表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Caffe & Bar 〜 secret booth〜  作者: 兎 潤
・・・日曜日・・・
8/9

日曜日〜女マスターのsecret time・・・〜

「あー、今週もやっと終わったなー。」

私は一人でカウンターに座り、お酒を飲んでいた。

今の時刻、深夜二時。

あの後、私は余念を捨て片付けに集中した。

そのおかげもあり、1時半くらいには全ての仕事を終わらすことができた。

そして、冬真は私よりも10分ほど早く仕事を終わらせそのまま帰っていった。

「あの後、みんな少しはかわったのかな?」

私は順々に今週出来事を思い返していった。



・月曜日~綺麗な女性には過去が絡みつく~

由美さんは今お付き合いしている男性との関係をこれからどうしていくつもりなのだろう。

プロポーズをされたが、彼女の中にはまだ、昔の男性が忘れられずにいる。

そんな彼女の気持ちを考えると、とても切なくなる。二人の男性を天秤にかけてるわけではないが、彼女の中には複雑な思いがあるのだろう。

今の恋人だってきっと素敵な男性なんだ、と、私は思う。

これから、由美さんはどんな答えを出すのだろう・・・。



・火曜日~若い女性の涙の捌け口~

豊田 沙紀ちゃん。彼女は火曜日に始めて私のお店に来店してきた。

彼女は自分が不倫をしていることを話してくれた。

彼女の気持ちは間違えなく相手の男性に、本気なんだと感じた。

相手の男性がどんな人なのか、私にはわからないが、そこまで素敵な男性なのだろうか?

