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やさしいセカイ

twitterでお世話になっております なぎさ様より、テーマ「銃」ジャンル「童話」の《記憶》(お題)を頂きました。

昔々、そのまた昔。


などという決まり文句で唄われる時代を遥かに遡った、神代のお話。


人はこれを神話と呼び、崇め、敬い、畏れ、語り継いだ。



是等は全て、とある決まり文句で始まる。




______此れはあくまで神話だから、ホントの事じゃ無いんだけどね、





とある島に、一人の剣士と一羽の燕がいました。


剣士は腕の立つ剣豪でしたが、滝壺を飛び回る燕がどうしても斬れません。


すると剣士は剣を鞘に納め、懐から銃を取り出しました。


彼の手にあるのは、デザートイーグルと呼ばれるハンドガンです。


剣士は静かに狙いを定めます。


あたりを包み込んだ静寂穿つ様に破裂音が響き、トサッと何かが地面に落ちる音がしました。


剣士は、見事燕を打ち抜いたのです。



彼は燕に勝ちました。







とある国と国で、戦争が起こりました。

10万を超える大軍を送りこんできた強国に対し、小国はたった300人の兵士で立ち向かいました。


300人の屈強な兵士たちは、地の利を生かし、奮戦しました。

狭い道を通らせて大人数で一気に襲ってこれないようにしたり、一点集中で攻撃したり、様々な手を使って敵の数を減らしていったのです。


だけれども、所詮は多勢に無勢。10万という数字を覆すことは難しいです。どんどん、どんどんと追い詰められていきます。


小国の軍の命はもはや、風前の灯火となったかの様に思えます。



すると、何を思ったのでしょうか。彼らは槍と盾を手放します。からんからん、と乾いた音が響いたかと思えば、彼らは小さな塊になりました。互いに背を合わせて固まった彼らを、強国の大軍はここぞとばかりにぐるりと取り囲みます。



すると突然、戦いを諦めたかのように見えた300人の兵士は、背中にかけてあった鉄製の筒を手に取り、つがえます。


一呼吸おいて、鉄の筒からは、鼓膜が破れんばかりの轟音が鳴り響きました。砂埃の匂いが、一瞬で硝煙の匂いに上書きされます。


彼らが手に持っているのは、S12Kという散弾銃でした。


大国の兵士たちの鎧は、散弾銃の前では紙切れほどの効果しかありません。狙いを定めなくても、周りには敵兵が文字通り山の様に居るのです。彼らが引き金を引くたび、10もの命が失われていきます。


幸いにして、300人の兵士は十分な数の弾を持っていたため、休む事なく撃ち続けることができました。さながら東洋の島国の第六天魔王の様に、誰かがリロードしてる間に誰かが撃ち、撃ち、撃ち続けているうちに、10万もの兵は次々に血を流して倒れ、彼らに次々に恐怖が伝播していきます。


前方の様子を知ることができない後方の兵士たちは次々に300の銃砲に詰め寄り、順に悲鳴をあげていきますが止まれません。彼らは、軍という速度を保ったまま、死の淵へ沈んでいきます。



半分ほど兵が減ったところで、大国は撤退を図りました。



300の兵士は英雄になりました。

彼らは戦に勝ったのです。



その時代、その場所の『平均的な武器』を遥かに上回るモノ。


それさえあれば、数の差や政治上の差など些細なこと。


銃は、無駄な時間をつくりません。


銃は、剣の道を極める労力も、国を護るための勇気も必要としません。


|銃は〈You got〉|、〈a〉|力です〈power〉。



力を持つと、強くなります。



強くなれば、序列が生まれます。


序列が明確になれば、争いだって減ります。


内乱だって起こりません。

強者が弱者を完全に支配し、抵抗するものは殺し、完璧で、非の打ち所ないほど完成された身分のピラミッドに、彼らは住んでいるのですから。




だから。



だから此処は優しい世界です。


武器は(You got)(a)力です(power)


(Power) (is) 正義です(justice)


だから此処は、優しい世界。


世界中の人が銃を持ったら、銃をも超える武器を作りましょう。


世界中の国がミサイルを持ったら、もっとすごいミサイルを作りましょう。


戦争で相手を捩じ伏せ。


平和の名の下に宗教を捻じ曲げ。


壊し、口を閉ざして刃を向け。




力を力で。


暴力を暴力で上書きすれば。


そうすれば、いつか。


いつか。










__________________



「……これで、この世界はおしまい」


純黒の瞳を持った語り部の青年は、静かに口を閉じた。


「おしまいっていうのは、お話がですか? それともその世界そのものが?」


問いかけるは聴き手の少女。古来より続く傍観者の末裔。


「もちろん世界の方だ。あの世界について話そうと思えば僕はどんな些細な話だって話し得たし、あの世界ではそれが起こり得た。いいかい。あの世界は残酷だったんだ。力で人を完全に支配するのは容易ではないし、それを行ったからといってそこから生じる根本的な利益は不釣り合いなものだ。あの世界は、成立した段階から文字通り終わっていたんだよ」


熱が入ってますねぇ、と冷やかした彼女に、青年は表情を変えることなく呟く。



「ああ。あの世界は好きじゃなかった。少なくとも、今の生活の方がずっといい。もしAではなくBを選んでいたら。個人の、そんな些細な選択で世界はねじ曲がり得る。過去が同じでも現在の選択で未来が変わることはあり得るし、逆もまた然りの並行世界の一つがあの世界なんだ」



コーヒーを飲み干しながら、少女は考える。


どういうことだろうか。さっきの話は現実のものではないのは間違いない。だけれども、世界が歩む可能性があったうちの一つということだろうか。でもその世界が『並行世界』になっている時点で世界は別の道を辿って今の世界になっているわけで。



でも、今マスターは『好きじゃなかった』と言った。それはつまり、彼はその並行世界を経験したわけで、それは『この世界』を歩んでるはずの私たちには不可能な話のはずで…………



……………………………………わからん。さっぱり理解できない。



「なるほど………? でも、最初の方の話、えーっと剣士? とか兵士たちの話は知らない話だったけど、最後の方は他人事とは思えないです」


ミサイルとか怖いなぁ、と呟いてコーヒーを飲む少女。


「その世界、幾らフィクションと言っても、妙に現実味があって怖いです」



「……まあ、これはあくまで神話の話だから、本当のことじゃないんだけどね」



そう返事をした青年が握りしめた手の中には。




黒く妖しく、ぬらりと光る小さな宝石が。





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