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幕間 鹿狩り

あれから俺が説明したワイバーン討伐作戦は、皆とエルフの狩人長の承認を受けて採用されることになった。

ワイバーン討伐の依頼を受けることを承諾した俺達はその後、エルフの里がセーフポイントとして機能しているのでここからログアウトした。


次の日、いつものように早朝の神社の清掃と剣の鍛錬を終えた俺は、時子の用意した朝食を食べていた。

日本の料理にしろこの世界の外国料理にしろ、時子の作る料理はどれも美味しいのだが、一つだけ不満がある。

体を動かす男はもう少し肉が必要なんだ。


「なあ、こう、大きい肉に齧り付くような料理はないのか?」

「何、居候の身で料理に注文があるの?」


俺の文句を聞いた時子が片眉を釣り上げる。本当に怒っているようではないが、少しムッとしている感じだな。


「時子の料理に不満はないさ。どれも文句のつけようがないほど美味い。ただ、もう少し肉があればいいなと……」

「それが注文以外のなんなのよ。まあ美味しいと言ってくれた事は嬉しいけど」


時子は褒められて一応機嫌を直してくれたようだ。

とはいえ、俺の食い分まで買ってきている時子にこれ以上の出費を強いるわけにはいかないな。

なので一つ提案を彼女にしてみることにしよう。


「山から獣を狩って肉を調達してくるから、それを調理してくれないか?ただの獣なら弓でいくらでも狩れる」

「山から?それはちょっと駄目かも」

「なぜだ?」

「法律で色々と制限があるのよ」

「法律か…」

「ちょっと待って、調べてみるわ」


そう言うと時子は彼女の部屋へ向かい、しばらくして機械を片手に戻ってきた。


「役所の鳥獣対策課のページを調べたんだけど、今なら自由猟法で増えすぎてて駆除対象の鹿を、駆除指定地区で狩る分には大丈夫みたいね」


機械には、禁止されている猟具や狩猟許可地域について長々と書かれている。

要約すると、指定された場所にいる鹿ならば俺が素手や魔法で狩っても問題ないという事だった。


「一応時子にも確認するが、猟に魔法を使ってはいけないという規定はないんだな?」

「存在しない物を規制する法律はないわね。不必要に獲物を苦しめなければ大丈夫じゃないかしら」

「それなら問題ないな。ちょっと行って鹿を狩ってくる。背嚢とロープ、肉を入れる袋があれば借りたいんだが」

「リュックとロープなら納屋にそういう目的に使えそうなのがあるから好きに使って。肉を入れる袋はこれを使って」

「分かった」


俺は時子からかなり大きい半透明の袋を受け取ると部屋に戻り、部屋の隅に放置していた装備のうち弓と剣以外を全て身に着ける。

それから家の外にある納屋から使えそうなロープと背嚢を探し出し、背嚢にロープと袋を突っ込んで背負う。

そして装備に刻まれた魔法陣から透明化、軽量化、身体強化の魔法を発動し、狩猟地区へと走って向かった。




         ※




狩猟地区に入った俺は木々の枝と枝との間を飛んで移動しながら、獲物の鹿を探していた。

しばらく獲物を探していると、現在の位置から少し離れた地点に、狩りの対象として良好な成体になりたての若い雌鹿を見つけた。


「あれを狩るか」


音を立てないように注意しつつ木々の間を飛んで、風下から鹿への距離を詰める。

鹿との距離を約20メートルまで詰めたが、鹿は頭上の俺には気づいていないようだ。


『魔力刃』


鹿に聞こえない音量で籠手の魔法刻印を起動する。

鎧の手の甲に音もなく、40センチ程の青白い魔力で出来た刃が形成される。


「ふっ!」


全力で木の幹を蹴り、斜め上から一気に鹿へと襲いかかる。

幹の折れたバキリという音に鹿が反応するが、距離を詰めた俺が繰り出した魔力の刃が、鹿が動くよりも早くその首を跳ね飛ばした。


「楽なもんだな」


正直な感想、ここまで無防備だとは思わなかった。

日本には木の間を飛んで頭上から弓を射掛けたり、斬りかかってくる狩人はいないのだから当然といえば当然か。

この鹿も銃を持った狩人を警戒してはいただろうがな。


切断された断面からドクドクと血を流す鹿を、持ってきたロープで近くの木に吊し上げて血抜きをする。

血抜きが終わったら、破らないように気をつけながら内蔵を取り出し、近くの渓流で流水に晒す。

二時間ほど流水に晒してから、持ってきた短剣で鹿の皮を剥ぎ解体した。

処理過程で出た皮や骨、内蔵、首といった肉以外の部分は全て分解魔法で塵にする。

若干勿体無いが、肉以外を家に持ち帰っても時子が処理に困るだけだから仕方がない。

精肉になった肉を袋に入れ、ロープと一緒に背嚢に突っ込む。

背嚢を背負った俺は家への帰路についた。




          ※




「鹿を狩ってきたぞ」

「おかえりー。四時間位かかったわね」


背嚢から切り分けられた鹿肉が入った袋を取り出し、時子に渡した。


「重っ。10キロ位あるわね。今日使えない分は冷凍しないと…」

「それだけあればしばらくは困らんだろ」

「そうね。今日の晩御飯は鹿肉のワインソテーにしようかしら」

「楽しみにしてるよ」


夕食に出された鹿のもも肉は柔らかく、臭みもない美味しいものだった。

だが、問題は風呂にも入りSMOにログインする直前に起きた。


「カイル、これどういうこと?」

「どうした、何か問題でもあったのか」

「これ、見て」


時子に突き出された機械には、見えない何かが首がない鹿をロープで吊るして血抜きをしている、非常に不鮮明な画像が写っていた。

これは俺だ。


「一応気をつけていたんだが誰かに見られていたのか?人の気配は無かったぞ」

「猟区に設置された監視カメラにギリギリ引っかかってたみたいね。UMA騒ぎになったら困るから次はくれぐれも気をつけてね」

「ああ」


返事を聞いた時子はSMOにログインするために部屋に戻っていった。

監視カメラ、か。日本で行動するなら、人以外にも機械の目に気をつけなければならない。

俺は新たに得た一つの教訓を頭に刻みながら、SMOにログインした。

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