悲しみのオニ
この物語は、今より空が蒼く、空気も澄んでいて人が協力しあっていた時代の物語である。
ある山村に一つの伝説がある。
それは『鬼姫伝説』この伝説は、ある鬼の姫がこの山村の近くに隠れ住んでいると言う伝説である。
ある地方に鬼漸一族と言われる、鬼の一族がいたが、この鬼の一族は人と協力しあって生きてきたものの、ある時に外部から入ってきた者達によって排除されてしまった、可哀相な鬼達だった。
しかし、そんな仕打ちを受けても、鬼達は、人々を愛し好いていた。
鬼漸一族は排除された事で表立って出てくることはしなくなり、裏から人々を支えていく事を誓い合っていた。
だが、時は進み、とうとうこの地域まで戦乱の風が流れてきた。
余裕がなくなった人々は、後顧の憂いを取り除くために鬼達を討伐し始めた。
一人また一人と鬼漸一族は、討伐されていった。
それでも彼らは人間の事を愛し続けた。
そして戦乱は彼らの知らないところで決戦を行い、決着をつけていた。
この地域を任されていた領主は討たれ、泣く泣く討伐を行っていた領主の代わりに勝った陣営から新しい領主に代わると彼らは本格的な鬼の討伐を開始した。
その為、さすがに、ここに居座る事は無理と判断した鬼漸一族の者達は、散り散りになって他方へと逃れていった。
その時に、この鬼漸一族のお姫様がこの山村の近くに逃げ隠れたという伝説である。
第一節~鬼姫~
「おい、大変だ」
「どうした」
「馬車に荷物を積んでた山村(やまむらという名)のじいさんが馬車の下敷きになった」
「なんだって、場所はどこなんだ」
「こっちだ」
「……」
現場に着いた人は誰もが思っただろう、もう手遅れなんだろうと、でも生きてる限りは助けなければならない。
しかし思いのほか、馬車は重く、村の若者が4、5人で事にあたるが馬車はびくともしなかった。
そこに突然現れた娘によって軽々しくと馬車を退けると、山村のじいさんは助け出された。
皆が助け出した娘に視線を合わせるとぎょっと目を丸くした、それもそのはず、なぜなら目の前にいるのは角の生えた紅い眼を持った娘なのだから。
「あれは、鬼じゃないのか?」
「まさか、鬼は全部討伐されたはずだ」
「しかし、鬼姫伝説はあるしな」
そう、皆がひそひそ話しをしている時に彼女は明るく挨拶した。
「山村のおじいさんが助かってよかったですね、あ! 私、鬼漸一族の逢香です」
「お、おめぇ鬼なのか?」
「はい、鬼一族の鬼漸家です。友達になってください」
「う…うわぁぁぁ」
「鬼が出たぞ」
「ちょっとまってください、私は・・・」
「黙れ、この人外が、成敗してやる」
多くの村人が鍬等の農具を持って逢香を包囲した。
「私はただ皆さんと仲良くしたいだけです」
「黙れ、お前、化け物の言う事なんか信用できるか」
「そんなぁ」
そう逢香が言うと同時に村人達はその辺の石や鍬を投げつけた、逢香はそれにあたらないようにして森に逃げ帰っていった。
翌日
村人達は集まり話し合っていた。
「鬼がいるんじゃ、安心して寝られねぇ」
「あぁ、しかしどうする?」
「領主様にお願いしよう」
「いや、しかし事を大きくすると年貢の取立てがひどくなるぞ」
「あぁそうだ、ただですらひどいんだ」
ここの領主は、近隣の鬼を討伐する為に多くの軍備拡張を行っていた為に、多くの軍事費が必要になっていた。
そんな時期にもし村を守ったという既成事実を作ってしまうと軍事費確保の為に年貢の増大が懸念された。
そう、大人達が話していると山村のじいさんの孫が話しに割って入った。
「なんで、あの人に酷い事を言うの?」
「あのな、坊主、あいつは『人』じゃないんだよ」
「なんで?おじいちゃんは、心の有るのが『人』っていってたよ」
「う~ん、いや~まぁそうなんだが、『あれ』はなぁ」
「あぁ」
村人達と少年の話は、一進一退であった、何故なら、どちらも正しくて間違っているから。
