23 微妙な距離感
結局、賢斗はまだ学校に来ない状態が続いた。賢斗の席は空席のまま。あのファミレスでの一件以来、賢斗とは口を利きにくくなってしまった。今となっては、メールもあまり交わさなくなった。それと同時に、柳原もあまり俺と関わりを持たなくなってしまった。
「なぁ……」
心配そうに琴弥が声をかける。俺はなるべく平静を装った顔で振り向いた。
「うん?」
「賢斗……最近、どうしてる?」
「……さぁ」
「さぁって……お前、親友だろ!?」
琴弥の大声にクラスメイトの視線が集中する。柳原や藤岡、前橋も驚いた様子で目を丸くしている。
「大きな声……出すなよ。迷惑だ」
「迷惑って……賢斗が心配じゃないのかよ?」
心配じゃないわけがない。ただ、賢斗と俺はもう……。
「別に」
琴弥の顔が強ばった。
「心配でも、なんでもない」
「……お前」
バァン!と音がした。柳原の突然の行為に、前橋と藤岡が目を丸くしていた。
「信じらんない……!」
そう言ってすぐに柳原は教室を出て行った。
「ちょ……玲菜!?」
飛び出した柳原を追いかけて、前橋と藤岡が慌てて後を追う。クラスメイトは呆然としているしかなかった。
「そんなヤツとは思ってなかった」
「は?」
「お前……意外と薄情者だな」
軽蔑するような目線で、琴弥は俺を見下ろした。
「どういう意味だよ」
「別に。深い意味はないよ。ただ、言葉の意味どおりに受け取ってもらえたら、それでいい」
そういうと琴弥はスッと自分の席へと戻っていった。
「意味わかんねぇ……」
本当に意味がわからない。俺は……どうすりゃいいんだよ。
なんで。
なんで三宅くんは平気であんなことを言えたんだろう。
大澤くんの気持ちを平気で踏みにじるようなことして……。そんな人だとは思ってもみなかった。
「玲菜ぁ……どうしたのよ?」
こころと知未が追いかけてくる。私も……この気持ちを言えたらどんなに楽だろう。追いかけてきて息を荒くしている二人を交互に私は見やった。
「どしたの?」
「……。」
「れーなっ? どうしたの?」
「私……」
「うん?」
言えない。怖い。言ったらどうなるんだろう。
「どうしたの?」
怖い。言えない……。
「何でも……ない……」
「……そう」
こころと知未はそれ以上追及してこなかった。
「そろそろ、授業が始まるから戻ろうよ」
「そうだね。行こう、玲菜」
「うん……」
私はこころと知未が歩く少し後ろを歩いていった。彼女たちと私の距離感。微妙に開いたこの距離。けれど、私の世界と彼女たちの世界はこの微妙な距離とは比べようのないほど、距離が開いている。
「あるのかな……」
「え? 何か言った?」
耳のいいこころが振り向いた。
「ううん! 何でも」
「そう」
三宅くんと大澤くん。
宮部さんと私。
大澤くんとクラスのみんな。
私とクラスのみんな。
みんな、微妙な距離感がある。それを埋めるために、友達になったり付き合ったりするのかな。
私もいつか、いま宮部さんに感じているこの微妙な距離感を……解消できるのかな。
そんな日が、来るといいな。