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青い恋〜ボクラ、コイシタ〜  作者: 一奏懸命
第1章 君を好きになった
11/61

09 寸前

「はぁ〜……」

 ため息ばかり出る。5時間目と6時間目の間の休憩。明日は土曜日で休みだってのに、なんだか元気が出ない。

「どーしたの、グランドの王子様」

 柳原が声をかけてきた。

「なんだよ、からかうなよ」

「エヘヘ。だって、大澤くん昼休みの後からずーっとため息出てるよ?」

「え、マジ?」

「うん」

「やべぇな……。俺、感情がモロに出すぎ?」

「いやぁ〜、普段はそうでもないけど、今日はちょっと目立つね」

 そうなのか。やっぱり、リョウから聞いたあの話が原因だな。

「いやまぁ、いろいろありまして」

「そうなの?」

 柳原は俺の席の前に座った。

「どうしたの? 私でよかったら聞くよ?」

 優しいな。普通なら、こういうことがキッカケで女の子を好きになったりするんだろうな。でも、俺にはそうした感情が湧かない。おかしいよな、絶対。

 このキモチを人に言えたらどれほど楽だろう。でも、きっと他の人は思うんだ。大澤は、男が好き。キモチ悪いとかさ。女子だってきっとそう思うだろうよ。BLとか、しょせんは漫画や小説での話。実際カミングアウトしたら、変な人扱いだろうな。

「大澤くん?」

 しまった。柳原がいたのに完全に自分の世界に入ってしまった。

「ゴメン。なんだっけ?」

「ううん。ただ、悩んでるならいつでも私に相談してね?」

「あぁ。サンキューな」

「いえいえ。じゃあ私、席に戻るね」

 柳原は小さく手を振ると、自分の席へ戻っていった。

「はぁ〜……」

 6時間目は古文。もちろん授業なんて手につかない。俺の席は、校庭が見える窓際。桜は散って、葉桜というよりは完全に緑に包まれてしまった。俺は机にベターッと寝転んだまま、何度もため息を漏らして外を眺めていた。

 コンッ、と何かが背中に当たる。

「……誰だよ」

 俺は周囲を見渡してみるが、別段誰かが俺に用事があるようではないようだ。俺はとりあえず無視して窓の外へ視線を戻した。

 コンッ。

「誰だよ!」

 思わず叫んでた。古文の先生も友達もみんな目を丸くしてる。それからドッと笑い声が湧いた。

「おいおい、大澤〜。昼飯食ってお昼寝タイムもいいけど、先生の話もシッカリ聞くように」

「……すみません」

 恥ずかしくて仕方ないじゃないか。誰だよ、俺にさっきから下らないことしてくんのは。

 半分スネながらまた机に伏せると、また何かが背中に当たった。その物体と思われる白い紙くずが机の上に転がった。

「……?」

 もう一度周辺を見てみるけど、誰かはわからない。開いてみると、見慣れた繊細そうな字が目に映った。


『なんかあった?』


 リョウじゃん……。

 なんかあったって……お前のせいだっつの。

 ちょっと悪態ついてみた。とりあえず、返事。


『別に。ちょっとブルーなだけ』

『なんで?』

『さぁ』

『ごまかすなよ。友達だろ?』

『友達なら当ててみろよ』


 あれ。返事来なくなった。引かれた? 怒った?

 心配になってリョウのほうを見たら、めちゃくちゃ悩んだ顔。何をそんなに悩むってんだ。結局、返事はそのまま来ずじまいで、眠気に勝てなくなった俺は残りの古文の時間をリアルに睡眠時間に費やしてしまった。

「賢斗」

 放課後、急にリョウに声を掛けられた。ヤバイ。ドキドキする。

「な、何?」

 なるべく冷静に。平静に。

「あのさ、今日お前部活は何時終わり?」

「多分、6時半だけど」

「じゃあさ、俺6時までだから、一緒に帰らねぇ?」

 マ、マジっすか! 喜んで!

「おう。構わないけど」

 ヤバイな〜。俺、実はめちゃめちゃ嬉しいですよ!?

「そっか! よかった。ちょうど話したいことあったし」

「話したいこと?」

 ドキッとする。いちいちドキドキすんな、俺の心臓。

「うん! できたら、お前とだけで話したかったことだから」

「そ、そうなんだ」

 ヤバイ。昇天寸前ですよ。

「そういうわけだから、今日の帰り玄関でな!」

「わかった。またな」

 どうしよう。緊張する。二人とだなんて、緊張する……。


 午後6時45分。着替えを終えて、俺は玄関に急いで向かった。日が暮れて、暗くなっている。

「リョウ! お待たせ……って」

 寝てる。俺はそっとリョウの近くへ寄って、様子をうかがってみた。どうやら寝たフリではないみたいだ。

「……。」

 なんだろう。この感覚。

「リョウ……」

 もう一度呼んでみても、返事はない。

「……亮平?」

 名前で呼んでみたけど、返事なし。

「亮平……」

 こんな風に、名前で呼び合えたらいいなぁ、なんてね。

「……。」

 この気持ちが抑えきれない。

 ダメだとはわかっていたけど、抑えられなかった。


 気づいたら――亮平の唇に自分の唇を重ねようとしていた……。




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