序章 始まり、そして終わる
......。
痛い。
全身に襲いかかる強烈な痛みとともに、私は目を開き、意識を覚醒させようとするが...
...暗くて何も見えない。
人間が外から情報を取得する為の目が機能出来ない。
何処だ此処は...。意識があるということは、おそらくは死んでいない。
或いは既に死んだ身であり、これは死んだ後に魂的な何かが喋っているものかとも考えたが、果たして死人に痛覚があるのだろうか?
いや、私の受けた呪いを考えてみれば、それも分からないな...。
そうこうしている内に私の目は、暗い世界に慣れようと瞳孔を広げ始めた。
視界が戻ってきた。
完全ではないが、それでも周囲の状況を見るだけならば十分である。
視界がうっすらと戻った私はキョロキョロと周囲を見渡す。
黒い刺がびっしりと張り付いた板や大きな三角木馬、ギロチンや磔台などが至るところに散乱している。
そこには窓のようなものはなく、外界からの光は完全に遮断されている。
そう、私は今、拷問部屋にいる。そしてどうやら、私はそこに拘束されているようだ。先程から手や足が動かせない状態で寝かされている。
全身を今も蝕んでいる痛みは拷問の跡だろうか、記憶が混濁していて、ハッキリと覚えていない。
実を言うと、私が何故此処で拘束されているのか検討もつかない。
私の中で現状確認が終了したところで、目線の先にある重厚感溢れる鉄の扉が、立付けが悪いのか錆びているのかギィィと不快な音を立てて開いた。
向こうから一人の人が姿を現す。
身の丈はそれほど高そうでもないが、身の丈以上もある大きくて真っ黒な刀を片手に握っている。
それだけでも恐怖心を煽られるが、私の疑問は違うところに向いていた。
......なんだ、こいつは?
その人物は確かに二足で歩行している。だがおかしい。
私の目は今、暗さにある程度慣れている。
だがこれは、周囲の暗闇以上に暗かった。
いや、暗いではないな。黒い、それが適切だろうか。
全身を文字通り黒く塗りつぶしたような、まるで光を完全に失ったかのように、全身が余すところなく黒かった。
その人は私の前に立つと、所持している刀を鞘から抜いた。
鞘から抜かれた剣先は銀色に妖しく光り、手入れが行き届いている。
命乞いは、まあ無理だろう。
その人は刀の刃を私の首にあてがうと、それをおおきく振り上げた。
そしてそれは躊躇なく、振り下ろされた。
......。
刀を振り下ろす際、その人が何か呟いていた気がするが、あれは何だったのだろうか...。
その答えは出ないまま、私の肉を断つ音とともに、私の意識は消えた...。