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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第2章 揺れる想い
56/61

53 夢じゃない



「私……宮部先輩が、好きなんです……」

 一瞬、その名前が私だって気づくまで、かなり時間がかかった。この空間には、私と玲菜ちゃんしかいない。

「……。」

 言葉にならない。ショックとか、そういうのではない。何が起きたのかが、私の頭がまったく理解に追いついていないことだけはわかった。

 何か言わなきゃ。何か言わないと、きっと玲菜ちゃん、勘違いしちゃう。何か言わなきゃ。そうはわかっていても、言葉が出ない。

「あ……」

「い、今すぐじゃなくていいんです! 返事……」

「で、でも」

「明日か明後日で、いいのでお願いします!」

「あ!」

 私の返事を聞く前に、玲菜ちゃんは走り去って行った。どうしたらいいのかわからず、私はポツリと教室に残されたまま。

 私はとりあえず、これが現実なのかどうかを確かめるために頬を引っ張ってみた。

「痛い……」

 っていうことは、これは夢じゃない。

 最近、私には好きな人ができた。言うまでもないかもしれないけれど、私が好きなのはこの部の弦バスという楽器を弾いてる、1年生の三宅くん。その三宅くんと、いま私に告白した玲菜ちゃんは同級生で、同じクラスで。

 その玲菜ちゃんが、私のことを好きで。

 なんで?

 なんで玲菜ちゃんは、私のことが好きなの?

 私なんて天然だし、ノロマだし、勉強だって微妙だし、顔がそんなに可愛いわけでもないし……。

 私って、人に好かれる要素あんの?

 ダメだ。それ考えてると、私、三宅くんに良く思ってもらえなさそう。

 そもそも、女子が女子に告白するって、漫画だけの世界だと思ってた。私、三宅くんを好きになって以来、漫画で恋愛話のことを勉強のつもりでいろいろ読んでみた。その中で、ボーイズラヴだったりガールズラヴだったりっていう、なんかもう別世界みたいな話もあった。

 だけど、それはこうして現実になってるわけで。

「……美ちゃん?」

 どうしよう。私、どうしたらいいの?

「おーい?」

 気づくと、サキティが目の前にいた。それだけじゃない。佳菜ちゃんにオーボエの野村くん、バスーンの戸口くんまでいる。

「わぁ!?」

「どうしたの? ボーッとしちゃって……」

 しまった。考え事しすぎて皆が来たことすら気づいてなかった。

「しかも先輩、顔赤いですよ!」

 野村くんの言葉に私は焦って立ち上がってしまった。その拍子に椅子が倒れて、私もそのままよろけて倒れて、譜面台にぶつかって譜面をぶちまけてしまった。

「ちょ、ちょっと! どうしたの由美ちゃんマジで!」

 サキティが慌てて私に駆け寄る。どうしよう。なるべく平静を装わなきゃ。

「だ、大丈夫! ちょっと……考え事してて」

「考え事って……ちょっと考えすぎなんじゃない? ボーッとしてるし、転ぶし……」

「ホント大丈夫! あ、ちょ、ちょっと私、顔洗ってくるね!」

 私は慌てて部屋を飛び出した。

 どうしよう。顔が赤いとか、誰かが来ても気づかないくらいにまで私、玲菜ちゃんに告白されて動揺してる。

 どうなんだろう。私って、もしかして……。

 私ももしかして、玲菜ちゃんのこと好きで……それを気づかないフリしてて……。

「あーんもう! 私どうしたらいいの……」

 どうにもわからなくなって、私は音楽室とは反対側の廊下の果てで座り込んでしまった。


「……?」

 いま、なんか聞こえたような。

「なぁ、なんか聞こえなかった?」

「えー?」

 さとっぺが振り返る。

「悪い。マッピの音チョー耳に響いてて、よく聞こえなかった」

「そっか……。加藤は?」

「あたし? あたしも別に聞こえなかったけど?」

「そっか~……」

 でも、なんか悲鳴っぽいような声が聞こえた気がすんだよな。

 俺はそう思って扉を開けた。音楽室のほうを見ると、部長と副部長がいつもの他愛のない言い合いをしていた。ひょっとして、さっきの声って副部長?

 加藤が同じように横から顔を出す。

「あー! なぁんだ。やっぱり朝倉先輩じゃない。先輩の声、高いもんね~」

 そう言って加藤が顔を引っ込める。関西弁と標準語が交互に聞こえてくる。俺も妙に納得して、部屋に戻ろうとしたときだった。

 すぐ近くの手洗い場の鏡がこないだ割れて、それが壁側に立てかけられていた。その鏡から、宮部先輩のような人の姿が見えた。

「先輩……?」

 その声にその人がバッと顔を上げた。やっぱり、宮部先輩だった。

「宮部センパ」

 その声を遮るように、宮部先輩が「みーやん!」と大声を上げて俺のほうに走ってきた。そして、先輩の小柄な体が俺の体にそのまま滑り込んでくる。

「え……!」

 俺の顔が明らかに真っ赤になる。声まで裏返りそうだ。

「みーやん……みーやん……」

 俺たちはまだ完全な大人じゃないけど、完全な子供でもない中途半端な年齢だ。だけど、この時ばかりの宮部先輩は完全に子供に戻っていた。

「どうしよう……私、どうしたらいいかわかんない……!」

 そして。

 俺の感情が、堪えきれなくなったのも、同時だった。






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