七話 PVP
俺たちは森に火を放とうとしている冒険者グループに近づいていく。彼らのメンバー構成は戦士系の格好をしたのが四人、魔法を使いそうなのが一人だ。
俺は歩きながら、トラブルになった時の対応をノーラに確認する。
「彼らと話す前に確認するが、正当防衛や犯罪を犯そうとするプレイヤーへの攻撃は犯罪にならないよな?」
「ええ。微妙な場合は最寄りのGMが判断する事になるけど」
「それなら俺が動くべきだと判断したら、ノーラへ確認無しに動くがいいか?」
「その判断をする時ってどんなシチュエーション?」
一瞬考え、ノーラに答える。
「俺たちに危害が加わりそうな場合と、俺たちの警告を無視して森に火を放とうとした場合だ」
「うーん、それなら大丈夫だと思うわ。でもなるべく穏便にね」
「ああ」
相手との距離が会話できるほど近くなった。
「あのー、そこの皆さんちょっといいですか…」
ノーラが俺たちから一人先行して彼らと交渉を始める。
俺は皆を手招きで集め、向こうに聞こえない声量で相談する。
「ノーラに続いて俺たちも彼らに近づくが、交渉の風向き次第では戦闘になるかもしれん。それとなく戦闘の準備をしていてくれないか?」
「むむ…カイルは中々物騒なことを考えるな。それで、作戦は?」
リーゼが俺の言葉に少し眉をひそめる。そうか?法の通じない場所で戦える人間と交渉するならこれくらいは当たり前の準備だと思うが…
「リーゼとリリウムは拘束系の呪文を用意して待機、サクヤは前衛を一人相手できるように、ルッカは俺が女魔法使いを仕損じたらその止めを頼む」
「おっけー、その時は任せて」
リリウムが頷いた。
「…わかったけど、数が合わない」
「数?」
サクヤが何かを指摘した。ああ、俺が担当する人数を言っていなかったな。
「ん?ああ、三人は不意打ちで俺がやる。対人は得意だから任せろ」
「その、まだ戦うと決まってないのに、こんな事考えていいんですか?」
リリウムが遠慮するように聞いてきた。
「起こり得る可能性に備えるのは当たり前だろ?」
「そうでしょうか……?」
頭では理解できるが納得していない感じだな。まあ、解っているなら大丈夫だろう。
「さ、話は終わったしノーラに合流しよう。とびきりの笑顔でな」
「……殺しの算段立てた後で言う言葉か?」
後ろからリーゼがボソっと言っていたが俺は気にせず、交渉用の笑顔を浮かべてノーラの横に立った。
それとなく彼らの装備を観察する。質は俺たちと同程度の物だ。この分だと冒険者ランクも俺たちと同じシルバーだな。ノーラは前衛の男に話しかけていたようだが、あまりうまく行ってなさそうな感じだ。
「ノーラ、彼らは分かってくれたか?」
「ええっと、それがね……」
「あんたらの言うことが本当って保証はどこにあるんだよ?」
冒険者グループの後衛にいる魔法使いが言った。
「ノーラはどこまで彼らに話した?」
「ここはエルフの里がある森で、ウイダニアの領主と不可侵協定を結んでいるから燃やしたら犯罪だってところまで」
「男相手だし、後は俺が交渉しようか?」
「じゃあ、お願いできる?」
「任せてくれ」
俺はノーラの横から一歩進み出て彼らと相対する。
「彼女が説明した通りだ。森に火を放つのを止めてくれないか?」
俺はノーラに替わって彼らと交渉を始めた。
「おいおい、口だけの話をハイそうですかって信じれるわけないよな?こっちはわざわざ油買い込んで来たのに止めろって言われたんだぞ」
魔法使いの男は不機嫌な表情でそう言った。なぜあの男はわざわざ忠告に来た、全く知らない同業者に喧嘩腰なんだ?
