九話 電子遊戯同好会
SMOにログインした俺と時子は、電子遊戯同好会のメンバーと待ち合わせているロントの冒険者ギルド前にいた。
「準備はいい?今から皆に紹介するけど、ボロを出さないようにね」
「まあ何とかなるさ」
ノーラがギルドの扉を押し開けて中に入った。俺もそれに続いてギルドに入る。
ギルド内をノーラの後ろに付いて行く。しばらくして時子が立ち止まる。
そこには4人の冒険者が丸いテーブルを囲んで座っていた。
「みんな待たせた?」
「いや、我々も到着したばかりだ」
「ノーラの後ろの人が、朝言ってたパーティに入れたいって人ですか?」
「おお、金髪イケメンだー」
「…」
ノーラを含めた5人はぱっと見ただけで分かるほどに、種族もクラスもバラバラだ。
そして5人は全員が女性で、全員が美人だった。
「この人がカイル。先日から父さん繋がりでしばらく私の家にホームステイする事になったの」
「よろしく。皆の名前を教えてもらっても?」
「自己紹介か。では我から始めよう」
燃える炎のように赤く鋭い瞳に、艶やかで紫がかる濡れたような黒の腰まで伸びた長髪に青い肌。
頭から角と腰から滑らかな尻尾が生えた美女が立ちあがった。
装備は胸と太ももを露出させたローブにマント、グローブ、ロングブーツに金属製の杖。
装備は黒色と赤色を基調に、デザインが統一されている。おそらくセット物だろう。
「我はリーゼ・アイヒベルク。リーゼと呼んでくれ。種族はハーフデーモンでクラスはウィザードとウォー・ウィザード。パーティーの攻撃魔法と作戦担当だ。戦闘では我が頭脳と魔術を頼りにしてくれ」
テーブルから芝居がかった仕草で立ち上がった彼女は、これまた芝居がかった口調と仕草で自己紹介をした。
自己紹介の終わりにはご丁寧にビシリとポーズまで決めてくれた。
「…」
美女というのは前言撤回だ。彼女は残念な美女だ。それも非常に。
「あー…こちらこそよろしく。…リーゼさん?」
「リーゼでいいぞカイル何某よ。なにせこれからは互いの命を預け合うのだからな」
「引かないであげてカイル。こう見えても、ともちゃんとっても良い子だから」
「こう見えても、とは何だ!あとここでその名前で呼ばないで…」
アレは素ではなく演技だったようだ。演劇が趣味なんだろうか。
「え、えーっとじゃあ次は私ですね」
リーゼの隣に座っていた美少女が頭を軽く下げた。
緑色の柔らかい瞳に、透き通るような金髪を後ろに纏めている。
全体的におっとりとした感じで、少しだけ尖った耳がアクセントだ。
装備はゆったりとして露出が少ない緑のローブにブーツ、グローブ、木製の杖。
淡い緑と茶色を基調とした落ちついた服装だ
「名前はリリウムで種族はハーフエルフ。クラスはドルイドとハイ・ドルイド。ノーラが回復よりのサポートなら、私が補助よりのサポート担当です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。前衛職だから頼りにさせてもらうよ」
「はい。頼りにさせてください」
「じゃあ次はアタシだね!」
リリウムの隣の猫耳美少女が元気に立ち上がった。
縦に瞳孔の開いた明るく黄色い瞳に、黒い短髪。頭部から猫の耳が飛び出している。
よく変わる表情、クリクリと動く瞳、ピクピクする耳からは快活さを感じる。
装備は黒色の革鎧と短いズボンに、腰の二振りの短刀と背負った弓と矢。
足は毛皮に覆われた猫の足で、靴の類は履いていない。
黒い毛に覆われた尻尾がズボンから飛び出し、ひらひらと動いていた。
「アタシはルッカ。種族は猫人でクラスはレンジャーとローグ。偵察に探知、宝箱や罠の解錠は任せてね!ねえお兄さん。その顔、エディットとかしてないよね?」
「ん?ああそうだが」
「ノーラちゃんもやる時はやる子だったんだねぇ。こんなイケメンひっかけてくるなんてさ」
「カイルと私はそんな関係じゃないって」
「親が不在の一つ屋根の下、男女が共にいて間違いをが起きない訳も無く…」
「ルッカ~!」
ノーラがルッカの耳を引っ張り上げた。
「いてて。冗談だよ。このお兄さん結構お堅そうだから、からかっただけ。よろしくねカイル」
「敵やトラップの早期発見は重要な仕事だ。よろしく頼む」
「うーん、やっぱりお堅いねぇ。いや、むっつりかも」
「ルッカ!」
「あれ~」
時子がルッカの腰を掴んで放り投げる。
ルッカはくるくると回り器用に着地すると元の席に戻った。
周囲の慣れた感じを見るに、良くあることなのだろう。
「茶番はもういいか?私の紹介に移らせてもらいたいんだが」
先程から一度も発言しなかった美女がこちらを向く。
青い冷静さを感じさせる瞳と、健康的な褐色の肌に尖った耳。
輝く銀色の髪を後ろの高い位置で纏めて垂らしている。
装備は、タナカの店にもあった日本の伝統的な武器と防具だろうか?
