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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第1章 君を好きになった
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12 空席

「……。」

 次の日になった。結局、昨日は賢斗の姿をあの後見なかった。俺も山崎も日高も戸口も、柳原も藤岡も前橋も一緒になって学校中を探したけど、結局見つからなかった。気づけば、賢斗の外靴がなくなってて、代わりに上履きがきちんと片づけられていた。

 こんな風に、人間は来なくなった人を消していくのが上手いと思う。学校だって、近所だって、きっと日本だってそう。こんな話をしたら(ばち)当たりかもしれないけれど、人は死んだら忘れ去られていくものだと思う。死ななくても、たとえば芸人なんかがそうだろう? 一時期流行ってチヤホヤされても、次の年にはテレビどころか雑誌にすら姿を出さない人なんていっぱいいるじゃないか。

 賢斗だってきっとそうなんだろうな。このまま来なければ、確実に忘れられていく。残念だけど、実際このクラスで昨日やったことのせいで賢斗が来れなくなったなんて思ってヤツ、何人いる? 心痛めてるヤツ、いる?

 平気そうな顔をして単語の勉強して、笑って昨日のテレビの話して、大して変わりもしねーくせに化粧なんかして。ムカツく。

 気づいたら、机を叩いて俯いてた。教室が静まり返る。

「……三宅くん」

 柳原が恐る恐る俺に声を掛けた。ヤバいヤバい。柳原は関係ない。こんな風に迷惑かけてちゃダメだろ。それに、もっと辛いのは賢斗なんだから。

「何?」

「あ……の、先輩っていう人が呼んでる」

 廊下を見ると、宮部さんがいた。

「おはようございます」

 俺は若干冷めた声で挨拶をした。天然なところがある宮部さんは特に俺の様子を気にも留めず普通に「おはよ!」と明るく返してくれた。

「あのね、今日の部活なんだけど、部活後に1年生歓迎会ってことでプチパーティーするの。三宅くんは都合、どうかな?」

 それならなんで俺のパートの先輩が聞きに来ないんだろうか。俺には二人、男子の先輩がいる。それなのに宮部さんが来た意味がいまひとつ、わからない。

「三宅くん?」

「あっ、はい!」

「どうしたの、今日。ちょっとボーッとしてる」

「いや……別に」

「そう?」

 宮部さんは心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

「何かあったらいつでも言ってよ? 三宅くんって、けっこう溜め込みやすそうなタイプだから」

 ドキッとした。まだ正式入部して間もないのに、なんでこの人こんなに的を射たこと言うんだろう。本当に、何でも聞いてくれるんだろうか。

「本当に、何でも言っていいですか?」

「うん!」

「じゃあ……」

 俺はある種、賭けとも言える行為に出た。宮部さんに軽蔑されてもいい。誰かに聞いてほしい一心だった。


「……。」

 ズル休みって言われてもいい。今日は学校に行きたい気分なんかじゃなかった。俺は頭が痛いと言って休むことにした。母さんに電話連絡してもらって、欠席になった。入学して間もないから、環境の変化に弱いアンタらしいねと言われた。「まぁね」と俺は笑ってごまかしておいた。

 母さんが聞いたらどう思うだろう。


 俺、男が好きなんだ。


 キス、しそうになった。


 こういうの、世間ではなんていうんだろう。黒板にはホモって書いてたけど。


「調べてみるか」

 母さんが出かけたのを確かめてから、俺はパソコンにスイッチを入れた。ネットに繋いでウィキペディアを見てみると、すぐに答えが返ってきた。


 同性愛とは、男性同士または女性同士の間での親愛や性愛、その性的指向を指す。同性愛の性質を持っている人のことを同性愛者、英語でホモセクシュアル(homosexual)という。常用的には、男性同性愛者をゲイ(Gay)、女性同性愛者をレズビアン(Lesbian)と呼ぶことが多い。


「俺はゲイになるのか……?」

 よくわからなかった。男が男を好き。確かにおかしいかも。でも、それは「常識」で考えるから。常識って何? 男子が女子を好きになる。女子が男子を好きになる。それが当たり前だから? だから、常識?

「わかんね〜……」

 俺は布団に寝転んだ。いつからリョウのことを意識するようになったんだろう。すっかりわかんなくなった。何かのマンガで「好きになったとき? それって、説明できなきゃダメ?」なんてセリフがあったな。

 俺もそうだよ。いつの間にか、リョウが友達っていう線を飛び越えてた。

 でも、きっとリョウは俺を友達としてしか捉えてくれないと思う。だからこそ、昨日のあんな落書き、見てほしくなかった。

「クソッ……」

 布団を思い切り被って周りの視界を遮る。俺はいつの間にか眠っていた。

「……ん?」

 メールだ。いつのまにか午後2時になっていた。さっき時計を見たとき、午前11時だったように思うから、3時間近く寝たことになるな。

「母さん?」

 下へ降りると、昼ご飯がちゃんと置いてあった。メモには『おばあちゃんのお見舞いに行ってます』の字。俺の母方祖母は足の手術で入院中。多分、夕方までは帰らないだろう。

 俺はひとまず、さっき来ていたメールを見ることにした。

「知らないアドレス……」

 誰かがアドレスを変えたのかと思い、開いてみた。本文がない。その代わりといって良いのか、画像が添付されている。俺は不審に思いつつも、画像を開いてみた。

「……!」

 男性同士の抱き合う姿が写った画像だった。しかも、高校生らしい制服を着ている。

「なんだよ、バカにしやがって!」

 俺は怒りに我を忘れて携帯電話を放り投げてしまった。

「俺が何したってんだよ……」

 悔しい。悔しい。ただ、その感情だけが俺の頭の中で渦巻いていた。




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