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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第1章 君を好きになった
21/61

19 全力で!

「あ……」

 部活が終わって美術室の鍵を掛けると、同時に宮部先輩が歩いてくるのが見えた。その隣にいる背の高い男の子は、三宅くんだ。

「……!」

 思わず隠れてしまった。鍵はドアに差したまま。急いで柱の裏に隠れて、しゃがんで息を潜めた。

(お願い……こっち来ないで)

 そんなに仲良くしないで。嬉しそうに喋らないで。サッサと行ってほしい。私に気づかないで。

「この辺りでいい?」

 ウソ……。なんでよりによって私のいる柱のとこで止まるの?

「すいません。どうしても相談したいことあって」

「いいのいいの。部活も終わったんだし。それで、相談って?」

 やっぱり宮部さん。部活が終わってからも後輩の相談に乗るなんて優しいな。

「クラスの……友達のコトなんですけど」

 大澤くんのことか。それで相談。なるほど、それだったら自然な流れだよね。

「友達?」

「はい」

「ケンカでもしたの?」

「ケンカ……っていうか……俺のせいで学校に来なくなっちゃって」

 三宅くん……のせいじゃないと思うんだけどな。でも、責任感じてるんだろうな。

「そうなんだ……。大切な友達?」

「幼なじみです。小学校も中学校も高校も一緒で……。まぁ、腐れ縁ってヤツですかね」

「そうなんだ〜。あたし、そういう仲の子はいないからなぁ。羨ましい」

 宮部さんが窓の外に顔を出した。長い髪の毛が初夏の風に吹かれてなびく。私はそれを柱の影からコッソリ顔を出して見た。ドキドキする。

「……突っ込んだこと聞いていい?」

「……。」

 三宅くんが黙り込んだ。

「ダメ?」

 宮部さんは心配そうに三宅くんの顔を覗きこんだ。

「……いえ」

「嫌になったら止めて。無視してくれてもいいし」

「そんな。無視だなんて……」

「冗談。やめてって声は掛けて」

 宮部さんが笑う。やっぱり綺麗だな〜。

「聞くけど……なんで、その子は来なくなったの?」

 うわ。核心を突く質問だ。

「……。」

「あ……マズい質問だったかな。やっぱり」

 でも、宮部さんがそれを疑問に思うのは当然のことだと思う。

「いえ……」

 しばらく沈黙の時間が流れた。宮部さんも三宅くんも動かないし、喋らない。急にまどから強風が吹き込んできた。私が差しっぱなしにした美術室の鍵が揺れて、音を立てた。

「好きな人が」

 突然、三宅くんが話を再開した。

「いるんですね、彼」

「あ、そうなんだ」

「その子に……まぁ……彼、キスをしようとしたんです」

 宮部さんの言葉が止まる。三宅くんは宮部さんの返事を待たずに、

「それで、それをクラスメイトに見られてて……写真まで撮られて、挙句にクラスでバラされちゃって……」

「例えばさ」

 宮部さんが急に三宅くんの顔を両手でつかんで近づけた。三宅くんの顔があからさまに赤くなる。

「え!?」

「こんな風に顔を近づけたら、キスに見えるわけ?」

「そ、それは……どうなんでしょうね」

「変なの」

 宮部さんが笑った。

「別にいいじゃない」

「え?」

「キスに見えたら、嫌だったの? その子」

「……。」

「何か言ってた?」

「いえ……。ただ……彼、やっぱりその子のことが好きなんだって言ってました。どれだけバカにされたって、好きなものは好きだって感じで」

「でしょ?」

 宮部さんが笑う。

「好きなものは好き。何か文句ある?」

 宮部さんがガッツポーズを取りながら言う。

「好きなら全力で好きにならなきゃ!」

「……!」

 その言葉は、私にも三宅くんにも響いただろう。そして同時に、宮部さんに対する気持ちが、ますます二人とも強くなった瞬間でもあった。


「あれ? なんだ柳原。帰ったんじゃなかったのか?」

 美術部顧問の(おお)久保(くぼ)先生が顔を出した。

「いえ。まだちょっと描き足りない感じだったんで、がんばろうと思って」

「そうか。まぁ、頑張るのもいいがコンクールはまだ1ヶ月後だ。あまり根詰めすぎないようにな」

「ありがとうございます」

「帰る前には先生に一声掛けなさい。職員室にいるから」

「はい」

 大久保先生はそっとドアを閉めてくれた。気遣いだろう。優しい先生だもの。

 私は絵を新たに描き直し始めた。あんなに迷いのある絵はダメだ。描き直し。もう一度下書きから、綿密に。

 同時に私は、想いをもっと強く込めることにした。どれだけ込めても、三宅くんには勝てないかもしれない。でも、大澤くんだって負けずに想いを伝えたんだ。私だって、負けていられない。

 私には私なりの方法があるんだ。

 そう思うことで、私はその日のうちに下書きを終えることができた。






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