04 優しい音色
入学式から1週間。ただいま、クラブ活動の仮入部期間です。私、柳原 玲菜は美術室にいます。中学校から美術部に入っています。昔からずっと絵を描くのは大好きなので、高校に入っても絶対続けようと思ってました。
「……先輩」
私は気になったので中学校から同じクラブで過ごしている大中 美羽先輩に聞いてみた。
「なぁに?」
メガネをかけてる大中先輩は大らかでとても親切。しかも頭がよくて、かなり綺麗。本人は素顔が嫌いだから、といってメガネをかけています。つまり、このメガネは伊達メガネだってこと。あ、どうでもいいですね。
「宮部さんって……ご存知ですか?」
「あー、由美ちゃん?」
やっぱり由美っていうのか。宮部由美。ステキな名前かも。
「どうしたの? 由美ちゃんがどうかした?」
「いえ……入学式で遅刻したら、偶然お会いして……集合場所まで連れて行ってくださったんです」
「さっすが由美ちゃんね〜。私ね、由美ちゃんとは1年生のときに同じクラスだったけど、あの子ホント親切でさぁ」
やっぱりそうなのか。だって、親切そうなのが顔に出てるもん。
「そうなんだ〜……宮部先輩かぁ……」
「あ、ひょっとしてレナチィも気になる?」
「へ!?」
「由美ちゃんね〜、男女問わず友達多いんだよ。人気者なんだよなぁ」
そういう意味か。ビックリした。あれ? なんで私、ビックリしてるんだろう……。
「ま、気になるんだったら由美ちゃんの部活、覗いてみなよ」
「え?」
「吹奏楽部。美術室の向かいでしょ?」
休憩時間。私は衝動(?)を抑えきれず、結局いまこうして音楽室の前にいます。
「へ〜……明らかにあたしより上手いね。いつからやってるの?」
いた! 宮部さんだ……。あ、三宅くんもいる。
「中1からです」
「へ〜。あたしも中学からやっておけば良かったと思う、今日この頃」
「え? 高校からなんですか?」
「そうなの。だからまだまだヘタっくそでさぁ」
「2年生で初心者の方ってどれくらいいるんですか?」
「部長とさっきのサキティ除いた全員だよ。それより、ホラ、なんだっけ? 弦バス? 自由に弾いていいよ」
「ありがとうございます」
なんだろう。やけに二人、仲が良くない?
「あ、ゴメン。こんなに見てたらやりづらいよね」
「いえ……」
気のせいかな。っていうか、宮部さんって初心者だったんだ。知らなかった。そうだ。私、まだ宮部さんのことで知らないことが多すぎる。漢字だって適当に理由の「由」に「美」しいだと思ってるけど、違うかも。ユーミンみたいに由実かもしれない。
「ね、それって『風のとおり道』だよね?」
「そうですよ」
「今ね、ちょっと音色の研究してて、フルートソロ集っていうの練習してるの。それに載ってる曲なんだけど、なんか一人じゃ寂しくってさ。よかったら一緒に弾いてくれない?」
いいなぁ……一緒に演奏か。でも私、楽器吹けないから今さら吹奏楽を始めるわけになんかはいかないし。それに、美術が大好きだから辞めるなんてできない。
「あ、おかえり」
「はい……」
なんだか、元気なくなっちゃった。だって、三宅くんと宮部さん、仲が良すぎる。初対面とは思えないんだもん。
「どうしたの?」
「いえ……」
宮部さんが三宅くんと仲良くしてるの、気に入りません!……なんて言えるはずもなく。
「何か相談あるんだったら、せっかくなんだから私にも遠慮なく言ってね!」
「はい! ありがとうございます」
うーん……相談か。別に今のところ好きな人もいないし……また何年か先の話だろうな。
絵の続きを描く。部活は1年生は午後5時半まで。あと10分程度だ。今日は絵を描くとはいえ、何を描くかというタイトルを考えるだけ。
「……!」
宮部さんのフルートと、三宅くんの大きなヴァイオリンの音色が綺麗に聞こえてきた。これは知ってる。となりのトトロで流れる、まっくろくろすけが森へ移動するときに流れる……。
「あ、『風のとおり道』だね」
美羽さんが思い出したように呟いた。スゴい綺麗。優しい音色だ。気づけば、下書きの鉛筆でタイトルを書いていた。
『優しい音色』
「決まり!」
ちょうど、偶然だろうけれど、由美さんの吹く姿が私の座っている席からちょうど見えた。由美さんをモデルに、絵を描きたい。そういう願いもこめて、私はタイトルをこれに決めた。ずっと、この音色が聞けますように……。
そう、願って。
4月1日より、就職して社会人として働き始めました。そのため、小説の更新が不定期になり、更新速度も低下します(>_<)
この『青い恋〜ボクラ、コイシタ〜』は土曜日を中心に更新しようと思います。また、平日でも時間に余裕がある際は更新します!
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