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三話 情報収集

南の森での探索が徒労に終わった次の日、ログインした俺たちは朝の間、森に隣接する湖畔の街ウイダニアで森とエルフについて情報収集する事にした。

俺とルッカとノーラが街の人々への聞き込みをし、リリウムとリーゼとサクヤが街の図書館で文献に当たる。


「森のエルフについて何か知らないかだって?異人さん」

「ああ。たまに森からこの街へ買い出しに来ると聞いたんだが、何か知らないか?そこの林檎を一つ貰おう」


外回りの俺たちは、朝の市場で森について分かれて聞いて回っている。俺が話しかけているのは馬車に果物を積んで売りに来た商人だ。


「林檎は一個銅貨二枚だよ」

「受け取れ」


銅貨二枚と引き換えに瑞々しいリンゴを商人から受け取る。


「毎度あり。それで森の耳長の話ですかい?」

「ああ、そうだ。…旨いなこの林檎。追加で六つ買おう」


歯ごたえがあって瑞々しく、甘い林檎に思わず追加で注文を出した。


「六つもお一人で食べるんで?」

「いや、旨いからこれを仲間にも食わせようと思ってな」


商人に追加文の銅貨を渡し、皆の分の林檎を受け取りインベントリに突っ込む。


「そう言って貰えると仕入れに手間を掛けた甲斐があるってもんですな」

「良い物に正統な対価を払うのは当然だ。それで何か知らないか?」

「おっとこれは失礼」


商人がぴしゃりと日に焼けた頭を叩く。


「森の耳長は月に一、二回ここにやって来て森で取れる薬草や仕留めた魔物を、塩や穀物や金物なんかと交換してますぜ。領主様との取り決めでずっと昔から交易してるとか」

「取り決め?」

「大昔、ここの領主はあの南の森を焼いて開拓しようとして、森のエルフ達と争っていたとか。王様の仲裁で定期的にエルフが森の恵みを定期的にこちらに渡す代わりに、森を壊さない保障と森では取れない物と森の恵みを交換するって約定が出来たって話でさ」

「なるほど」

「誰も森に手を出そうともしない今となっちゃ、只の交易に関する取り決めですな」


里にたどり着くために森を焼くという手段は取らなくて正解だったようだな。

人が代替わりして約定を覚えていなくても、エルフ側は大抵の場合ずっと覚えている。

元いた世界でもそれでよくトラブルが起こったものだ。


「森のエルフの住処について聞いた事は無いか?」

「あんた、あの森に入ろうとしたんで?あの森は耳長のまじないがかかってるって噂が…」


やはりあの森には何かあるようだな。


「噂は本当だぞ。森の奥に入ろうとしても、気が付いたら森の外へ歩いていた」

「いやー、知り合いから異人さんは怖いもの知らずと聞いてたがあの森に入るとはねえ。あそこには見た物を石に変える大蜥蜴や、通りかかった人の首を締めあげる殺人蔦、人と同じ大きさの化け蟷螂なんかが出るってのも本当で?」

「ああ。そいつらも出て来たが倒したぞ」


商人が言っているのはバジリスク、ハングネック・ヴァイン、ジャイアントマンティスの事だろう。三つとも前回の探索で遭遇したモンスターだ。


「騎士団でも馬を石にするってんで嫌われてる大蜥蜴を倒すとは強いんですなあ。昔から言い伝えで、あの森に近づくなと言われてたのは正しかったようですな。…あっ、耳長についての言い伝えを一つ思い出しましたよ」

「聞かせてくれ」

「確か…『耳長は森の友を案内に進む』だったような。森や耳長について知っているのはこれだけですな」

「なるほど、参考にする」

「週一で卸してるからまた来てくださいよ!」


俺は商人との話を打ち切り、次の出店へと向かう。

耳長は森の友を案内に進む、か。これが森の謎を解く手がかりになればいいが。

その後も幾つかの店を回って聞き込みをしたが、これ以上の手掛かりは特に得る事は無かった。




          ※




昼、俺たちは事前に集合場所に指定しておいた街の広場で、ベンチに座って林檎を齧りながら各自が集めた情報のすり合わせを行っている。


「私とルッカはエルフとの交易の取り決めとか、あの森に何か仕掛けがあるってのは聞けたけど、森を通る為のヒントになりそうな情報は集められなかったわ」

「ごめんねー」


ノーラとルッカは収穫がなかったようだ。


「私たちの方でも色んな本を探してみたんですが、余り収穫はありませんでした」

「…手掛かりは無かった」

「森のエルフ達の能力くらいだな。分かったのは」


文献を調べたリーゼ、リリウム、サクヤも森を突破する為の手掛かりはなかったようだ。

リーゼが言った能力が少し気になるな。詳細を聞いてみるか。


「能力?詳しく教えてくれ」

「ここの森のエルフ達は動物達と会話が出来るそうだ」

「会話?」

「そっちの話でも出てきたが領主が森を攻めた時、エルフ達は森の動物と連携して騎士や兵士を森から追い出したそうだ」

「ふむ…」


『耳長は森の友を案内に進む』という言い伝え、動物との会話する能力。ここから導き出されるのは…


「今食べてる林檎を売っていた商人から、『耳長は森の友を案内に進む』という言い伝えを聞いた。エルフ達は動物に森の案内をさせているんじゃないのか?」

「それよ!」


ノーラが俺の仮定に飛びついた。だが、仮定があっているとしても問題はまだ一つある。


「でも、何の動物に案内させてるのかしら?」


そう、何の動物に案内をさせたかだ。

全員で森を探索した時の記憶を思い出す。あの森では動物よりも魔物に多かった。一番記憶に残っている動物は鳥だ。特に、迷って森の外に出たり、着けた印を追っている時に頭上から馬鹿にするようにさえずっていたあの青い鳥。

