう簡単には殺られやしないよ! ま、ありがとね」

 薫風のごとくにさわやかに笑みを浮かべるルシアに、この事態で緊迫していたアルデの表情もだんだんとやわらかくなってゆく。

 しかしのどかなひと時も束の間。遠方より(きた)る刃のついた円輪(えんりん)が三人に向かって突進してきた。鼓膜を削ぐような高い金属音は敵を威嚇し、刃は木や鉄筋をたやすく両断する鋭利さを誇る。

 「来た……! 二人とも、伏せて!」

 アルデはそうしてうしろの二人に指示した。みなが伏せると、迫って来た円輪はそのまま通り過ぎていった。三人の命を掠め取る機会を逸して、ただむなしく宙へとゆるやかに昇っていった。

 急襲をやり過ごしたあと、円輪をあやつる者がとうとう顔を見せた。

 「ああ、おれにはわかる。おまえら、つよい。ステージⅡのレベルじゃない

」と、片言で淡々と三人の力量に感心するその人は、小柄で瘦せている男であった。彼はひゅっと握っている欛を振り回し、放った円輪を自分の(もと)へと戻した。

 そして、彼は名乗った。

 「プロヴァンス帝国軍の中尉、フランツだ。よろしく」

 そのフランツという少年は、肉が落ちて骨があらわとなっている面容で、いつでも疲労におそわれているようにも見える。それゆえに周囲からは老けている風に映り、年齢が十五である事実はあまり知られていない。

 「大層な武器をふりまわしてるね。あんた、もしかして親衛隊員?」

 「……親衛隊員? どういうこと? ルシア」

 「一般の兵は汎用型のバイタルウェポンを装備し、生体戦闘にはある程度長けている。だけど所詮はレジスタンスのステージⅢとやっと互角になれたレベルで、ステージⅣと戦うには到底足りえない。このことは言ったよね?」

 「うん」

 「帝国大将がみとめ、そうとうな生体戦闘の鍛錬を乗り越えた逸材を厳選してあつめたのが親衛隊員だよ。実力はステージⅣと同等と考えていい」

 「……でも、ぼくたちが三人であるのに対し、敵は一人だけ。数に関して言えば、ぼくらのほうが優位に立っている」

 「まあ、こいつの実力は未知数だから、油断は禁物ね」

 親衛隊の源流はプロヴァンス帝国の創設にまでさかのぼる。セントラルの刺客に日夜イノチをねらわれている解放軍のリーダー、つまりのちにプロヴァンス帝国の初代皇帝となるアドマーズの身辺の警護のために、きわめて(すぐ)れた兵を十人置かれたのがはじまり。セントラルとの戦いが終わったあとも、親衛隊はアドマーズを守り抜いた功績により、帝国軍の階級の中でも最上に位置され、少将、中将よりも優遇されるようになったのである。そしてバイタルエナジーを用いる生体戦闘技術が戦の主流となったいまの時代では、親衛隊の隊員が高度なバイタルウェポンを与えられるのをゆるされ、戦場では重要な役割をになうことになった。

 「……おまえら」

 フランツはアルデたちに指をさした。

 「おまえら、たおせば、ルシファー様から、たくさん、ほうび、もらえる。だから、カクゴ!」

 殺意の眼光をきらめかせ、ふたたび円輪を振りまわすフランツ。

 「ほんと、ヨーヨーみたいな武器。使っててたのしそうだねっ!」

 鈍重で軌道もワンパターンなので、難なく円輪の一撃を躱すルシア。そしてすかさずフランツの脇に回り込み、彼の顔めがけて刺突を仕掛けるディオーク。しかし敵の接近をただちに察知したフランツは、すばやくのけぞって敵の攻撃を巧く回避し、うしろへと一歩二歩下がった。武器は鈍重でも身軽であるフランツにとって、回避運動はさほどむずかしいことではないのである。

 「アルデ様!」

 「よし、いける!」

 ディオークの右肩を踏み台にして宙を飛び、激烈たるいきおいでアルデはフランツへ突貫していった。そうして剣を鞘から抜いて、フランツに一太刀浴びせんとした。

 「せいっ!」

 「……! うざったい!」

 三人のコンビネーションに対応しきれないフランツは、体勢を崩してまでこれを回避せざるを得なかった。背後の巨大な隙を見逃さなかったルシアは、剣を二度振り立てたのちに鮮烈な斬撃を彼に与えた。

 「……さすがに三対一では()が悪いか? フランツとやら」

 劣勢となったフランツに、ディオークは挑発の言葉をおくった。

 「ここで、おれ、おまえら三人、たおす、できれば、ルシファー様によりみとめられる! だから、死んでもらう!」

 憤怒に身を追い立てることをせず、むしろディオークの挑発により戦意をさらに昂揚させるフランツ。興奮で息遣いがますます荒くなり、まるでターゲットたる三人を見失わないように目を大きく開けている。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませていただきました! 少年兵たちによる壮大な戦記物という風に感じました。 キャラ同士の関係性やそこに至るまでの流れや描写がとてもうまいと思いました。 特にディオークがアルデに絆されてし…
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