08 衝撃の相談
「賢斗、昼休み空いてる?」
一時間目が終わってすぐ。急に君が俺にそう聞いたときは、かなりドキッとした。
「あ、空いてなくもないけど?」
「ホントかぁ! 助かる! 相談があるんだ。だから、東階段の屋上前まで来てくんない?」
「わかった」
俺は冷静さを装ったけど、内心嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
「どうしたの? 嬉しそうだね」
「お、おう。ちょっとね」
ヤバいヤバい。顔に出てるよ顔に。
「いいなぁ、大澤くんは。なんか高校生活エンジョイしてそう」
柳原はそういうと、ため息を漏らした。なんだろう、何か悩んでることでもあるんだろうか。
「どうしたんだよ。ため息なんかついて」
「あぁ、なんでもない! 最近、ため息つくのがクセになってて」
そんなクセあんのか……? まぁ、ないとも言い切れないけど。
「なんか悩み事とかあるんなら、俺でよければ相談乗るぜ」
何気ない一言のつもりだったけど、明らかに柳原の顔が驚いたものに変化した。
「どうかした?」
俺はその変化をあえて気にしないフリを見せて柳原に聞いてみた。
「あ……あはは! 心強いよ〜。助かっちゃう」
「そっか?」
「うん! でも、今のところ特にそれは必要なさそうだよ」
「そっか……。ならいいんだけど」
「うん」
まるで自分に言い聞かせるように、柳原は大きくうなずいた。
三時間目は体育。正直、着替えのときはドキドキして仕方がない。リョウの着替える姿を見たいような、見たくないような。そんな不思議な感覚。
「……。」
あ、やっぱり華奢だな。なんだっけ、弦バス?を弾いてるんだから、無骨な指はやめてほしいという俺の願いを聞いてくれてたりして。
「おい、賢斗」
リョウの声が聞こえた。
「へ?」
「お前、早く着替えろよ」
気づけば、琴弥とリョウしか残っていなかった。
「うわわ! ゴ、ゴメン! 急ぐよ」
「なんだよ〜。お前最近ボーッとしてるぞ」
リョウがニッと笑う。お前は知らないんだろうな。俺がそれだけでドキドキしちゃってるなんてこと……。
結局、体育の時間もついついリョウに視線が行っちゃって、周りに変に思われないようにするのが大変だった。リョウに変に思われちゃったらどうしよう。そんなことばっかり考えてる俺は、気づけば自己嫌悪に陥っている。
――無理だって。
そういう自分の声が聞こえる。
――お前は普通じゃないんだから。
自己否定の声。
――だから、言わないほうがいい。
OK。今すぐ言うつもりなんてさらさらない。だから、問題ない。ずっと否定してた。絶対無理だって。俺とリョウは、住む世界が違う。今まではずっと近くにいたのに、急に遠くなった。いつから遠くなったんだろう。
昨日?
先週?
今月?
わかんないや。いつからだろう。近いのに遠い、この感覚。
「それで、相談って?」
昼休みになった。俺を連れて行ったはいいけど、リョウはなかなか口を開こうとしない。
「……。」
「黙ったままじゃわかんないよ〜。俺だってエスパーじゃないんだから」
ある意味、自分自身に言い聞かせているかのような言葉。
「絶対、黙っててくれる?」
「内容による」
「バカ」
リョウは俺の返答に唇を尖らせた。
「冗談だよ」
その言葉を聞くや否や、君は顔をほころばせた。
「じゃ、絶対黙っててくれるよな?」
「あぁ。約束する」
「俺さ……」
ドキッとした。ときめいてるんじゃない。嫌な予感がする……。いや、違うかもしれない。俺が想像してる言葉とは違う言葉が出てくるかもしれないじゃないか。
「実は」
冷や汗が背中を伝っていく。次に出てくる言葉は――。
「好きな人ができたんだ」
……。
言葉が出ない。
どうしよう。
「そ……そうなんだ」
「うん……」
「それ、誰?」
「実は……部活の先輩」
「そっか……。名前は?」
「宮部由美子さん」
知らない人だ。そりゃそうか。先輩だもんな。
「で?」
「でって?」
「告白とかしねぇの?」
俺の一言にリョウが真っ赤になった。
「バッ、バカ! 今すぐどうこうってつもりは俺は……」
今すぐどうこう、はないんだよな。でも、いずれはあるんだよな。そうだよな。
「まっ、頑張れよ」
自分の気持ちとは裏腹の、言葉。
「俺、応援するからさ!」
ウソツキ。俺のバカ。
「マジで!」
「おう!」
「いやぁ、やっぱ持つべきものは親友だな!」
「ヘヘッ! ま、いつでも相談してくれよ?」
「ありがと、賢斗!」
まぶしい。君の笑顔がまぶしすぎる。俺はその笑顔を見るためなら何だってする。
たとえ、俺のことが君の眼中からなくなったとしても……。