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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第1章 君を好きになった
33/61

31 2人だけの空間

 やわらかかった。


 俺の、初めてのキスだった。


 相手が寝ている間にするなんて、最低かもしれないと思った。


 でも、そうでもしないとこの思いが抑えきれなくなりそうで怖かった。


 重ねた唇の感触は、とてもやわらかかった。


 まるで、この時間が永遠に続くんじゃないか。そんな風にすら思えるほど、この瞬間は輝いていた。

「……!」

 10秒ほどだったと思う。俺は急に恥ずかしくなって、亮平の唇から自分の唇を放した。真っ赤になっているのがわかった。すごく、恥ずかしい。

 亮平を起こさないように静かに彼の眠る布団から離れた。

「ウーン……」

 亮平がゴロンと寝返りを打って、俺に背を向けた。別に、普通の背中のハズなのに、まるでその背中が俺を拒否しているように見えてきて、なんだか悲しくなった。

 恋愛をすると、どうもネガティヴになってしまうクセが俺にはあるようだった。

 亮平へのキスは俺、初めてだったけど俺は知っている。亮平はこのキスが初めてではないことを。そうでなければ、初キスを男に奪われたなどという悲しすぎる事実を俺が作れるわけがない。いや、一般的に考えれば男にキスをされた、なんていうこと自体、悲劇なのかもしれないけれど。

 亮平の初キスを、俺は偶然見てしまった。西七海中学時代のとき、中学2年生だった。


 俺はあの日、中庭の掃除当番だった。

「最初はグー、インジャンホイ!」

 グループ全員で、ゴミ捨て当番を決めるインジャンをしていた。

「あー!」

「アハハハ! 賢斗の負け~! はいっ、このゴミどうぞ!」

 俺は一人負けして、ゴミ捨て当番にバッチリ当たってしまった。

 掃除終了後、俺はゴミ袋を右手に持って、校舎裏のゴミ捨て場へ向かっていた。その時だった。

「あ。リョウじゃん」

 昇降口のところに、亮平がいた。この昇降口は北校舎にあり、放課後は人の行き来があまりない。亮平に声をかけようとして、俺は誰かもう一人いることに気づいた。

 俺と同じクラスの女子生徒だった。手紙を持っている。俺は慌てて姿を隠して、その会話に聞き入ってしまった。

(リョウ……またモテてる)

 中学2年生にして身長170センチ。弦バスっていう楽器を弾けて、体育もそこそこできて、成績も悪くない。ちょっと無愛想なところはあるけれど、優しい性格。そんでもって、男から見ても羨ましいくらいのイケメン。これでモテないはずがない。

「お手紙……書いたんで」

「うん……」

 会話の続かない二人。恐らく、彼女がリョウに告白しているんだろう。それぐらいの見当はついた。でも、リョウは今はまだ、特定の誰かと付き合うつもりはないってこの時、いつも俺に言っていた。それはもちろん、俺にだけではなく、公言もしていたように記憶している。

「でも、俺……今はまだ、誰かと付き合おうなんて考えてない」

「なんで?」

「なんでって……。特に理由はないけど、俺は付き合う気なんてまだなくって……」

 俺はリョウのバカ!とその時ばかりは思った。女の子の気持ちを無視した、自分本位の答え。これで女の子が納得するはずなんてないのに。

「私は……そんなの、納得できない」

 ほらね。言わんこっちゃない。

「三宅くんは、私のこと嫌い?」

 嫌いって聞かれて「はい。嫌いです」なんていうバカな男はいない。

「いや……嫌いじゃないけど」

「じゃあ、私と付き合って!」

 意外と強引な性格なんだな、この子。

「それは無理」

 また冷たい言葉を……なんとかそこは、もうちょっと優しい言葉をさぁ。

「……!」

 次の瞬間、目を疑った。

 彼女は身長165センチくらい。リョウは180センチ。けれど、そんな身長差をなくす勢いで彼女は亮平の顔をしっかり掴んで、一気に自分の方へ引き寄せた。

 有無を言わせない強引な手段だった。

 その後、どうなったかというともちろん、混乱したリョウが一気に彼女と距離を置き、付き合うどころか顔も合わせてもらえないなんていう状態に陥った。

 リョウがヒドいと思う女の子も多かったみたいだ。でも、それだけリョウが純粋だったという風に、俺は考えている。

 いつだったか、その告白からしばらく経ったとき。リョウのほうから言った。

「俺の初めてのキスだったのに……」

 あんな形になって悔しい、と取れるような言い方だった。それからリョウが告白を受けることは、まったくなくなってしまった。俺が好きになった人でない限り、付き合わない。そう、ハッキリ言うようになっていた。俺が知っているだけで、中学の間に5人の女の子をフッていた。かなりのモテ具合だが、リョウにとっては苦痛でしかないようだった。


 半分トラウマになっているようなリョウの恋愛。俺がしたキスは、リョウにとって、二度目のものだったのだろうか。

 そう考えると心苦しいものがあった。このキスも、リョウが望んだものじゃない。

「……。」

 申し訳なさがこみ上げてきて、俺はポケットからハンカチを取り出し、リョウの唇を拭こうとした。痕跡をなんとなく、形だけでも消しておこう。そう思った。

 拭こうとしたらリョウがまた寝返りを打った。しかもなぜか、寝苦しい感じに見えるうつ伏せに。

「仕方ないか……」

 リョウは寝ているし、俺にキスされたことなんて微塵も覚えていないだろう。俺はそう思い、拭くことを諦めてハンカチをポケットに入れなおした。

「顔洗おう」

 気分を入れ替えるために俺は部屋を出て、顔を洗いに行った。


「……ねぇ、今の」

 遥子が呟く。

「言わないで!」

 あたしは我慢できなくなって、耳をふさいだ。

 本当に偶然だった。裏庭に綺麗な花壇があって、それを遥子と見に来ただけだった。三宅くんと大澤くんの部屋の近くだったことに気づいて、大澤くんがどんなことをしているか興味本位で覗いたら。

 大澤くんが、三宅くんにキスをしていた。

「……やっぱり、噂は本当なんだよ。大澤くん、三宅くんが好きだって噂はあったじゃない! やっぱり、彼はホ……」

「やめて!」

 耳をふさいで遥子の言葉が聞こえないようにした。

 あたしの告白を受け入れてくれないのは……男の子が好きだから?

 あたしの好きな人は……あたしに振り向くことはない?

「ウッ……ウウッ……!」

 悔しい。あたしに振り向いてくれることがないとわかったら、すごく悔しかった。

「……。」

 あたしは気づいていなかった。その時、遥子が考えていたことを……。





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