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五話 ワイバーン狩り

ログインした俺達は里から離れた場所にある森の中の空き地でワイバーンを待ち構えていた。空き地は円形で半径二十メートル前後の広さがある。

俺達は森の草を貼り付けた布をかぶって伏せていた。これによって上空にいるワイバーンからは誰もいないように見える。

広場の中心には全員で出し合った金貨と銀貨を全てあるだけ積んでいる。


「ねえ、本当にあれでワイバーンが来るの?」

「俺の知っている習性と同じなら、絶対に来る」


俺の横で伏せているノーラが投げかける疑問に俺は確信を持って答える。

竜という種族は純血種の(ドラゴン)から亜種の飛竜(ワイバーン)地竜(ドレイク)水竜(サーペント)に至るまで、全てが本能的に財宝に対する飽くなき欲求に支配されている。ドラゴンの中でも最も古く賢い者たちでさえこの欲求を制御できるだけであり、克服することは出来ないでいた。

俺達の魔王城への強襲を手伝った古竜も黄金の山を引き換えに協力を取り付けた。古竜は取引の間平静を装っていたが、俺が金額を提示した瞬間目が揺らいだ。内心では犬のように尻尾を振っていただろうな。

また、本能的な欲求に加えて財宝は竜にとって金銀財宝は重要なごちそうでもある。竜は金属や宝石をその身に取り込み、身体を強化するのだ。竜の鱗や骨、爪、牙が武器や防具の素材になるのはその為だ。

閑話休題。結論として、金貨や銀貨を森のなかに放置すれば誘蛾灯のように吸い寄せられてワイバーンは必ず飛んで来る。


「罠だと気づく可能性は?」


今度はリーゼが聞いてきた。


「ドラゴンなら、罠だと気づいて俺たちを探しに来るだろうな。だがワイバーンに金銀財宝を目にしてそこまでの知恵が回るとは思えな……おっ来たぞ」


上空から羽ばたく音が聞こえてきた。音はだんだんと近づき、やがて上空から聞こえてくるようになった。

音から察するに一体だな。


「作戦通りワイバーンが降りてくるのを待ち構える。降りてきたらリリウムが呪文で足止め、残りの全員で飛べないようにワイバーンの翼を片方潰す」


小声で作戦を確認すると全員が頷く。今回の作戦は俺が指揮をとることになっている。それから少しの間息を潜めて待っていると、上空を旋回ながら高度を落としていたワイバーンが広場に降り立った。

降りてきたワイバーンの体長は尻尾抜きで三メートル半、尻尾込みで五メートル。目方は一トン前後で鱗の色は深緑色。東の島から渡ってきたと聞いたときから予想はしていたが成体のワイバーンだな。

ワイバーンは一目散に金貨と銀貨がある場所へ向かっていた。あれは財宝の事にしか気が向いていない証拠だ。俺達はワイバーンを後ろから襲える位置にいる。やるなら今しかない。


「攻撃開始!」


俺の合図で全員が布を振り払って立ち上がり、行動を開始する。


「<大地の束縛(アース・バインド)>!」

「グオ?」


リリウムの呪文によってワイバーンの足が土の蔦に絡め取られた。

俺とサクヤがワイバーンとの距離を詰める中、後ろからルッカの放った矢と、ノーラとリーゼの発動した呪文が俺たちを追い越してワイバーンを襲う。


「一番矢いっくよー!」

「<光の鉄槌(ライト・ハンマー)>!」

「竜よ我が炎に焼かれよ!<炎の投槍ファイヤー・ジャベリン>!」

「グオオ!」


放たれた矢がワイバーンの翼の皮膜に穴を開け、光り輝く槌が頭を強かに打ち据え、炎の槍が体に突き刺ささる。しかし亜種とはいえ腐っても相手は竜。まだ戦闘に支障はなさそうだ。