防具は鉄板を紐で繋ぎ合せたり鋲で留めた防御力の高そうな胴の鎧と、鉄片を綴ったものと鎖帷子を組み合わせた動かしやすい足甲と手甲の組み合わせだ。
防御力と動きやすさの両立を図っているのだろう。
武器は左の腰に差した大小二本の片刃の剣と、後ろの壁にかけた槍だ。
盾は持っていない。俺よりも攻撃よりの装備だ。
「名前はサクヤ。クラスはアシガルとサムライ」
「俺と同じ物理職かな?よろしく」
「…」
彼女は頷くと視線を俺からそらした。
「サクヤは人見知りだから。慣れたらもうちょっと喋ってくれるようになるわ」
「そうか。今日が初対面だからな。だんだん慣れてもらえればいい」
「さて、我々の紹介が終わったんだ。カイルの事も教えてくれ」
リーゼに俺の事を紹介するように促されている。
事前の打ち合わせを思い返しながら、俺は自己紹介を始めた。
「俺の名前はカイル。種族はヒューマンでクラスはファイター。ノーラとはネット上で知り合った。
世界旅行に出てるノーラの両親と父が知り合った事もあって、しばらくノーラの家に滞在させてもらう事になった。
日本語は勉強しているので話せるが、日本文化や風習は詳しく知らない部分が多いので教えてもらえると有難い」
「事情は承知した。私とともにこの世界で高みを目指そうではないか!」
「日本にようこそカイル」
「こっちこそよろしくー」
「…」
反応を見る限り、変な事は言わないで済んだようだな。
ノーラも僅かに頷いている。ホッとして小さく息を吐いたその時―
「あっ、おんなじだ!カイルあの動画の人じゃん!」
ルッカが突然叫んだ。
何かヘマをやらかしたか?ノーラを見る。
顔を横に振っている。心当たりはないようだ。
「あの動画って何の事だ?」
「昼過ぎにSMOの掲示板に動画が張られたよね。レベル1のルーキーが教練場でレベル20のナイトをボコボコにしたって奴」
「ああ、あれか。あれは私も見たぞ。私たちが帰り道に助けたら勘違いした粗忽者がボコボコにされていたな」
「リゼっちも見たの?他の皆はどう?リリウムは?」
「私は見てないわ。本読んでたから」
「一緒にいたノーラは現場で見てただろうから、サクヤはどう?」
「…見た」
「サクヤも見たのね。あの映像は金髪ファイターの後ろから取った奴だったから顔があんまり見えなかったけど、思い出すと目の前のカイルと特徴が同じ。あの動画の金髪ファイターってカイルでしょ?」
ああ、あの喧嘩の事だったのか。
てっきり俺が何かボロを出したのかと。
「ああ。そうだ」
「やっぱり!ねえリーゼ、これであの依頼行けるんじゃない?」
「そうだな。カイルが我々に加わればパーティーに足りなかった盾役が埋まるから行けるかもしれん」
「あの依頼?」
「ゴブリンの巣の討依頼だー!」
※
臨時依頼 依頼内容 討伐
推奨ランク スチール
ロント郊外の森の奥にあるゴブリンの巣の掃討
報酬 金貨五枚
期限 一週間
ルッカが掲示板から引っぺがしてきた依頼票を全員で囲む。
ランクが上がれば報酬も上がると聞いていたが本当のようだな。
「このパーティーには盾役が欠けていたので集団を相手するような依頼は避けてきた。だがこのたびカイルがパーティーに入った事で盾役が加わった。ノーラ、この依頼を受けてみないか?」
「ゴブリンの巣ってシルバーの依頼の時もあるスチールの中でも難しい依頼だよ、慎重に行かない?」
「リーダーは心配性だなあ。リリウムはどう思う?」
「私は皆に付いて行くからどっちでもいいよ」
「賛成2反対が1棄権が1ね。カイルはどう思う?」
ノーラに意見を振られた。ゴブリンの討伐依頼か。そうだな…
「俺の元いた…じゃない、これを始める前のゲームでゴブリン狩りはした事はある。だが、俺の認識しているゴブリンとこのゲームのゴブリンが同じか分からないから何とも言えないな。ノーラ、教えてほしい」
「ゴブリンは緑色の肌をした醜い二足歩行のモンスターね。単体では大したことないけどある程度の知能があってずる賢いから、集団を相手する場合や巣を襲撃する場合は要注意ね。繁殖力が高いから、人里近くで巣が見つかったら冒険者に依頼が来るの」
俺の知っているゴブリンと大差は無いようだ。
ならば…
「それならばその依頼は受けてもいいと思うぞ。俺とサクヤが前衛。その後ろをノーラとリリウム。最後尾をリーゼで、遊軍がルッカ。この陣形でルッカが罠や待ち伏せを警戒すれば大した危険はないだろう」
「賛成3、決まったわね、私たちではこのクエストを受けましょう」
「フフ、我が業火で野蛮な化け物共を焼き払うのが楽しみだ」
「ともちゃん、SMO始めてからその病気悪化したね」
「ここはファンタジー世界だから病気じゃない!あとノーラ、その名前で呼ばないで~」
「俺はまだカッパーのランクだが大丈夫か?」
ノーラに尋ねる。
「依頼の推奨ランクはあくまでも目安よ。スチールの私たちがいれば問題無いわ」
という事で、このパーティで受ける最初の依頼が決まった。
次回かその次で、この部分にキャラのステータスやスキルを書きだそうと思います。