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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第2章 揺れる想い
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39 俺だから、わかる


 気まずい沈黙が続いた。山崎くんは私の肩を両手で掴んだまま、呆然としていた。無理もないと思う。私は今、彼に宮部先輩が好きなんだと伝えた。つまり、女子が女子を好きなんだってことを、言った。

 これは世間で俗に言う、レズだ。

 私だってそんなことは百も承知だった。それを承知で私は彼に言ったのだ。

「……ビックリした?」

 山崎くんは何も答えない。

「軽蔑した?」

 私はそう言って山崎くんの手をそっと離した。

「ゴメンね? そういうわけで私……普通じゃないから、山崎くんとは付き合えない」

「……。」

 しばらく考えたのか、山崎くんはこう呟いた。

「わかるよ」

 ……はい?

「お前の気持ち、よく……わかる」

 何? 同情ですか?

 いらないんですけど。そういう、うわべだけの同情なんて。

「そんなに……気安く気持ちがわかるなんて言わないでよ!」

 私の大声にビクッと山崎くんが体を震わせた。

「わかってるわよ! 自分が普通じゃないことくらい。普通ならさ、イケメンって言われる三宅くんとか、私に告白してくれた栗山くんとかと付き合うべきなんだろうけど。仕方がないじゃない! 私、宮部先輩を好きになっちゃったんだもん! この気持ちがもう、どうしようもないくらいになったんだもん!」

 一気にまくし立てた。他人に気持ちをぶつけ、感情を爆発させたのはこれが初めてだった。

「わかる? 私の気持ちがわかるんだ! へー? どうして? 山崎くん、ひょっとしてエスパーか何か? ふぅん、スゴいスゴい!」

 悔しい。今まで誰にもこの気持ちを理解してもらえなかったから、急にわかるなんて言われてもっと悔しくなった。

「何よ! 本当は気持ちが悪いんでしょ? ハッキリ言ってよ!」

「わかるよ!」

 次の言葉を聞いて、私は何も言い返せなくなった。

「俺も同性に告白された人を知ってるんだ!」

「……え?」

「……キッカケは、俺が作ったんだ」

 カナカナの鳴き声が響き渡る。

「……どういう、こと?」

 山崎くんが笑った。

「お前なら絶対に聞き返してくると思ったよ」

 山崎くんは淡々と話を始めた。

「柳原、俺の出身中学知ってる?」

「北松中学……だよね?」

「当たり」

 山崎くんのこのちょっと悪ガキっぽい笑顔が好きという女子は、本当に多い。

「北松中学出身の、1年上の先輩がいるんだ。お前だけにしか言わないけど、吹奏楽部のお前の想い人の、男子の同級生だ」

 私の脳裏には4人の先輩の顔が浮かんだ。

 佐野先輩。川崎先輩。水谷先輩。本堂先輩。

 だけど、佐野先輩は大阪出身。水谷先輩は私や宮部先輩と同じ、葉島中学。川崎先輩は波里中学。つまり、北松中学出身なのは、本堂先輩ということになる。これらは全部、宮部先輩から教えてもらった。

「俺……本堂先輩とは、家がお向かいさん同士なんだ」

「そうなんだ……」

「それで、小学校の時に俺の幼なじみも交えてよく遊んでたんだけど。その幼なじみが、本堂先輩が中学卒業間近になった途端に、久しぶりに俺の家来てさ。本堂さんに久しぶりに会いたいって言うんだ」

「……その子、卒業したら会えなくなると思ったのかな?」

「違う。ソイツが、引っ越すって言ったんだ」

 会話が途切れた。そこから先は、わかる。私だって、その子のようにする。別れる前に、告白する。

「でも……」

 山崎くんの顔が曇った。

「本堂先輩……その時、付き合ってるような人がいたんだってさ」

「え……。それじゃあその子は」

「言えなかったって」

「……。」

 生ぬるい風が私と山崎くんの頬を撫でていく。湿気がいっぱいあって、ちょっと不快。でも、日陰にいる分、まだマシかもしれない。

「でもアイツ、最後にこう言ったんだ。ありがとな、琴弥。俺のこと、気持ち悪がらずに、普通に接してくれて」

「……。」

「そのまま、アイツは転校した。でも、もっとビックリするようなことがあった」

「何?」

「本堂先輩、付き合ってる人なんていなかったんだ」

「……それじゃあどうして、その子は?」

 山崎くんは寂しそうに言った。

「多分、断られると思って結局、言わなかったんだ」

「……。」

 山崎くんが寂しそうに呟いた。

「性別なんて……好きになれば関係なさそうだけどな」

「……。」

「だから」

 山崎くんの体操で鍛えたちょっと太い腕が、私の手に伸びる。

「俺はお前の背中を押してやりたい」

「押す……?」

「あぁ。俺はアイツの背中を押してやれなかった。アイツを、大事な気持ちを伝えるという気にさせてやれなかった。それがすごい、心残りだ」

「……。」

 不意に山崎くんの顔が優しくなった。

「だから、俺はお前が、想い人にその想いを伝えてくれるまで、お前を見守ってるから」

「……。」

「約束」

 そう言って山崎くんは、私と無理やり指きりげんまんをした。

「ありがとう……」

 私は涙がこぼれ落ちるのを我慢できなかった。山崎くんの手の甲に、私の涙がいくつもいくつも、こぼれ落ちていった。













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