少年は、『心』があれば、人だと主張した、道徳的答えとしては正解だが、鬼と人類はまったく違う生き物だから、人ならではの傲慢さだろう。
一方、村人達の主張は、鬼と人は別物だからと言うのが建前で本心は、そもそも人は自分と形が似ていてもまったくの別物と認識した瞬間それが脅威でしか感じられなくなる。
だから、排除もしくは、追放したくなる。
これを、わかりやすく言うと『差別』意識である。
それだから、両方、正解であり間違いである。
「あのな、坊主、俺達だってあの娘が可哀相とは思うんだ、でもな、村を護らなきゃいけないんだ」
「わかんないよ」
そう言って少年は、森に走り出してしまった、夜の為、大人達が必死で止めるが少年はすり抜けてしまう。
奥深く、人の手が届いてない、原始林へ。
少年は、泣きながら闇雲に走っていた。
「なんで、なんで」と叫びながら、あの鬼姫の為に。
ふと、気づくとまわりは、木が生い茂っていて奥が見えないほどの闇に包まれていた。
少年は、心細くなり、闇を恐れた。
「怖いよ、誰かいないの?」
少年は、たまらずに誰かを呼んだ、そう誰かを…。
「誰かいるのか?」
そう声が聞こえた。
そして、周りを見てみると、木の上に立っている人影がいた。
その時の少年は、恐怖に心を支配されていて、その存在を否定してしまった。
そして、恐怖は、心を蝕み、少年は気を失ってしまった。
「もう、大丈夫だよ」
暖かい声が聞こえた。
少年は、目を覚ましたが、恐怖(怖い者)がまだいると誤解してしまい、混乱してしまった。
「うあぁぁ、来るな」
少年が、そう言うと、人影はどこかへ行ってしまった。
落ち着いてあたりを見てみると、洞窟の中には捨てられていたであろう家具と少年にかけられていたボロボロの布団だけだった。
「ここは…あ」
少年は、先ほどいなくなった人影が気になった。
「あの人は誰だったんだろう?」
掛けられていた布団を放し、外へ向かって歩き出した、すると外から泣き声が聞こえてきた。
「ひっく、ひっく」
どこだろうと辺りを見てみると一人の女性が木の上で泣いていた。
あの鬼漸逢香と名乗った鬼だった。
もしかしたら、あの人影は、逢香だったのではないだろうか?
そう思うと途端に申し訳ない気持ちになった。
そして、少年は素直にそれを謝罪した。
「あの、さっきはごめんなさい」
そう呼びかけると逢香はちょっと乱暴にごしごしと涙を拭いた。
泣いていたのと乱暴に拭いたために目や目の周りは赤くなっていた。
「もう大丈夫だから、村に帰りなさい」
逢香は声を震わせながらそう言った。
少年は考え、答えた。
「寂しいんでしょ、僕も寂しいから一緒に遊ぼうよ」
少年は、にっこりと笑顔で言った。
そうすると、逢香は降りてきて泣き顔で「うん、遊ぼう」と答えた。
何刻経ったか、わからないが少年と逢香は、遊び続けた。
第二節~領主~
少年が、村に帰って来ると、村に領主の軍が駐留していた。
「ここに鬼がいるだろ、さぁ連れてこい」
「ここには、おらんよ、おったら教えていたよ」
少年は、驚いた、あれほど鬼に対して侮蔑や恐れの視線を投げていた村人達が鬼を…いや、逢香を護っているのだ。
「嘘を言うな、ここから出てきた者達が声を揃えて『鬼がいる』と証言しているんだ」
「あぁ子鬼ならいますよ」
「なに!何処だ」
「いや、今は何処におるのかわかりませんが風記祭の時に子鬼役をやる少年がいますだ」
皆、あっけに取られてしまった。
「貴様、いい加減にしろ」
そう、声を荒げたのは、戦乱の時に、ここの領主に勝って、新しく赴任してきた領主、琴吹想遠だった。
「村長、我々をからかっているのか?」
「滅相もございません、そのようなつもりは一切ありません、そうでしょ村長」
「うん、そうじゃが本当にここに鬼はいないんじゃ」
「ふぅ、わかった、もう一度出直す、もし出たら教えてくれ」
「わかりました」
話を終えると素直にその領主は自分の居城へ帰っていた。
「村長」
