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三話 チュートリアル

「ようこそ。Sword&MagicOnlineの世界へ」


気が付けば床も空も真っ白で何もない空間にいた。

そして目の前の純白のローブで顔を深く隠した女性から話しかけられている。

俺が着ている服は簡素な下着とチュニックだけ。

しかも体が重い上に魔力を全く感じない。


「あー、ここがSMOの世界とやらで?」

「いいえ、ここはそのための準備を行う場所。私はあなたを新たな世界へと導く水先案内人」


中性的で年齢を読み取れない声の女はそう返すと腕を一振りする。

すると地面からこの世界と同じ白色のテーブルと1組の椅子がせり上がってきた。


「そこにお掛けください」


進められた椅子に座る。

俺の対面に水先案内人の女性が座り、懐から一枚の羊皮紙を取り出し広げた。


「それでは始めましょう。あなたがこの世界で使用する名前を教えてください」

「カイルだ」


そう答えると女は手に持つ羊皮紙を指でなぞる。

すると羊皮紙に『プレイヤーネーム カイル』という文字が浮かび上がった。


「カイル様の種族を選んでください」


テーブルの上に沢山の小さな白い石像が浮かび上がる。

石像はそれぞれ違った種族の造形をしている。この中の種族から選べという事だろうか。

石像には人、エルフ、ドワーフ、獣人といった元の世界で有名な種族の他にもノーム、ハーフリングなどの元いた世界ではあまり表に出てこない種族もある。

今まで見た事も無い造形をした種族の像もある。日本人が造った空想の種族だろうか。

しかしゴブリン、オーク、オーガと人のハーフまで用意されているがいったい誰が選ぶんだ。

俺は人の造形の像を指し示す。像達はテーブルの中に吸いこまれて消えた。


「種族はヒューマンでよろしいでしょうか」

「ああ」

「容姿はそのままでよろしいでしょうか?変更する事も出来ます」

「このままでいい」


先程と同じように女が持つ羊皮紙に文字が浮かび上がる。『種族 ヒューマン』


「次にあなたの初期クラスを決めましょう。クラスに付いて説明が必要ですか?」

「頼む」

「この世界では 職業 (クラス ) に就くことで様々な恩恵を得る事が出来ます。

クラスを取得する事でクラスに関わるあなたのステータス――あなたが持つ力――を高めたり、スキルと呼ばれる特殊な力を行使する事が出来るようになります。

クラスは大きく分けて戦闘、魔法、生産、補助の4つに分類されています。

クラスにはクラスレベルが設定されております。クラスレベルはその職業に対応した行動をしたり、モンスターを倒すことで得られる経験値を規定値貯めることで上昇します。

クラスレベルを上げる事で、あなたはより高いステータス補正や新しいスキルを得る事が出来るでしょう。

ここまでで理解できない部分はありますか?」

「いや、ない」


このクラスというのは仮想世界でのプレイヤーの役割(ロール)だ。

戦いに赴く者は戦士のクラスを取得し、魔法を使いたい者は魔法使いのクラスを取得し、モノづくりに励みたい者は鍛冶師や農家のクラスを取得する。

そして役割に沿った行動(ロールプレイ)を行うことで役割の中での格(クラスレベル)を上げていく、ということだろうか。


「では戦闘、魔法、生産、補助のどれから初期クラスを選びますか?」

「うーん…それぞれどういった初期クラスがあるか教えてほしい」

「戦闘クラスは戦士(ファイター)騎士(ナイト)武闘家(モンク)弓兵 (アーチャー)

魔法クラスは魔術師(ウィザード) 妖術師(ソーサラー)森司祭(ドルイド)聖職者(クレリック)

生産クラスは鍛冶師(ブラックスミス)料理人(コック)錬金術師(アルケミスト)農民(ファーマー)

補助クラスは吟遊詩人(バード)野伏(レンジャー)盗賊(ローグ)商人(マーチャント)などがあります」

「うーん…」


どのクラスを取得するか少し考える。第一に、魔法クラスは絶対に取らない。

現実で実際に魔法を使っているのに、ゲームの中でも魔法を使ったら頭が混乱してしまう。

それにゲーム世界で魔法を使おうとしてうっかり現実世界の体が魔法を使うなどの事故は絶対に避けたい。

仮想世界で動かした体に連動して現実の体が動く、そういった事故は時子曰く起こらないらしいが、この世界の機械が魔法にまで配慮してくれていると考えるのは楽観的にすぎるだろう。

