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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第2章 揺れる想い
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57 人を好きになる瞬間



「……ゴメン。急に」

 柳原は鼻をグスグス言わせながら鼻声で俺に言った。

「いや……全然構わないよ」

 俺は少し顔を赤くしながらそう答えた。冷静なフリをしてるけど、さっきから心臓は高鳴りっぱなしだ。

 高鳴っている原因。それは他でもない、柳原だ。

 今まで、ホント今まで、ほんのさっきまで亮平のこと考えると胸がドキドキしたのに、この感覚はなんだろう。なんか……よくわかんない。

 とりあえず、今は柳原のことのほうが心配だ。

「……あのさ」

 聞きづらいけれど、俺はあえて聞いた。

「見たのか?」

 それだけで十分だったのか、柳原は小さくなずいた。

「どのあたりから?」

「……三宅くんと、宮部先輩が……唇を……こう、する前から……10分くらい前」

 なんて具体的。そりゃまぁ、意中の人が異性といりゃあ、気にもするよな。俺だってそのひとりだったんだから。

「……。」

「……。」

 沈黙が続く。どちらともなく、話すことをやめてしまった。

「私……わかってた」

「え?」

「わかってた。いつかは、こんな時が来ることくらい」

「……。」

 柳原はまっすぐ前を見ている。

「そもそも、同性愛自体、やっぱり難しいんだよ。私たちってさ、えっと、ネットで調べたんだけど、こういうのもマイノリティって言うんだって。少数派」

 マイノリティ。少数派。そういう言い方、俺あんまり好きじゃないけど。少数ってどんくらいだよ、とか思う。1億2000万いる日本人の、どれくらいだったら少数派? 120人? 1200人? 1万2000人? 1万でも1200でも多いと思うけど。

 何を基準にして少数派にしてるんだろう。俺にしてみれば、今の俺のこの気持ちが「基準」だ。標準とか基準とかそんなもの、知らない。

 なんでもかんでも平均とか基準とか取るのが俺は嫌いだ。それを下回ればすぐに「変」とか「足りない」とか。上回ればたいてい「優れている」とか「十分」とか。けど、それがたとえば血圧だったりすれば「悪い」になるし。コロコロと良し悪しが変わるから、基準なんて嫌いだ。

 だから、俺は……今まで亮平を好きだという気持ちを貫いてきた。それはもちろん、柳原だって。

 だけど、その「少数派」という言葉が、俺たちの気持ちを揺るがす。柳原も俺も今、揺らいでる。

「辛いよね……」

 柳原がポツリと呟いた。

「こんな辛い思いするなら……やめちゃえとか思うの。そのときにコレでしょ。さすがに今回は……参っちゃって。ゴメンね。さっきは急に」

 そう言って柳原が儚げに笑った。

 まただ。

 胸が……痛い。

「帰ろう! そろそろ、暗くなってくるし!」

「うん……」

 なんだろう。

 わかんない……この気持ち……何?


「そりゃあ……恋だろ」

 さとっぺの答えに俺は言葉を失った。

「こ、恋?」

「そう。賢斗、お前は彼女に恋をしてる!」

「ちょ、ちょっと待てよ! お、俺……」

 家なので家族に聞かれるとマズいので小声で言った。

「亮平が好きなのに……」

「でも……そのみーやんと接した時と同じような感情を今日、柳原に抱いたんだろ? それは、紛れもないんだろ?」

 ケータイの向こう側で落ち着いた口調で言うさとっぺ。俺は反論できなくなった。

「……あのさ」

 さとっぺが続ける。

「こんなこと言っちゃなんだけど……。あ、でもその前にこれだけは言わせてくれ」

「え。何?」

「お前がみーやんを好きだっていう気持ちは本物だと思う」

 顔が赤くなる。

「だけど……その……」

 さとっぺが珍しく言葉に詰まった。

「なんだよ。どした?」

「お前……エロいこと言っても平気か?」

「あ、ある程度は」

「その……お前、みーやん見て……エロい気分なることあるか?」

「へ」

 俺は素っ頓狂な声を出してしまう。

「言ってる俺だってハズいんだ! わかれよ!」

 いや、わかれよって……わかんないから困ってるんじゃん!

「わかれよってのもメチャクチャだぜ? 具体的に言ってくんなきゃ」

「んー……!」

 さとっぺは声を振り絞って、けど最小限の音量で言った。

()つのか?」

「は!?」

 俺はあからさまに真っ赤になってしまった。

「何度も言わせんな! 俺だってハズい!」

「~~っ!」

 妙な沈黙。さとっぺも俺も黙り込んでしまう。

「おっ……俺は、時々……」

 さとっぺの思わぬ告白。

「だ、誰見て?」

「見てじゃねーけど……妄想で……その……」

 うわぁ。何の話だよ、これ……。俺らどうしちゃったわけ。

 いやいや。でも。自然な話でもあるのか。

「部の……同級生」

「……そ、そっか」

「……名前、聞かないわけ?」

「き、聞いていい?」

「ん……」

「誰?」

 さとっぺと同級生ということはすなわち、俺と同じ学年。誰だろう。俺が知っている子だろうか。

「トランペットの……久野……」

「ちょ、ちょっと待った。トランペットなんて言われたって、俺わかんねぇ」

「あぁ……ゴメン。1年B組の、久野」

「……あぁ」

 あのお人形みたいな感じの可愛い子か。

 その後、しばしの沈黙の後にさとっぺが言った。

「俺なりに調べたんだ」

「……うん」

 さとっぺ曰く、同性愛も俺たちのような時期には一時的にあるものだそうだ。それは憧憬から来るものが多いらしい。そして、思春期を終える頃になると自然と消滅していく。それでもなお、やはり同性が好きなままである場合も、あるそうだ。

「多分……お前が柳原にドキッとしたってことは……」

「……。」

 さとっぺはそれから先を言わなかった。

「そこから先をどうするかは、賢斗次第だよ」

「うん……そうだよな」

「気持ちの整理するのには時間かかるかもしれねぇけど……ガンバレよ」

「ありがと。俺、精一杯やってみる」

 そう言って俺は電話を切った。

 そうだ。まずは自分の気持ちの整理から始めないと。

 俺はそう考え、うなずき、机に向かった。


 気持ちの整理をするために。






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