13 先輩のアドバイス
「あ……1時間目始まっちゃったね」
宮部先輩はあまり気にしているようには思えないトーンでそう言った。俺は屋上に上がってきて、今は宮部先輩と二人きりだ。柵にもたれて空を見上げる。綺麗だな。空が高くなってきてる。そういえば最近、気温も高いなぁ。
「三宅くん? 聞いてる?」
「えっ! あ、すいません……」
「なんだかボーッとしてること多いよね」
「そうですか?」
「うん。絶対何かあると思ってたけど……相談って、そのボーッとしてることの原因が関係ある?」
意外と鋭いんだな、宮部先輩。ちょっとビックリした。
「先輩、そういうの気づくタイプなんですね! 俺、そんな風に思ってなかった」
「なぁにそれ。失礼だよ〜」
良かった。怒らない。やっぱり宮部さんは優しいや。
「それで、本題に入ろうよ」
「は……はい……」
いざ話そうと思うと緊張する。俺は決してそうじゃない。これは友達……いや、親友の問題なんだ。でも、俺の問題でもあると思う。名前は出すべきじゃないだろう。友達の話……そういうことにしておいたほうがいい。
あれ? 俺もひょっとして……賢斗を心のどこかで疎ましく思ってる? そんなつもりはない。俺と賢斗は親友だ。
だったら、名前言ってもいいじゃないか。宮部さんは、きっと、聞いてくれる。でも……やっぱりヤメだ。名前は出さない。賢斗の意志じゃないんだから、これは。
「引かないでくださいね?」
「引かないよぉ。どんな内容でも」
良かった。これで言う勇気ができた。
「俺……友達にキスされそうになったんです」
「……えぇ!?」
宮部さんは目を丸くした。そりゃそうだろうな。こんな突拍子もない話を急に始めるんだもん。
「スゴいねぇ! 三宅くん、モテるとは思ってたけど……そっかー! いきなりキスと来ましたか。その手もあるんだなぁ」
「え?」
その手ってどういう意味だ?
「あ、ゴメン。気にしないで続けて」
「はい」
「っていうか、あたしから聞いていい?」
「あ、はい」
「その子とはどういう関係?」
来た。これって……友達って言うべき? うん。賢斗とは友達だよ。でも、友達というよりは親友。賢斗だってきっとそう思ってる。そう思ってるハズだった。けど、賢斗は違ったんだ。賢斗は、間違いなく俺を……。
「親友……ですよ」
スムーズに答えられなかった。妙な間が空いてしまった。
「親友……か」
宮部さんも間を空けた。これって、何かに気づいてるんだろうか。
「親友ってさ、いいと思わない?」
宮部さんはニコッと笑って空を見上げた。どこからやって来たのか、鳩が2羽、仲むつまじく寄り添っている。
「あたしもね、親友いるでしょ」
「えっと……大谷さんでしたっけ?」
「そうそう。サキティね。今となってはあたしの大事な友達。っていうか、もう恋人みたいな感じかな〜!」
ビックリした。宮部さんって、そういう方面に興味あんの?
「あ、やだ! 勘違いしないでね。あたし、ちゃんと男の子が好きだから!」
「そうですか〜」
思わずホッとした。ため息が漏れる。漏れた後に気づいた。これって、宮部さんに何か気づかせてしまうんじゃ……。
「でもね」
気づいてないみたい。いいような、悪いような。
「親友ってさ、恋人と似たようなものじゃない?」
「なんでそう思うんですか?」
「あたしね、サキティとは家族にもしないような話をするの。大好きな俳優の話とか、気になってる子の話とか、親のグチとかいろいろ」
「……。」
女の子ってそういう話多いんだろうな。
「三宅くんはどう? 親友に、そういう話する?」
するよ。いっぱいする。賢斗とは、数え切れないくらいそういう話をした。
「……しましたね。今も、したい話いっぱいあります」
「もしも、その友達……親友が恋人に変わるとしたら、三宅くんは受け入れられそう?」
わかんない。性別がどうとか、いろんな問題があるから。
「どう?」
「わかんないです……」
「そっか」
沈黙が続いた。スズメの鳴き声が聞こえる。
「焦る必要はないと思うよ。きっと、そのキスをしようとした子だって、ずっと温めてきた思いが三宅くんの前だと出ちゃったんだよ」
うわ! すっげぇ恥ずかしいなその言い回し。
「三宅くんって、モテそうだもんね!」
気のせいかな。宮部さんの顔が少し赤くなったような……。
「とにかく、その子の気持ちをしっかり考えてあげて」
「……はい」
良かった。宮部さんに言って。
賢斗はいつから俺のことが好きだったんだろう。
「先輩」
「なに〜?」
「俺、今からその親友のトコ行って……素直な気持ちを聞いてきます」
「今から!?」
「はい!」
俺は気づけば走り出していた。
「がんばってねー!」
宮部さんの声がさらに俺の背中を押す。
賢斗。待っててくれよ。
俺は校門を飛び出した。目指すは、賢斗の家。それだけだ。