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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第1章 君を好きになった
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24 校舎裏の影

 結局、俺は学校へ行かない日がずっと1学期中続いた。高校生にもなって登校拒否だなんて、ちょっと格好悪いかもしれないけれど、俺はとても学校へ行く気にはなれなかった。ただ、勉強だけはしていた。教科書を見て、なんとなく雰囲気でこなしている感じだったけど。

 両親は俺を責めたりしなかった。病院で精神的に疲れが出ているので、無理をしないようにと医師(せんせい)から言われたのが効果絶大だったみたいだ。それが学校側にも伝わり、いろんな配慮をしてくれた。授業は受けられなくても、提出物は出すこと。そのために、自分である程度勉強をしておくこと。それが条件だった。

 琴弥、とぐっちゃん、優っちが日替わりで彼らのノートを貸してくれたり、問題集の宿題範囲を教えてくれたりしたおかげで俺は1学期末のテストも60点から70点をキープすることができた。そして今、無事に夏休みを迎えることができている。

 表では盛んにセミが鳴いていた。この声を聞くと、夏が来たんだなと思う。

「亮平……どうしてんだろ」

 吹奏楽部の亮平はこの時期、いつもコンクールの練習で毎日学校へ行っていた。中学からそれだったのだから、高校でも多分変わっていないだろうな。

「……。」

 気になって気になって仕方がない俺は、遂に学校へ行くことを決意した。

「あら、賢斗?」

 母の早季子が制服を着た俺に目を丸くした。

「どうしたの、制服なんか着て」

「……学校、行ってくる」

「でも……」

 何かを言いかけて母さんは言葉を止めた。代わりに、笑顔で見送ってくれた。

 日差しがキツい。外って、こんなに気持ちよかったんだっけ。俺、しばらく外に出てないから忘れちゃったよ。

 校庭の近くへ来ると、野球部が練習しているのが見えた。俺もしばらく走ってない。でも、陸上部顧問の笹岡先生や先輩たちは俺の復帰を心待ちにしてくれている。どうして七海高校の人たちはこうも優しい人ばかり揃っているんだろう。不思議で仕方がない。

 なるべく人目につかないように裏口から入った。けど、そんな俺の配慮もお構いなしに運命っていうのはこうもゴロゴロ変わっていくんだなと思う。

「あれ!? ねぇ、大澤くんだよね!」

 声を掛けられたのでギョッとして振り向くと、亮平と同じ吹奏楽部の加藤がいた。

「やっぱり~! 久しぶり! 元気してる?」

 後ろに見慣れない男子が二人。スリッパが黄色ということは、2年生か。

「めぐ、誰? その子」

 背の低いほうが興味津々といった様子で加藤に聞いた。

「あ、きっとそれならみーやんのほうがよく知ってますよ。ね、みーやん!」

「あ?」

 亮平が教室の窓からヒョコッと顔を出した。目が合って俺たちはしばらく呆然としてしまう。

「みーやん! 誰、その子」

「俺の……」

 久しぶりに亮平の声を聞くとドキドキしておかしくなりそうだ。俺は顔がきっと真っ赤になっている。

「幼なじみの、大澤 賢斗くん」

 フルネームで呼ばれた。ドキドキが止まらない。

「へぇ~! 君があの大澤くん!?」

 背の高いほうがニコッと笑って俺を見た。この人、俺のこと知ってる?

「あ! グランドの王子様かぁ!」

 背の低いほうが言った。すると、その言葉を聞いて不思議そうな顔をしてる俺に亮平が説明した。

「俺が言っちゃった。ゴメンな、賢斗」

「ううん……」

「えと、紹介しとくよ。こちら、銀色の楽器を持ってる人が水谷先輩。それから、この金色の楽器を持ってる人が本堂先輩」

「初めまして! 水谷(みずたに) (はる)()っていいます。よろしくね、王子くん!」

 名前は王子じゃないんだけど……ま、いっか。

「俺は本堂(ほんどう) (たく)()。よろしく」

 亮平よりも背がずっと高い。威圧感のある人だ。

「それより、今日はどうしたの?」

 加藤が不思議そうに聞いた。

「部活?」

「あ……いや……その……」

 俺の目線になんとなく察知したのか、本堂さんが「わかった。みーやんに用事だ?」と言ってくれた。鋭い人みたいだ。

「え? そうなの?」

「な」

「……はい」

 ありがとう。本堂さん。俺、マジ助かっちゃった。

「ちょうどもうすぐ昼休みだろ? みーやん、彼とメシ食ってやんなよ」

「え!?」

 そこまで予想してなかったんだけど!

「あ~……」

 でも嫌だろうな。今まで引きこもってたようなヤツといきなり昼ご飯なんて。

「いいな、それ」

 へ?

「行こうぜ、賢斗。久々に」


 予想外の展開だった。大げさかもしんないけど、運命なんていうのはコロコロ変わるようだ。亮平の顔を覗ければそれで十分と思ってたのに、久しぶりに昼ご飯を一緒に食べるような展開になってしまった。 近くのローソンへ来て、俺はとりあえずおにぎり2個を買った。

「何? そんだけしか食わないの?」

 亮平を見ると、パスタにパン2個が既に袋に入っていた。

「ん~……暑さでちょっとバテててさぁ」

「ふぅん……」

 亮平は心配そうに俺を見る。コンビニを出てからもいまひとつ、会話が生まれない。いつの間に俺たちの間には、こんなに距離感が生まれたんだろうか。

 学校に戻ってきて、亮平は夏場でも涼しい場所を見つけたといって案内してくれた。学校の一番北側の門辺りに、小高い場所があった。ちょうど北校舎の影になっていて、とても気持ちいい。影といってもジメジメとした学校特有の校舎裏のような雰囲気はなく、気持ちいい。

 どちらも会話がなく、やっぱり黙々と食べて時間ばかりが過ぎていく。

「あのさ……」

「うん?」

「音楽室から関西弁聞こえてくるけど、スイソーに関西出身の人いるの?」

「あー、うん。部長の佐野さん」

「賑やかだね」

「うん。あの人と、付き合ってる副部長の朝倉さん。この二人、いるだけで賑やか」

 亮平は面白そうに笑った。

「なんていうのかな。自分を丸出しに近い状態にしてる人同士だから、遠慮とかないって感じ」

 なるほど。俺とは正反対の人たちってことか。

「俺も最初は苦手だったけど、今はもう……自分を隠すなんていうのは、しんどいだけかなって、思う」

 急にだった。亮平が俺の肩に手を回してきた。ドキッとする。ワックスつけてるのかな。いい香りが……じゃなくって!

「お前さ」

 真剣な表情で、低い声で耳元で囁く亮平。どうしちゃったんだよ!? お前らしくない!


「俺のこと、好きって、ホント?」


 え……?


 いま……なんて?


「答えろよ」


 何?


 亮平?


「俺のこと、好きかって、聞いてんの」


 ウソだ……。言わなきゃ、ダメなわけ?


 怖い……。


(今はもう……自分を隠すなんていうのは、しんどいだけかなって、思う)

 さっきの言葉。

 これは、俺に対する呼びかけ?

 亮平の目は、真剣だ。俺……ホントのこと、言っちゃうよ?

 俺……。俺さ……。

「俺……亮平のこと……」






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