十九話 敢闘賞
俺たちは冒険者に合流し、潰走するオークを追撃している。追撃しながら同時に、ギルドの武装職員の誘導に従ってオークと南北の森の間に割り込むように隊列を引き延ばしていく。
時折数匹のオークが固まってこちらを突破しようとするが、組織的行動が出来ないオーク数匹ではこちらを突破できず、東へ東へと伏兵が透明化で潜む場所まで追い立てられて行った。
しばらく潰走するオークを追っていると。潰走するオークの先頭にいる数匹が何かに吹き飛ばされるのが見えた。
次の瞬間、何もない平原にオーク達の逃げ道を塞ぐ形で透明化を解除した伏兵たちが現れる。
「包囲を開始せよ!」
伏兵の中央にいる頭部に鷹の羽飾りを付けた、全身鎧の騎士が号令を出す。
それを受けて伏兵側の冒険者たちがオークを押しとどめながら、こちらと接続するように左右へ展開を始めた。
中央の戦士は血の付いた金属の円盾と長剣を持っている。先程オークを吹き飛ばしたのはこの戦士だろう。
その騎士の左右にも装備はバラバラだが、同じく頭部に鷹の羽飾りを付けた戦士たちがいた。
「かかってこい!我ら『マルタの鷹』が相手致そう!」
伏兵中央の羽を付けた戦士達は必死のオーク達を蹴散らすように次々と屠っていく。
彼らから逃げるオークと後続がぶつかり合い、オークの動きが止まる。今がチャンスだ。
「伏兵側の前線と接続を急げ!包囲網を完成させろ!」
ギルドの武装職員が俺たちの後ろから叫ぶ。
「ノーラ、サクヤ、行くぞ」
「ええ、行きましょう」
「…ここが正念場」
所属している班は奇襲側の最右翼で俺たちはその右端だ。一刻も早く伏兵側の最左翼と合流しなければならない。
俺たちは北へ逃れようとするオークを押し返しながら、出来る限りの速度で伏兵側の右翼の戦列へと陣形を伸ばしていく。
そして、伏兵側の左翼と俺たちはついに合流する。包囲に成功したのだ。
俺と接触した左翼側の兵士の先頭も頭に鷹の羽飾りを付けた戦士だった。
「奇襲側の班か!」
オークを前蹴りで蹴り飛ばしながら羽を付けた戦士が叫んだ。
あの膂力、俺より相当レベルが高いのだろう。
「そうだ!」
俺は破れかぶれで斬りかかってきたオークの斧を盾で弾き、剣で喉を貫きながら返事を返す。
「そちらはシルバーとスチールとのことだが、まだ持ちこたえられるか?」
羽飾りを付けた戦士がオークと戦一刀両断しながら継戦能力を問いかけてくる。
俺は戦闘と追撃で疲労はあるがまだ行ける。
「俺は大丈夫だ。ノーラとサクヤは大丈夫か?」
「大丈夫よ」
「…平気」
オークを全滅させるまではこちらの体力は持ちそうだ。
「我も大丈夫だ」
「アタシも平気だよー」
「大丈夫です」
前衛に追いついた後衛の皆も後ろから返事が帰って来た。
「俺たちは大丈夫だ」
「わかった!だが、俺らの分のオークも残しておいてくれよ!」
俺たちは逃がさないように包囲を狭めながらオークを倒していく。
三十分程で包囲されたオーク達は包囲を破る事もなく全滅した。
※
オークを倒した俺たちは、他の冒険者たちと一緒にステータスカードで解体したオークの素材や、野営地の戦利品をギルド職員が用意したインベントリに回収していた。
これらは鉱山都市に帰還後纏めて清算され、ステータスカードに記録されている討伐数と戦いにおける貢献度に応じて分配されるようだ。
「それにしてもこのステータスカードは便利だな」
「これが便利な分、ゲーム的な機能はなるべくそれ以外で見せないようにしてるのよ」
俺とノーラは包囲されて死んだオークの死体の解体と装備品の回収を行っていた。
他のメンバーは野営地の方に行っている。
「戦闘記録が残るのは本当に便利だ。いつものように戦いの後の論功行賞で揉めなくて済む」
「元の世界では揉めてたの?」
「普通、戦場でいつ誰が誰を殺したなんて記録は残らないからな」
