07 ニュースに出ちゃった
「今日午前2時50分に発生した地震は伊豆半島東方沖地震と命名され……」
午前8時のニュース。俺、大澤 賢斗はホテルから近い病院に入院中。ガラスで大きく頬を切っちゃってね。
「この地震により、負傷者が複数出ている模様です。神奈川県七海市から修学旅行に来ていた高校1年生の男子生徒が割れたガラスで頬を切る重傷になったのをはじめ、伊豆半島周辺のみですが負傷者は軽傷3名、重傷1名の被害が出ています……」
まさかニュースに出るとはね。名前までは出なかったけど。
「先生、なんで入っちゃダメなのさ!」
あれ? どっかで聞いた声……。
「だから、大澤はまだ容態が安定しないからな」
「でも、俺と柳原さん、藤岡さんを守ろうとして!」
「気持ちはわかるが、とにかく落ち着きなさ……あっ、こら! 藤岡っ!」
突然ドアが開いた。俺は思わず目を丸くして藤岡を見つめる。
「……あの!」
「ど、どうしたの? 藤岡」
「大丈夫?」
藤岡は今にも泣きそうだった。
「お、大げさにしすぎなんだよ皆! ホント、俺ピンピンして……!」
「と、知未……!」
柳原やリョウ、前橋、優、そして市川先生が顔を真っ赤にして俺たちを見つめている。
「ちょ、藤岡……! みんなが見てるんだけど……」
「きゃ! ご、ごめんなさい!」
藤岡は真っ赤になって俺から離れた。それからすぐに病室を出て、入れ替わるようにリョウが入ってきた。
「藤岡のヤツ、絶対お前のこと好きだぜ」
カァッと赤くなる。
「あ! 赤くなってやんの! お前も藤岡のこと……?」
「んなわけねぇだろ、バァカ!」
赤くはなってる。でもな、これ、お前のせいだから。
「とんだ野外宿泊だったな」
リョウがため息をついてバスの座席にもたれかかる。
「まぁな。でも、それなりに楽しかったからいいよ俺は」
「なんだよ。行く前はあんなにめんどそうだったお前が意外だな。どうしたんだよ」
お前と一緒にいる時間がいっぱいできたから――なんてな。面と向かって言えたらいいけど。
「まぁいろいろとあるんですよ」
「あっ! お前、俺との間に秘密はナシだろうが!」
リョウが俺の首を遊び半分で絞めにかかってくる。
「痛い痛い! ちょ、タンマ、タンマ! マジ!」
ふと、藤岡と目が合った。ニッと笑うと彼女は恥ずかしそうに微笑んでから、前を向いた。
「まぁた大澤くんを見てる」
「そ、そんなことないよ」
やだなぁ。こころって、変なところが鋭いんだもん。
「ちょっとこころ〜。デリカシーのないこと言うのよしなよぉ」
「ちょっ! だってそうじゃないの、最近いっつも知未、大澤くん見てるじゃない」
「だからってそういうことは大声で言わないの! ね、美沙子もそう思うでしょ?」
「え? そこで急にあたしに振る!?」
私とこころの間に座ってる堀口美沙子が驚いて目を丸くした。
「だって〜、間に入ってこんな話、聞かされるだけじゃ嫌でしょ!?」
「だからって急に振られても困るよねぇ」
「まぁね〜」
その後に聞こえた美沙子の声は、気のせいだったのかな。
「あたしもウカウカしてらんないな〜」
あれは、どういう意味だったんだろう。
それから、私の周りはどんどん歪んでいくなんて、このときは思いもしなかった……。