表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第1章 君を好きになった
37/61

35 命に代えても


「賢斗!」

 俺は必死に賢斗を呼んだ。でも、思ったよりも賢斗のいる場所は遠く、雨でぬかるんだ地面が俺の足を奪う。しかも、かなり急だ。

「おい! 俺が行く! 危ないだろ!?」

 琴弥が俺を引きとめようとしたが、絶対に俺は引き下がりたくない。

「嫌だ! 絶対に俺が行く!」

「みーやん! 危ないって! よせよ!」

「まこっちゃん! 頼む。俺に行かせてくれ!」

「やめろ! 俺が行ってくるから!」

「2人ともストップ!」

 優っちが叫んだ。

「ここは絶対、みーやんが行ったほうがいい」

「なんでだよ!?」

 琴弥が優っちの襟をつかんだ。

「いいから! 行け、みーやん!」

 俺は優っちの声を合図に、琴弥の手を振り払い慎重に崖を降りた。

 賢斗。

 もすうぐだ。

 俺、お前を助けるからな。絶対。

 上から琴弥と優っちの言い合う声が聞こえる。

「俺のほうがパワーあるんだから、俺が行ったほうが確実に安定して賢斗を助けてやれるだろ!?」

「そういう問題じゃないんだよ。今はみーやんじゃないと、絶対ダメなんだ」

「なんでだよ!?」

「わかれよ!」

 優っちのその怒鳴り声を最後に、静まり返った。俺はあまり気に留めず、慎重に下へ降りていく。

 4メートルほど降りてようやく、賢斗に近づいた。

「賢斗」

 優しく俺が声をかけると、賢斗がうっすら目を開けた。

「リョウ……」

「賢斗……」

 ホッとした。よかった。無事なんだ。

 そう思って賢斗に触れて、ドキッとした。異様に体が冷たい。

「リョウ……寒い……」

 その言葉を最後に、賢斗の手が俺の手から落ちた。

「え……? け、賢斗……」

 ウソだろ? いま、目ぇ開けたじゃん……!

「賢斗! おい! 起きろよ、賢斗!」

「みーやん!? どうしたんだよ!?」

 琴弥の声が聞こえた。

「賢斗が……賢斗の体が冷たくて、賢斗、意識ないんだ!」

「意識がない!?」

 琴弥の声が響く。

「息は!?」

「し、してない……」

「みーやん! すぐに上がって来い! 賢斗、抱いて来れるか!?」

「背負ってなら行ける!」

「早く!」

 俺はしっかりと賢斗を背中に背負い、崖を必死に登った。正直言って、弦バスという楽器を俺は弾いているので、あまり手を傷つけたくなかった。でも、今はそんなことを言っている場合ではない。

 5メートルほどある崖を、俺は降りるときよりも早く上がってきた。

「寝かせて」

「わかった」

 琴弥が声をかける。

「賢斗。聞こえるか、賢斗!」

 しかし、応答がない。

「……。」

 雨の降る音だけが響く。

「大丈夫だ。心臓は止まってない」

「じゃあ、なんで息しないんだ!?」

「……。」

「琴弥!」

「お前……心配しすぎ」

「え……?」

「ホラ」

 琴弥が俺の耳を無理やり賢斗の鼻の近くへくっつけた。スゥ……スゥ……と息の音が聞こえる。

「あ……」

「息してるだろ」

「……。」

 あっという間に力が抜けて、俺は尻餅をついた。

「よし。後は俺が背負って行く。ちょっと体温が低くなって、ボーッとしてるみたいだ」

「大丈夫なのか?」

 俺の念を押す質問に、琴弥は笑って言った。

「ホテルに帰って温めれば、何の問題もない」

「……よかった」

 ポロポロと涙がこぼれ落ちて、止まらなくなってきた。おまけに、嗚咽まで始まった。

「大事なんだな」

 琴弥が心底羨ましそうに、そう呟いた。

 俺はなんのためらいもなく、こう言えた。

「命に代えても守っていい、そんな存在だ」


 ホテルに帰ってから、久遠たちは青ざめた表情でずっと俯いていた。久遠も、畔上も枝野も菅原も、声ひとつ発さない。

「琴弥」

 琴弥が戻ってきたので、まこっちゃんが彼の名前を呼んだ。

「どう? 賢斗……」

「心配ない。ホテルの医務室行ったけど、少し温めればすぐに回復するって」

「よかった!」

「みーやん。俺、まこっちゃんと優っちで部屋に戻って賢斗の服とか取ってくるよ・ビチョビチョになったからさ」

「OK」

 琴弥たちはあえて久遠たちに一言も声を掛けず、冷めた目だけを向けて上へ上がっていった。

「……。」

 沈黙だけが続く。俺もこんな重苦しい空間嫌だし、賢斗の様子でも見に行ってみるか。

「……?」

 立ち上がって久遠たちの前を通った時、突然菅原が俺の服を引っ張ってきた。思わず、俺もキツい目で彼女を睨んでしまった。

「ゴメンなさい……」

 それでも菅原は怯まずにこう呟いた。

「何が?」

 俺は怒りがまだ収まらず、冷たい声で続けた。

「あなたの……大事な人を、傷つけてしまって……ゴメンなさい」

「……。」

 菅原の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。わかってる。菅原は、大事な友達――畔上のために、畔上を俺に振り向かせたいがために、賢斗にあんなことをしてしまったんだって。久遠も、枝野も。友人のために、動いた。その動き方をちょっと、間違えただけなんだ。

 そう思うと、急に彼女たちのことを許せる気分になった。

 ポン、と菅原の頭を撫でた。

「いいよ」

「え?」

 こればかりはウソなんかじゃない。心からの笑顔。

「久遠も、枝野も、お前も……。畔上のためを思っての、行動だったんだよな?」

「……うん」

「ちょっと行き過ぎだったけど、その思いだけは、理解(わか)る」

「……ありがとう」

 久遠が立ち上がり「ゴメンなさい」と言おうとした。

「いいよ」

「で、でも」

「賢斗が無事だったんだ。俺はお前らを責めるつもりなんて、サラサラないから」

「……。」

「部屋戻りなよ。俺、賢斗のトコ行ってるから」

 俺は彼女たちに手を振り、医務室に向かった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