表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第2章 揺れる想い
61/61

58 俺はこうなった。だけど、君は



「会いたい。会って、話があるんだ」

 そうメールを送った。相手は、柳原だ。

「……。」

 返信を待つ間、彼のいろんな表情が思い出されてきた。俺たちは、幼い頃からお互いをよく知っている。逆に、俺たちしか知らないようなことだって、たくさんある。亮平の初恋の人のことだって、俺は知ってる。亮平の初恋の相手ですら、亮平が彼女を好きだったことなんて、知らなかったんだからな。

 だけど、俺の気持ちが最近、揺らいできた。その大きな原因のひとつは、亮平に宮部先輩という、大切な人ができた、というものだ。

 そして、もうひとつは。

「大澤くん」

 柳原の声がした。俺は、そっと振り返る。

「よう」

「どうしたの? わざわざ会ってまで、話したいことって」

 俺たちが待ち合わせたのは、学校近くの公園だ。ここなら人通りも多いので、女子がひとりで来る夜道でも問題は少ない。帰りは俺が送ってあげれば問題ないし。

「うん……」

 だけど、彼女を前にした瞬間、言おうとしていた言葉が飲み込まれそうになる。言わなければ。その思いだけが胸の中を満たしていく。

「……。」

「どうしたの? また、何か悩み事できたの?」

 俺は、重い口を開いた。

「俺……亮平のこと、諦めようと……思う」

「え……?」

 その言葉を聞いた瞬間、柳原の顔がとても寂しそうなものになった。俺はいま、彼女にどんな思いをさせているんだろう。想像もできない。

「どうして?」

 柳原は寂しげな表情のまま、そう聞き返してきた。俺は、思いの丈をそのままぶつけようと決めた。

「別に……」

「別に?」

「別に……好きな人が、できたんだ」

「うそ……。本当に?」

 柳原はまだ信じていないようだ。

「本当だよ……。最近、気づいた」

「……三宅くんじゃ、なくて?」

 コクリと俺は小さくうなずく。

「……誰なの?」

 柳原は恐る恐る、聞いてきた。だけど、それを言うと柳原を傷つけてしまうかもしれない。それが怖かった。

「言いたいんだけど……柳原を傷つけてしまうかもしれない。だから、怖くて言えない……」

 柳原はそっと俺の手を握った。

「大丈夫だよ」

 その表情は、本当にやわらかだった。

「言いたいことくらい、素直に言わなきゃ。ねっ?」

 あぁ……。君は、本当に優しいんだな。

 なら。

 俺はもう、自分に嘘をつかない。

 俺は知ったんだ。亮平を好きになって、知ったんだ。

 人は時として、自分が傷つかないために、防御することだってあるんだと。


 ――好きなんだ。


「え?」

 俺の言葉を聞いた瞬間、柳原の表情が変わった。


 俺。


 柳原のことが、好きなんだ。


「……何、言ってるの?」

 彼女が小刻みに震え始めた。

「ゴメン……。今まで……俺、自分で自分に気づかないフリ……してた」

「……。」

 彼女は何も言わない。何か、このままだと罵倒されそうな気もしてきた。俺はそうなる前に、自分から全部、気持ちを吐露した。

「俺さ……もちろん、亮平のことは好きだぜ。でも、それはやっぱり、友達として……なんだよな。そんで、七海高校に入学してすぐ、柳原を見て、本当に胸が苦しいっていう思いを初めて知った。

 だけど、俺にとって柳原はなんていうか……手に届かない存在。そんな気がしてたんだ。だから、告白する勇気なんて全然なかった。

 亮平に何回相談したかなんて、わかんないよ。そのうちに、柳原に対する気持ちが……なんていうか、亮平に転化されていった感じ? ハハ……こんなの、擬似恋愛にしか過ぎないよな。

 あるらしいんだ。俺たち、思春期の時に恋をすると、どうしても無理だって考えちゃって、それを親しい友人に転化してしまうようなこと。

 俺は、それがたまたま男子で、幼なじみの亮平だったんだ。柳原。お前のことを好きだっていう気持ちを忘れたいがために……俺は、亮平のことを好きだと……思い込んだんだ」

「……じゃあ」

 柳原が震える。

「私の……宮部先輩を好きな、気持ちは?」

「……。」

「これも、もしかして……」

 俺はギュッと柳原を抱き締めた。

「それは、お前が一番知ってるだろ?」

「……。」

「俺は明日、答えを出してくる」

「……。」

「お前も、頑張れ」

「……うん」

 柳原はそう言って小さくうなずいた。


 俺たちの季節は、変わっていく……。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