〜プロローグ〜
「さて、今日も一日、頑張ろう。」
私はお店の看板をだし、ライトをつけた。
そこには・・・・・・
『Caffe & Bar ~secret booth~』
と、小さな明かりが灯った。
「純、中の準備、早く手伝ってくれ。」
「うん、わかった。」
店の中から男性に声をかけられた。
男の名前は、片宮 冬真。彼は私の幼馴染で、半年前にドイツから日本へ帰国してきた。
「まさか、冬真がピアノ調律師になるためにドイツに留学していたなんて驚いた。」
私はお店の中に戻り彼に声をかけた。
「そうか?俺が昔から音楽が好きなの知っていたんだからそこまで驚くほどのことじゃないだろう?」
冬真は普通のトーンで言ってきた。
「そうだけど、まさかピアノ調律師だとは思わないよ。」
「まあ、音楽にも色々な楽器があるからな。」
彼は店内の掃除をしながら言葉を返してきた。
「まあ、そうだね。私なんて、アニメソングとかロック系が好きだからなー。」
「逆に俺はそんなお前が、まさかカフェ&バーを経営してる方が驚いてるけどな。」
「そう?まあ、私もそれなりに歳をとったってことじゃない?」
「歳って・・・、俺たちまだ三十過ぎだぞ。」
「それもそうか。さて、仕込みやろう。」
私はそう言って彼の前から姿を消し、キッチンへ向かった。
「ったく、純のやつ逃げたな。俺に色々と言われたくないからって。」
「(あ、やっぱりバレてたか。)」
冬真の言葉は私がいるキッチンの方まで聞こえてきた。
「やっぱり、幼馴染には勝てないなー。」
私は小さく呟く。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」
ホールの方から冬真の声が聞こえた。
早速、お客様が来店してきたようだ。
「ありがとう。冬真くんは相変わらず爽やかでイケメンね。」
「そんなことないですよ。由美さんも、とってもお綺麗ですよ。」
「まったまたー、でも素直に嬉しいわ。どうもありがとう。」
由美という女性はカウンターの一番奥のイスに腰を下ろした。
「今、純、呼んできますね。」
「うん、よろしく。いつも悪いわね。」
「いえいえ、お気になさらずに。」
そう言うと彼はキッチンへ向かった。
「純、由美さん来たぞ。」
「あ、冬真。ありがとう。今日の最初のお客様は由美さんだったか。申し訳ないんだけど、こっちちょっとお願いできる?」
「ああ、わかった。」
私は冬真に仕込みを引き継ぎ、由美さんのところへ向かった。
「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。」
「そんな、堅苦しいのやめてよ。なんか調子狂うわ。」
「一応、ここの店主なんで最初だけはお許しください。」
私は由美さんに頭を下げ、彼女の顔を見つめた。
「純ちゃんのそういところ、私好きよ。」
由美さんは優しい笑顔を私に向けてくれた。
「ありがとうございます。まずは何をお飲みになりますか?」
「そうね、やっぱりビールかな。」
「はい、かしこまりました。今お持ちしますので少しお待ちください。」
私はビールを注ぐため、一度、由美さんの前から離れた。
「お待たせしました。ビールです。」
私は由美さんの前にビールの入ったグラスを置いた。
「どうもありがとう。早速、いただくわ。」
「どうぞ、ご遠慮なく。」
由美さんは慣れた手つきでグラスを取り、唇につけた。
「(やっぱり、由美さんは綺麗だな。なんで結婚しないんだろう・・・?)」
彼女のビールの飲み方は本当に綺麗だ。女性の私から見てもステキな女性なのになぜ、未だに独り身なのだろう・・・。
「あー、おいしい・・・。」
「ありがとうございます。それで、今日はどんなことがあったんですか?」
「そう、ちょっと純ちゃん、聞いてよ。今日職場の上司が・・・。」
こうして私のお店は、営業を開始した。
はたして、今日は他にどんなお客様がご来店してくるだろう。
「いらっしゃいませ。Caffe & Bar~secret booth~へようこそ。お好きな席におかけください。」
「ありがとうございます・・・。」
若い一人の女性が来店してきた。
歳は二十代前半くらいだろうか、あどけなさがまだ抜けきれてない雰囲気が残っている。
「冬真くん、一名様ご来店です。」
「はい、かしこまりました。」
私がキッチンにいる冬真に声をかけると、彼がそこから姿を現した。
「いらっしゃいませ、ご来店ありがとうございます。ますば何をお飲みになりますか?」
「・・・・・・・・・。」
「どうされました?」
若い女性は冬真の顔を見つめたまま黙ってしまった。
「お客様?」
「あっ!すみません・・・。とてもカッコイイ方だったので・・・。」
彼女は頬を赤く染め、小さく呟いた。
「ありがとうございます。」
「あの、カシ・オレをください・・・。」
「かしこまりました、今お持ちしますので少しお待ちください。」
彼女はどんな思いでこのお店に来店してきたのだろう・・・。