表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第1章 君を好きになった
32/61

30 夏の匂い

「……。」

 小旅行当日。旅行は1泊2日。吹奏楽部の亮平とまこっちゃんに優っち、体操部の琴弥がうまく休みだったこの日を利用して、俺たちは小旅行を決行した。

 ちなみにメンバーは俺、三宅 亮平、山崎 琴弥、戸口 誠、日高 優、前橋こころ、藤岡 知未、柳原 玲菜、今まであまり俺と関わってこなかった久遠 遥子、そしてなぜか、畔上 菜穂がいた。

「……。」

「おい、どうしたんだよ?」

 亮平が心配そうに俺に声をかけた。

「何が」

「お前、すっげぇ不機嫌っぽいけど……」

「別に」

「そう……?」

「うん。悪いけど俺、眠いから寝るね」

 最低だと思う。せっかくの旅行なのに、こんな不機嫌な感じ丸出しのヤツ。

 最近、亮平との関係が良くなったり悪くなったりの繰り返しだ。それもそうだろう。好きだって言っておいて、自分が不安になったら「友達としての好き」とか言って、自分の都合の良いように持って行く。本当は恋愛対象だよ。そう言いたいのに、以前の事件が気になって、結局言い出せずに夏休み前になってしまった。

 さらにその悪循環に拍車をかけてくれたのが、何も知るよしのない畔上だった。俺のことが好きだという畔上。どうやら、俺のクラスメイトである久遠 遥子とは小学校からの友人のようで、久遠づてにこの小旅行の話を聞いたとき、是が非でも参加したいと言ったそうだ。

 集合した時、畔上の姿を見て亮平の隣にいる時とは違うドキドキが鳴り出した。亮平もまこっちゃんも優っちも琴弥も「あれ? その子……」と言って不思議そうな顔をした。久遠は「仲良しだから、ついつい連れてきちゃって……」とか言ってた。亮平たちは特に疑う様子もなく、納得していたようだ。俺は全然納得していないけど。

 いつ、全員の目の前で「あの日の返事、ちょうだい」なんて言われるかわかったもんじゃない。怖すぎる。亮平にも知られたくないのに。

 でも、返事をどうすればいい? 好きな人はいない。それは女子には、だ。あんな事件があってから、俺の名前は学年のほとんどに噂という形で広がった。まぁ、それもあって1学期は学校に来なかったんだけど。

 ダメだ。好きな人はいないという返事はできない。じゃあ、どうする?

 手っ取り早いのは、亮平とケンカすること。ケンカして口も利けないくらいに仲を悪くしてしまえばいい。けど、そんなことをできるはずがない。今でも、ちょっとぶっきらぼうな態度を取っただけでこれだけ、自分が取り乱しているのがわかる。そんなことはできない。

「ごめん、ちょっといい?」

 亮平が俺の目の前に顔を出してきた。

「! な、なに!?」

「窓開けていい?」

「は!? 冷房入ってるじゃん」

「その冷房がちょっと嫌なんだよ、俺」

「何が? 意味わかんねー」

「冷房独特の匂いが充満してきてて、ちょっと空気の入れ替えしたいんだよ」

 そんなさぁ……ストーブとかじゃねぇのに。ま、いっか。

「はいはい。開ければいいんでしょ」

「はいは1回」

 クソッ。なんか腹立つ。

 でも、こういうやり取りをしていれば普通の男友達だよな。まったくもって、なんで俺はよりによって親友に恋愛感情を抱いてしまったんだ。

「前、失礼~」

 俺の目の前に亮平の体がドアップで映った。ワックスの香りと、若干の汗の匂い。臭いじゃない。字としては匂いのほうがいい。

「ん~!」

 窓を開けるなり、亮平は深呼吸した。お願いだから、早く自分の席戻って。じゃなきゃ、心臓が持たない。

「ちょ、いつまで前にいるんだよ。暑苦しい」

「なんだよ。さっきから機嫌悪いヤツだな」

 亮平はブスッとした顔を浮かべて俺の隣の席に戻った。

 開かれた窓から、外の空気が流れてくる。夏特有の湿った暑い空気。でも、陸上部の俺としては嫌いじゃない。

 あー。夏の匂いがする。なんか、季節ごとに匂いってしない? 春には少しずつ暖かみの増してくる、やわらかい空気。秋には、涼しげでどこか寂しげな空気。冬には乾いた冷たい空気。えらく詩人みたいなこと言ってるように感じるけど、やっぱり俺、季節にはいろんな匂いがあると思う。

 そういえば昔、亮平にそういう話を聞いたな。亮平の影響が大きいのかもしれない。

「夏の匂いがするなぁ」

 ……。

 あれ? 俺の心の声が漏れてる?

