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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第2章 揺れる想い
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51 センパイの告白



「はぁ~……」

 美術室で私は絵を描いていたけれど、どこか放心状態であまり集中できていなかった。きっと、2週間前の出来事をまだ引きずっているんだと思う。


――お前は、諦めないでほしい。俺みたいに


「そんなこと言われても……なぁ……」

 心配になったのか、隣にいた大中先輩が私に声を掛けてくれた。

「大丈夫? 最近、玲菜ちゃん元気ないんじゃない?」

「いえ! そんなことは……」

「……。」

 大中先輩が笑う。

「あるよね?」

「……はい」

 それから私は核心をボカしながら、大中先輩に体育大会の日にあったことを話した。

「なるほどね……。それじゃあ、その子は好きな人を、諦めちゃうって言ったんだ?」

「はい」

「しかも、何かその子、すっごい気遣いする子よね。周りのこととか、玲菜ちゃんのこととか考えて、だなんて。自分の気持ちなんて、押し殺してる感じ」

 先輩の言うとおりだった。大澤くんが諦めると言ったこと。それは自分のためではなく、周りのため。私のため。三宅くんのため……。

「私も、その子と同じような経験、したことあるなぁ」

 私はその言葉に思わず興味を持ってしまい、食いついた。

「本当ですか!?」

「あ、なに~? 結構興味ある感じ?」

 大中先輩が笑う。私はちょっと恥ずかしくて赤くなってしまった。

「は、はい……。ちょっと……」

「まぁ、そんな大した話じゃないの。よくある話よ」

 それから美羽先輩は言った。美羽先輩は中学時代、ひとつ下の男の子がずっと好きだったこと。その男の子とは、時々話す程度の接点だったけれど、とても気が合ったこと。そして、相思相愛なのではないかとさえ思ったこと。

 けれども、それは単なる勘違いだったことに気づいた。その子には別に、好きな子がいたのだ。それを知ってから、先輩は彼のことをあきらめたのだそうだ。深く好きになる前で、良かったと先輩は笑いながら言った。

 それからしばらく経ち、先輩がいつもどおり、彼の家に行ったときだった。よく見る男の子がいたそうだ。だけど、その子はいつまでたっても彼の家の前でジッと立っているだけで、インターフォンを押して相手を呼ぼうとさえしなかった。

「ねぇ」

 先輩は彼に声をかけた。

「インターフォン押して、呼ばないの?」

「え……」

「用事、あるんでしょ? 呼んであげる」

 先輩がインターフォンを押そうとしたときだった。

「あの!」

 彼が言った。

「あなた……と、付き合ってるんですか!?」

「……。」

 先輩は答えに戸惑った。それがいけなかったのだそうだ。

「わかりました……」

 そのまま彼は走り去ってしまった。


「それから知ったんだけど……彼と私が少し好意を抱いた彼、幼なじみだったんですって。でも私、気づいたの。彼は……あぁ、インターフォン押さなかった彼ね。あの子、多分……私が好意を抱いた彼のことを、好きだったんだと思う」

「……。」

 そこで私は気づいた。

 美羽先輩が好きだった「彼」は、本堂先輩。

 本堂先輩を好きだった「彼」は、山崎くんの幼なじみ。

「……。」

 もう、言葉にならなかった。

「アハハ! ごめん。なんか、私が相談しちゃったみたいになったね」

 私は小さく首を振る。

「とにかくさ。ちょっとでも元気なくしちゃったりしたときは、私にでもいいから、相談してよ? ねっ!」

 そう言って美羽先輩は自分の場所に戻っていった。

 もしも。

 もしも、本堂先輩が、山崎くんの幼なじみの好意に気づいていたら、どうなっただろう。

 もしも、山崎くんの幼なじみが本堂くんに告白していたら、どうなっただろう。

 もしも、美羽先輩が本堂先輩とお付き合いしていたら、どうなっただろう。

 いろんなもしもが、私の頭を巡る。それからやっと、わかった。この中の誰もが、自分の気持ちに素直になっていないってことに。

「……やっぱりダメ!」

 私は気づいたら立ち上がっていた。

 美術室にいた同級生や美羽先輩、大久保先生が目を丸くする。

「どうした? 柳原」

 大久保先生に私はお辞儀をした。角度は90度。

「すみません! 早退させてください!」

「え?」

 そのまま私は大久保先生が呼び止めるのも聞かず、美術室を飛び出した。










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