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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第1章 君を好きになった
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10 目撃者

 バサッ――。


 物音がしたので、俺は驚いて振り向いた。

「やっ……」

 柳原が、俺のことを呆然と見つめている。カバンから飛び出した筆記用具がまだ、コロコロと転がっている。

「柳原……」

 俺の声にビクッと体を震わせる柳原。

 見られた。マズい。どう弁解する?

 そんなことばかりが俺の頭を巡る。気づけば、柳原を追いかけていた。

「柳原!」

 ビクッと全身を震わせて柳原は荷物も放ったまま逃げ始めた。でも残念。俺さ、グランドの王子様だよ? なんてな。

 すぐに捕まえた。でも、あまり力を入れすぎないようにする。

「……見たよな?」

「……。」

 答えてくれない。

「見たよな!?」

 ヤバい。キレそうだ。

「……うん」

 小さくうなずいた。絶対、今の大声で萎縮したんだ。最低だ、俺……。

「ゴメン……。ビックリしたよな」

「……。」

「キモいよな」

「……。」

「なぁ……」

 何か言ってくれよ。これ以上、言葉が出ずに気づけば涙がこぼれていた。

「大澤くん……」

 ポロポロ涙がこぼれて止まらない。気づけば、本音が次から次へと溢れ出た。

「やっぱりダメなんだ。やっぱり無理なんだ! 男が男を好きになるとか絶対おかしい。皆引くよ。友達やめたくもなるよ! 俺だって、そう思ってたもん。でも、好きで好きで仕方がない! 抑えらんない! 好きなものは好きなんだ。なんでそれを主張したら……。異性ならいいのに、なんで同性ならダメなんだよ。ワケわかんねぇよ!」

 一気にまくし立てた。柳原は呆然と俺をただ、見つめていた。涙でボヤけていた俺の視界も、次第に晴れてくる。

「……ゴメン」

「ううん……ありがとう、話してくれて」

 柳原が急に笑顔になった。俺にはその言葉の意味がわからない。

「ありがとうって……?」

「私もね、好きな人、いるの」

 柳原は廊下にペタリと座り込んで話し始めた。俺も隣に座って話を聞く。

「へぇ〜。ま、俺だって……男だけどいるわけだし」

 クスクスと柳原が笑う。引かないのかな、この子。

「引かない?」

「引かないよ。だって、人を好きであることに変わりはないんだから」

 ヤバイ。柳原が神様に見えてきた。もちろん、女神様ね。

「私のさ、好きな人って……ちょっと手が届きそうにないの」

「え?」

 なんだよ。いきなり諦めモード? おいおい、早いと思うぜ。

「なんだよ〜。いきなり諦めるなよな。まだまだ、これからじゃねぇの。入学して間もないわけだしさ」

「諦めてるわけじゃないんだよ」

「じゃ、なんで手が届きそうにないのさ」

「……。」

 黙ってしまった。俺は亮平のことが少し気になってきたけれど、このまま柳原を放って帰るわけにもいかないから、もう少し話を聞くことにした。

「なんで? 理由、教えてくれよ」

「その前に、いい?」

 柳原の眼差しが急に真剣になった。

「お、おう。なんだよ」

「大澤くんは、三宅くんのこと、本当に好きなの?」

 答えは簡単。そして、明快。

「あぁ」

 即答できた。そんなの、考える余裕もないさ。

「即答だね」

「もちろん」

 叶うとか、叶わないとかそんなの関係ない。俺は、亮平が好きだ。

「私もね」

 柳原がやっと笑顔になった。

「私も諦めないよ!」

「……あぁ。諦めちゃダメだ。簡単にな」

 柳原と目を合わせ、笑う。4月の七海の街は、すぐに暗くなっていく。廊下も薄暗くなってきたので、俺たちはそろそろ引き上げることにした。

「そういえばさ」

 玄関へ行く途中で、俺は柳原に素朴な疑問をぶつけた。

「柳原の好きな人って、誰?」

「聞きたい?」

「あ、あぁ。できれば」

「……私ね」

 ちょっと戸惑うような素振りを見せた。沈黙がちょっと続いて、やっと言ってくれた。

「私、吹奏楽部の宮部さんっていう人が好きなの」

「え……」

 それって……女ってコト?

 っていうか、それ……。

「私も、同性が好きなんだ」

 ビックリした。それ以上に、リョウの好きな人を、柳原も好きなんだってことを知って、何よりもビックリした。

「そっか……」

「ビックリした?」

「少し」

「私たち、同じような感じだね」

「……そうだな」

「まぁ……厳しいけど、がんばろうね」

「……うん」

 言えない。どれだけ頑張っても、俺たち、きっと無理だよなんて。

 俺の好きな人は、君の好きな人に恋をしてるから……。

 お互いに、不利だなんて、そんなこと……言えるはずがない。

 俺は柳原の背中を気まずい感じで見つめながら、玄関へと向かった。




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