17 改めて、好きです
インターフォンの音が響く。
「……出ないね」
「なぁ」
三宅くんが突然呟いた。
「どうしたの?」
「俺、隠れてていい?」
「え? なんで。せっかく来たのに」
「俺がいるとアイツ、柳原も入れない気がするんだ」
「でも……」
「今ならまだバレてないから、頼むよ」
「……わかった」
入れてもらえなかったら元も子もない。私は三宅くんの提案に乗ることにし、私ひとりで来たかのように見せることにした。
もう一回インターフォンを鳴らす。
「……はい」
やっと出てくれた。
「あ、あの……柳原です」
「どしたの!? いま、授業中だろ?」
「くだんないから、抜け出してきた」
しばし沈黙。ヤバかったかな。
「フヘッ」
「へ?」
「柳原って、おもしろいな。待ってて。いま、玄関開けるから」
「うん!」
私は思わず笑顔になった。それから、三宅くんが出てくる。
「だ、大丈夫かな?」
「俺がそうしてって言ったんだ。俺が、説得するよ」
ガチャッとドアの開く音。そして、顔を出した大澤くんは凍りついたような表情になった。
「オッス」
「なんで……リョウがいるんだ?」
「ゴメン……。俺、本当はついてきてたんだ」
「……。」
大澤くんは何も答えない。
「ゴメンな」
「謝るなよ」
大澤くんがやっと笑顔になった。
「謝らないといけないのは……俺……なのに……」
そのまましゃがみ込んで、大澤くんは動かなくなってしまった。
「泣くなよ、賢斗」
「ゴッ……ゴメン。泣かれても困るって話だよな」
グスグス言いながら、大澤くんは立ち上がった。
「入って」
相変わらず綺麗な部屋だ。女の子でもここまで部屋を綺麗にしているかどうか、怪しいところがあるかもしれないな。少なくとも、私はマズい。
「……。」
「……。」
でも、それ以上にマズいのがこの会話のなさ。どうしたんだろう。二人、親友なんだよね? なんでそんなに喋らないのかな……。
あ、それもそうか。もう親友っていう枠組みを越えちゃったんだね。そりゃあ……微妙であり複雑だよね。
「あのさ」
三宅くんから口を開いた。
「単刀直入に聞いていい?」
「あぁ」
何を聞くんだろう。
「賢斗ってさ」
「うん」
私が一番ドキドキしてる気がする……。何を言うんだろう。
「俺のこと、いつから好きだったの?」
うわぁぁぁ〜……。それ、単刀直入すぎる! ズバッと切り裂く感じ……。スゴいな、三宅くん。
「それってさ」
うわ。大澤くん、答えるよ。
「いつからって、明確にしなきゃダメ?」
「え?」
どういうこと?
「どういうことだよ」
「何年何月何日に、三宅亮平を好きになりましたって、言えなきゃダメ?」
「そ、そういう必要ないけど……」
「だろ?」
間が空いた。それから、しっかりと大澤くんは言った。
「俺は、気づいたら、リョウが、特別な存在だった」
三宅くんの顔が真っ赤になってる。照れてるんだろうな。
「改めていいます。好きだよ、亮平」
「……参ったよ」
三宅くんは私の自転車を押しながら言った。
「あんなにハッキリ言われると、男なのにドキドキしちゃってさ」
「……そうだね」
私もドキドキした。しっかり自分を持ってるなぁ、大澤くんは……。
「でも……答えてやれないのが辛いな」
「そうだよね」
私は個人的な意見を言ったつもりだった。
「だって、三宅くんは……女の子が好きなんだもんね」
「……うん」
冗談も混じってたつもりだった。
「いま、好きな人とかいるの?」
「……あぁ」
え? 即答?
「えぇ!? それ、誰!?」
「アイツに言っちゃったんだけど……」
三宅くんは照れながらもこう言った。
「同じ吹奏楽部の先輩で、宮部さんっていう人」
私の頭の中で、思考回路が停止したような感覚に陥るのがわかった。