三話 港町アバディン
街道を北東へ港町アバディン目指して俺たちは街道を歩いている。SMOではログアウトしてから次にログインの間で一定以上時間が経っていれば、疲労や空腹によるペナルティは消滅する。なのでひたすら歩いて時間が来たらログアウト、次の日ログインしてまたひたすら歩くといった強行軍も可能だ。山賊を討伐した日、あれから俺たちは街道を歩いてから、街道に設置されているセーフポイントでログアウトした。次の日ログインすると、再び港町目指して街道をひたすら歩く。もう半日歩けば目的地に付くはずだ。
「ん?」
後ろから馬車が駆ける男が聞こえてきたので音に振り向くと、隊商の馬車がこちらにやって来ていた。
「馬車が来ているな」
「道を開けましょう」
俺たちは馬車に轢かれないように街道の脇に寄った。だが、隊商の馬車はこちらを追い越し少し進んだところで停車する。そして馬車から護衛らしき男が四人、馬車を降りてこちらに向かって来た。こちらに何か用があるのか?いや、あの顔ぶれは以前見たことがある。オークの野営地を襲撃した時に、輸送馬車に相乗りしたプレイヤーたちだ。
「電子遊戯同好会の皆さんお久しぶりです!」
先頭のリーダーが近くにやって来てそう言って頭を軽く下げたので、こちらも同じように頭を下げる。
「野営地襲撃以来だな」
俺がそう言うと、リーダーの男は頷いた。
「はい。あれから順調にシルバーランクに昇格しました。そちらの今のランクは?」
「ゴールドだ」
「凄い昇格スピードですね。見習いたいです」
「それで、護衛中にわざわざ馬車を停める程の用は何なの?」
ノーラの言うとおり、向こうは商隊護衛中に馬車を停めてこちらに会いに来たのだ。世間話をするために来たわけではないだろう。
「こちらの商隊が半日ほど前に山賊の襲撃されたんです。ですが、どうにか被害を出さずに撃退出来ました。皆さんも街まで警戒するように伝えようと……」
地図を広げて彼らから襲撃ポイントを聞き出すと、予想通り、俺が地図を読んだ時に警戒するべきと思った場所で隊商は襲撃されていた。俺たちも同じルートを通ったのに襲われなかったのは、彼らほど旨味が無かったせいだろうな。
「気をつけるわ。わざわざ忠告してくれてありがとう」
「はい。しばらくはこの辺りで活動しますので、縁があったらまたよろしくお願いします」
彼らはそう言って隊商の馬車に乗り、港町へ街道を走っていった。俺たちも彼らの後を追うように再び歩き始めた。
※
俺たちはあれから数時間歩いた後に港町アバディンに到着した。道中に襲撃の気配は全く無かった。この地域の山賊がこの前の山賊のように何者かに訓練を受けているなら、街から近い場所で襲撃しないのは当然か。
「ふう、やっと着きましたね」
「わ、我はもう歩けないぞ」
俺たちが町へ入る門をくぐると、リーゼとリリウムが疲れた声でそう言った。インベントリに荷物を突っ込んで身軽とはいえ、二日で百キロ近くを歩いたからな。ステータス的に体力が少ない二人に強行軍は大変だったか。
「……南欧風?」
サクヤが街の建築物を見回して感想を述べた。この港町はゆるい傾斜の丘に沿うように作られており、建造物は白い漆喰とオレンジの煉瓦屋根で統一されている。街路には海からの風に乗って、潮の匂いが僅か漂っていた。
「早く冒険者ギルドで戦利品を換金しようよー」
「そうね。まずはインベントリを軽くしましょうか」
戦利品の換金が待ちきれないルッカにノーラが頷いた。
「俺も幾らになるか楽しみだな」
俺も金貨を数えるのは好きな方だ。幾らになるか楽しみだ。
※
冒険者ギルドで俺たちが座るテーブルの上には、金貨の山ががキラキラと光っている。報酬の内訳はこうだ。
山賊の討伐報酬が金貨十五枚。生きた山賊が一人あたり金貨八枚で十四人でしめて金貨百十二枚。山賊から没収した現金が金貨三十枚。戦利品は宝石と宝飾品が金貨三十五枚、武具が金貨二十五枚、金属のインゴットが金貨十枚、布、酒類といったこまごましたものが合わせて金貨十五枚の合わせて金貨八十五枚。
山賊狩りは合計で金貨二百四十二枚の大儲けになった。
「中規模の山賊討伐の相場からしたら、1.5倍は儲かったのかな?」
ルッカが上機嫌に金貨の山から金貨を一枚取り出してピンと指で弾く。
「そうね。それで、このお金で私とリーゼの新しい魔導書を買いたいんだけど……いいかしら?」
「俺は装備を更新したばかりだから、次は二人の魔導書だと思っていた」
「……右に同じく」
「アタシもそれでいいと思うよー」
俺含め前衛の三人組がノーラの提案に同意する。
「私も賛成ですけど、二人はどういう方向性の魔導書を買うんですか」