鳥…あの青い鳥がエルフの案内役じゃないだろうか。

俺の直感がそう言っている。


「なあノーラ、森にいた青い鳥を覚えているか?」

「あの頭の上でうるさかった鳥?」

「ああ。あれが案内役じゃないだろうか」

「根拠は?」

「勘だ」

「勘って…」


ノーラが呆れたような顔をした。俺の勘は結構当たる事が多いのだが。


「私もそうじゃないかと思います」


リリウムが俺の意見に賛成してくれた。


「あの鳥が私たちの上で何回も鳴いていたのは、何かを伝えたかったからじゃないでしょうか?」

「そうだとして、どうやってあの鳥と会話するのよ」


ノーラが指摘した。そういえば、俺たちは動物と会話する事が出来ない。


「私の魔導書に動物と会話する呪文があります。他に手がかりもないし、試してみませんか?」


その点は問題ないようだ。


「カイルとリリウムは賛成として他の皆はどう思う?」

「アタシは賛成」

「我も試してみるべきだと思う」

「…試すだけならタダ」

「それじゃ決定ね。あの鳥と話しをしてみましょう」




          ※




俺たちはウイダニアを出て再び南の森にいる。森に入ってしばらくすると、青い鳥が森の奥から飛んできて俺たちの上で鳴き始めた。


「リリウム、鳥が来たぞ」

「い、行きます、<動物との交信アニマル・コミュニケーション>。鳥さんこっちに来て下さーい」


リリウムが頭上の青い鳥に呼び掛ける。すると鳥達が鳥同士で会話をするように鳴き始めた。


「ピピヨッピピピヨピー」

「ピピピ?」

「ピピピ」

「ピピヨピピッピー」


しばらくして一匹が地面に降りて、リリウムに向かって何かを伝えるように鳴く。


「ピッピピヨピヨピーピー」

「あっ、はい」


リリウムが鳥に向かって返事し、腕を前に差しだす。すると、その腕に鳥が地面から飛び上がって停まった。全長二十センチほどの小さい鳥だ。


「ピピピーピヨピッピッピピピー?」

「はい。エルフの里に案内して欲しいんです。そうです。耳の長い皆さんが居る所です」

「ピピーピッピヨピヨッピー」


リリウムと鳥が会話を始めたが、横からだと何を話しているかさっぱりだ。

しばらくリリウムと鳥の会話を眺めていると、リリウムの腕に停まった鳥が何かを催促するように鳴き始めた。


「ピヨピピーピヨピピーピピ」

「えっと、誰か鳥の餌になるようなもの持っていませんか?」

「これとかどうだ?」


俺は朝の聞き込みの途中で買った、落花生を茹でた物が入った袋をリリウムに突き出す。

袋の中身を見た鳥が、より催促するように鳴き始めた。


「ピピヨッピピヨピピー」

「はい、どうぞ。えっ、殻をむいて欲しい?」

「ピピピ」


リリウムが袋から取り出した落花生の殻をむいて鳥の口に持って行く。

落花生を十個ほど食べた所で鳥は満足したようだ。

何回かリリウムに鳴くと腕から飛び立ち、森の奥へと続く方向の幹に停まった。


「ピピヨピピヨ」

「えっと…エルフの里へと案内してくれるようです。ついて来いって」


こちらからすると何がどうしてそうなったかさっぱりなんだが。


「訳が分からないから説明して欲しいんだが…」

「…リリウム、説明なしだとこっちから見たら只の変な人」


サクヤのいう通りだ。


「あっそうでした。それじゃあ鳥について行く間に、どんな事を話していたか説明しますね」


俺たちは青い鳥の先導に従って森の奥へと歩き始めた。

鳥について行きながら、リリウムの説明に俺たちは耳を傾ける。


「あの青い鳥たちは自分たちを守る手段として、あの声で知的生物の空間認識能力を歪める事ができるそうです」

「それが、昨日森で迷った理由か」

「はい。昨日はずっとあの鳥の声で迷わされていたようですね」

「ねえ、あの鳥やっちゃわない?」


ルッカが弓を取り出し、矢を番え始めた。


「あの鳥達はエルフとの約束でそうしてたみたいですから、責めるのはやめてあげた方が…」

「約束って?」


ルッカが弓に矢を番えようとする動きが止まった。


「エルフの里に巣を作って、あの声が効かないスライムや植物系のモンスターから守ってもらっている替わりに、自分たちと言葉が通じない人を追い払うという約束しているみたいです」

「そういう事ならまあいいか…」


ルッカが弓と矢を背中にしまった。


「魔法ではなくて、モンスター特有のスキルだったのか。道理で我の<魔法感知>に引っ掛からなかった訳だ…」


リーゼが納得するように呟いた。


「これでエルフの里に行けるようになったわね。どんな感じか楽しみだわ」


一日を潰されたのを取り返せて上機嫌なノーラがそう言った。


「まだ歓迎されるとは限らないぞ」

「でもエルフが直接追い出そうとしてないのならどうにかなりそうじゃない?」

「そうだといいがな」


俺たちは鳥を先導にエルフの里を目指して森の奥へと入って行った。

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