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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第2章 揺れる想い
50/61

47 一線突破



「俺と、キスして」

 そう言われた瞬間、俺の頭が真っ白になった。

 キス?

 キスって、唇と唇重ねる、アレ?

「……。」

「……。」

 カラスの鳴き声がする。そうだ。もう夕方なんだぜ?

 体育祭が終わって、もうどこも部活はやってないし、学校内に残っている生徒もほんの少しだけ。そんな空間で、俺たちはどんな風にいま、映っているんだろう?

 沈黙ばかりが続く。

 賢斗の顔が、よく見えない。夕陽で逆光になっていて、表情が全然見えない。震えているのはわかった。陸上をやっていて、スラッとした筋肉質な体型の賢斗。その賢斗と対照的に、背ばっかりデカい俺。まるで、小動物とキリンのような、そんな光景。

 俺たち、男同士だけど。

 知ってる。

 賢斗は、本気で俺が好きなんだ。

 ここで冗談っぽく交わすことだってできる。だけど、それをすれば絶対、俺たちの関係は終わる。

 俺は、賢斗との関係を終わらせるつもりはない。もちろん、俺は異性が好きだから……賢斗と付き合うことはできないけど、そんなことで彼の思いを踏みにじるのは、もっと嫌だ。

「わかった」

 俺は意を決した。

「キスしよう」

「……いいのか?」

「あぁ」

 俺は優しく笑って、少し怯えた様子の賢斗にそっと近づいた。

 あと、20センチ。

 意外。賢斗、なんか香水つけてる?

 いい香りする。

 なんで、俺、こんなドキドキして……。

 あと10センチ。

 その時だった。


 バサッ――。


 カバンの落ちるような音がした。俺たちは驚いてその音がした方を振り返る。

「やっ」

 俺の声が震えた。

「柳原さん……」

「……。」

 気まずい沈黙。その沈黙が続くこと30秒近く。そして、柳原さんが言った。

「何、してんの……?」

「……。」

 二人とも答えることができなかった。

「何してんのって、聞いてるんだけど……」

「……。」

 答えられるわけ、ないじゃないか。俺がそう心の中で呟いていた時だった。俺の頬に衝撃が走った。

「……()って……」

 柳原さんが目に涙をいっぱい溜めて震えていた。

「なんで……」

 その声はもっと震えていた。

「なんで、フラフラ中途半端なことすんのよ!」

「え……?」

「三宅くん、宮部先輩のことが好きなんだよね!? なのに、何で今、大澤くんとキスなんてしようとしてたの!? ねぇ、なんでよ!?」

「そ、それは」

「宮部先輩が好きなのに、別の人とキスなんてする神経が信じられない! 私……私、あなたから宮部先輩が好きなんだって聞いてから、ずっとあなたにかなうわけないから、もう宮部先輩のこと諦めようかって、ずっとずっと悩んでたの! 一人で!」

 柳原さんの声が玄関ホールに響き渡る。彼女はまだまだ続ける。

「なのに、なんなのよ! 私のこと、バカにしてるの!?」

「お、落ち着いてくれよ! 俺はそんなつもりはなかったんだ」

「ウソ! 絶対ウソ! ねぇ、それならここで言ってよ! 宮部先輩のことは好きじゃないって! ホントは大澤くんのことが大好きなんだって!」

「……。」

 言えるわけないだろ。そんなこと。

「何で言えないの!? そんな態度ってことは、あれでしょ? 大澤くんのことがかわいそうだから、キスしてあげようとかそんな風に思ってるんでしょ!」

 その言葉が胸に突き刺さった。

「いらないの! そんな同情! 余計なお世話なの! ホモとかどうとかいろいろ言われるよりも、そんな同情のほうが迷惑なの!」

 俺は恐る恐る賢斗のほうを見た。賢斗の目にも涙が溜まっている。

「言いなさいよ! 宮部さんのこと好きじゃないって! 大澤くんのことが好きなんだって!」

 その言葉を柳原さんが言い終えると同時に、俺は心臓が飛び出すかと思った。なぜなら――。


「どうしたの……? これ……」


 そこには、宮部先輩、大谷先輩、水谷先輩、本堂先輩、そしてさとっぺがいた。

「!」

「!」

 5人に気づいた途端、賢斗と柳原さんがすごい勢いで走り出した。

「……。」

 気まずい空気だけが取り残され、俺たちは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。







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