リリウムがそう二人に問いかけた。魔導書は載っている呪文によって取れる選択が変わってくる。
「我はより火力の高い呪文が載っている魔導書にするつもりだ」
リーゼの答えは予想通りだ。ノーラはどうするつもりなのだろう。
「私はそうねえ、回復呪文とアンデッド対策重視で魔導書を選ぶつもり。そろそろアンデッドが出る場所にも行くかもしれないから」
「アンデッドが出る場所?」
「ダンジョンや遺跡ではアンデッドが出ることがあるわ。こういう所は今までは避けてきたけど、これからは依頼や探索で行くことになるかも」
「装備が整って、レベルも上がってきたからそういう場所にも足を伸ばすのか」
「そういうことね。装備の次はレベルの話になるんだけど、次のクラスは決めた?」
そういえば山賊狩りでレベルが上って新しいクラスを取得できるんだった。俺はステータスカードを開く。
『クラス エリートナイトがレベル10に到達しました。取得条件を満たしている新規クラス取得が可能です。以下から次に取得するクラスを選んでください』
表示されていた文章にタッチすると、以前ファイターのレベル上限に到達した時と同じように、取得可能なクラスが表示された。以前表示されたクラスに加えて、以下のクラスが追加で表示されている。
重装騎士 守護騎士
黒騎士 武器使い
賞金稼ぎ古参戦士
熟練盾士 熟練剣士
俺は前回取得しなかったクラスのうち、まだ表示されている傭兵、決闘士、狂戦士、弓兵、軽戦士、両手剣士、二刀剣士と合わせて十五個のクラスから選ばなければならない。選択肢が多すぎないか?
「表示されているクラスが多くてどれを選んだらいいか分からん」
「なにそれ。ちょっと見せて」
ノーラにステータスカードを渡すと、ノーラの目が見開かれる。ノーラは手招きで皆を集め、俺のステータスカードを見せた。俺のステータスカードを見た女性陣もノーラと似た反応をした。彼女たちはこちらをチラチラと見つつ、何やら相談を始めた。
「三段階目なのに十五も取得可能クラスがあるって何で?しかも戦闘実績で開放される、開放条件が曖昧なタイプの上級クラスが山盛り」
「我の取得可能クラスは七つだったぞ。どうなっているんだこれは」
「うーん、モーションスキル抜きでバリバリ動けると取得条件緩くなるのかなー?」
「……カイルが攻撃食らった所を見た事ない。そのせいかも」
「あー」「そうですね」「それかも」「盾以外に傷ないもんね」
「とりあえず、カイルには取得条件が厳しい上級クラスの中から選んで貰いませんか?」
「そうね、そうしましょう」
結論が出たのか、ノーラが俺に質問してきた。
「カイルは攻撃と防御、どっちを重視する?」
「どっちも大事に決まってるだろ」
攻撃は重要だ。攻撃こそが敵を打ち倒す。だが、防御無しでは倒す前に自分が倒れてしまう。
「鎧は重いのと軽い方どっちが好み?」
「鎧の防御力は必要だ。軽いに越したことはないが」
兜は視界や聴力の確保で好まないが、不測の事態に備えて鎧はなるべく着込みたい。
「それなら、黒騎士のクラスを取るといいわよ」
「そうか。そのクラスを取得してみる事にする」
ノーラからステータスカードを返してもらい、取得可能クラス一覧から黒騎士をタッチする。
『ブラックナイト 優秀な戦闘実績を持つ戦士。非常に高い技量と筋力と体力を持ち、剣と盾の扱いに習熟している』
『クラス ブラックナイトを取得しますか はい/いいえ』
はいをタッチしブラックナイトのクラスを取得した。
レベル ファイターLV10 エリートナイトLV10 ブラックナイトLV0
称号 格上殺し
冒険者ランク ゴールド
「皆はどういったクラスを取得したんだ?」
皆もレベルが上って三つめのクラスを取得しているはずだ。
「私はウォープリーストを取ったわ。前線支援向きのヒーラー職ね」
ノーラの取得クラスは神官、武装神官、武装司祭。
「我はエレメンタリストだ。属性呪文の特化職を取った」
リーゼは魔術師、戦闘魔術師、元素術士。
「アタシはハイスカウト。斥候なら任せて」
ルッカは野伏、盗賊、上級斥候。
「私はネイチャーメイジです。ドルイド系の職業をそのまま進めました」
リリウムは森司祭、上級森司祭、ネイチャーメイジ。
「……侍大将のクラスを取得した」
サクヤは足軽、侍、侍大将。
「戦利品の換金と皆の新クラス取得終わったし、今日は解散ね。次のログインから、この辺りの山賊について調べましょう」
ノーラが机の金貨をインベントリに仕舞い、解散を宣言した。
俺はステータスカードを開き、SMOからログアウトする。
明日からはここを拠点に、この地域を探索することになるだろう。