なので証拠品で判断するのだが、首は証拠品として重すぎる。耳や鼻や指は軽くていいが、自分が仕留めていない死体や、果ては仲間の死体からも剥いで水増しする奴が出てきた。
結局、多くの場合は部隊単位の戦績で判断する事になった。
昔を思い出しながらオークをカードにかざし解体を実行するが、オークは解体されなかった。
その代わりカードに『インベントリが満杯です』と表示された。
「上限一杯まで集め終わったぞ」
「それじゃ担当職員の所に持って行きましょ」
「戦場整理が終わった後はどうなる?」
「最初に集まった広場で戦績発表と報酬の受け渡しじゃない?カイルはオークどれだけ倒した?」
頭の中から戦いの記憶をたぐり寄せる。
「斥候を一体、奇襲の時に六体と騎兵の上位種を一騎、追撃の中で三体、最期の包囲で八体だから十九体だな」
「私とサクヤを合わせた分を一人で?」
ノーラは驚いているが正直結果には満足していない。
「もう少し体が動けば倍は行けた。あの頭に羽を付けた連中位の身体能力が欲しいな」
「『マルタの鷹』クラスだと相当レベリングしないとね。あの人たち現状の順トップクラスだよ」
「それならばもっとモンスターを倒し体を鍛えるしかないな」
俺はこの世界での目標となる身体能力を思い出しながら、インベントリの中身をギルド職員へ渡しに向かった。
※
「それでは今回のオークの野営地の襲撃作戦について結果を発表する」
最初に集められた鉱山都市郊外の広場で、俺たちは参加した冒険者と一緒にお立ち台に立った男の話を聞いていた。
お立ち台に立っているローブを着た知的な風貌の男。彼がこの鉱山都市のギルドマスターであり、SMOのGMの一人だ。
「今回討伐したオークの数は合計で六五七匹。こちらの被害はスチールクラスの冒険者に負傷者が十数名。全員現地で治療を受けて回復した。それでは今回の討伐作戦で特筆に値した者を発表する」
ギルドマスターは懐から一枚の羊皮紙を取り出して読み上げ始めた。
「ミスリルチーム『黄昏の詩』、『アルマンデル』、『マルタの鷹』はそれぞれ今回の作戦において重要な役割を果たした。よって彼らには報酬とは別に特別報奨金を与える。オーク討伐数上位三十名にも同様に報奨金を支給する」
ミスリルパーティーや各クラスで討伐数に自信のある冒険者が沸き立つ。
「最期に戦闘を監督していたギルド職員と協議した結果、敢闘賞を一つ与える事になった」
ギルドマスターの言葉に冒険者たちが静まり返る。
「戦闘序盤の奇襲において、『電子遊戯同好会』はオークの統制回復及び騎兵による包囲突破を事前に防ぐ事に多大な貢献をした。彼らのランク以上の貢献に対しギルドは敢闘賞と特別報酬を与え、同パーティーのスチールランク冒険者をシルバーランクに昇格する。以上」
言い終えたギルドマスターはそそくさとお立ち台を降り、鉱山都市へと帰り始めた。
「それでは報酬を順番に渡しますので皆さん職員の前に並んでください」
ギルドマスターの話が終わると、何人かの職員が冒険者の前に出てきて報酬を渡し始める。
周囲は冒険者たちの喧騒に包まれた。
「やったわカイル!敢闘賞よ!」
「我らが敢闘賞か…!」
ノーラとリーゼがこれまで見たことないほど喜んでいる。
「敢闘賞の何がすごいんだ?」
「興奮している二人に替わって私が説明します」
リリウムが説明してくれるようだ。
「カイルは冒険者ランクが依頼の実績とレベルの上昇だけではミスリル以上にはなれない事は知っていますね?」
「ああ」
「現在のオリハルコンクラス冒険者にはギルド主催のイベントで過去に敢闘賞を得た人がなった例があるんです」
「ああ、そういう事なのか」
敢闘賞は出世に必要な切符だったのか。
「ねーねーそれで報酬受け取ったら後はどうするの?」
「…いい加減に落ち着いて」
ルッカとサクヤが興奮する二人を落ちつかせ始めた。
「それで、この後はどうするんだ?」
なんとなく予想はつくが、会話できるレベルに落ち着いたノーラに尋ねる。
「もちろん打ち上げよ!」