次に生産クラスと補助クラスだが、この二つからは正直魅力を感じない。

となると、残った戦闘クラスから選ぶ事になるな。


「戦闘クラスの初期クラス一覧は無いか?」

「こちらにございます」


女から一枚の羊皮紙を手渡された。そこには様々なクラスとその特徴が延々と書かれている。

それに一通り目を通した俺は選ぶクラスを決めた。


『ファイター 軽装、中装の鎧と単純な武器、戦闘用武器と小型、中型の盾の扱いに習熟した戦士。

ファイターはその場に応じて武器を使い分け臨機応変な戦術を取る』


「初期クラスはファイターにする」

「かしこまりました」


そう言うと俺の手にしていた羊皮紙は塵となって消えた。女は手にする羊皮紙をなぞり『クラス ファイター』と記した。その後女は羊皮紙を丸め懐にしまう。


「ファイターの初期装備品を選んでください」


近くの地面から様々な武器や防具が掛けられた棚がせり上がってきた。


「あちらにあるのがカイル様が現在使用できる装備品です」


俺は山ほどある装備品からよく吟味して自分の装備を選び装備した。

まず丈夫な布で作られ、要所を革で補強されている青色のシャツと黒いズボンを着る。

革のベストをシャツの上から羽織り、向こう脛と甲とつま先が鋼鉄で強化されたブーツを履く。

そしてその上から胸甲と篭手を着ける。

この状態で防具が動きを阻害しないか十分確認してからベルトで右腰に短剣を、左腰に幅広の長剣を吊るす。腰に矢筒を付け、背中に弓と中型の盾を背負う。

最後にここから出て行くときに羽織るつもりの茶色い外套を脇に持った。


「装備品を選び終わったぞ」

「かしこまりました」


装備品が納められた棚が地面に沈んでいく。


「次は右手を前にかざして『ステータス・オープン』と言ってください」

「ステータス・オープン」


すると俺の手の上に手の平に収まるサイズのカードが現れた。


「それはステータスカード。あなたの現在の状態が記されています」


そのカードにはこう書かれていた。


プレイヤーネーム カイル 

種族 ヒューマン

クラス ファイターLV1

称号 無し

状態異常 無し


「カードの表面を下にスクロールする事で装備品や」


言われた通りカードをスクロールする。


装備品 (数字は端数切り捨て重量)

武器

ブロードソード(鋼鉄製) 1.5

ダガ―(鋼鉄製) 0.5

カイトシールド(鋼鉄製) 2

ショートボウ(木製) ノーマルアロー×20 2


防具

衣服 冒険者の服(布、革製) 1

頭 無し 0

胴 ブレストプレート(鋼鉄製) 8

腰 無し 0

腕 ライトガントレット(鋼鉄製) 2

脚 冒険者のブーツ(革、鋼鉄製) 1.5

アクセサリ 冒険者の外套(革製) 0.5


合計重量 19


「あなたのステータスを閲覧することが出来ます」


一次ステータス

STR(筋力) 9

VIT(耐久) 7

AGI(敏捷) 7

INT(知力) 5

PER(感覚) 6

LUK(運)  5


「一次ステータスはあなたの種族初期値とクラス補正から算出されます」


二次ステータス

HP(ヒットポイント) 100

SP(スキルポイント) 60

ATK(攻撃力) 80

EATK(魔法攻撃力) 0

DEF(防御力) 75

EDEF(魔法防御力) 50

装備重量 19/25


「二次ステータスはあなたの一次ステータスと装備品から算出されます。ここで注意していただきたいのですが、ステータスの数値はあくまでも目安。あなたは必ずしも数字通りの力を発揮できる訳ではありません」


俺は首を傾げる。


「どういう事だ?」

「例をあげましょう。あなたの二次ステータスにあるATK80という値は、あなたが装備している武器で最も攻撃力の高いブロードソードを用いて、あなたが理想的な攻撃を繰り出した場合の攻撃力を数値で表わしているに過ぎません」

「…つまり武器を正しく使わなければ幾らステータスが高かろうが、良い武器を持っていようが意味が無いという事でいいか?」

「その通りです」


現実的だな。でもそれはゲームとしてはどうなんだ?

日本では武器としての刃物は法律で厳しく制限されているはず。

家事に使う包丁が生涯の中で持つ最も大きい刃物の国民も珍しくはないと時子から聞いたのだが。


そういった状況でそんなルールを採用すればどうなるかといったら…


「それだと、戦いの訓練なんてしたことない多くのプレイヤーは戦闘クラスを選べないんじゃないか?」

「それを解決するのがスキルシステムです。ステータスカードのクラスの部分をタッチしてください」


俺はステータスカードのクラスをタッチした。


ファイターLV1 スキルポイント1


習得可能スキル

攻撃モーション補正Ⅰ

防御モーション補正Ⅰ

回避モーション補正Ⅰ

STR上昇Ⅰ

AGI上昇Ⅰ

VIT上昇Ⅰ

斬撃(スラッシュ)