「おぉ何処へ行っておったんじゃ、君のおじいさんが心配しておったぞ」
「僕ね、逢香お姉ちゃんと一緒に遊んだんだ」
そう言うと村人達は顔を険しくさせ何かを考え合っていた。
一方その頃、城に帰っている最中の家臣達は、領主に詰め寄っていた。
「殿、何故ですか?」
「何が言いたい」
「我々は殿の命令なら死ぬ覚悟が出来ています、あの時から」
「妻が鬼どもに食われた時か?」
「はい」
「もし、その時が来たら私は無能だな」
「なにを言います、殿がいなければ我々は当に鬼の腹の中です、殿が挙兵してくれたおかげです」
10年前
啄木鳥城に鬼の集団が襲い掛かっていた。
その時一番近かった琴吹家は、家族や家臣を合わせても40人~50人程度しかいなく、到底鬼達に勝てる要素がなかったが、当時の当主に逆らい想遠が数名の家臣達と一緒に救援に駆け出した。
その頃には啄木鳥城は二の丸を落とされ残るは本丸だけとなっていた。
中にいた者達は、どうせ死ぬなら鬼達に一矢だけでもと
しかし、領主の胸に去来するモノは、妻を失った悲しみか、鬼達の憎しみか、それは誰にもわからない。
第三節~村の選択~
「村長、逢香を引き渡せば済む話ではないですか」
「いや、しかし、逢香は我々を傷つけるどころか山村のじいさんを助けてくれたじゃないか」
「いやいや、所詮鬼の子、何を考えているかはわからない」
少年はただその会議を見ているしか出来なかった。
「皆、落ち着くのだ、橘 癒慈お前はどう思うんじゃ」
少年は、聞かれる事を正確に話した、逢香は、優しく愛に包まれていると。
「う~ん、皆はどう思う」
「うん、確かに逢香は優しい、敵意はない、でも『鬼』という事は変わりようがない」
「そうか、では決断するぞ」
「村長が言うなら」
「うん、わかりました、我々は村長の決断に従います」
「よし、では、我々は明日の為に決断するぞ、逢香を我等の一員として迎え入れよう」
少年は、喜んだ、心から喜んだ。
一方、領主達も決断を迫られていた。
「殿、どうされるのですか?」
「多くの者を鬼の為に失ったからな、もう私は止まらない余所見もしない」
「私は、殿と共に」
「皆、集まって貰ったのは他でもない、あの山村についてだ。」
「殿、我々は、鬼どもに復讐したいのです」
「そうです、殿、我等に命を」
「うん、皆の気持ちしかと受け止めた」
「殿、ご命令を」
「全軍、人類の明日の為に、前進せよ」
「うぉぉぉぉぉ」
領主の軍は、騎馬は1500騎、火縄銃兵は1500名、足軽2000名の総勢5000名の大軍。
一方、山村側は村人156名(女、子供合わせて)のみであった。
「全軍、人類の忌まわしき過去と共に鬼どもに協力する裏切り者達と共に鬼を討伐せん」
第四節~奇襲~
深夜、村人達は寝静まっていた。
「火を放て」
その声を合図に一斉に松明に火を点け家屋に放り投げた。
茅葺屋根に火が移り、それが大きな松明となっていた。
赤く燃える炎が当たり一面を赤く照らし出していた。
村人達が慌てて外に出ると領主の軍が村の中心まで侵入していた。
「何事かねぇ、領主様」
「なんでもない、鬼狩りをしているだけだ」
「なにか、勘違いしておるみたいですが鬼なんて、この村におりませんよ」
「そうか、ではここにいる者、全員を殺さなければいけないな」
「やめてください」
皆が声のした方を見た、そこには鬼漸逢香が立っていた。
「逢香、下がりなさい」
「嫌です、私の為に誰かが傷つくなんて見てられません」
「お前が鬼か?」
「はい」
逢香は、凛とした声で答えた。
「誰か松明を」
そう、領主が伝えると副官らしき人が松明を領主に渡した。
「目が紅く、角が二本、確かに鬼だな、お前がおとなしく捕まればここの者達が傷つく事はない、わたしも悪魔ではない」
「駄目だ、逢香」
「駄目よ、逢香ちゃん」
逢香が行くのを、多くの村人達が止めた。
「ありがとう、でも皆さんが私の為に傷つくのはもっと嫌なんです。だから付いて行きます」
