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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第1章 君を好きになった
13/61

11 落書き

「おはよ〜……」

 翌日、俺が学校に来るなりクラスメイトの視線が集中した。

「……?」

 なんだか妙だ。俺が来たからって、今までこんなに視線が集中することはなかった。それに、この視線。どちらかというと変なモノを見つめる、奇異に満ちた視線。俺はいたたまれなくなって、いつも隣の席にいる親友の里中(さとなか) (れん)に聞いた。

「なぁ、どうしたんだよ?」

「……別に」

 蓮はあっさりと俺を避けて通り、廊下へ出て行った。

「なんだよアイツ……」

 俺はため息をついて自分の席に座ろうと前を向いて、言葉を失った。


 ホモ!


 できちゃったの〜俺たち♪


 亮平カワイソー(>3<)


 賢斗マジきも〜いw


 チューしちゃいたいくらい何が悪いの?←ビジュアル的にキモいから(笑)


「な……」

 教卓に俺は慌てて駆け寄った。ぶちまけられた写真。どれも俺の姿は後ろからだけど、亮平の顔がバッチリ写ってる。それに、キス寸前の写真まで……。

 全然気づいてなかった。音はしなかったし、視線みたいなのもなかった。それなのに……誰が?

 クラスメイトの可能性は十分にあった。俺は教室を見渡すが、誰も俺と目を合わせようとしない。不穏な空気が漂う中、それを破るように教室へ入ってきたのは、亮平と柳原だった。

「おっはよ〜……」

 柳原の動きが止まった。続いて入ってきた亮平が妙な雰囲気を察知したようで、呆然と教室を見渡す。

「どしたの、みんな」

 亮平は黒板を見て、動きを止めた。俺はいたたまれず、教室を飛び出した。

「賢斗! 待てよ!」

 亮平の声が聞こえるけど、そんなの関係ない。もう、亮平と顔を合わせられない。俺は特に行き先を決めず、階段をただひたすらに上がり続けた。屋上に繋がるドアの前でようやく立ち止まり、荒くなった息を整えようと俺は壁にもたれて座り込んだ。

 冷静になるにつれて、俺の頭の中ではいったい誰が見ていたのかという疑問ばかりがグルグル頭を巡った。あの時柳原が俺の行為を目撃していたのは知ってる。けれど、雰囲気から考えて柳原がバラしたとは思えない。だとすれば、あれはいったい誰の行為というのか。

「わっかんねぇよ……」

 俺はため息をついた。涙が、自然とこぼれ落ちてきた。


「……。」

 なんだったんだろう。私にはよくわからない。教室に入ってきたら、黒板にはこの落書き。落書き? いや、もうこれはよく2ちゃんねるとかで聞く誹謗中傷の類に違いないな。私はそう思っていた。

 三宅くんが悔しそうに唇を噛み締めながら、黒板に書かれた誹謗中傷を必死に黒板消しで消していた。誰も手伝わない。この誹謗中傷、きっと大澤くんにだけ向けて書かれたものだったんだろうな。けど、予想外にも三宅くんにも見られてしまった。クラスの子たちは、とても居心地が悪そうだった。

「私も手伝う」

 いたたまれなくなった私は、三宅くんの横に立ち、背が低いなりに黒板を消すことにした。

「ありがとな、柳原」

「別に。これくらい当然だよ」

「俺も手伝う」

 戸口くんが後ろの黒板にあった黒板消しを片手に、私の隣に立った。

「俺も」

 私と身長がさほど変わらない日高くんも、三宅くんの横に立つ。

「俺も!って、黒板消し足らねぇじゃん!」

 山崎くんが加わった。空気を変えようとしてるんだな。みんな優しい。この優しさはきっと、三宅くんだけじゃない。大澤くんにも向けられているんだろうな。

「……早く帰ってこいよ。授業始まるじゃんか、バァカ」

 三宅くんが呟いた。きっと、大澤くんを呼んだんだろうな……。


「どう思う?」

 休憩時間、知未が私に聞いてきた。結局、大澤くんは戻らないままで先生も何があったか知らないので、欠席と普通に扱うだけで特に気にも留めなかった。

「大澤くんと三宅くんのこと?」

「う……ん……。その……大澤くん……」

「そんな風にさ、知未が大澤くんが本当に男の子が好きなんだとか確認しないうちから決め付けたら、知未は周りの子と同じになっちゃうよ!」

 私はワザと大声で周りに聞こえるように言った。ザワザワと教室がにわかに騒がしくなる。

「ちょっと、こころ!」

「だってそうじゃなーい? 本人が言ったわけでも何でもないのに、勝手に決め付けてあんな落書きしちゃってさぁ。くっだらなーい!」

「でもよぉ、証拠の写真はあるわけじゃん?」

 出たな。出しゃばりの男、栗山(くりやま) (しゅう)()。水泳部で運動神経いいからモテるんだかなんだか知らないけど、私コイツ大っ嫌い!

「見ろよ、この写真! なんだか、もうちょっとで危ない世界へようこそ〜!みたいな感じじゃね!?」

 ドッとクラス中が湧いた。

「……?」

「亮平も危ないトコだったよな〜! もうちょっとで唇奪われそうになるんだもん」

「ちょっといい?」

 私は手を挙げて栗山の話を中断した。

「なんだよ」

「いま、奪われそうになったって言ったよね?」

「あぁ。そうだけど?」

「ちょっと写真、見せて?」

 私は強引に有無を言わさず、写真を奪い取った。

「みんな、ちょっといい?」

 教卓の前に立ち、写真を持ち上げる。三宅くんは驚いて目を丸くしたけど、これは仕方がない。

「この写真見る限り、私にはどうみてもキスをしてるようにしか見えないんだけど」

 シィンと教室が静まり返る。そうだろうね。こんな発言、朝っぱらから教室ですることじゃない。

「でも、いま栗山は『もうちょっとで』とか『奪われそうになる』とか、キスしてないような感じの言い回し……したよね?」

 栗山の目が明らかに動揺した。

「そんなの、言葉尻取ってるだけじゃねぇか!」

「そうよね。そうかもしれない。でも、この写真を見る限り私は悪いけどキスしてるように見えるわ」

「……っ」

 栗山の口が歪んだ。

「まっ、キスしてようがしていなかろうが私は気にならないけど、これ撮った人はきーっと、キスしてないっていうのがハッキリわかってたんだろうね〜……」

 私はポイッと写真をゴミ箱へ捨てた。教卓の中に隠されていた写真も一気にゴミ箱へ放り込む。

「な、なにすんだよ!」

「何よ? こんな写真、置いてたって三宅くんに迷惑じゃない?」

「ん……」

「それとも栗山。アンタ、この写真置いときたい理由でもあるの?」

「ねぇよ! 捨てろよ、そんなもん!」

「アーイアーイサー!」

 私はゴミ箱に思い切り写真を放り込み、ゴミ袋の口を閉めて教室を出た。

「こっ、こころ!」

 知未が慌てて後を追ってきた。

「どしたの?」

「あっ……ありがとう」

「……どういたしまして」

 それを言い終えると嬉しさのあまりなのか、知未は泣き出した。私はどっちでもいい。いつか、大澤くんが本当のコトを話せる日が来るはず。そう思っていた。


 けど……。


 そんな日が来ることは、なかったんだ……。




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