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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第2章 揺れる想い
44/61

41 一人じゃない


「玲菜ちぃ」

 宮部先輩が帰ったのを見計らって私は昇降口から出た。それからすぐに、体育の時に同じ組になる井上 佳菜ちゃんに会った。

「あれ? 佳菜ちゃん! どうしたの?」

「玲菜ちぃに……話があるんだ」

「え? 私に?」

「うん! だから、一緒に帰らない?」

 私は驚いたけど、すぐに返事をした。

「いいよ!」

「やったぁ!」

 佳菜ちゃんが私に話? なんだろう。私には心当たりがなかったんだけど、佳菜ちゃんの表情はとても真剣。よほど大事な話なんだろうな。

 だけど。そうは思っていたのに、帰り道なかなか佳菜ちゃんは話をしようとしなかった。沈黙の中、私たちの足音だけが響く。夏特有の蒸し暑さが、沈黙の空間をさらにネバついた感じにしていって、とても嫌な雰囲気だ。

「あの……」

 私は我慢できず、佳菜ちゃんに聞いた。

「話って……何?」

 佳菜ちゃんは真剣な目つきで言った。

「驚かないで」

「うん」

「正直に答えて」

「う、うん……」

「私も絶対、口外しないから」

「うん……」

 なんだろう。もしかして、恋の話?

 ドキッ、と私の心臓が震えた。まさか……。気づかれてはいないはず。だって、それがわからないように私はなるべく、平静を装って生活してきたんだもの。表向きには、誰にもわかることのないように。

 だけど、彼女は鋭かった。

「玲菜ちぃさ……」

 次の言葉を聞いて、私は頭が真っ白になった。

「宮部先輩のこと……好き、だよね?」

 え……?

 何?

 いま、なんて言ったの?

 佳菜ちゃん……。

「……。」

「どうなの?」

 ダメだ。この子にいま、ウソをつくべきじゃない。ウソをついても、この子は絶対そのウソを見抜いてしまうに違いない。

 私は小さくうなずいた。

「……私」

 でも、自分から積極的に言葉にして人に面と向かって言うのは、初めてだ。山崎くんには、感情が爆発して衝動的に言ってしまったから。

「宮部先輩のことが、好きなの」

「……。」

 佳菜ちゃんが目を丸くした。

「……ビックリ、するよね」

 私は自嘲気味に笑った。でも、佳菜ちゃんはすぐに笑顔になった。

「やっぱりね!」

「や、やっぱり?」

 私は驚いた。もしかして、そんなにわかりやすかった?

「私、なんとなくだけど勘付いてたの。玲菜ちぃ、先輩に対する態度が何か、私たちと違うものがあったからね」

「……。」

 突然だった。私の目からポロポロと涙がこぼれ始めた。それを見た佳菜ちゃんが驚いて私に駆け寄ってくる。

「どうしたの? わ、私なにかマズいこと言った?」

 私は首を横に振る。

「違う……違うの」

 私の口から、次々と不思議なくらい、本音が出た。

「どうして……他人(ひと)にはすぐにわかってしまうのに、伝えたい人には……伝えたいことが伝わらないんだろうって思っちゃうと……すごく、悔しくて……」

 佳菜ちゃんの反応が怖かったけれど、私はもう止められなかった。

「本当は言いたいのに、言ってしまうと宮部先輩と距離ができちゃうんじゃないかとか、皆にも変に思われちゃうんじゃないかとか、いろいろ考えちゃって……自分がもう、グチャグチャになっちゃいそうで……」

 急に私の手を、佳菜ちゃんが握ってくれた。

「わかるよ」

 え?

「なんて……簡単に言ってほしくないかもしれないけど、玲菜ちぃの気持ち……すっごくわかる」

 佳菜ちゃん……。

「私も……好きな人いるんだ」

「そう……なんだ」

「でも、人を好きになるのに性別なんて……まぁ、関係ないんじゃない?」

「……本当にそう思う?」

「うん」

「どうして?」

 佳菜ちゃんは少し寂しそうな笑顔でこう言った。

「私の好きな人……を、好きな男の子が、いたのを知ってるから」

 ドクン、と心臓が鳴った。こんな偶然、あるだろうか。

 おそらく、佳菜ちゃんの想い人はあの本堂先輩だ。偶然にも、本堂先輩を好きな男の子がいたことを、佳菜ちゃんは知っていた。その男の子と友達だったのは、山崎くん。こんなことって……。

「その子の気持ち……私も知っちゃってさ。言うに言えなかったんだ」

 テヘッ、と佳菜ちゃんが笑う。その仕草は、どこか寂しげだった。

「ねぇ」

 佳菜ちゃんが言った。

「好きな人に好きって伝えられるのは……ステキなことだよ」

「……。」

「だから、頑張れ」

「……うん」

 知らなかった。

 私、一人でこの想いをずっと募らせないといけないのかと思ってた。でも、違うんだね。


 私は一人じゃない。


 そう思えること自体、幸せなんだって気づいた瞬間だった。







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