結婚をして奥さんも子供もいる、にも関わらず、外に別の女性をつくる・・・。

その男性の気持ちはどんなものなのか。もしかすると、彼も誰にも言えないなにかを抱えているのかもしれない。

一度、その男性に会ってみたいものだ。



・水曜日~新郎の心の中に秘めた想い~

雅也さんと一緒に飲んでいた、黒髪の素敵な女性、海堂 亜姫奈さん。

二人は幼馴染で、2、3年ぶりに再会し、自分たちの想いに気づいた。けれど、二人は既婚者。その想いは絶対、相手には伝えてはいけない。

伝えてしまえば今の関係が壊れてしまうことを二人は分かっているみたいだった。

それでも、月一で会うのはお互い離れたくないと心の奥で想っているからなのかもしれない。

いつか、一緒になれることを願いながら・・・。



・木曜日~・・・

私は体調を崩してしまった。まさか、自分のせいでお店を休みにしなければいけなくなるとは・・・。

あの時、冬真にはたくさん迷惑をかけてしまった。

わざわざお粥を作ってくれたり、お店の掃除をしてくれたりと、とても気を使ってくれた。

いつもは厳しい彼だがあの時、私は改めて彼の優しさを感じた。

冬真には感謝の言葉しか思いつかなかった。



・金曜日~彼女の瞳には男は映らない~

金曜日のせいかお店はとても忙しかった。

私は忙しさに追われ佳奈ちゃんの事を気にしてあげることができなかった。

彼女は自分が『LGBT』だと、私に話してくれた。彼女には付き合っている男性の他に好きな人がいた。

それは会社の女性の先輩だ。

性別に関係なく、誰かを好きなる、誰かに想いを伝える。そんな、普通のことを彼女はできず、辛い思いを抱えていた。

そんな彼女の気持ちを私だけはわかってあげようと思う。



・土曜日・・・

あの二人があんなに長く話していた姿を私は初めて見た。

いつもなら軽く挨拶をする程度なのに今日だけは違っていた。

絶対、あの二人に何かあったのは間違えないと私思った。

帰り際の俊樹の言葉も、私には引っかかるものがあった。

気になって、二人に聞いてみたが彼らは何も教えてくれることはなく、はぐらかされてしまった。

一体、二人の間に何があったのだろう・・・。



「みんな、本当に色々な思いを心の中に秘めているんだな・・・。」

「・・・私だって、その内の一人でしかないけど・・・。」

私はふと半年前のことを思い出した。

あの日から私の人生は180度、変わってしまった・・・。



ある日の夜、急に私の携帯が鳴った。

「もしもし?」

「あ、純。ゴメンね、こんな時間に・・・。」

電話の相手は私の母親だった。

「全然平気だけど、どうしたの?」

「うん、あんたにはすぐ知らせた方がいいと思って・・・。」

「なにかあったの?」

「・・・今さっき、おじいちゃんが亡くなったの。心筋梗塞だって・・・。」

「えっ・・・、嘘でしょ?」

私は母が言った言葉が信じられなかった。

「本当よ・・・。」

「うそ・・・。」

私はその場で崩れ落ちた。

昨日までは普通にお店に立って、私の相手をしてくれていたのにこんな事が起こるなんて、これっぽっちも思っていなかった。

「・・・明日、葬儀をやることになったから職場と、優哉くんに伝えておいてくれる?」

「・・・うん、わかった・・・。」

「じゃあ、明日の10時に◯◯◯葬儀場まで来てね。」

「はい・・・。」

そうして私と母の電話は切れた。

「そんな・・・、おじいちゃん・・・。」

私の目から涙が流れた。電話中は我慢していたが、それが切れた途端、私の目からはたくさんの涙が流れた。

それと同時に祖父との思い出が頭に蘇る。




祖父は定年を迎えたと同時に喫茶店を開業した。それが今、私が営業しているこのお店だ。

営業形態は違うが、このお店自体は同じで、初代店主が祖父で二代目が私になる。

祖父が営業しているとき、私はまだ小学生だった。その頃は暇があればいつもこのお店に遊びに来て、祖父からジュースを飲ませてもらったり、おやつ代わりにパンケーキを食べさせてくれたりしてもらっていた。