「な? 賢斗もそう思わない?」

 亮平の言葉だった。俺は自然と心臓が高鳴る。

「夏の匂いって何だよ」

 俺は茶化す素振りをして、亮平に聞いた。

「うん。なんかさ、湿っぽくってうっとうしい感じがするんだけど、アイスとか冷たいジュースを他の季節よりも5倍くらい美味くしてくれるような、匂い」

 俺は思わず噴き出した。

「食い意地張ってるな」

「それだけじゃないぞ? 夕立が降ってきたときのコンクリートが焼けた匂い。あれも立派な夏の匂いだし、花火の煙の匂いも夏の匂い」

 驚きの連続。息が詰まりそうだった。亮平の考える夏の匂いと、俺の考える夏の匂いが不気味なほど、一致していた。ひょっとしたら、俺が昔聞いた亮平のこの考えを勝手に気に入って、今でも使っているのかもしれない。それでも、嬉しいものは嬉しい。

「俺も、同じこと考えてた……」

「え? お前も?」

 亮平が途端に笑顔になった。

「やっぱなぁ! 俺ら、以心伝心かもな!」

 亮平が嬉しそうに俺の背中をバシバシ叩いた。

()てーよ、バカ!」

「まぁ、そう照れんなって」

 俺は顔が赤くなるのを隠すのに必死なだけだってば。

 だけどこの時、あの視線を感じないはずはなかったのに。どうして俺はあの視線を、気にしないようにしていたんだろう……。


「そんじゃ、部屋割りはこういう具合だから」

 前橋の考えた部屋割りに琴弥が悲鳴を上げた。

「女子と一緒とかじゃねーの!?」

「アンタ、ばっかじゃないの!?」

 前橋に一喝されて体が縮む琴弥。オホン、と前橋は咳をしてから続けた。

「というわけで、部屋割りは異論もないようですのでこれで行きたいと思いま~す」

 こればっかりは、前橋に感謝したい。なぜなら部屋割りはこんな具合になったからだ。


(桃)三宅/大澤

(竹)戸口/日高/山崎

(梅)柳原/前橋/藤岡

(松)久遠/畔上


 さらにちなみに、桃は松と、竹は梅と向かい合わせとなっている。つまり、部屋割りこそ男女別になったものの、就寝時以外は出入りできるようになっているのだ。やっぱりこのあたり、学校行事での宿泊とは異なるのかもしれない。

「それじゃ、荷物を置いてちょっと休憩しよっか。今は11時半だから……12時に食堂前に集まって、みんなでご飯食べよう!」

 一人元気いっぱいの前橋。

「了解~」

 部屋へ散っていくメンバーたち。俺と亮平は桃の部屋へ入ってから、しばらく沈黙してしまった。

「……とりあえず、荷物置こうか」

 俺が黙ったのは、やっぱり緊張してしまったから。でも、亮平は違うかったようだ。

「やべぇ……眠い……」

 早起きしたからかな? 亮平がすごく眠そうだった。昼ご飯までは30分ほどある。仮眠を取るにはちょうどいいかもしれない。

「寝てろよ、リョウ」

「へ? いいのか?」

「メシの前になったら、起こすからさ」

「サンキュー……すっげぇ助かる」

 亮平は押入れから早速布団を取り出してその上にゴロン!と転がると、すぐにスゥスゥと寝息を立て始めた。

「……。」

 亮平の寝顔は本当に綺麗だ。イケメンだもんな。

「……。」

 鼻筋もシュッとしてるし。寝ててもイケメン。本当に、部屋割りを考えてくれた前橋には感謝、感謝だ。

 でも。

 我慢できなくなりそうで怖い。

 リップクリームを塗っているのか、艶いっぱいの綺麗な唇。弦バスという楽器を弾いているので、指先は華奢で手も綺麗。顔も、洗顔している上に化粧水もしているそうでニキビひとつない、まるで子供のようなツルツル肌。世の女子がこんな亮平を放っておくハズがないのになぁ……。

 そんな亮平の姿を見ていると、俺のストッパーが緩んできた。

 そっと、亮平の隣に寝転んでみた。

 ヤバい。それだけでドキドキする。

 俺はとうとう、ドキドキを抑えられなくなった。

 大丈夫。寝ているから……。

 そう思って俺はゆっくり、唇を亮平の唇に近づけてみた……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