「俺が前から引きつけるからその隙に翼をやるんだ。尾とその毒針には気をつけろ」

「……分かった。気をつける」


俺は後ろから攻撃するサクヤにアドバイスをしてから、奇襲を受けて怒り心頭のワイバーンの前に立つ。


「お宝を目の前でお預けにされて、気分はどうだ?飛び蜥蜴」


ワイバーン意図的に挑発する。ワイバーンは人の言葉を話せなくても意味は理解している。


「グオオオオー!」

「オラッ!」

「グオッ!」


頭に血が昇ったワイバーンは足を縛られているため、顎を大きく開いて噛み付こうとして来る。

俺は想定通り俺を噛み砕くべく近づいてきた頭に盾を叩きつけた。

ワイバーンは顎を強打されて大きくのけぞる。


「今だサクヤ、やれ!」

「…<疾風突き>」

「グオオオオオ!」


サクヤがワイバーンが大きく怯んだ隙に乗じて、ワイバーンの後ろから翼の根本に槍を突き立てる。槍の刃が鱗を貫き、その内側の筋肉と腱を大きく破壊した。これでワイバーンが飛んで逃げることはできなくなった。


「……!」


が、良いことが起きたらその分良くない事が起きるのが戦場だ。

深く突き刺ささり重症を与えたサクヤの槍は、深く突き刺さったが故に引き抜けなくなっていた。

サクヤは槍を引き抜こうと必死で、視野狭窄に陥っている。

その上にそれまでワイバーンの行動を土の蔦で縛っていたリリウムの呪文が解けた。


「下がれサクヤ!」


俺は警告を発したが一瞬遅く――


「グオオー!」

「うっ!」

「「サクヤ!」」


鞭のようにしなったワイバーンの尾がサクヤを横から打ち据える。まともに一撃を食らったサクヤは大きく吹き飛び倒れた。それを見た後衛の悲鳴が聞こえる。俺は全速力で倒れたままのサクヤへと走った。

皆は急な展開に付いて来れていない。俺がここはどうにかするしかない。


「グルルル…」


戒めから自由になったワイバーンが、痛手を追わせた相手にとどめを刺すべく倒れたまま起き上がらないサクヤへと近づく。

そしてワイバーンは倒れたサクヤに、毒液を滴らせた尾の毒針を突き出した。


「そうは行くか!」


俺はギリギリ毒針とサクヤの間に割り込み、毒針を盾で弾く。盾が毒針の一撃を受けてギャリっと不快で硬質な音を立てた。ワイバーンの毒針は只の鋼鉄ならばたやすく貫く。これを用立てる金をくれた誰かには感謝だな。


「後衛、俺が防いでいる縁にサクヤを下がらせて回復!あとブレス対策の呪文を俺に掛けろ!」

「分かったわ!ルッカ、行くわよ」

「おっけー」


俺の声で衝撃から立ち直った後衛が動き出した。


「ガアッ!」


邪魔をされたワイバーンが不快そうに俺に何度も毒針を繰り出す。俺の後ろのサクヤを狙ったものも含め全てを盾で弾き返していく。


「もう少し耐えてねー」

「任せろ」

「ルッカ!早く後ろに下げて!」

「ノーラ、わかってるって―!」


俺の後ろでルッカが倒れたサクヤを後ろに引っ張って後ろに下げ始めた。サクヤが少し後ろで治療で準備を始めたノーラがいる場所たどり着くまでは、ひたすらワイバーンの攻撃を引きつける。