「わかった、火を消してやれ」
そう命令され兵士達が火を消し始めた。
第五節~悪鬼との邂逅~
「村長」
数人の若い村人と少年は、村長に詰め寄っていた。
「なんじゃ、そろいもそろって」
「逢香を助けましょう」
「村長、逢香お姉ちゃんを助けてあげて」
村人達の声は確かに正しいが、領主の情けで生きられているのも事実。
「しかしな、お前達、事はそう容易く考えていい問題ではないんじゃ」
その一言に橘少年は、村長にある一つの問い掛けをした。
「村長は、逢香お姉ちゃんを村の一員に認めたのに見捨てるの?」
「……」
皆が静まり返り、村長の言葉を待っていた。
「う~ん、わかった、わしの負けじゃ、助けに行こう」
「わかりました」
若者達はすぐに部屋を出って行って準備をし始めた。
「まさか、山村の孫に負けるとはね、わしも歳を取ったものだ」
しかし、村長の顔は、まるで肩の荷が下りたように笑顔だった。
村長も皆と同じで逢香の事を守りたいと思っていたのだ、それを理解した少年は大喜びではしゃいだ。
一方居城に着いた、領主達は、鬼(逢香)をどう対処したらいいか協議していた。
「やはり殺すべきだと」
「いやいや、しかしあの逢香という鬼は話ができる、今までの鬼達とは違うなにかがある」
「『違うなにか』とはなんだ?鬼に変わりはない、なら殺すべきだ」
「殿、これでは埒が明きません、決断をお願いします」
領主は、深く思考を巡らしていた。
逢香は、確かに今までの鬼達と違い、我々に理解を示している。
しかし、逢香は我等の憎むべき『鬼』、だが逢香自身は何もしていないのも事実。
領主は拳を強く握り締め、震えた。
「皆、良く聞け、この決に反対する者は遠慮なくここから立ち去る事を許そう…」
「……」
皆が領主の言葉一つ一つに耳を傾けていた。
「此度の逢香を釈放とする」
皆が驚愕の声を出した。
「殿、なぜですか」
「今回は私に非がある、鬼だと言うだけで私は、憎むべき者と取っていた
しかし、逢香と話すたびに私は考えを改められた
逢香は、自分を捕らえ亡き者にしようとした、この私の身も心も案じた
最初は、ただ生き残りたいだけの命乞いだと思ったが、逢香は…」
そこに突如見張りの足軽が血相かいて部屋に入ってむきた。
「殿、大変です」
「何事だ」
「あの鬼達が仲間を引き連れて襲ってきました」
「『あの』ではわからんどこの鬼が来たのだ」
「殿の妻や子を食らったあの鬼です」
皆が血相変えて戦の準備の為に駆け出した。
「おのれ、一、二度ならず三度も絶対に生きて返すな、それと逢香は釈放だ」
「はい」
四時間後
決起した村人達の一団が領主の居城に着いたが、そこはすでに戦場と化していた。
いたるところで銃声がしていて、城の中には、そこかしこに死体が散らばっていた。
村人達が見たのはそれだけではなかった、ある屈強な鬼に頭を?まれた傷だらけの領主がいた。
「おやおや、ご馳走が自分から来たよ」
そう言って鬼は、笑った。
「逃げ・・る・・んだ」
最後の力を振り絞るようにして領主は村人達に逃げるように警告した。
「おっとまだ生きてたのか坊主」
「簡単に・・殺されて・・たまるか」
「あぁ、お前は生きていてほしいな、何せお前の子供はうめぇからな」
「きさまぁぁぁ」
領主は脇差で鬼の胸を貫いた。
「ぐぅ、…なんてな、そう簡単に死ぬかよ鬼が、馬鹿が」
胸を突かれたが、鬼は平気そうな顔で胸から脇差を引き抜き領主に対して貫こうとしたが、脇差は金属音と共に地面に叩き落とされていた。
「鬼の娘よ、なぜ邪魔をする」
「その人を放してください」
「逢香…」
「あぁいいぜ、受け取りな」
悪鬼は、そう発すると同時に領主を、逢香に投げつける。
「なんて酷い事を、貴方それでも鬼族の一人ですか?」
「鬼族かぁ」
そう言い悪鬼は鼻で笑った。
「鬼門が閉じてから20年経った、しかし鬼王は一向に来る気配がない、俺達はここに見捨てられたんだ」
「でも、だからと言って人間に害を加えては…」