「クラスレベルが1上昇する毎にスキルポイントを1取得します。スキルポイントを消費してクラススキルを取得できます。

取得スキルはスキルを再びタッチして解除することで、スキルポイントに戻す事もできます。

スキルの中にあるモーション補正と名のついたスキルは、一定時間ごとにSPを消費して、項目に対応したあなたの動きを自動的に補正します。

AGIやPERの値が高いほど、モーション補正スキルの補正効果とSPの消費効率が上昇します」

「たとえば、この攻撃モーション補正Ⅰというスキルを取れば、剣の素人でもそれなりに剣が振れるようになるという事か」

「はい。お試しになりますか?本来ならばスキルの振り直しには半日のクールタイムがありますが、この場では解除されています」

「ああ」


攻撃モーションⅠをタッチする。スキルカードに


ファイターLV1 スキルポイント0

攻撃モーション補正Ⅰ


と表示された。


「標的を用意しました」


目の前に地面から白い等身大人形の標的がせり上がって来た。

俺はブロードソードを抜き、標的に適当に振り下ろしてみた。

すると刃筋を立てるように動きが補正され標的を切り裂く。

だが標的を両断するまではいかなかった。

ステータスを確認すればSPが僅かに減っている。これがモーション補正か。

確かにこれがあれば素人でもそれなりに戦えるだろう。

だがこれが俺に必要かというと…

スキルカードを操作して攻撃モーション補正のスキルを解除し


「ハッ!」


気合の一声と共に大きく踏み込んで標的を逆袈裟に切りつけた。

切り裂かれただけの先ほどとは違い、ブロードソードは標的を斜めに両断した。

両断された標的は細かい粒子となって消えた。

うん、やはり俺にモーション補正は必要ないな。


「武器や体の使い方に自信があるのならば、モーションスキルではなくステータス補正スキルを優先して取得する成長戦略を取る事もできます」


指示通りスキルを解除してステータス補正スキルにポイントを振り直そうとするが、

そこでスラッシュというスキルが気になった。


「このスラッシュというスキルはなんだ?」

「それはアーツというモーションスキルの一種で、技名の宣言をトリガーにプリセットされたモーションを繰り出すスキルです」


俺はスキルポイントをスラッシュに振る。


「標的を出してくれ。ちょっと試してみたい」


標的が再び生成された。


「スラッシュ!」


宣言と同時に体が自動的に動き、標的を横薙ぎに一刀両断した。

動きは悪くはない。モーション補正とアーツを合わせるのがSMOの戦闘方法という訳か。

だがこのアーツ、技名とモーションを敵に把握されていたらカウンターのカモだな。

俺は剣を納めスキルポイントをSTR上昇Ⅰに振り直した。

少しだけ体が軽くなった気がしたが、現実の身体に追い付くにはもっとレベルを上げないと駄目だな。


「経験値を貯めてクラスレベルを上げる事でステータスを強化し、取得したスキルポイントで自分に会ったスキルを取得していけばいいんだな」

「はい。次にステータスカードに搭載された二つの機能について説明します。

一つ目は鑑定機能です。カードをアイテムにかざす事で、そのアイテムを鑑定します」


試しに冒険者カードを装備品にかざしてみた。


ブロードソード AKTK70 エンチャント無し 推奨ステータスSTR7 AGI6 重量1.5 材質鋼鉄

ライトガントレット DEF5 MDEF0 エンチャント無し  重量2 材質鋼鉄


なるほど。こういうふうにアイテムの質が表示されるのか。


「もう一つは最も重要な機能のログアウト機能です。カードを手に持った状態でログアウト宣言する事で、SMOからログアウト出来ます。

ログアウトは非戦闘状態であればどこでも可能ですが、市街地や宿屋もしくはフィールドやダンジョンのセーフゾーンで行う事を推奨しています」

「なぜだ?」

「ログアウト推奨ポイント以外では、ログアウト後一定時間プレイヤーの肉体が残されます。

その間にモンスターやプレイヤーなどに殺害されれば、次回のログインはログアウト地点ではなく、リスポン地点からとなるでしょう」

「そういう事か。気をつけておこう」

「では、最後にこれを渡します」


女の手にバッグが出現し、女はそれをこちらに差し出してくる。


「このバッグにはあなたの自由に出来る初期の所持金と、ポーションが入っています。

カードをこれにかざして「インベントリ登録」と宣言してください」

「インベントリ登録」


そう宣言するとカードに『インベントリ登録が完了しました』と表示された。


「これはあなた専用のインベントリとして登録されました。バッグの内部はあなた専用の、重量を無視した異空間となっております」


受け取ったバッグは軽かった。

開けてみれば中にポーションと革袋に銀貨が10枚入っていた。


「これには大体どれくらいの量と重さが入るんだ?」

「インベントリとして使う袋の素材と容量次第ですが、それは容量500リットル、重量200キロの性能です」

「相当入るな。大事に使わせてもらう」

「以上で説明を終了します。

最後に、ステータスカードは『ステータスクローズ』と宣言すれば消滅します。

説明内容の確認や、より詳しい説明は各地の冒険者ギルドにある手引書や受付嬢にお願いします。

冒険者ギルドでは様々な恩恵を受ける事が出来ます。最初は冒険者ギルドを訪れるといいでしょう。」

「分かった。『ステータスクローズ』」


ステータスカードを消し、外套を羽織りバッグを背負う。


「それで、どうやってここから出て行けばいい?」

「私が外部に転送致します。では改めて、ようこそ。Sword&MagicOnlineの世界へ。

私たちは貴方を歓迎します」


足元が円形に光り始め、ログインした時と同じように俺の視界は光に包まれた。

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