反撃はそれからだ。


「スオオォォォォオオオ…」


後ろへと下がっていく獲物を見たワイバーンが大きく息を吸い込み始める。ブレスの予備動作だ。


「呪文はまだか!」

「竜の息吹に耐える力を!<炎耐性増加(レジスト・ファイヤー)>!」

「これで耐えてください、<炎からの保護プロテクション・ファイヤー>!」


リーゼが炎への耐性を上げる呪文を、リリウムが一定値までの炎を吸収無効化する呪文を俺に掛ける。

その瞬間、ワイバーンの口からサクヤめがけて炎が吹き出し始めた。


「ゴオオオオ!」

「ルッカ、俺の後ろから逸れるなよ」

「あたしたちを守ってね盾役さん」


ワイバーンが狙うサクヤとサクヤを運ぶルッカを結ぶ射線に割り込み盾を構える。

ブレスは盾に当たって二つに割れ、サクヤとルッカには当たらない。

ブレスを防いでる間にもルッカはサクヤを連れて後ろへと下がっていく。


「オオオオオ!」

「あちち…」


途中まではリリウムの呪文によってブレスから守られていたが、それが切れたようだ。ジリジリと炎に当てられた体が熱くなってきた。

盾はまだブレス耐えられそうだが、このままだと俺が先にへこたれるなこれは。俺が茹だるのが早いか、ワイバーンの息切れが早いかの我慢比べだ。


「オオオオオ……」


幸い、俺が鎧の中で蒸し焼きになる前にワイバーンのブレスは途切れた。ブレスは一度吐ききったら連発はできない。これでこの戦闘中の間はブレスを心配しなくても済む。


「<重傷治療キュア・シリアス・ウーンズ>!カイル、これでひとまずは大丈夫よ!」


後ろからノーラの声が聞こえてきた。ノーラが治療に成功したようだ。


「サクヤは動けるか?」


前を向いてワイバーンの爪や尻尾を躱したり盾で受け流しながら後衛に確認する。


「……無理」


サクヤの声だ。致命傷からは脱したが、まだ完全に回復はしてないか。


「分かった。下がってポーションを使え。動けるようになったら前衛に戻ってこい。リリウムはサクヤの回復を手伝うんだ」

「……分かった」

「分かりました」

「我はどうすればいい?」


リーゼは俺達の中で一番火力が高い。それを生かさなければ。


「前衛が時間を稼ぎながらワイバーンを弱らせる。リーゼは今から使える呪文で一番キツイ奴を用意して奴にぶち込め」

「任せろ!」

「アタシは?」


ルッカは万が一のときに備えて中衛で支援だな。


「ルッカは引き続き弓で前衛の支援を頼む」

「オッケー!」


サクヤが抜けた分を誰かに頼みたい。


「ノーラ、前衛行けるか?」

「行けるわ」

「頼む。攻撃に専念してくれ。防御は俺がする」

「分かったわ。<敏捷上昇(アジリティ)>守ってね」

「任せておけ!」


死者を出さずにどうにか持ち直した俺達の反撃が始まった。

俺がワイバーンの攻撃を防ぎながら反撃し、ノーラがワイバーンの隙きを見つけてはメイスを叩き込む。時折ルッカの放った矢がワイバーンを苛立たせ、俺達への集中力を妨げる。

そして完全に復活したサクヤが前衛に復帰した。リリウムの援護も加わり、ワイバーンは何回もの攻撃を受けて、全身から血を流し始めている。動きも最初と比べてかなり鈍ってきた。


「準備ができたぞ!」


後ろからリーゼの準備完了の声が聞こえてきた。


「よし、リリウムがワイバーンを拘束したら全員離れるぞ」

「私もいつでもいけます!」

「リリウム、やれ!」

「はい!<大地の束縛(アース・バインド)>!」

「グオオー…!」


再びワイバーンの脚を土の蔦が拘束する。

運命を予感したワイバーンが必死にもがくが、最初ならともかく弱った今は抜け出すことは出来ない。


「散開!」


それに合わせて前衛が全員ワイバーンから離れる。


「飛竜よ!貴様の運命もここまでだ!<炎熱槍(ヒート・ランス)>!」


リーゼの杖から<炎の投槍ファイヤー・ジャベリン>の四倍は太い赤熱した金属の槍が打ち出された。


「グオー!!」


心臓を貫かれたワイバーンは一声大きく吠え、大地に倒れた。

俺は近づいて念のためワイバーンが死んでいるか確認してから宣言した。


「俺達の勝ちだ!」


こうして俺たちはエルフの里から依頼されたワイバーンの討伐に達成した。

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