「あぁそうだろうな、でも、人間達も、もう子供ではない、現に俺達を征伐する力を得た、なら生存の為の生存闘争は必然だと思うが」
悪鬼の話では、鬼界と呼ばれる世界があり、そこに鬼達は独自進化をして来たが、ある時に王族同士の後継者争いが表面化し鬼界から鬼門を通り人間界に来たと言う。
しかも、その時に鬼門は硬く閉じられてしまい、出入りができなくなってしまったようだ。
彼等が言う事が正しければ彼等は、ただの難民だったのだ。
「そんな、では我等は争う必要はなかったではないか」
「いいや、俺等は戦いどちらかが滅ぶまで戦わなければいけない」
「なんで、戦わなくても」
逢香が食い付く。
「そんなの、どうでも良いだろ?どの道、お前は鬼の味方ではなく人間の味方なんだろ?だったらここで人間達と共に死ね」
それは、一瞬だった、悪鬼が加速した刹那、逢香は悪鬼の鬼石を悪鬼の体内から取り出していた。
「あはは、ほらな結局敵同士なんだ…でも…これで・・何も食わなくて・・良い」
そう言い残して悪鬼は倒れた。
しかし、他の悪鬼達は、まだ倒れていないと思い周りを見ると悪鬼達は自分で自分の心臓である鬼石を抉り取っていた。
「あぁそんな、どうして誰も…鬼も人も死ななくて良かったのに…」
逢香は大声で泣いていた、死んだ鬼や人の為に…
僕達も大声では泣かなかったが細々と涙を流した。
そこに、鬼や人の境はなく、失われた物は大きな物だと、ただ理解しただ涙を流すしかできなかった。
後にわかったことだが鬼達が何故、人を襲うのかを逢香が教えてくれた。
鬼界では、鬼達の命である鬼石が消耗する事が緩やかに流れていたが、人間界では人間達による大地の汚染が原因で鬼の体を維持する為に鬼達の寿命でもある鬼石の消耗が激しくなった。
当然、鬼達も死にたくないので生きる為に若い特に子供の命を補充する必要があった。
その為、鬼達は村々を襲い始めた。
そして、人はそんな鬼を見て恐怖し軍団を作り討伐を開始した。
だから、逢香はどちらも死ぬ必要はなかったと涙を流した。
だが、ここで一つの疑問が出てくる。
それは、逢香自身だ、逢香も種族的に言えば鬼である。
しかし、逢香の一族は人を襲う事はなかった。
その疑問は、逢香が教えてくれた。
鬼漸一族には、鬼丸と言われる薬があり、この薬のお陰で人を襲わずにすんでいた。
まぁ当然、薬なので、副作用はある、それは…それは…遅らせた分の誤差が後で一気に降りかかる事、つまり死であると。
二年後、鬼界での政権争いが落ち着き、鬼界に帰る為の門が開いた。
また一つ、また一つと鬼の一族が門をくぐり帰って行く。
しかし、鬼漸一族が帰る時に逢香が人間界に残ると言った。
「私は、約束があるから帰れない。兄様達は帰って」
「うーん、わかった、それだけ大事な約束なんだろう」
「はい」
「では、もう、会うこともないだろう妹よ」
そう言って鬼漸逢香を残して一族は帰っていった。
私は、その時に逢香に約束とは何かを聞いた。
「逢香お姉ちゃん、約束って何?」
「橘 癒慈」
その時に逢香は、珍しく真剣な目をしていた。
「私は、寂しい、だから遊ぼうよ、これが約束」
「うん」
そして、三年後の春に逢香は死んだ。
ただ二年前に遊んでる最中に命にかかわる怪我を負った際に逢香は、橘に鬼の血を飲ませた結果。
治癒したが、人間では得られない長寿を手にしていた。
そして、今、私はこの話を書いている。
でも、もう疲れた。
誰かがこの話を見て述べ伝えてくれると信じてここに記す。
逢香の悲しさ、強さ、優しさ全てを。
この『悲しみのオニ』に記す。
私は、廃屋の調査に来た。
橘 癒司「たちばな ゆうじ」だ。
ここに著者の死亡日時を記す。
2005年の5月11日12時52分。
そして、逢香という者に捧ぐ。
祖父は、何処に向かってこれを書いていたのだろう?
祖父と逢香という者にしかわからない事なのだろう。
悲しみのオニ ~完~