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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第1章 君を好きになった
18/61

16 偽善者集団

「……。」

 バカみたい。こんな話し合い。

 テーマは『いじめについて』。

 委員長の村本くんが手を挙げて言う。

「やっぱり、いじめっていうのはいじめる側が100%悪いと思います」

 それに一様に賛同するクラスメイト。だったら、今の私たちの状況、どう思ってるわけ? 吐き気がする。

 私は空席を見た。今日の欠席は一人だけ。

 大澤くんだけ。

 大澤くんはあの日以来、学校に来なくなった。私と三宅くん、こころちゃんの3人で手紙や課題を持って行ってあげてる。私だけなぜか、たまに家の中に入れてもらえることがある。なんでかは……全然わからなかった。

 私はまだ、宮部さんが好きだ。でも、それを誰にも言ったことはない。私自身に迷惑が掛かるからとかそんなことはどうだっていい。私が一番心配なのは、宮部さんに迷惑が掛かること。それを考えると、この思いは……誰にも言えない。だから、言わない。

「いじめを無くすには、何が必要と思いますか?」

 村本くんの声。何よ。アンタ、委員長のくせに何もしなかった。あんなに大澤くんが辛そうにしていたのに。アンタ、単語帳に顔を(うず)めて全然見ようともしなかった。私は見てたよ。みんな、見て見ぬフリしてたの。

 っていうか、あれを書いたのは誰よ。その人が最低。正直、今は信用できるクラスメイトは男子と女子それぞれ数人だけ。日高くん、戸口くん、三宅くん、山崎くんだけ。女子ではこころだけかな。私、今は知未と仲良くはしてるけど、彼女たちは自分のことを考えて黒板の落書きを消したり、大澤くんのことを心配するような言動もあまりなかった。

 だから、私いまはあんまり知未のことを信用してない。できないっていうほうが、正確かも。なんにせよ、私はいまこの空間にいることが大嫌い。さっきから偽善的な意見ばっかり。先生も知ってるクセに、知らないフリをしてる。

 許せない。

 気づいたら、私はバァン!と机を叩いて立ち上がっていた。隣の席にいた三宅くんと栗山が目を丸くしている。

「ど、どうした柳原」

 担任の水口先生が声を掛けてきた。私にしては珍しく大声で叫んだ。きっと、キレるってこういうことを言うのかな、と思いつつ。

「みんなウソつきばっかり!」

 教室が静まり返った。

「こんな意見、ウソばっかりよ!」

 持って行きようのない怒りがこみ上げてくる。私は怒りに任せて筆箱を黒板にぶつけた。

「キャッ!」

 副委員長の森山(もりやま) (あずさ)が小さな悲鳴をあげた。でも、そんなの関係ない。

「みんな、大澤くんがなんで学校来なくなったか考えたことある!?」

 教室は静かなままだ。

「……あんなことやっといて、よくこんな意見が出せるね」

 私はそう言い放ち、教室を出ようとした。水口先生が慌てて止めようとする。

「おい、どこへ行くんだ!?」

「別に」

「別にってなんだ、おい! 柳原!」

「先生もよく考えてみたら!? 大人のクセに、こんな意味のないことばっかりやってて……バカみたい!」

 思い切りドアを閉めて廊下を走り出した。

「ちょっと、玲菜ぁ!」

 こころの声が聞こえたけど、関係ない。私は気づけば玄関を飛び出して、上履き用のスリッパのままで自転車置き場に向かっていた。財布は常にポケットに入れてある。その財布には自転車の鍵を入れてある。私は鍵を取り出し開錠して、自転車に跨った。

「待てよ!」

 声がする。

「……なんで、お前いつも一人で突っ走るんだよ」

 三宅くんだった。

「別に……一人じゃないけど」

「ウソだろ。お前、こないだ賢斗の家に入っていったじゃないか」

「……人違いだよ」

「ウソ言わないでくれよ」

 三宅くんが私の両肩を抱えるようにしてきた。

「頼むよ! なぁ……柳原……」

「……。」

 言葉が出ない。

「俺さ……賢斗の想いに気づいてやれなかったんだ」

「仕方ないよ。ふつう、気づかないもんだもん」

「でも、ずっと親友だったんだぜ?」

「親友でも、わからないことくらいあると思うけどな」

「でも、家族以外だとずっと一番近くにいた仲だ」

「……。」

「俺だけでも……賢斗の理解者になりたいなとか思うんだけど」

 間を開けて、三宅くんは次にこう言った。

「偽善?」

「……ううん」

 偽善なわけないじゃない。三宅くんはいっつもまっすぐ。一所懸命だもん。私、まだ会ってそんなに経ってないけどわかるんだ。それくらい、三宅くんはまっすぐで一所懸命。それを否定なんて、できるわけないじゃん。

「乗って」

「え?」

「後ろ」

 私は三宅くんを後ろに乗せてあげようと思って、ぶっきらぼうな言い方になったけど、言った。

「いいよ」

「え?」

 せっかく言ったのに。

「代わって」

「え? え?」

「男の俺を乗せるの、大変っしょ。ほら」

 三宅くんは私を無理やり降ろすと、私の自転車に乗ってしまった。

「乗って、柳原」

「う、うん……」

「飛ばすよ。しっかり掴まって」

「わかった」

 三宅くんは初めこそフラフラしてたけど、ようやく安定した雰囲気で私の自転車をこぎ始めた。

「二人乗りは違反だけど……ま、バレないように行こうか」

 思わぬ発言に私は笑ってしまった。

「やっと笑ったな」

「え?」

「笑えば可愛いんだから、柳原、もっと笑えよ」

「……うん」

 なんだろう。何か、不思議な気持ち。

 よくわからない気持ちを抱えたまま、私は大澤くんの家の前に着いた。

(出てきてくれるかな……)

 少しの不安が頭をよぎったけど、私はすぐにインターフォンを押した。





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