「このグループのリーダーはあんたか?」
先程発言した魔法使いに確認を取る。
「そうだ。お前らがこっちに干渉するなら何か証拠でも出してみろ」
「森への不干渉に関しては布告の類は持っていない。だが、エルフの里がある証拠なら出せるぞ。ほら」
俺はインベントリからエルフの秘薬を一本取り出し、彼らに見えるように掲げる。
「これはエルフの里で報酬としてもらった薬だ。ステータスカードをかざして見れば本当だと分かるだろう」
前衛の男が俺が手に持つ秘薬にカードをかざす。その男はカードに表示された内容を見ると驚きの表情を浮かべた。そして、カードを仲間内で囲んで何か相談を始めた。
少しして魔法使いの男が口を開いた。
「あんたらがエルフの里に行ったってことは信じよう。それで、どうやってあの森を抜けたんだ?」
彼らに教えるか、教えないか。ノーラに彼らに聞こえないような小声で確認する。
「教えるか?」
「この人達を里に行かせるのはちょっと怖いわね。もっと他の冒険者に慣れてからじゃないと。この人たち、私やみんなを見る目がちょっといやらしいし」
皆揃いも揃って美人だから、そういう目で見てしまうのは不可抗力な部分もある気がするが……。自分もよくよく気をつけて自制しないとな。
「カイルは自制出来てるから大丈夫よ?」
おっと、考えが顔に出ていたようだ。
「おい、いちゃついてんじゃねえぞ。早くこの森の抜け方を教えろ」
ノーラと話していると魔法使いの男から返答を催促された。さて、どう断ろうか……
「申し訳ないが、情報を教えることは出来ない」
「あ?何でだ」
「エルフの里の住人から、里への行き方を教える相手について条件をつけられていてな。あんたらはその条件に合わないんだよ」
「なんだよその条件ってのは」
「条件を満たしていない相手には教えられないんだ」
条件云々は嘘だが、お前らが気に入らないと言うよりはマシだろう。
「所詮NPCとの約束だろ?情報料なら払ってやるから教えろ」
「金の問題じゃない。エルフたちとの信用の問題なんでな」
「へっそうかい、NPCとままごとでもしてろ。さっさと失せな。おいお前ら作業再開するぞ!」
俺が情報提供を断ると、魔法使いの男は唾を地面に吐き捨てそう言った。
「ちょっと待って、森に火を放つ気?」
ノーラが魔法使いの男を咎めるが、奴は素知らぬ顔だ。
「あんたらが教えてくれないなら、森を切り開いてエルフ萌え連中を里へ連れていく案内代で、油代を回収するしかねぇからな」
「一度だけ警告するぞ。森に火を放つな」
「へっ、口だけで言ってろ。戦う気もねえくせに」
魔法使いの男は俺へニヤついた顔を向けて言った。
「……そうか」
警告はした。
彼らは前衛四人に後衛一人。前衛の武装は槍が一人、両手剣が二人、片手剣と盾が一人だ。
俺は交渉用の笑顔のまま、ベルトから短剣を引き抜いて魔法使いの男に投擲する。
「なっ…」
胸に短剣を受けた魔法使いの男がうずくまる。男たちが状況を理解するまでが勝負だ。素早く剣を抜きながら男たちとの距離を詰め、一番近い片手剣と盾の男の喉を剣で突いた。
「ゴボッ…」
「手前ぇ!」
剣と盾の男の隣にいる男が槍を構えようとするが、その前に鎧ごと袈裟にその男を斬る。
「ガッ…」
「あっ、えっ……」
続いて、慌てて両手剣を抜こうとしてまごついている男の股間を蹴り上げる。
「~~~~!!」
抜こうとした剣を手放し、股間を押さえる男の無防備な首を切り飛ばす。
「ちょっ、何で…」
「…<疾風突き>」
「ギャー!」
四人目の男は抜いた両手剣を俺に向けながらうろたえている所を、横からサクヤの槍に突かれ、倒れた所で止めを刺された。
「や、やりやがったな!<連鎖雷撃>…ガッ!」
胸に突き刺さった短剣を引き抜いて立ち上がった魔法使いの男は、魔導書を構え呪文を宣言する寸前にルッカの放った矢で喉を貫かれ、再び倒れた。
これで制圧完了だ。それにしてもなんとも歯ごたえのない奴らだ。
「指示通り援護したよー初PVPは勝利だね!」
「ああ。助かったよルッカ。サクヤもすぐに動いてくれたな」
「…作戦通りに動いただけ」
「ねえ、カイル、これって過剰防衛じゃない?」
「我もそう思うぞ」
「戦わずにどうにか出来ませんでしたか?」
放火犯が火を放つ前にさっさと制圧しただけなのだが、魔法職組からかなり不評のようだ。物理職はそうでもないようだが。
「説得と警告はちゃんとしたぞ。あれ以上しつこく言ったら向こうが警戒して制圧が面倒だった」
「ウイダニアの衛兵に通報すればよかったんじゃないですか?」
「リリウム、そうしている間にこの森がこいつらに焼かれるぞ」
「それはそうですが…」
「いつぞやの砦を占拠した山賊のように捕縛出来なかったか?」
「リーゼ、あれは圧倒的に俺たちとの強さが違ったから出来たんだ。こいつらは装備を見るに、俺たちと同程度のレベルだ。捕縛は難しいぞ。魔法使いが最後に放とうとしていた呪文の威力はリーゼなら分かるだろ?」
「確かに、奴が放とうとした<連鎖雷撃>は、我の<炎熱槍>と同レベルの呪文だ」
「まあ終わったことは仕方ないわ。それより前衛組はさっきのPKが犯罪になってないかステータスカードを確認して」
ノーラに言われたとおりステータスカードを開く。すると冒険者ランクの下に
犯罪 未確定 要ギルド出頭
という項目が増えていた。
「ギルド出頭って書かれているぞ」
「…同じく」
「あっアタシも。やりすぎちゃった?」
ノーラが目頭を抑えた。
「犯罪判定は監視AIがやってるけど、微妙な案件は最寄りのGMが判定するの。ギルドに行って今回の件の申し開きをしなくちゃならなくなったわね」
「無視していたらどうなるんだ?」
「場合によるけど、今回だとPKの罪で賞金掛けられるかもしれないわ」
「ウイダニアのギルドには狩人長から渡された手紙を渡しに行くから、用事が増えただけだな。まあ大丈夫だろう」
「ハア……行きましょう」
俺たちは制圧現場を離れ、ギルドで申し開きをするべくウイダニアへと向かった。




