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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第2章 揺れる想い
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38 熱血漢のエール


いま、何時なんだろう。

そんなこともわからないくらい、時間が経った。外はもう薄暗くなってきている。砂場で遊んでいた子供たちも、お母さんに連れられて帰っていった。

私は、宮部先輩とラパウザで別れてから、この公園に来た。


(私……三宅くんのことが、好きなの)


 その後の話は全然覚えていない。どういうキッカケで好きになったとか、応援してほしいとかいろいろ言われたけど、私は人形みたいにうなずきながら「そうなんですか!」とか「いいですよ!」とかありきたりな答え方しかできなかった。

「……。」

 涙が何度も、何度もこぼれてきた。普通で考えてみれば、宮部先輩が三宅くんを好きになるのは当然の流れというか、普通の流れだ。異性を好きになるのが普通。

 私は、普通じゃない。

 そう言われている気がした。

 涙を拭いても拭いても止まらない。どうしようもないこの気持ち。もう、涙を拭くのも嫌になりそうになったときだった。

「柳原?」

 聞き慣れた声。私は涙を袖で思い切り拭ってから、振り向いた。

「山崎くん……」

 山崎くんがいた。

「どうしたんだよ。もうすぐ暗くなるのに」

 山崎くんは人懐っこい笑顔を浮かべて私の隣に座った。

「うん……まぁ、ちょっと。山崎くんはバイト、終わり?」

「おう。今日は上がった」

「そっか……」

 沈黙が続く。どこかでカナカナが鳴いていた。

「あのさ」

 山崎くんが言った。

「ゴメンな」

 突然謝られても……。

「何が?」

 私はその謝罪の意味がわからず、彼に聞き返した。

「聞いたんだ」

 気まずそうな顔で言う山崎くん。

「お前と、先輩の会話……」

 ……。

 そうなんだ。

「先輩……好きな人、いるんだな」

「……うん」

「お前も、だろ?」

 その言葉にドキッとして顔を上げる。山崎くんの顔が、とても真剣だった。けれど、夕陽の逆光で少しぼやけている。

「お前も好きな人、いるんだろ?」

「……。」

 ガシッと山崎くんが私の肩を掴んだ。

「どうなんだ?」

「……いるよ」

「そうだろ?」

 山崎くんは真剣な表情で続ける。

「ここからは俺の想像だ。お前は答えなくていい」

 一気に山崎くんがまくし立てた。

「お前と、宮部先輩。好きな人が一緒だったのか? それで、お前は気を遣ってしまった。私より、宮部先輩と……俺、聞こえたから言うけど、みーやんのほうがカップルとしてピッタリ来る。お前、そう思ってるんじゃないか?」

 少し違う。けど、ニュアンス的には間違ってない。私と宮部先輩が恋人同士になるなんて、常識的には受け付けてもらえない話。だったら、私のこの気持ちを押し殺して、二人に仲良くなってもらったほうが、ずっといい。あの話を聞いた瞬間、私はそう思った。

「お前、そんなことでお前自身の大事な気持ちを、ナシにすんのかよ?」

「でも……」

「わかる。お前の言いたいことはこうだ。先輩との友情も大事にしたい」

 どうして山崎くんにはここまでわかるんだろう。

「でもどうだ? もしも何かの拍子に、宮部さんがお前の気持ちを知ってしまったら。知らず知らずのうちに、先輩は自分がお前を傷つけていたと知ったら。もしも俺がそんなことをしてしまったら、なんて言えばいいかわからなくなる」

 いま、気づいた。

 ここまで気持ちを読む山崎くん。きっと彼も、そんな経験をしたのかもしれない。

「そんなことになったら、どうして黙ってた?っていう話になるだろう? そうなる前に、お前はお前で、しっかりとお前の気持ちをしっかり、踏ん切りつけろ!」

「……でも、絶対に無理だもん」

「無理なんかじゃない!」

 その大声に私はハッと目が覚めたような気がした。さらに続いた言葉に、私は愕然とする。

「いいか? よく聞け!」

「え?」

「俺は、お前が好きだ!」

「……!?」

 山崎くんの声が誰もいない公園内に響く。

「俺はお前に想いを伝えた。お前も、自分のその中途半端な想いを全部、解消してこい! それから、俺へお前の気持ちを伝えてくれ。いま、この場で返事はいらない。お前がお前自身の気持ちをしっかりと、伝えてからじゃないと俺は絶対、返事を聞かないからな!」

「……そんなの、無理だよ!」

「なんで頭ごなしに無理って決め付けるんだよ!」

 山崎くんの顔が寂しそうなものに変わる。私の目から大粒の涙がこぼれ落ち始めた。それでも山崎くんは怯まない。

「言えよ! なんで無理って決め付けて……」

「だって!」

 山崎くんに負けないくらいの大声で、私は産まれて初めてこの気持ちを他人(ひと)に伝えた。

「私の好きな人は……宮部先輩なんだもん!」

「……え?」

 公園内が静まり返る。

 またどこかで、カナカナが鳴き始めた。










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