忘れた記憶を呼び醒ませ
初めての投稿です。
完全に思いつきなので、連載予定ですが不定期です。
短いので読んで頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。
さて、今ボクはどこにいるのだろう?
どこにでもあるような小さな公園。およそ猫の額と言ってほどの小さな砂場と、錆びがかった滑り台。ブランコは昨今の過剰な保護意識により、立入禁止のテープが貼られている。
そんな遊具事情からか、この公園で遊ぶような子供は一人もいない。まるで存在を忘れられたかのようだ。
虫の鳴き声も聴こえない冬の静寂の中、ボクはもう一度考える。
ここはどこなのか。
遡ること数時間前。
ボクは地元の商店街にいた。家から徒歩10分という近さから、毎日のように買い物に来ていた。おすすめは精肉店『曙』のメンチカツと、団子屋『みすず』のきなこ餅。メンチカツは、合挽き肉、粗めに刻まれたキャベツと玉ねぎが絶妙に絡み合い、サクッと一口含んだ瞬間にじゅわっと肉汁が溢れだす。きなこ餅は、柔らかいお餅に少し甘めに味付けされたきな粉が口の中で蕩けあう。どちらも絶品で毎日食べても飽き足りない。
おっと。こんな自慢をするために記憶を呼び起こしていたのではなかった。
ボクはいつものように商店街に買い物に来ていた。ねぇちゃんに押し付けられた夕飯の買い物を済ませて、いつものように『曙』でメンチカツを買って帰るはずだった。
なのに。なのに!
なぜ、こんな見たこともないような公園にいるのか。
不思議なことはもうひとつある。
1時間前、目が醒めた時にはもうこの公園にいた。夕方少し前くらいに商店街に着いて、今時計を見ると19時30分を指している。ボクの腕時計は日付付きの24時間表記にしたデジタル時計。時計が壊れていない限りさすがに12時間以上違う、ということはない。現に今までの1時間はきっちり刻まれている。
つまり夜の19時半。
なのに。なぜ頭上には、煌々と、月ではなく太陽があるのか。どうみても月ではない。眩しい。直視出来ない。
いや、まあ冬の太陽だから夏に比べればそこまで眩しくはないのだけれど。
いや、そんなことはどうでもいい。
夜の19時半。母さんに怒られる……。いや、そもそも帰れるのか?
何度か帰ろうと公園を出て、見知らぬ道を歩いてみたけれど、10分程歩いたところでこの公園に戻ってきてしまった。
ぐるぐる同じ道を歩いていた?
全くない可能性ではないけれど、いくらなんでも10分歩いたくらいで迷子になるほど方向音痴でもない。
つまりは、この公園に閉じ込められた……?
いやいや、あり得ないでしょ。そんな在り来たりなラノベ展開になるほど、ボクの人生は異世界じみてはいない。
極々平凡な中学3年生だ。
高校受験を1ヶ月後に控えた大事な時期だ。
とはいえどちらかといえば成績優秀なボクは、余程体調を崩さない限り、余裕で第一希望の高校を合格するだろう。後々の楽をするために、事前の努力は怠らない。
では、ボクは夢を視ているのか?
その可能性の方が高いし現実的だけれど、夢にしてははっきりし過ぎだ。そもそも記憶の整理だと言われる夢見だけれど、ボクの記憶にない街並みだし、頬をつねると痛みもある。在り来たりな確認方法だけれど。
うーん、手詰まりだ。
考えても仕方がないのか?
埒があかない自問自答を延々と繰り返し、いい加減一度寝ようかと諦めかけていたその時。
「おにいちゃん、だれ?」
突然呼び掛けられた。
「っ!!? えっ!? だ、だれ……?」
今まで人の気配なんて全くしなかったのに、その女の子は突然目の前に現れた。
「うん。おにいちゃん、だれ?」
「えと……、コウタ。ボクはコウタだ。キミは?」
「わたしは…………、分からない。」女の子は小さく首を振る。
「分からない?」
「うん。わたし、わたしの名前が分からない。コウタおにいちゃん。わたしはだあれ?」
「……ええと、ごめんね。ボクにも分からないんだ。」困惑するボク。
「おにいちゃんなら知っているはずだよ。わたしの名前。」
「………え?」ボクはこの子を知らない。会ったこともないし、見たこともない。
「思い出せない?」小さな女の子は今にも倒れそうなほど首を左に傾ける。
「う、うん。ごめんね…?」
「そっか……。」少し残念そうな表情をしたその小さな女の子は、
「じゃあ、思い出せるまでわたしと遊んで……」
「え……?」
そういうと、小さな女の子は霧のように消えた。
「…えっ!!? き、消えた……!?」
確かにそこにいたはずの小さな女の子は、瞬く間に消えていた。もう一度夢ではなかったのかと疑いたくなったけれど、目の前で起こった出来事があまりにもリアル過ぎて、夢だと思うには直感的に頭が“ノー”だと告げていた。
ーーーーー
思い出そう。
なぜ、ここに来たのか。
どこかにそのヒントはあったのではないだろうか。