21 想い出に
国道沿いのデニーズ。日当たりの良い南側の席に、私と宮部先輩は座った。
「ねぇねぇ、何食べたい?」
「えっと……私、とりあえずチョコレートパフェで」
「あ、偶然。私も食べたいと思ってたんだよね」
「え? 好きなんですか? パフェ」
「基本的に甘いものは大好きだよ! クッキーとかも甘目を選んじゃう」
宮部先輩は恥ずかしそうに言った。
「あんまり甘いもの食べると太っちゃうからな〜……」
そうかな。宮部先輩が太ってるっていうなら、世の中の女の子はほとんど太ってるコトになっちゃうんだけど……。
「私ね〜、同じパートに大谷っていう子がいるんだけど、すっごいスタイルいいの。私、彼女みたいな体型に憧れてるんだ〜」
憧れ……か。
私の宮部先輩に対するこの気持ちは何なんだろう。憧れ、といえばそうかもしれない。でも、憧れだったらこんなにドキドキすることなんてないはずよね。
「だからといって、無理にダイエットする気はさらさらないし」
宮部先輩はおかしそうに笑いながらハッキリ言った。
「あの……宮部先輩は」
「あ、ストップ」
え? 私なにか変なこと言った?
「その宮部先輩っていうの、やめない?」
「え?」
「堅いじゃない。私たち、もう赤の他人じゃないんだし」
「でも……」
「いいのいいの! 堅いこと言いっこなし! ね?」
「じゃあ……えっと……」
急にそうは言われても、何と呼べばいいんだろう。
「あ、そっか! 急にそんなこと言われても困るって話よね」
宮部先輩はまた大笑いしだした。よく笑う人みたい。
「じゃ、由美ちゃん先輩とか」
「え……」
そんな急に軽いノリ、私には無理かも。
「で、でも」
「やだなぁ。吹奏楽部じゃこんなの普通だよ?」
へぇ〜。吹奏楽部って堅そうな印象あったんだけどなぁ。
ん?
吹奏楽部?
「先輩、今日はクラブは……?」
「あぁ! 顧問の先生が出張だから、休みなの」
東先生だったっけ。イケメンらしい。女子にはかなりの人気。私も普通の女の子だったら、そういう風な話で盛り上がったんだろうけど。私はもう、普通じゃない。
「どうしたの?」
「え?」
「急に黙り込んじゃったからさ〜」
「いえ! なんでもないですよ〜」
「そう? ならいいけど……」
そういえば、なんで宮部先輩は私をお茶なんかに誘ったんだろう。
「あの……宮部先輩」
「あ、ホラまたぁ」
「え?」
「由美ちゃん先輩! はい、練習!」
えぇ〜!? 練習って……恥ずかしい。
「ゆっ」
「頑張れ!」
「由美ちゃん先輩!」
「はい! なんでしょう?」
うわ……。すっごい恥ずかしい。
「あの……なんで、今日私をお茶に誘ってくださったんですか?」
「あ……あぁ、それなんだけど」
由美ちゃん先輩は耳元でそっと言った。
「私をモデルに、絵、描いてくれない?」
「え……えぇ!?」
私の大声に視線が集まる。
「ね? お願い!」
「でも私なんかが……」
「あなたの絵、新人展覧会で見たの! すっごい綺麗だった」
やだ。恥ずかしい。
「私、高校生の間の想い出として、写真以外のものも残しておきたいんだ」
「中学のときも同じことしたんですか?」
「ううん。ただ、高校では吹奏楽始めてさ……。なんか、経験したことないような毎日がいっぱいで。なんか、フルート始めなかったらこんな風に毎日楽しくなんかならなかったと思うの。だから……」
あぁ、わかる気がする。この先の言葉。
「フルート持ってる絵、描いてほしいな」
そして、わかってる。私の答え。
「わ、私なんかでよかったら……いつでも」
「ホント!? わぁ〜! ありがとう!」
由美ちゃん先輩は本当に嬉しそうに笑ってくれた。由美ちゃん先輩が笑うと、私も嬉しい。
「じゃ、さっそく予定を合わせていい?」
「はい!」
私は手帳を開きながら、まさかの展開に胸を躍らせていた。それが逆に、私と大澤くんまで巻き込んで苦しめるハメになるとは夢にも思わず。