そらから月日は流れ私は中学生になり、高校生になった。

「その時期が一番、お世話になったんだよね・・・。」

高校生にもなると行動範囲も広がり、どこかに遊びに行くことも増え、最終的に行き着く場所はいつも祖父のお店だった。

ここで何時間も友人と語り合い、騒いでいた。それでも、祖父は嫌な顔一つせずいつも優しく迎え入れてくれた。

その後、私は高校を卒業し、社会人になった。社会人になってからも私は祖父のお店に通い続け、このお店の雰囲気を思う存分、味わっていた。

店内にはピアノがありその少し奥に暖炉がある。その二つは、このお店の顔とでも言うかのように存在感をかもし出していた。

そして極め付けが店内に流れているジャズだ。祖父は若い時からジャズが好きだったと、母親から聞いた。

私もそんな雰囲気にどんどん魅了されていった。

とても優しい祖父がいて、どこにいても暖かい暖炉の熱があり、気分を落ち着かせてくれる音楽が流れている。とても居心地のいい場所・・・。

けれどそんな穏やかな日はもう、戻ってくることはないのだ・・・。



次の日、私は優哉と一緒に母から言われた葬儀場へやってきた。

「あ、純。待ってたわ。そこを右に曲がれば控え室になってるわ。優哉さんもわざわざ、来てくれてどうもありがとう。」

母は優哉に頭を下げた。

「あ、いえ・・・。」

彼も母と同時に頭を下げた。

優哉というこの男性は私の夫だ。

私達は控え室に向かい、葬儀の時間まで待つことになった。

それからは徐々に親戚が集まり、18時には祖父の葬儀が始まった。

その時間はあっという間に過ぎていき、私がふと思い立った時には、祖父の体はすでに白いものへと変わっていた・・・。



それからは、母と私で1週間ほどかけ祖父の遺品の整理をした。

その最中、私は祖父の部屋で少し古ぼけた一つの鍵を見つけた。

「ねぇ、お母さん。この鍵ってどこの鍵?」

「あら?あまり見たことない鍵ね。どこにあったの?」

「おじいちゃんの机の引き出しの中に入ってた。」

「そう・・・、どこのかしら?」

私は母とその鍵を見つめ、頭を傾けた。

「・・・ねぇ、これ私がもらっていい?」

「え?別に構わないけど、それどうするの?」

「うん、なんとなく捨てちゃいけない気がするから、おじいちゃんの形見として持っておこうと思って。」

「そう?まあ、どこの鍵かわからないしいいわよ。」

「ありがとう。」

そして、私はその鍵を祖父の形見として持っていることになった。



それから数日後・・・。

今度は祖父の経営していた喫茶店に行き、そこのお店の片付けをしにやってきた。

「このピアノも暖炉もどうしようかしら?」

「そうだね、親戚の人でこのお店を継ぐ人とかっていないの?こんなにいいお店なのにこれで閉店しちゃうなんて、おじいちゃんが可哀想だよ・・・。せっかく、ここまでやってきたのにさ。」

「そうなんだけど、やりたいっていう人がいなくてね・・・。」

「そんな・・・。」

こんなにいいお店なのにどうして誰も継ごうとしないのだろう。このお店は祖父の夢だったのに・・・。

「とりあえず、二階に行きましょう。二階にはおじいちゃんの仮眠室があったから先にそこの部屋を片付けましょう。」

「はい。」

そして私と母は二階に上がり、仮眠室へ向かった。

「あれ?部屋って二つあったんだ。」

「えぇ、そうよ。でも、ひとつはさっき言ってた仮眠室で、もう一つは・・・、何かしらね?そこの部屋、お母さんは入ったことないのよ。」

「え?そうなの?」

そう言って私は試しにその部屋のドアノブを回してみた。

・・・・・・・・・。

「・・・開かないか。」

その部屋のドアを何度も動かしてみたが開く気配はなかった。

「そうなのよ。その部屋、開かないのよね。多分、鍵がかかってるんだと思うけど。」

「そうみたいだね。よく見たら、ノブの下に鍵穴がある。この部屋の鍵ってどこにあるの?」

「さあー、どこかしらね。きっと、おじいちゃんしか鍵のありかはわからないと思うわ。」

「そっか・・・。」

『死人に口なし』ということだ。

私と母はその部屋を後にし、仮眠室の部屋に移動した。

「そんなにものないね。」

「そうね、ただの仮眠室だから。」

仮眠室に入ると、その中はとても殺風景だった。ベッドとテーブルがあって、奥にはシャワールームが付いている。

「さあ、さっさと片付けて家に帰りましょう。」

「うん。」

そうして私と母はこの部屋の片付けを始めた。片付けといっても、ベッドとテーブルくらいしかないため、そこまではかからないだろう。

『♪〜♪〜♪〜』

「あら、電話だわ。ちょっと出てくるから、少しお願いね。」

「うん、わかった。」

そう言って母は一階へと降りていった。

「さて、まずは何をしよう・・・。」

私は部屋に残され片付けを始めた。

「・・・・・・・・・。」

が、しかし、さっきの鍵がかかった部屋が気になり、私はもう一度その部屋に向かった。

「鍵かぁー・・・。あ、そういえば・・・。」

私はふと、何日か前に祖父の部屋を片付けている時に見つけた鍵のことを思い出した。

「確か鞄に・・・・・・。あった。」

私はその鍵を手に取り、目の前の鍵穴にさしてみた。

「・・・あっ、入った。」

そして、ゆっくりと回してみる・・・。

『ガチャ・・・』

「えっ!」

私はその音に驚き、一瞬、何が起きたのかわからなかった。

「あいた・・・。」

その空いたドアを私はゆっくりと開けてみた・・・。

「えっ・・・!なにこれ・・・。」

その部屋に入ると、私はその光景に驚いた。

「これ・・・、全部、ほ・ん?」

その部屋の中には、部屋を埋め尽くすかのようにたくさんの本?が積み重なっていた。

そして、部屋の中心には一人がけのソファーがひっそりと置かれている。

「あれ?でも、なんかおかしいな?」

その本にはどれも背表紙がなく、本の題名が全く、わからなかった。

普通の本ならばしっかりと背表紙にも本の題名が書いてあるはずだ。

けれど、ここにあるものは全てなにも書いていない。

「・・・・・・・・・。」

私はその内の一冊を手に取り、中をパラパラとめくってみた。

「えっ、手書き?」

その書かれている文字はどれも手書きで、そこまで綺麗な字ではなかった。

「この字、おじいちゃんのだ・・・。」

私はこの字を見たことがあった。祖父は注文を取るときはいつも手書きだった。流れるような字で、たまになんて読むかわからないものもあった。

この本に書かれている字はそのクセがよく出ている。

「もしかして・・・。」

私は他の本も手にとってさっきと同じようにめくった。

「やっぱり・・・。」

どの本も筆跡は同じだ。やはり、ここにある本は全て祖父が書いたもので間違えない。祖父は誰にも知られずに本を書いていたのだ。まさか、そんなことをしていたなんて知らなかった。

私は手に取った本を少し読んでみることにした。

『◯月✖️日△曜日か

〜女性の涙は過去と隣り合わせ〜

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。』


そしてまた、別のを読んでみる。

『◯月✖️日△曜日

〜若い男性の想いは女性に届かない〜

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。』


「そういことか・・・。」

私は祖父の本を読み続け、ある一つのことに気がついた。

「おじいちゃんのこの本、お客さんから聞いた話を本にしたんだ・・・。」

祖父の書いたこの本を読んでいると、どの話にも祖父が出ていた。

話の内容も全てにリアリティがあった。きっと、祖父はお客さんの話を聞き、自分なりの言葉で表現をし、誰にも知られずにこの部屋を作ったんだろう。

本の内容的に外には漏れてはまずい話も書いてあった。

「・・・・・・・・・。」

私は部屋から出てドアに鍵をかけた。

「(この部屋の秘密は私が守ってみせる・・・。)」

「あら、純。そんなとこでなとこでなにしてるの?」

「あ、うん・・・。」

私が部屋を出た途端、母が二階に上がってきた。

「なんかあったの?」

「うん、そういうわけじゃないよ。」

「そう?だったら、早く片付けを済ますわよ。」

「うん、わかった。」

その後、私と母は早々と仮眠室の片付けを済ませ、車に乗りこんだ。

「ねぇ、お母さん。」

「なに?」

「私・・・。」

「えっ?」

「私、おじいちゃんのあの店、継ぎたい。」

「えっ!なに言ってるの?冗談もほどほどにしときなさい。」

「冗談なんかじゃない。本気・・・。」

「!!」



「あー、懐かしな。あの頃は皆んなに反対されたんだよね。でも、今じゃ意外と応援してくれてるけど。」

こうして、私はこのお店の店主になった。

けれど、その結果、私は独り身になってしまった。

お店を継ぐということが決まったとき、夫から離婚を切り出された。

その理由は、夫の母親だった。

夫の母親は私がお店を継ぐことにものすごく反対していた。

『子供だってまだなのに、お店と家庭、どっちが大事なの?お店の店主なんてやったら、そんな余裕もなくなるんじゃない。』

と、言われてしまった。

一応、夫は私のことを応援してくれていたが、母親を説得することは出来ず彼はその答えを出せざるおえなかった。

『俺、本当は純と一緒にやってきたい。お袋のことは絶対、説得してみせる。だから、それまで待っていてほしい。』

これが夫から最後に言われた言葉だった。

私も相手の親が反対しているのに婚姻関係を続けていくのは正直、厳しいと思っていた。

私は素直に離婚届にサインをし、夫と一緒に生活していた部屋を出て一人暮らしを始めた。

一応、夫とはまだ関係は続いてはいるが、『一人の女』には変わりない。

これから先、どうなるかなんて誰にもわからないものだ。

私は私らしく生きて行こうと、改めて自分にいいきかせた。

私は心の中で・・・


〜女マスターのsecret time・・・〜


と、呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